表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

魔王の継承者、そして新たな戦いの始まり

魔族の斥候が現れてから、わずか三日。


 村は静かにざわついていた。


 今まで“雑用係”として誰にも注目されなかったカイ・エルノに、村人たちは奇妙な敬意と恐れを向けていた。


「おい、カイ! 井戸の水、もう汲まなくていいってさ」


「無理に働かなくてもいいぞ。ゆっくり休めばいい」


「……すごかったよ、あのときの光。まるで、英雄の伝説みたいだった……」


 そんな声が聞こえるたび、カイはなんとも言えない気持ちになった。


(今まで無視してたくせに、急に持ち上げて……)


 だが、それを責める気にもなれなかった。自分ですら、自分が何者なのか分からないのだから。


「……英雄、ね」


 カイは呟いて、祠の丘に座る。


 その隣には、いつものようにリオがいた。剣を磨く手を止め、ちらりとカイを見る。


「お前は変わってないよ。力があろうがなかろうが、俺の知ってるカイだ」


「……ありがとな、リオ」


 その言葉に、少しだけ胸が軽くなる。


 だが、安息は長くは続かなかった。


 その夜、村の北の森。風の音に紛れ、黒いローブの男が祠の石碑に手を当てていた。


「……確かに反応があった。魔王の力が、動いた」


 その背後から、青いローブの女が現れる。目に浮かぶ紋章は――王国魔術師団の印。


「器が目覚めたのね」


「王は、すでにこの村の存在に目をつけた。魔王の力が再び動き出すなら――我々が先に回収しなければならない」


 女の目が、冷たく光る。


「“王の敵”になる前に、排除する。それが、私たちの役目でしょ」


 足元に咲いた小さな花が、一瞬で枯れた。


◇ ◇ ◇


「……お前は、魔王の血を引く者だ」


 翌朝。村の神殿。長老の口から語られた真実は、カイの心を大きく揺さぶった。


「この地には、千年前に討たれた“終焉の魔王”ゼルグの封印がある。そして、その血を継ぐ“器”が、再び力を得る時が来る……そう伝承にある」


「俺が、その器……?」


 信じられない。信じたくない。だが、身体が覚えている。あの日、ウサギを吹き飛ばした衝撃。斥候を消し去った光。


「あれが……魔王の力……」


「否。あれはほんの“目覚めの兆し”に過ぎん」


 長老の目が、深く、重くカイを見つめた。


「真に目覚めれば、王国すらも震えるだろう。だが、同時に狙われる。王も、魔族の残党も、お前を放ってはおかぬ」


 カイは言葉を失った。


(これが、俺に課せられた運命なのか? 最弱と呼ばれて、ただ生きていただけの俺に……)


 だが、ふと浮かんだのは――リオの言葉だった。


「力があろうがなかろうが、俺の知ってるカイだ」


 その言葉が、胸に灯をともした。


 たとえ魔王の血を引いていようとも、自分は――自分だ。


「俺は、逃げない」


 ゆっくりと立ち上がる。リオがすぐ傍で、うなずいていた。


「来るなら、迎え撃つさ。俺は……俺の力で、守りたいものを守る」


 その瞬間、神殿の奥――古びた封印石が、ひときわ強く赤く脈打った。


(目覚めの時が、近い……)


◇ ◇ ◇


 その夜、村の外れ。


 黒いローブの男が、満月を見上げて呟いた。


「王も、魔族も、そして“第三の者”も――動き出す」


 その手の中には、砕けた封印石の欠片があった。


「器は目覚めた。“あの方”の意思が働く時、世界は再び混沌に沈む……」


 風が唸り、遠雷が響く。


 そして、まだ誰も知らぬ場所――世界の果ての深き眠りの地で、巨大な魔眼がゆっくりと開いた。


◇ ◇ ◇


 ――カイ・エルノは知らなかった。


 自らが継ぐ力が、この世界の「均衡」を破る鍵になることを。


 そして、魔王という存在が、ただの“災厄”ではなく、“世界の守護機構”そのものであったことを――。


(続くかもしれない)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