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生じたズレ。その2

 数週間かけてレシー国に送った手紙の返信が届き、イオノはそれに目を通した。

 三人揃ってレシー国を中心とした語学勉強に、共通だと思われていたマナーが若干違うことから、マナー教育のやり直しもしている、とアイノからの手紙に記されている。レシー国の元王女であり、公爵家の養女だったアイノなのに、マナーが違うなんてことがあるのか、と首を傾げたイオノだったが、どうやら学んでいるのは下位貴族のマナーだと知る。


「は? 奥様はわざわざ下位貴族のマナーを教えていらっしゃるのですか?」


 イオノがダスティンにアイノからの手紙の内容を聞かせると、冷静な執事が目を瞬かせた。まぁそんな反応になるのも分からなくない。ミゼット家は伯爵位。高位貴族に位置するし、ルナベルかロミエルが継ぐだろうノジ家は公爵位。更なる高位貴族。

 下位貴族のマナーを教える必要は無いのではないか、と言いたいのだろう。


「下位貴族のマナーを知ることで、マナーの差があるのなら、そこを指摘することもまた高位貴族の務め。それに、公爵家の使用人にしても王城の使用人にしても、下位貴族の出身である者たちが多い。だからこそあちらのマナーを知って、そこから王城や高位貴族の使用人として、こちら側のマナーを教え導くこともまた、高位貴族の務めだ、と記されているな」


 イオノが説明すると、ダスティンはなるほど、と納得しながらも、アイノの思慮深さに感じ入る。


「さすが奥様。元王女として、元高位貴族の令嬢として、そして現在の高位貴族の夫人として、下の者を教え導く心得をお子様方にご指導されるとは、いやはや恐れ入ります」


 イオノも鷹揚に頷き、更に続いている手紙を読み進める。


「来週の中頃、一度帰国するべくあちらを出立する、と記されている。後で父上と母上に知らせる手紙を書くから領地へ届けてくれ」


「畏まりました」


 それに合わせて領地から出て来るだろう両親に、いま一度、きちんと跡取りについて話し合いをしておくことを決める。

 それに、とイオノは気に掛かることがあった。

 ロミエルが言うには、国王陛下は、アイノがレシー国の王女だったことを把握している、と。無論、国王という立場の方であれば、そういった情報が手に入らないわけじゃないとは思うが。


 抑々、アイノは、王女として育てられることなど殆ど無かったと聞いている。赤子の時からノジ家の跡取りとして引き取られ、そこで育てられた。

 それだからなのか、アイノ自身、王女の自覚は無いし、忘れていることも良くあるとまで言っている。そんなアイノだ。当然、自分でよく忘れる王女という身分のことを他国の国王から重要視されていることを、どう思っているのか。

 その辺りのことを迂闊にも確認し忘れていた。


 不快な思いをしているのなら、別にこの国に拘る必要も無い。領地と領民を見捨てることに罪悪感は覚えるが、まだまだ健在の両親に託しても良いと思っている。それよりアイノが心穏やかに過ごせる方が重要だから。


 それと一体、国王はどこからアイノがレシー国の王女だという情報を仕入れたのか。それはいつ頃だったのか。少なくとも、ロミエルの話から察するに、前の時は、ルナベルと第二王子の婚約の時には知っていただろうが……。


 アイノの返信には、庭師交代の時期が一年早いことについて、ロミエルの記憶違いの可能性も捨てきれないが、自分の母が原因不明の眠り病に罹ったことを鑑みて、おそらく本来なら有り得ない巻き戻り現象の歪みとして、出来事が早くなっている可能性もある、とも記されていた。

 イオノの予感は外れていないようだ。楽観視している場合じゃない、ということだろう。場合によってはルナベルの婚約打診が早まる可能性もある、ということになる。

 それは回避したいが、万が一の場合には、解消を狙うことも視野に入れておく方がいいだろう。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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