第093話 続く聖女の話と義母との距離?
「――――――」
「――――――」
「――――――」
「――――――」
「――――――」
「…アラ」
「――――――」
「……ラ」
「――――――」
「セ…ラ」
「――――――」
「セアラ」
「―――――ん」
「セアラ」
「セリアーナ様」
私は飛び起きた、此処は聖都で休むに何時も使っているシャリス公爵家の別邸だ。酷い夢を見た気がする。私が根本から破壊される様な夢だ。でも内容が思い出せない。どんな夢だったのだろう?うん?酷い夢だった筈なのに忘れれば良いのに内容が気になる。忘れてはならない、そんな感じがする。それは―――――
逃れられない定め
うん?そうだ、私はそれから逃げられない。絶対に、どうしても立ち向かわないといけない。でも絶対に貧弱な私じゃ勝てないなー、悔しい、どうしてこんなに弱いんだろ、私は、セリアーナ様は私ならきっと立派な大聖女に成れると言われてるのに…何が足りないんだろう?努力?根性?勇気?気合?気迫?まあぶっちゃけて私全部が足りないのかな?
「友よ、セアラ」
「セリアーナ様?」
「貴方に必要なのは友」
友、友達?でもそれなら今はフィナちゃんもキャルちゃんも―――――そう思ったらセリアーナ様は首を振った。フィナちゃんやキャルちゃんじゃダメって事?セリアーナ様は頷いた。なら二人よりも強い友達?セリアーナ様は首を振った。強い友達じゃないのか…なら仲の良い友達?セリアーナ様は頷いた。あの二人より仲の良い友達か…いないなー、私の交友関係狭いし、それは難しいよセリアーナ様。そう思ったけどセリアーナ様は首を振った。え、もう知り合いに居るの?セリアーナ様は頷いた。そんなに大事な友人なら私きっと忘れない自信が有るけどなー。でも忘れてる?セリアーナ様は頷いた。うーん、誰だ?なら一人ずつ上げて行こう。最初は―――――懐かしいあの子とか?え?セリアーナ様は大喜びで頷いた?!あの子なの?いきなり当たり?懐かしいなー、でも会えたの一度切りだよ?以来は会って無いよ?関係ない?そうなんだー、なら元気にしてるんだ。あの子―――――うん?それは分からない?え?でもあの子が私には必要なんでしょ?
「絆さえ残っていれば因果は巡るわ」
「セリアーナ様?」
「あの子が必ず希望を残す。それを見逃さないで」
「うん、でもさっきから喋ったり黙ったりで極端だね。セリアーナ様」
「貴方が悪いわセアラ」
「え?私?」
何で?と言おうとしたら声が出なかった。あれ?セリアーナ様が分かった?と言うようにお怒りだ。成る程、私の性なのね。しかし参ったなー原因を聞く前に声が聞こえなくなっちゃったよ。せめて聞いておきたかった。と言うか、何かオカシイ、コレは夢?現実?あ、頷いて首を振った。夢なのかそうなんだー、ならさっき見た酷い夢は……現実なんだね、成る程、まだ記憶に戻らないけど私は何か前世で罪を犯したのかと思う辛さだった。、無茶苦茶だった。余りの絶望に私は壊れた気がする。ん?セリアーナ様が首を振る。あ、その修復作業中?緊急回避の為の気絶で今は起きた時に備えろと?セリアーナ様が頷いた。そうか、私の絶望はまだ続く様だ。ゆっくりと思い出そうとする。今度は記憶が溢れ出した。
聖都テレスターレの王城―――知らない筈の場所だった。 でも連れていかれた場所を私は知っていた。 声を聞いた幼い子供の笑い声。 『セポラ』『セリス』 それは私の声だった。
私は幼い頃を此処で過ごした。
いや、此処で産み出された。
『セポラ』『セリス』は私の姉妹だ。 【血】を同じくする二人。
セリアーナ様が耐え難い慟哭に泣きながら私を連れて行った。
どんなに辛くて苦しかっただろうと思う。
【神眼】が【神哭眼】へと変わった。 私の慟哭も深そうだ。
【恩恵】が進化する等、初めて知った。
【埋葬】と言う【恩恵】が手に入った。
これで隠せという事だろうと思う。 私の種族が人類から帰還死人になった。 私の正体はは人類じゃなかった。
