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住居-3

ひんやりとした石、永劫にも思える静寂の時間。ただただ退屈な俺の憩いの時間。


俺のマイハウスからは洞窟内の出来事が大体わかる。

親子連れの霧鼠(フォグマウス)の団欒や、血魔狼(ブラッドワーグ)の狩りの様子、頭が二つある黒い蛇、影蛇(ヒバカリ)の交尾などいつもと変わらない洞窟の日常だ。


そんな日常は定期的に終わりを告げる。


地中の王の目覚めによって。


休息地を作って約1週間、アロワナ洞窟の理不尽さにも慣れてきた頃だ。この辺りでは1日に2回、地獄のような光景が繰り広げられる。


地獄のような光景の原因は地底蠕虫(ワーム)の仕業だ。1日に2度、やつは捕食行動を行う。その前兆として巨大な地響きと揺れが起こる。やがて数分経つと谷底から引き込み風が襲い掛かり、大概のものが地底蠕虫(ワーム)の口の中へ消えていく。

奴がしばらく捕食したあと、消化できない鉱石や骨などが吐き戻しされる。


そしてその吐き戻しに、小動物がよく群がっている。まさに地獄のような光景だ。


今日も今日とて、いつもと変わらぬような爆風が谷に向かって吹き荒れていた。

幸いこの休息地はちょうど谷を背に向けるように作ってあるので、吸い込みに襲われることはない…ないのだがやはりその力強い光景には圧倒される。


さて一週間すごしてみて俺のマイホームは少し変化をした。一つは穴が広くなったことだ。上に窪みを広げていき、人が立てるぐらいの高さを確保した。それに加え、小さな照石を見繕って灯りを確保した。

もちろん俺は《魔力感知》でほぼ暗視のような状態で物を捉えているが、せめてもの人間性の確保だと捉えよう。


それと大きく変わった点といえば…


俺は部屋の住みに積んである物体を見る。

そこには大小様々の魔物の骨が並んでいた。


俺は、地底蠕虫(ワーム)の食い残しの骨をせっせと集めていた。職業病みたいなものだ。魔物の骨は砕けば肥料や薬になるし、加工すれば武器にもなる。状態のいい骨格標本は商人に高値で売れるしとにかく捨てる必要がないのだ。

最もこんな体になった今骨を集める意味はないとも言える。

しかし、体が勝手に骨を集めてきてしまうのだ。

水と銀泥花のエキスで洗浄した骨は、種類ごとに分けられ綺麗に積まれていた。


「そろそろ降りるか」


地底蠕虫(ワーム)による吹き戻しが終わり静寂が訪れた洞窟内に俺は足を踏み出す。吹き戻しのあとはこうやって探索するのが俺の日課だ。


今までは渓谷の反対側を重点的に見ていたが、今日は谷側…すなわち地底蠕虫(ワーム)側を見てみようと思う。

 今までの傾向から半日は地底蠕虫(ワーム)は活動しないので大丈夫なはずだ。

俺は地上から数メートル上をぷかぷか浮かびながら洞窟を探索することにした。


そう言えば俺、魔法使えたりしないのかな??


(ソウル)種の魔物といえば身体のほとんどが魔力でできている生物のはずだ。つまり理論上、魔法を使うのに非常に適した身体である。 


しかし、残念なことに俺は魔法の詠唱を一つも知らない。

これは俺が解体技師への訓練ばかりやっていたことと、そもそも魔法は魔法学校へ通って免許を取らないと行使できないからだ。

俺には学校へ通う時間もお金もなかった。


俺は魔法を使うのに適した身体だが、それは宝の持ち腐れになっているようだ。




10分ほど探索した頃だろうか。


…ッ!?


暗がりの中、煌々と光る幾つもの視線を感じる。

…場所は上か。

見上げると、3匹の黒い塊がそこにはいた。窟蝙蝠(ケイブバット)だ。コウモリのくせにずんぐりむっくりとした身体。広げると馬車ぐらいの大きさになる羽根。真白く光る目玉、そして彼らの最もたる特徴である吸血牙。

こいつらをここら辺で見かけるのは初めてだ。谷の方では見かけたが…。


ふと彼らが、ものすごい剣幕で怒っているのを感じる。

何故だ?まだ何もしてない…ぞ?

彼らが円を組んで飛び回っている真下を見るとそこに理由が隠されていた。


それは岩に押しつぶされ、血みどろになっていた1匹の窟蝙蝠(ケイブバット)


なるほど、地底蠕虫(ワーム)から吐き出された岩が直撃したのか。


それで仲間を殺されたことから怒っている…と。



…これ、流れ的に俺が襲われるな。窟蝙蝠(ケイブバット)は賢いが獰猛だ。そういう奴が怒り狂った場合、自分より弱い奴を執拗に攻撃すると決まっている。そして俺はガワは魔物最弱の(ソウル)


…これはまずいな。


血魔狼(ブラッドワーグ)から逃げ切れたのは、人間の思考力と(ソウル)の3次元的移動があったおかげだ。今回の相手は空中を自在に移動できる。つまり俺のアドバンテージが無い。このまま純粋に闘ったらリンチにされる。


逃げるしか…


ッ!!!!!

