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条件は。その4

「他にはあるか」


 イオノの問いに小さなことはありますけど、というロミエルの話では、ミゼット家のメイドに縁談が持ち上がり、めでたく結婚したというものや、庭師が腰を痛めて休むことになり、代わりに息子がやって来るというものがあった。

 ロミエルの記憶の中では、そういうことも変化だったわけだし、大抵の貴族令嬢に起こる変化というのはそういうものが多い。他家の使用人が変わった等、耳には入らないものだ。入るとしたら余程のこと、というもの。


 オゼヌ公もイオノも目線を交わし頷く。その他は特にない、とのことで、ずっと黙って聞いていた、カミーユとアイノにリオルノとルナベルは、ゆっくりと呼吸を整えた。

 それなりに大きな出来事が起きている、と思ったので。

 さて、とオゼヌは孫たちを見た。


「これから大人同士の話し合いがある。三人は湯浴みをして就寝すると良い。明日の朝は早く起きると、この時期によく見られる朝露に飾られた花たちが迎えてくれるだろう」


 この時期は霧が出易いので、明るくなると庭の花々が朝露に濡れていることが多々ある、というオゼヌの言葉に付け加えるようにカミーユがとても綺麗よ、と言うので、取り分けルナベルとロミエルが喜んで辞去と就寝の挨拶を一度に済ませて、三人はその場を去った。

 オゼヌの言う通り、ここからは大人の話し合いで、孫たちに見せていた柔和な面など一切無く、アイノとイオノを睨め付けていた。


「急な訪問の理由は分かった。だが、なぜあんな簡単に口を滑らせるような真似をさせている」


 空気が凍り付き威圧感たっぷりでティーカップが、オゼヌの声に共鳴している。怒鳴りつけているわけではないのに、その低い声音がティーカップをカチャカチャと鳴らす。

 その中で優雅にお茶を喫しているカミーユは、長年オゼヌの妻を務めてきただけのことはある、ということか。


「申し訳ないです、お義父上」


 イオノがすかさず頭を下げる。爵位だけでなく、この威圧感の前ではどうしても素直に頭を下げてしまう。アイノに求婚したい、と公爵家を訪れたときもこうだったな、と過ぎ去りし日々を思い出して。


「申し訳ないで済むか、戯け。自分たち家族以外の前では絶対に喋らないように、とは基本だろう。だが、まぁいい。ロミエルのアレが分かったから来たのか」


 養女(むすめ)の夫は強面(こわもて)だが、根は素直なのでアイノくらい腹黒くないと、貴族としてやっていけないことは百も承知。仕方ない、と話を戻せば、アイノが軽く首を傾げた。


「確かにロミエルの巻き戻りは訪問理由ですけど、ロミエルが巻き戻った現象の方が問題ですわ」


 カミーユがアイノに鋭い視線を投げかけた。


「巻き戻りは確定なの」


「確定だと思いますが、その辺りのことを国王陛下ご夫妻に尋ねたいと思ってますの」


 そうしてアイノは余すことなく、訪問理由となった発端について話し始めた。

 穏やかな顔をしていたカミーユが段々と眉間に皺を作り、そんな妻が憤っていることに気づいたオゼヌは、どのように宥めようかとハラハラする。

 オゼヌは怖いと思われているが、真に怒ると怖いのはカミーユの方である。


「そう。巻き戻り前にそのようなことが。……イオノ、アイノ。あなたたち、親として何をやっているのかしら」


 話を聞き終えた途端に、眉間の皺を消してニコニコニコニコと笑っているカミーユ。だが、三人共に噴火寸前であることは分かった。


 すみません、ごめんなさい、と口々に謝るイオノとアイノだが、正直なところ、覚えていないことに責められても辛いものがある。併し、娘が婚約破棄を突き付けられたこともそうだが、抑々、このノジ公爵家の跡取り候補であるルナベルを、王命を発して王子の婚約者に据えられるとは何事か、というものである。

 公爵家の跡取り候補という一言を安易に口にしなかったのは仕方ないが、様子見などしないで、打診が出た時には連絡を寄越しておけば、婚約破棄などと言われることもなければ、謂れ無き罪を着せられて国外追放の憂き目に遭うことも無かった。カミーユは、その点を叱っている。


 これにはぐうの音も出ず、イオノもアイノも首を垂れた。


 適切な対応をしていたのなら、巻き戻りなんて危険な出来事が起こるはずなんてないのだから。

 起こってしまったものはどうしようもない。取り敢えず、今回はさっさと此方に来たことは良しとしておこう。


「ロミエルは跡取り候補関係なく、レシーで保護せねばなるまい。取り敢えず、表向きは三人まとめて我が公爵家の跡取り候補としておく」


「三人?」


 オゼヌの決定にイオノが目を丸くする。リオルノも、というのか。


「当たり前だ。時間が巻き戻るなど、どんな影響があるか分からん。お前たちも含め、近しい者ほど影響を受け易い。ロミエルだけが記憶を保持しているのではなく、他にも記憶を持つ者が出てきてもおかしくない。記憶を元に何か変わったことをした者も出てくるだろう。となれば、知っている未来と変わることもあり得る。暫く滞在するように」


 オゼヌの言葉に説得力があり、イオノもアイノも反論が出来ない。


「取り敢えず、公爵家の跡取り候補として、レシー国の歴史を学ぶことが条件の一つ、とでも言って三人に時間稼ぎをしておくが、国に残した執事に連絡を取り、王家の出方を見るように伝えておけ。こちらからも王家へ人を送っておく。アイノは急ぎ、私と共に登城して国王陛下にお会いし、保護を求めよ」


 テキパキとオゼヌは指示を出した。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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