三年後。その4
「私は、ノクティスとして二度目の人生を送っています。いえ、死んだわけでは無いので十八歳で時間が巻き戻り、八歳からやり直している、というのが正しいでしょう」
荒唐無稽、と言われていたものの、本当に何を言い出した、と国王も正妃も僅かに怪訝な顔を浮かべる。ノクティスから最後まで聞いて欲しい、と言われていたから辛うじて口にはしないだけで。
「何を言い出したか、と思われるでしょうが。事実。こちらのバゼル伯爵夫妻並びに令嬢がこのようなことを聞いても動揺一つ無いことからお分かりいただけますように、バゼル伯爵・ミゼット家は家族みなが知っております。
なぜならば、ルナベル嬢の妹であるロミエル嬢もまた、私と同じく時間が巻き戻ったことに気づいているからです。また、国境付近の教会へ旅立った母、元側妃も同じ経験をしております。母から、もしも巻き戻し現象が終わったと思ったら、国王陛下並びに正妃殿下への説明を、と頼まれておりました」
ノクティスが淡々と続ける言葉に、バゼル伯爵夫妻とバゼル伯爵令嬢を見た二人。そして側妃のことを聞いて、不意に二人の脳裏に三年前の記憶が呼び起こされた。それは、側妃が「ノクティスが婚約破棄を突き付けた後、婚約破棄撤回を申し出るだろう」と話したこと。それからもう一度婚約解消を申し出ることも。
その説明が出来るときが来たら説明する、と言っていた側妃は王城を去り、代わりにノクティスが説明をする、ということだと分かり、二人は黙って続きを聞いた。
「私は巻き戻る前、陛下から私が陛下と母の息子では無いのではないか、と母を疑ったことを謝られたときは、陛下を許しました」
今回は、許すことをしなかったのは、父に謝られたから許さなくてはならない、と思った前回に謝ったことで、逆に蟠りを残したからだと苦笑するノクティス。
「陛下は、私があなたを許したことで、それでもう何も無かったことのように、終わりにしました。母は巻き戻る前も陛下や正妃殿下に関わることはしていなかったので変わらなかったのですが、巻き戻る前は、陛下も私たち親子に極力関わらなかった。正妃殿下や異母兄弟には関わっていたのに。それもあって、私は余計に蟠りがあったのでしょう。巻き戻る前は、陛下が私への罪悪感を減らすかのように、ルナベル嬢との婚約を締結しました。バゼル伯爵夫人が元は、レシー国の公爵令嬢であることを陛下はご存知でしたから」
本当は、王女であることも知っていた前回の国王。けれど、今回の国王は知らないようだし、黙っておくことにするノクティス。
「つまり、陛下なりに私への罪悪感を減らすことと、私の後ろ盾が弱いことを懸念しての婚約だったのでしょう。私は陛下から嫌われたくないから、婚約を受け入れました。積極的に交流はしなかったものの、拒否をしなかった私でしたが、学園に入ってから、ある令嬢と知り合いました。陛下のように金色の髪と空色の目をした令嬢でした」
国王は、そこで息を呑む。
ノクティスが生まれた時に側妃へと放った自身の言葉が、ノクティスを傷つけていたことの重さを、ようやく思い知ったように。
側妃の髪色と目の色をしていたから、本当に我が子なのか疑ってしまった一瞬で出た言葉。併し、顔は自分そっくりだった我が子だった。だから側妃に謝ったわけだが、それが後々ノクティスの耳に入り、変に否定するよりも謝る方がいい、と謝ったが。
自分が父親の子では無いのか、と疑われた子の気持ちをきちんと考えたことがあっただろうか、とやはり今さら後悔している。
同時に、改めて、側妃をどうして娶ることになったのか、という経緯を思い出し、己の浅はかさに息が詰まるほどまた後悔する。
謝ったからといって許されるはずの無い言葉を放った自身。その後悔を背負うのは当然だが、言われた上に謝られたことで責めることすら出来なかった側妃の気持ちを思うと、本当に身が切られる思いで。
愚かな自分が何年経てもこうして後から後から追いかけてくることに、国王は俯きたくなったが、それも許されるわけではなく。
黙ってノクティスの話に耳を傾け続ける。
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