突然頭の奥でキーンという甲高い金属音のような嫌な音が聞こえる。体が歪む、魔力が乱れる。これは…《超音波》か!!


《魔力感知》で感受性が高まってる俺の体に、不快な音波をぶつけてきやがった!!

魔力の乱れからか視界が明滅する。その上、酔いのようなものも襲ってきた。


咄嗟に俺は《魔力感知》の範囲を狭める。

索敵能力が落ちるが仕方がない…不快な音は小さくなったようだ。


一息つくのも束の間、俺の視界には既に突進してくる窟蝙蝠(ケイブバット)を捉えていた。


正面から一体、残りは周りを取り囲むように突進してくる。

俺は真上に飛び初撃をかわす。窟蝙蝠(ケイブバット)の大きな牙が空を切る。ちなみに奴らの牙は解体に使う小さなナイフよりもデカい、実に碌でも無い牙である。


俺は体に穴をあけ空気を取り込む。…が十分な量を取り込む前に追撃が来た。左右に分かれて残りの二体が体当たりをしてくる。


逃げ場のない俺は右側の窟蝙蝠(ケイブバット)に向かって突進を仕掛ける。


ぶつかる…そう思った瞬間に体を捻り、牙を避ける。俺は窟蝙蝠(ケイブバット)と行き違いになる形で包囲から距離をとった。


…ッ。

避け切ったと思ったが無理だったようだ。少し掠った相手の牙は俺に体に一本の切り傷をつけた。幸いそこまで深い傷ではない。


しかし、そこから魔力と生命力がモヤのようになって漏れ出ている。


ジリ貧だな。俺はそう思った。


逃げるにしても何か策がないと……


先ほどとった距離を活かして俺は全速力で窟蝙蝠(ケイブバット)から逃げ続ける。

しかし、奴らの方が移動速度は早くジリジリと距離を詰められていた。


やがて剣一本分の距離まで詰められる。このままだと齧り付かれて終わりだ。天井から垂れ下がっている石柱の横を通り過ぎると、急に方向転換をする。


「一か八かこれでも食らえ!」


俺は石柱を半分ほど廻ったあと空中に静止し大口を開ける。

数コンマ送れて石柱から回ってきた窟蝙蝠(ケイブバット)が視界に入る。奴らはビクッと体を震わせ、スピードを緩める。


だが、もう間に合わない。


不定形の体を限界まで伸ばして、膨れ上がった俺の口に、三体の窟蝙蝠(ケイブバット)が吸い込まれた。


咄嗟に開けていた口を閉じる。このままこいつらを吸収してしまえば…



ッ!?!?


突如として体に走る猛烈な痛み。そうか…コイツら俺の腹を引き裂こうとっ!!


俺は石柱に向かって空気と共に三体の窟蝙蝠(ケイブバット)を《噴射》をつかい吐き出す。


それなりのスピードを持って放たれた彼らは石柱に鈍い音を立ててぶつかった。


石柱から砂埃が立ち、様子が見えにくくなる。


窟蝙蝠(ケイブバット)には幾分かダメージが通ったハズだ…あわよくば気絶してくれれば…。


砂埃が晴れる前に俺は全速力で距離を取る。これでピンピンしてたら瞬殺されるからだ。やがて振り返ると砂埃が晴れていた。


一匹は…下に落ちてるな。ただ二匹は全く持って無傷だ。すぐこっちにくるだろう…。


不味いな。もうさっきにような手は通じない。

それにさっき口内を引っ掻かれまくってダメージが蓄積している。


このままじゃ負ける…。

あぁ…クソっ。せっかく生き返ったのにまた死ぬのか…

ちくしょう…体は痛いし、魔力はだいぶ失われて息苦しい。


…いや、今はそんなことを考えている暇は無い。どうにか生き延びないと!



っん?



 南の細い道からだろうか…蝙蝠どもの後ろ側だ。淡い光が入ってきた。

どこかでみたことのある光だ。光は2箇所あり、ゆったりと移動している。


はて…どこで見たんだあの光…。

確か人間時代に……

…!?


そこまで考え俺は気づく。やがて鼓動が高まる。いや、心臓はこの体にはないが。


あの光は俺の人間時代の頃、よく街で見かけた光だ。

そう、夜道を照らす淡い炎。ランタンの光だ。


人間が俺の住処へやってきた。



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