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妹が叫んだ。

「お姉様っ!」


 すごく気持ちよく眠っていたルナベルは、突如としてドスンという音が間近に聞こえたのと同時に、甲高い少女の声で呼びかけられて起こされた。


「ロミエル、なにかありましたの?」


 正直なところ、綺麗な花畑が広がっている場所で花束を作ろうと摘もうとしていたところで夢から覚めたので、ルナベルはちょっと、いやかなり、不服ではあったけれども。

 可愛い妹が朝からドアを開け放して、寝ているルナベルのベッドに飛び乗ってまで、突進してきたからには、何かあったのだろう……と文句は言わずに問いかけた。


 朝よね、とルナベルは周囲をサッと見回す。


 天蓋付きベッドが薄暗い。灯はランタンがあるけれど、そちらはルナベルの頭の横にあるベッド脇のサイドテーブルにて仄かに点灯していて、部屋全体を明るく照らすものではない。


 夜中に目が覚めてお手洗いに行くなどの時に、ルナベルが使用出来るように、と小さなランタン。

 ランタンは灯を反射するためにガラス製の部分があるが、その中では蝋燭が消えかけていた。

 (朝まで点灯出来るように長い蝋燭だと思っているルナベル。だが、実は夜中に一度は侍女が蝋燭を変えている。)


 その蝋燭が消えかけている頃合いを見てもベッドだけでなく部屋全体が薄暗いところを見ても、朝だろうと判断出来る。


 部屋全体が薄暗いのは、太陽の光をカーテンで遮っているから。


 白を基調とした壁紙。深い緑のカーテン。柔らかな手触りと目にも優しい木目調のベッドやサイドテーブルやデスクとチェアー。


 それがルナベルの部屋。

 妹のロミエルの部屋は壁紙がアイボリーでカーテンがルナベルよりやや明るい緑で、あとはルナベルと同じ造りになっている。


 部屋を確認し、朝であることを確認してから、朝早くから突進してきた妹に、一体なにがあったのだろうか、とルナベルは首を傾げた。


 姉妹だけあって、同じラベンダー色の髪と目をしている二人。

 姉は双子の兄と同じつり目がちで、鼻が高く薄い唇をしている。

 人によっては、キツイ顔立ちとも評されるかもしれない。

 双子の兄も同じラベンダー色の髪だが、目の色は姉妹よりも濃い紫色をしている。

 妹の方はタレ目で鼻がやや丸く兄と姉よりはぽってりとした唇をしており、末っ子という性格もあって、甘やかされて育っているお嬢さん、というのが顔にも滲み出ているようではある。


 実際、兄姉から割と甘やかされている。

 尤もその兄は双子の妹・ルナベルの方を更に可愛がっているが。

 自分の片割れということもあるが、ロミエルを甘やかして自分は後回しにしてしまう癖のあるルナベルが心配で、ということもある。

 じゃあ、そんな兄は誰に甘やかされているかと言えば、その双子の妹・ルナベルなのでお互いさまの関係とも言えた。

 そんな三人兄妹だから、ルナベルが突進してきた妹を叱れないのもまた仕方がないのかもしれない。


 尚、貴族ーー伯爵家だーーの子女なので、一人一部屋が基本のために、隣の部屋で寝ていただろう妹の興奮したような様子を見て、落ち着くように頭を撫でる。


 まだお互いに寝巻き姿でもあって、ロミエルの専属侍女につい先日着任した、ノノが顔色を青褪めさせている。

 多分、ロミエルを起こしたか、起きた雰囲気を感じ取ったかして、侍女部屋から出て来たノノを置いて、突進してきたのだろう。


 ちなみにこの騒ぎで、ルナベルの専属侍女のニニも侍女部屋から出て来た。ニニとノノ、こちらも姉妹だ。


「お姉様、ご無事ですか! お姉様が婚約者の王子様と真実の愛が芽生えた下位貴族の令嬢との仲を嫉妬して令嬢を虐めたと言われて婚約破棄された上で国外追放されたのではないのですか!」


 ……この子、何を言っているのかしら。


 当然、ルナベルはそう思ったが、寝起きということから、そんな夢を見たのだろう、と思うことにした。でも内容は面白そうなので聞くことにする。


「そうですの。あのねロミエル、詳しく聞きたいですけれどまずは着替えませんこと? それから朝食の後で詳しく聞かせてもらえます? それともお父様とお母様とお兄様にも聞いてもらいましょうか?」


 夢の内容を聞く時間くらい、ルナベルは作れるが、両親と兄は分からないかもしれないな、とは思いながらも着替えたい旨を伝える。


「お姉様、信じてくださいますの? この話」


「信じるというより、詳しく聞いてみませんと分かりませんでしょう」


「さすがお姉様、いつも冷静で感情的にならなくて淑女の鑑ですわ!」


 冷静というよりは、夢の話だと思っているだけのことなので、それを聞くわよと言うだけのこと。然も感情的にならない、というが、貴族というのは常に冷静に考えて感情を表沙汰にしないよう教育を受けるのだから、その教育が順調である証拠でしかない。


 それなのに、淑女の鑑と言われても、それほどのことではない、とルナベルは思うが黙っておく。


 大体、ロミエルもそろそろ淑女教育を開始する年齢になるのだから、そうなれば、ルナベルと変わらない貴族令嬢へと変わっていくだろう。


「淑女の鑑というほどのものではないですが、褒め言葉ですものね。ありがとう存じますね」


 妹に褒められた、と思っておくことにして礼を述べつつ、ノノに目配せして着替えさせるために一度自室へ行くように促す。


 素直に頷き自室へ戻る寸前で、ロミエルは「そうだわ」と思い出したように、とんでもないことを口にした。


「お姉様、私たち家族はあの下位貴族の令嬢を養子に迎え入れて新たに婚約者の家として関係を結ぶことを王命にて課せられましたけど、それに抵抗して国外へ脱出しましたからね! お姉様が先に国外追放されましたけど、その後を追うように脱出しましたの! お姉様と落ち合う予定でしたのに、夜になって眠って起きたら今になっていましたの。なぜでしょうね?」


「え」


 あまりの発言にルナベルも、ロミエルを連れ戻しに来たノノもルナベルの専属侍女のニニも、凍り付いたように動かなくなった。


 ロミエルは、とんでもないことを言った自覚が無いのか、「取り敢えず着替えてきますね!」とルナベルの部屋を出て行った。


 ドアの閉まる音で我に返ったルナベルとニニは顔を見合わせてから、取り敢えず着替えることにした。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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