傍にいてくれるから
「はあ、これもダメだったな」
俺はいつものように自分の投稿した小説のポイントを見て溜息をつく。
俺の名は拓海、仕事をしながら小説サイトで小説を投稿している。
でも投稿しても結果は散々だった。
投稿するとどうしてもポイントが気になってしまい、見ると全然入っていないし、アクセス数も気になってつい見てしまい、全く読まれていない事を知りさらに気分が落ち込む。
「エタってるわけじゃないのに、何でこんなに読まれないんだろうな」
普通に考えれば作品がつまらないなんだろうけど、でも上位のランキングの小説を見るとそんなに面白いかと思うものも多いし、読みずらいのに上位に入ってるのもあるし、俺の作品の方が面白くて読みやすいって思う作品が上位に入っている。
「だから、短編とかも書いて投稿してるのにな」
俺は連載作品を書いている、三年以上もエタらずに毎週投稿できるように頑張ってるのに、それでも読まれる事はない。
気になってそれを検索すると短編も投稿した方が良いとあったので、短編も書いて投稿しながら現在連載している作品も投稿してみたのに。
「短編も大して読まれていないし、書いた時間も生み出した作品も無意味だって思えるな」
そう一人で落ち込んでいると会社に行く時間だ。
「会社に行かないとな」
俺は支度をして会社に向かうのだった。
会社での仕事は特に嫌ではない、仕事もできてるし、仲の良い同僚達もいる。
それでも俺は自分の作品が読まれなかった事がどうもモヤッとするのだった。
その日、家に帰った俺は風呂に入り夕飯を食べてパソコンを開いて小説サイトにログインするがやっぱり感想も何も書かれてなかった。
わかっている、わかっているけど俺は今日見た作品のポイントやアクセス数を見た。
「まあ、わかってはいたけどさ」
結果は、朝見た時と同じだった。
ポイントが変わってなかった。
アクセス数も見たけど、読まれてはいるけど、せいぜい一時間に数人程度だった。
「やっぱり、結構来るな」
自分では面白いと思っても、見るかどうかは読者の自由、わかってはいるんだけどな。
「それでも、少しは期待してたんだよな」
気落ちしながらも、俺は今日も執筆をしてから眠りについた。
今日は仕事が休みだから朝から執筆作業をするがやはり気になって自分の作品の情報を見てしまう。
昨日から変わってないのなら変わってないのだろう。
わかっているのに、もしかしたらと思ってしまう。
でも結果は変わらない。
「あ、もう約束の時間だな」
俺は身だしなみを整えて部屋を出る。
俺には付き合っている彼女がいる。
名前は怜。
彼女は一言でいえばクールという言葉が似合うだろう。
クールでいつも余裕な感じの女性である。
正直俺には勿体ない彼女だと言える。
「拓海君」
「ん?」
「何かあった?」
「え?」
「私の気のせいかもしれないんだけど、今日の君はどこか元気がないように感じたんだ、私の気のせいだったら、すまないけど」
「いや、謝らないでよ、俺を気遣ってくれて嬉しいからさ」
「そう、なら良かった」
怜は鋭いんだ、何て言うかこういう他人の少しの変化にも気づくくらいの鋭さを持っている。
でも彼女は変化を感じても自分からは深入りしないで相手から言ってくれるのを待ってくれる。
そういう気遣いもできる女性なんだ。
そんな彼女に俺は惚れたのかもしれない。
それから彼女と色々な所を行きまた来週会う約束をして俺は家に帰るのだった。
「さて、やるか」
俺はその日の夜も小説を書き続けた。
それから幾日か過ぎたが相変わらず俺の小説はあまり読まれていないし、ポイントも評価も変わっていない。
最初は書籍化とかそういう気持ちはなくて投稿していたが、たくさんの作品が書籍化されるのを聞いて、俺もという気持ちになったりしている。
何て言うか俺は何かを残したい気持ちがあるんだ、漫画とかアニメとかラノベとかそんな日本中で皆が見てくれる、そんな何かを一つでも良いから残したい。
俺がずっと思っていた事だった。
今、社会人としてちゃんと仕事をして、彼女もいて、きっと俺は充実していると思う。
他人から見たら十分幸せなんじゃないのかと思う。
でも、それでも、何かを残したいと思ってしまった。
そんなのにこだわらなくても良いと思っても、どうしても諦めきれない。
可能性があるなら諦められなかったんだ。
俺だって何かで皆に凄いと思われたい、そんな主人公みたいな注目を浴びてみたいと。
バカな夢だと思われても、俺は。
そう思っていて、色々試しても、やはり変わらない現実に嫌になったりするけど、それでも俺は書き続ける。
「よし、これで書き終えたな」
その日、俺は自分でも面白いと思える作品を書き終えた。
好評なら連載も考えていると思っている作品だ。
「後書きに好評なら連載を考えています、と」
そう書き込んで俺は投稿してその日は眠りについた。
今日投稿した作品はスラスラと苦痛も迷いも何もなく書けたし、評価されやすいように書いたし、多くの読者が見る時間帯に投稿したし、それなりに評価されると、そう思って期待もしていたんだ。
でも、現実はどこまでも残酷なものだった。
「全く、読まれていない」
緊張と期待が混ざった思いで開いてみると感想も何も書かれていなくてアクセス数を見ると、全然読まれてもいなかった。
「あああああああああー!!」
