5年のつれない彼女たち
テーマ:5年
俺と竜は、大学の就職支援センターで同じグループに分けられた。もう一人のメンバーは女子なのだが、なかなか自己紹介をしてくれない。
「えっと、何年生? 俺は留年して五年だけど」
まさかの指の本数で答えられた。三ちゃいでちゅか。次の質問に移る。
「何学部?」
ナース服が出てきた。
「サークルは?」
ゴルフボールが出てきた。
「バイトは?」
ネットカフェの会員証が出てきた。
「器用だね、君」
照れて嬉しそうに笑っている。いや、褒めてはないのだが。
この女子、就活大丈夫なのだろうか?
ネタ切れになった俺は、竜の背中を叩く。なんとかしてくれ。
「五年続いてることってある?」
「声優業」
「五年も続けるなんてすごい。好きな声優は?」
「下野紘」
「どの作品が好き?」
「えっと……」
何かがおかしい。なぜ俺のときは避けられた?
「あの、どうしてダブっちゃったのか教えてください」
やっぱりおかしい。一体俺は君に何をした?
「あまねがなんで大学五年生なのか知りたいって。気になるよね、わざわざ留年した理由って。五年あったら結婚して子どもができちゃうよ」
「五年、五年うるさいな」
「五年、五年、五年」
「あ、もういいです」
女子は帰り支度を始めていた。あ、聞いてくれないんだ。そうですか。
「お伝えしておきますが、私は『ご』と『ね』と『ん』が言えない呪いに掛かっていました。さっき解けたので呪いが移ったのではないかと思います。それでは失礼します」
俺たちは早速確認作業に入る。
「お前、名前言ってみ?」
「 う、りゅう」
「下の名前しか言えてない。就活どうするの?」
「りゅうっす!」
「いや、ふつーに落とされるだろ」
「じゃあ、お前名前言ってみ?」
「 糖 甘 」
「うわ。胃もたれしそう」
事の重大さに気付き、俺たちは机に突っ伏した。
『ご』『ね』『ん』は偉大だったのだ。
竜は別グループに振り分けられた彼女を見てため息をつく。五年付き合っており、結婚も視野に入れているらしい。
「な 付き合ってるでしょうか? って聞かれたらどうしよう」
「黙っておくしかないだろう」
「だよな」
「言えないなら仕方ないだろ」
「な 付き合ってるか聞かれて答えられないって、振られるかな?」
なぜか竜はソッコーで彼女に振られた。
な(んねん)付き合ってるか聞かれて答えられないって、振られるかな?
『ご』『ね』『ん』は偉大なのだ!
後藤 海音くんと剛 竜くんの話しでした。(いらんので字数の関係で消しました。)