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愛情と友情の極限を求めよ。  作者: 大崎真


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22/33

22、limの始まり2

翌日になった。

いきなり下駄箱で会った。一臣が先に上靴に履き替えていた。

いつものように隣に立って、下駄箱を開ける。


「……よう」


一臣が小さく挨拶をしてきた。


「……おう」


俺もいつものように返していた。十四年間続いてきた、いつもの挨拶。ほとんど無意識に口をついて出ていた。


「……昨日はごめん」


一臣があっさり謝ってきた。


「おう……」


俺も返していた。

一拍置いて、決心したように一臣が小さく言った。


「……もう終わりにしようか」

「…………もうちょい頑張ってみる」

「え?」


珍しく、一臣が驚いた声を出した。

幸いにも、周りは更に雑談でうるさかったので注目されることはなかった。

俺は上靴を履いて歩き出す。いつもとは違い、一臣が後ろから慌ててついてきた。


俺はまっすぐ教室に向かわずに、教室と同じフロアの一番突き当たりに位置する美術室の前に来た。美術室に用事がない限り、こちらにやってくる者はいない。

案の定、登校してきた生徒たちが、数十メートル先で、こちらとは別の方向へ次々と散っていくのが見える。

ここまでかなりの距離がある。廊下の電気も消されていたため、この空間だけ、切り離されたかのように静かだった。


「俺、思ったんだよ。二人になったらまずいのに、あの時はミスったな。次からはお互いに気を付けようぜ」

「そういう問題じゃないと思うぞ」


そうはいっても、俺だって考えあぐねていた。

もうこれに正しい答えなんてない。自分たちで出すしかない。


「じゃあ、俺たち、どうすりゃいいんだよ。また無理にシカトする日々に戻んのか」

「遼介、以前、言ってたよな。この関係はどういう関係かって。オレが聞きたい」

「俺も聞きてーわ。大体、お前が屋上に来たから二人っきりになったんだろーが。自制できねーんなら屋上に来んな。お前が悪い」

「お前と先生の話なんだから、二人っきりじゃないとできないだろうが。それに、オレは自分を止める自信はないと前もって忠告しておいたはずだ。それを知ってて、なんでこれからもオレに近づこうとするんだ。お前が悪い」

「…………」

「今回で分かっただろ。オレたちが親友関係を続けるのは、もう無理だ。悪いが、今後一切、オレには関わるな」


俺の頭でブチンと切れる音がした。


「そんなのは、お前が一人で決めることじゃないだろ!」

「…………」

「俺、なんにも悪いことしてねーのに、なんでお前にそんなこと言われなきゃなんねーんだ! お前が勝手に俺を好きになったんだろうが! フッた俺が悪者か? いい加減にしろよ!」

「時々、殿様になるのやめろ」

「殿様にもなるわ」

「フラれた上に怒られてる身にもなれ」

「悪いことしてねーのに、近づいてくるお前が悪いとか言われる身にもなれ」


今まで口喧嘩をしてきたことはあったが、こんな内容は初めてだ。


「……蛇の生殺しって知ってるか?」

「知ってる。蛇って、目と耳と足が退化した生き物なんだよな」

「蛇の説明はいらんっ」

「そんなことくらい知ってる」


俺と一臣は、同時に吐き捨てるような溜め息を吐いた。お互いに一頻り黙った後、先に口火を切ったのは一臣だった。


「遼介」

「なんだよ?」

「……お前はこの関係を続けていく気なのか?」

「一臣はどうしたいんだよ」

「……お前がしんどい思いをしないようにしたい」

「しんどい思いをさせるから俺から離れていくのか?」

「そうだ」

「俺、昨日、ずっと考えた。で、思ったんだ。昨日のことより、お前が離れていく方が俺はしんどい」

「…………」

「別に弄んでるつもりはない。俺のそばにいるのが辛いんだったら、お前の言うように終わりにする。でも、俺はお前がいないと淋しいよ。お前と一緒にいられるんだったら、俺は……別にどうなってもいいよ」


一臣は大きく溜め息を吐いて、「そんなことは言うな」と言った。


「オレのことじゃなくて、自分のことも少しは考えろ。また昨日のようなことがあるかもしれないぞ」

「次は全力で逃げることにするわ」

「追いかけるかもしれないぞ」

「追いかけてこいよ」


にんまりした俺に、一臣は浮かない表情から少し柔らかい表情になった。


「……分かった。でも、この関係は卒業までにしたい」

「分かった。卒業までな」


小さく笑った俺に、


「……結局、お前の言いなりになってんだよな……」


と、一臣は呆れていたが、「本当にめげない奴だな」と諦めたように笑う。そして、


「オレもお前と一緒にいたい」


と言った。




不思議だった。ずっと考えていた。

これは、一体どういう関係なんだろうと。


あの時の俺は、嫌悪感もなければ、一臣なら別にいいとさえ思った。

いくら十四年間の絆があるとはいえ、親友にあそこまで思えるものだろうか。

あれは一体どういう感情のものなのか。

それに、なぜ俺はこんなにも一臣に執着しているんだろう。

これは、愛情なのか、友情なのか、ただの共依存なのか。


ただ、嫌な予感がする。

分かっていることが一つだけある。

愛情に近い感情――


――俺は一臣に絆されている。

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