逃亡-1
数m先に陣取るのはリーダー格の血魔狼、窪地の下には残りの4体の血魔狼が居るが時期合流されるだろう。
対する俺は、爪でも擦れば致命傷の軟弱ボディにまともな攻撃手段がゼロ。もう逃げの一手しかない。
俺は空中を全力で泳いで上の方へ向かっていく。
この体の唯一の長所は三次元的な動きが自由にできることだ。奴らは重力には勝てないけど俺は勝てる。
ここまでくれば射程圏外か?
俺は7mほど上空で後ろを振り返った。
血魔狼は地上に5体とも集まって俺を睨んでいる。
そして狙いを定めるように一斉に口を開き……
その挙動を見て俺は思い出す。魔狼族の持つ能力の中に《超音波》があることに。
そして上位の奴らは、それを技術、《ハウリングボイス》として攻撃技として放ってくることを。
俺は《魔力操作》で無理やり口を開き空気を吸い込む。
間に合え!間に合え!
俺の体はいつもより2周りぐらい大きくなる。
同時に5体の血魔狼の口から、巨大な衝撃波が放たれた。
一瞬波の波紋のように、鮮やかな同心円状の空気の揺れが起こる。やがてその揺れの中心から目にも止まらぬ速度で衝撃波が飛んできた。
「《噴射》!!!!」
俺は吸い込んだ空気を、一点から吐き出し推進力を得る。
衝撃波は俺の体のすぐ横を通り、後ろの鍾乳石にぶち当たる。やがて家ぐらい大きな石柱が轟音を立てて崩れる音が聞こえた。
あんなもんどんな盾でも防げる気がしない。
幸運なことに俺はすんでのところでインパクトを回避することができた。不幸なことに、俺はわざわざ血魔狼の方向へ猛突進していった。
リーダー格の血魔狼と目が合う。その距離数m。俺は空気の勢いを殺せずに、そのまま近づいていく。3m、2m、1m…!
リーダー格の狼がニタっと勝ち誇る笑みを浮かべた。ダガーに見間違えるような大きな牙を振りかざし、俺が来るのを待っている。きっとあそこを通れば俺は一刀両断される。
俺は勢いを殺すことを諦めて、空中移動をコントロールすることに集中した。
狼が牙を振り下ろす。その瞬間、俺は自身の魔力を全て体の左側へ集める。その魔力に沿うように俺の体は少し左にブレた。
狼は俺の咄嗟の行動に対応できずそのまま牙を振り下ろした。
結果、俺は体の1割を牙で削り取られたが大部分は無事で距離を取ることができた。
痛っってぇ!!?なんだこれ!!!
削り取られたところが燃えるように痛む。
物理的にも、精神的にもダメージが入っている気がする。具体的に言えば魂がすり減っているような感覚だ。
いや魂と名のつく魔物なので魂が本体なのかもしれないが。
俺の体は血が通っていないらしく、体の一部を削り取られたというのに液体がこぼれ出ない。
その代わり、何かモヤモヤが湯気のように傷から滲み出ていた。
何と無く本能で知覚する。
これは俺の魔力と魂の一部が漏れ出ているんだ。
そしてその魂が漏れすぎると良くないということもなんとなくわかった。良くないっていうのは、有り体に言えば死ぬってことだ。
転生初日の小一時間目からハードすぎる。正直、野生の本能で何とか対応できているが、人間時代の反射能力の域をもうすでにとっくに超えている。
俺がそれに適応できているのは、魔物側に心も体もすり寄っているからだろう。
わかりやすく言うと死の恐怖は感じるが、恐怖心で体がすくむことはないってことだ。
とりあえず、逃げ切って漏れ出てる魂を止めないと…
岩の奥から血魔狼の遠吠えが聞こえる。いつしか、《魔力感知》の精度も上がって音も捉えられるようになってきた。
俺はとりあえず動きやすいよう3mほど上空へ移動する。
さて、第二ラウンドの始まりだ。
左にブレたと表現していますが、ソウルくんは不定形なので体を若干縮めたりできます。それを使って、致命傷を避けた…という認識でいてくれるとありがたいです。なかなか表現が難しい