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第1話 外れスキルを授かり、実家追放

「領主様、結果が出ました。神様からトーマ様に授けられたスキルは……『八百万』スキルです。は、初めて見聞きいたしますので、効果の程はわかりません」

「ヤオヨロズ? な、何だそのスキルは!? 魔法……魔法に関するスキルなのか!?」


 屋敷に呼ばれた神官が、俺に与えられたスキルを告げ、この街の領主である父親が不機嫌になる。

 スキル――この世界の人間が十六歳の誕生日を迎えた際に、神様から一つだけ与えられる特別な能力だ。

 スキルには様々な種類があり、全属性の魔法が習得可能になる『マジックマスター』や、同時に二つの魔法詠唱が行える『ダブルキャスト』といった、取得するだけで宮廷魔術師として王宮に仕官出来るような物もある。

 俺が生まれた――赤ちゃんに異世界転生した家が貴族という事もあり、優れたスキルを求められていたのに、意味不明なスキルを授かってしまった。


「トーマよ。その八百万というスキルを使ってみせよ!」

「は、はい! ≪八百万≫」


 頼むっ! 魔法の効力が八百万倍になるとか、同時に八百万個の魔法を発動させられるとか、とにかく魔法に関するスキルであってくれ!

 そう願いながらスキルを使うと、目の前に銀色の文字が書かれた青い板が表示された。


『使用するスキルを選択してください。

 ・小杖装備時の魔法効果向上』


 えっ!? な、何これ!? 八百万スキルの効果はこれだけなのか!?


「どうしたのだ。トーマ、スキルの効果を言わぬか」

「はい……その、小杖を使って魔法を発動させた際に、威力が上がるそうです」

「小杖!? つまり子供用のワンドの事か! な、なんと……せめて、普通の杖――スタッフやロッドであれば、まだマシだったが」

「申し訳ありません……」

「もう良い。そのようなスキルしか持たぬお前に、この家は継がせられぬ。家から出て行くのだ!」


 父親が何を言っているのか理解出来ず、暫く呆然として……ようやく言葉の意味を理解する。

 家から出て行け……って、追放という事なのか!?

 俺は、前世で記憶もある日本人としての人生を含めれば五十年近く生きている事になるが、この世界ではまだ十六年しか生きていないんだっ!

 日本ならまだ高校生だというのに、そんな俺に一人で生きろだなんて、無茶苦茶だろっ!


「お、お待ち下さい! いきなり家を出ていけと言われても、生きていけませんっ!」

「うるさいっ! これは決定事項だ! 家はソフィアに継がせる! さぁ今すぐ荷物を纏めろっ!」


 こ、こいつ。自分の息子になんて事を言うんだ。

 俺が転生したオッサンじゃなかったら、人間不信になっているぞ?

 だが、父親は取り付く島もなく、仕方なく自室へ戻ると、暖かくて柔らかい何かが勢いよく胸に飛び込んで来た。


「お兄ちゃーん! 授かったスキルは何だったー!? 毎日あんなにも魔法の練習をしていたお兄ちゃんだし、魔法の効果が永遠に続くスキル『エターナル・マジック』とか、無限に魔法が使えるスキル『アンリミテッド・マジック』とかだよねっ!」


 俺の部屋で待っていたらしい二歳年下の妹ソフィアが抱きついてきて、目をキラキラ輝かせながら、授かったスキルの事を教えて欲しいと見つめてくる。

 ソフィアとは幼い頃から一緒に魔法の練習をしていて、お兄ちゃんお兄ちゃんと、いつも一緒に居て……


「ソフィア……すまない。兄ちゃんな、良いスキルが授からなかったんだ。授かったのが、いわゆるハズレスキルってやつでさ」

「えぇっ!? そうなのっ!? ……神様のいじわる。で、でも、何かしら魔法に関するスキルなんだよね? それなら……」

「魔法といえば魔法だけど……でも、本当に使えないスキルだから、この家を追放される事になってさ」

「……えっ!? お兄ちゃんが家を追放!? ど、どういう事っ!? そんなのおかしいよっ! 有り得ないっ! だって、お兄ちゃんはソフィアと一緒に……ま、待ってて! パパに聞いてくるっ!」


 俺が家を追い出される話をした途端に、血相を変えてソフィアが部屋を出て行った。

 ソフィアの気持ちは凄く嬉しいが、おそらく何も変わらないだろう。

 カバンに着替えや日用品に、これまでの誕生日にソフィアから貰ったプレゼントなどの思い出の品を詰め込んだ所で、母親がやって来た。


「トーマ……あの人から話は聞きました。この家を出て行かなくてはならないそうですね」

「はい、残念ながら」

「……ごめんね。私にもっと力があれば、あの人を止める事が出来るのに」


 母親は魔力が高いからと、この家に嫁いできた下級貴族の娘だと聞いている。

 夫婦でありながら、代々公爵の家柄である父親には何も言えないのだが、この世界では普通の事だと思うので、何も言えずにいると、


「トーマ、せめてこれを。私の叔父の故郷へ行く馬車のチケットです。小さな村ですが、きっと貴方を受け入れてくれるはずです」


 そう言って、チケットと共に数枚の金貨をくれた。


「母上、ありがとうございます。そして、ここまで育ててくださって、本当にありがとうございました」

「……トーマッ!」


 最後に母親から強く抱きしめられ……俺はカバン一つと、これまで練習に使って来た自分の小杖を持って、実家を出る事になってしまった。

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