俺の中で何かがキレた。
「何でだよ!! 何で誰も読んでくれないんだよ!! ふざけんな!!」
怒りからか俺は机を思い切り叩いていた。
痛みが走るがそんなの関係ないくらいの怒りが込み上げてきた。
「お前らが読みやすいように書いただろ!! お前らが一番読んでいる時間帯に投稿しただろ!! 気になるタイトル名にしただろ!! 新着に出てるから目に止まってんだろ!! なのに何で読まないんだよ!!」
わかっている、面白そうだと思わなかったからだ。
「エタってもいないだろ!! 投稿するペースも一定だろ!! 流行っている内容だろ!! なのに何でだ!!」
わかっている、読むかどうかは読者の自由なんだから。
「短編も投稿した方が良い、読まれるだけありがたいと思った方が良いって言うけど、お前らの作品書籍化してるから言える事だろ!!」
わかっている、そんなんじゃないって事を。
この人達もたくさん苦労して努力して書籍化されたんだって。
「書籍化されてるからか!! だからこいつらが何カ月も何年もエタっても、他の作品を書いていても読まれるのかよ!! 書籍化してる作品も完結してねえのに新しい作品書いてそれも書籍化されてんじゃねえよ!! 書籍化した作品完結してから書けよ!!」
わかっている、皆面白いって思えるから評価しているんだ。
だから書籍化されるんだ。
だから皆何年も続きが出るのを待っていてくれる。
面白い作品を思いついたら書きたいって気持ちは止められないって事も。
「大体、お前らも読んでるならせめて何か感想書けよ!! 面白かったでも、このセリフに共感できたでもいいから書けよ!! 読んだのは何となく気になったからなんだろ!! だったらせめてポイントくらい入れろよ!! 簡単な事だろ!!」
わかっている、面白いと思うかは読者の自由、ポイントも入れるかどうかも読者の自由だ。
面白くなければ評価もされない、そんなの当たり前の事だ。
「こんなに書いてるのに、こんなに投稿してるのに、何でだよ!! ふざけんな!! ただ読まれるだけでポイントも評価もされないなら、書く気なんて失せるに決まってるわ、ボケ!!」
わかっている、こんな事言っても意味がないって、全部わかってるんだ。
「くそっ」
気づいたら俺の目から涙が零れてた。
わかっているんだ、現実はこんなものだって。
これが現実だって。
わかっている。
わかっているけど。
それでも。
頭でわかっても、気持ちは違うんだ。
こんなに頑張ってるのに結果が伴わない。
わかっている、皆している努力だって、でも気持ちが納得いかない。
この現実を受け入れたくない。
認めたくない。
俺は涙を流し続けてしまった。
情けない。
いい歳した男がみっともなく泣くなんて。
そうしているとインターホンが鳴った。
俺は誰かと思って見ると、怜がいた。
こんな時間に何の用だろうか。
そう思いながらも俺はドアを開けて怜を中に入れる。
「すまない、いきなり何の連絡もなしに来てしまって」
「いや、良いんだけど、どうしたの?」
「何て言えばいいのかな、変な話だと思うかもしれないが、どうしても今すぐ君に会わなければ何か手遅れになりそうな気がしたんだ」
「手遅れ?」
一体どういう事だと思っていたら怜がいきなり俺に近づいて俺の顔をじっと見つめている。
「拓海君、もしかして泣いていた?」
「え?」
「涙の後がある」
言われて俺は咄嗟に自分の顔を腕でこすった。
何だか恥ずかしい。
「君が泣くなんて余程の事があったと思う、もし良かったら私に話してくれないかい?」
「・・・・・・」
俺は話すのに少しためらった。
彼女に弱い部分を見せるのが恥ずかしいというのもあるし、情けない部分を見せたくないっていう気持ちもあったけど、俺は誰かに話を聞いてもらいたかったのかもしれない。
だから俺は怜に話す事にした。
俺の話を怜は途中で遮らずに最後まで聞いてくれた。
「そっか」
俺が話し終えると、怜は俺の隣に座る。
「私は、小説とかあまり読まない方だから、こういうのはよくわからないし、君が書いた作品の何が面白いのか、何がつまらないのかもわからないけど、君が辛い思いをしているのはわかるよ」
「うん」
「頑張って書いたものが誰にも読まれない、それは確かに辛いね」
「うん」
「話してくれて嬉しかったよ、だから」
そう言って怜は俺を抱きしめた。
「なっ!?」
突然の事で頭が真っ白になった。
「好きだ」
「え?」
「いつも頑張って仕事をしている君が好きだ、私を大切にしようとしてくれる君が好きだ、夢を持っている君が好きだ、優しい君が好きだ、笑っている君が好きだ」
怜はいきなり俺の好きな所を言い出して俺は恥ずかしくなった。
「君の全てが私はきっと好きなのかもしれない、だから私は君を好きになってしまったんだ、例え誰も君の頑張りを見てくれなくても、私が見ている、だから、私の傍にいてくれ・・・・・・言っておいて何だか恥ずかしいな」
言った後で恥ずかしくなったのか怜は顔を赤くする。
「うん、ありがとう、怜」
君は俺を好きだと言っているが、それは俺も同じだ。
きっとこれからもこんな風に俺は彼女に弱いとこを見せるのかもな。
だから、俺は君が好きになったんだ。
これからも頑張れるんだ。
傍にいてくれるから。
読んでいただきありがとうございます。
こんな彼女がいたら頑張れるだろうか。