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「分析結果が出ました」


作戦室に入ってきた技術将校が、タブレットを差し出す。篠原は表示された3Dスキャンデータに目を凝らした。


「ノベンバー級の改造部分、そして周辺の金属反応。これらは音波探知システムの一部だった可能性が高いと判断されます」


「音波探知?」草薙が身を乗り出す。


「はい。冷戦時代、この海域は米ソ両国の原子力潜水艦が頻繁に通過していました。このノベンバー級は、おそらく固定式の監視ポストとして」


篠原は素早く状況を整理する。当時の極東における戦略的均衡。そして現在、失踪したR-29型。全てが繋がり始めていた。


「永田」篠原が声を上げる。「『天狼』の現在位置は?」


「針路変更、急速接近中です。このままでは15分以内に」


「ロシア機は?」


「Su-35、200キロの地点で旋回。待機態勢に入ったもようです」


意図的な牽制――篠原はそう直感した。ロシアは我々の発見を既に把握している。そして、その情報の行方を注視しているのだ。


「極秘電文です」速水が新たな報告を手渡す。「防衛省から。『米側より、62年から65年にかけての日本海域における音響情報収集システム"Deep Watch"の存在について打診あり』」


作戦室の空気が変わる。


「草薙さん」篠原が振り向く。「残った装置の撤収は可能ですか」


「技術的には可能です。ただし」草薙は厳しい表情を浮かべる。「作業には最低でも4時間。この海況では」


突如、通信機が緊急信号を発する。


「篠原将補!」永田の声が焦りを帯びる。「『天狼』から、国際緊急周波数で通信要請。浸水事故の可能性がある自国潜水艦の捜索活動への協力を要請、との内容です」


策略であることは明白だった。彼らは、この海域での正当な活動理由を作り出そうとしている。


「統幕からも新たな電文」速水が続ける。「10時からの米側協議、露中両国の参加を求める動きが」


篠原は時計を確認する。08時45分。この先の展開は、完全に読めている。各国の思惑が、この海底で発見された冷戦時代の遺物を中心に、急速に収束しようとしていた。


「全員、聞いてください」


篠原は静かに、しかし確固とした声で告げた。


「我々がここで発見したものは、単なる歴史的遺物ではない。これは現在の安全保障環境にも直結する、重要な戦略的資産だ。この後の展開について、新たな判断を下す」

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