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愛情と友情の極限を求めよ。  作者: 大崎真


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25/33

25、恋愛の定理2

昼休みに川島の教室に行こうとしたら、たまたま廊下を一人で歩いているところをつかまえることができた。


「川島、今日、用事あるか?」


川島は驚いたものの、すぐに首を横に振った。


「良かった。放課後、体育館裏に来て」


川島は無表情のまま黙って頷く。話す内容は分かっているようだった。






放課後になり、体育館裏で待っていると、ちゃんと川島は来てくれた。

表情が豊かな子なのに、今は珍しく無表情のままだ。

俺は単刀直入に聞いてみた。


「あのさ、何の話か分かってるよな?」

「はい……」

「黙っててほしい」

「先生にフラれたのは嘘……?」


俺は観念して頷いた。


「受験に集中したいからカノジョはいらないは嘘……?」


同じように、また頷く。


「いつから先生と付き合ってたんですか……?」

「……六月くらいから」

「そんな前から……」


俺は、おそるおそる聞いてみた。


「なんで授業中にあそこにいたんだ?」

「……頭が痛くて保健室に向かってて、外の空気を吸いたくて、たまたま……」

「そっか……もう大丈夫か?」

「お薬をもらったから、もう大丈夫です」

「そうか、それは良かった良かった……。ちなみに…………いつから見てた?」

「チャイムが鳴った最初から」

「最初から!?」

「気付かれた最後まで」

「最後まで!?」


恥ずかしさを通り越して、どうでもよくなってきた。

先生が止めてくれて良かった。エッチを見られるところだった。……なんか、もうエッチみたいなもんだったけど。


「言い訳じゃないけど、いつもしてるわけじゃないからな。あの時が初めてだからな」

「はぁ……」


絶対に信じてないだろ、とツッコミを入れたくなった。


「黙っててほしい」


思わずキツめの口調で言うと、川島が一瞬、顔を強張らせた。


「……わ、分かりました」

「ありがとう。川島で良かった~」

「そのかわりお願いが……」

「お、なになに? 交換条件? いいよ。俺にできることなら」


黙っててもらえるなら、大抵のことは頑張るぞ。なんせ、懲戒免職と退学がかかってんだからな。

川島は、聞き取りにくいほどの小さな声で、真っ赤な顔をして、おずおずと言った。


「……わたしも……」

「なに?」

「わたしも先輩と……キスしてみたい、です……」


俺は思わず息を飲んだ。

そうきたか……。できなくもないが……。そうきたか……。

今までの俺なら平気だったかもしれない。キスなんて大したことじゃないし、減るもんじゃないし、心まで持ってかれるわけじゃないし。

でも、今はどういうわけか、めちゃくちゃしんどい。俺ってこんなにも一途な奴だったのか。


「分かった」


おいでおいでと手招きすると、緊張した面持ちでギクシャクしながら俺のすぐ前まで来た。

川島の両肩に両腕を乗せる。


「本当にしていいんだな?」


至近距離の川島に、念のため確認すると、川島は真っ赤な顔で、決意したように、こくんと頷いた。

なんか、この時点でキスする雰囲気じゃない。ビジネスライク丸出しだ。


「俺と先生の仲を秘密にするかわりに、俺とキスしたことを先生に秘密にするんだな?」


川島は頷いた。


「交換条件だな?」


もう一度、川島は頷いた。


「分かった」


俺は川島のおでこにキスをした。


「ごめんな、これで勘弁して」


素直に謝って、許しを請うことにした。

これでダメなら、次はほっぺたで逃げてみよう。のらりくらり作戦だ。

そう思っていたら、川島の目から大量の涙が流れ落ちた。無表情から、いつもの川島に戻っていた。


「どうした……?」


思ってもみない反応に俺はビックリした。


「先輩……ずるいです……キスしてくれたら、嫌いになれたから楽だったのに~……」

「そうだったのか、知らんかった……」


いい子なのに応えてやれない申し訳ない気持ちと、余計なことに巻き込んだなという申し訳ない気持ちで、なんだかこっちまで泣きそうになってきた。

川島は何も悪いことをしていないのに、本当に申し訳ない。


「うう~……バカ~……」

「ごめんな……ドンマイドンマイ。カレシ作って、カレシにしてもらうんだぞ」

「はい……」

「川島がここで俺に告白してくれた時は、まだ先生と付き合ってなかったからな。あれは嘘じゃないからな」

「はい……」

「デコチューのことは桜井先生には絶ッ対に秘密だからな」

「先輩、私のことバカにしてますね……」


しゃっくりあげている川島の頭をなでなでしてやると、川島は、


「ちゃんと黙ってます……」


と、もう一度、約束してくれた。


「しんどいこと頼んでごめんな。ありがとう」


俺は、頭をなでなでしながらお礼を言った。

妹がいたらこんなんかな、と思いながら、川島が泣き止むまで、俺はずっと頭をなでなでしてあげることにした。






数学の時間、いつもの小テストが返ってきた。

「80」の下に「 おしい!」とあり、一問間違いの部分を、丁寧に赤ペンで説明してくれていた。単純な計算ミスだった。「分かっていた公式でも計算ミスしたら0点だからもったいないよ!」とコメントまでくれていた。


え? ひょっとして、これ、一人一人にやっているのか?

俺だけ特別にこんなことをするような人じゃない。

だとしたら、マジで?


授業中、俺はいつも以上に先生のことをずっと目で追っていた。

授業が終わって、早速、俺は一臣のところへいった。


「お前の小テスト、見ていいか?」


了解をもらって見てみると、「100」と「Excellent!」だった。


「いや、これじゃダメなんだよ」

「これのなにがダメなんだ」


一臣の台詞を背中に、他の奴の小テストを探る旅に出る。

六十点。全部、赤ペンで丁寧に訂正してある。

四十点。これも同じように丁寧に訂正してある。

0点………。野比のび太か。ちゃんと授業を聞いてやれよ。

教えていない俺がイライラしているのに、先生は全部、丁寧に訂正して、空白だったら解説まで書いてあげていた。


知らなかった。俺は彼女のことを尊敬した。

凄くいい先生だ。俺は彼女の何を見ていたんだろう。彼女はこんなにも立派な先生になろうと努力しているのに。


それに比べて、俺は何をやっていた?

ヤキモチを焼いてくれないという理由で、怒りに任せて、無理やりキスをしたこともあった。夏祭りの俺をヘッドロックしてやりたい。

視聴覚室でなにをやった? あの時の俺をぶち殺してやりたい。


惚れた弱味につけこんで、拒否できない優しい性格なのを知っていて、俺ってマジで最低だ。なにやってるんだろう。

よくこんな俺に愛想を尽かさないなと先生に感謝する。俺が卒業するのを待ってくれているのに。俺が待たせている立場なのに。


今までこんなにも、女性としても人としても惹かれた人がいただろうか。絶対に逃してなるものか。


俺は知らなかった。

本当に人を愛するということは、ただ自分の愛情をぶつけることだけではなかったんだ。


とりあえず、好きだと言うのも心の中で留めておけるよう努力してみよう、と思った。

……物足りなくなるかもしれないが……自分勝手で気分屋な俺には無理かもしれないが……せっかちで甘えるのが好きな俺は、また「全然、足りない。好きだと言ってくれ」的なことを要求してしまうかもしれないが……。


彼女が先生を続けられるよう、真面目な生徒をやりましょう、と俺は誓ってみた。

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