今迄ずっとその振りをして居ただけだ。
私は呪われた存在だ。 禁忌の忌み子だ。
許されない存在だ。
生きて居て良いのか不安になる。
今になってお母さんが私に無関心だった理由が分かる。 お腹を痛めて苦しんで産んだだろうが実の子では無かったからだ。
セリアーナ様はずっと知っていた。
だから私を護ってくれていた。
温もりと優しさと暖かさを惜しみなく注いでくれた。 家族の愛を教えてくれた。
やはりあの方が私のお母さんだ。 血は繋がらないが只、1人の肉親だ。 私は人の姿をしたヒトモドキだ。
目を覚ましたら私はやはり死ぬべきでは無いか?とすら思う。 だけどきっと私には果たすべき役目がある。
どうしようもない。 シラネバナラナイ。
己が何何か何であるのか? セアラノサダメ。
逃れられない。 イツカカナラズシルトキガクル。
私はやはりニゲラレナイ。
最早『セアラ』でも無い名無しの私は止まらない涙を流す。 そんな名も無くした震える私を夢のセリアーナ様が抱き締めてくれる。 夢の中でもセリアーナ様はセリアーナ様だ私が最も望む事をしてくれる。 温もりに身を任せ涙が体の震えが止まるのを待つ。
どの位の間、そうしていただろう?私はセリアーナ様に抱き着き声を張り上げて泣いて抱き締められて頭を撫でられた。
ふと眠気に襲われた。瞼を空けてられない。意識が遠くなる。違う、私が目覚めようとしている!あの絶望の続きが始まると思うと恐怖しかなかった。
「セリアーナ様!!!」
私は恐怖した。逃げられないと分かっていてもそれでもとセリアーナ様に必死で縋りつく。セリアーナ様も強く抱いてくれる。離れたくなかった、私の夢でもずっと平穏にこのままで居たかった。それでも時間の流れは止まらない。私は目覚めていった。
「セリアーナ様!!!」
「セアラ、忘れないで、夢とも呼べない儚いこの時で覚えた事を―――貴方の友が何処かで待っている事を忘れないで」
最後に夢のセリアーナ様がそう言った。私は必死に頷いた。忘れるモノかと思った。この細やかだが満ち足りた幸せを、あの子の事をと―――でも、目覚めた私は殆んどを忘れていた。夢のセリアーナ様の事もあの子に付いても、私がそれを思い出すのは遥か先の日だ。
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「ん……」
ゆっくりと目を開ける。瞳に入って来るのは知らない筈なのに知っている天井だ。そうか、此処はあの部屋だと理解した。私はこの部屋で多くを理解して耐えきれずに意識を失ったのだと悟った。そうか、私は約7年ぶりにこの部屋に帰って来たのだと把握した。
「大丈夫?セア…あ…」
私を膝枕してくれていたらしいセリアーナ様が優しく頭を撫でてくれながら言う。でも名前を呼ぶところで詰まった、うん、私はもうセアラじゃない、名無しだ。セリアーナ様も沢山、泣いたのか目が真っ赤だ。部屋に入った時に崩れ落ちたけど、私が名を失い、種族が人類から帰還死人になり【恩恵】が【神眼】から【神哭眼】になり【埋葬】なんてモノを手に入れた。必死になってやって来てくれたのだろう、セリアーナ様はやっぱりセリアーナ様だ。私とセリアーナ様はお互いの涙の跡を手で拭い合って笑う。其処で声が響いた。
「そろそろ良いか?」
威厳のある声が響いた。この部屋に入って最初に聞いた人の声だ。私は体を起こす、セリアーナ様はまだ心配そうだけど、もう平気だ。そろそろちゃんと話を聞かないと知らないといけない。目の前には男性が4人、1人は知ってる。セリアーナ様に紹介された事がある。義弟であるスパーツ・シャリスの息子、スパイク・シャリスさんだ。他の3人は知らないけど1人は予想が付く。私はその方の前で膝を付き頭を垂れた。
「お、おお、おは、お初に、お、お、お目、お目にかか、かかり、かかりります。テ、テレ、テレス、テレスターレ・フォン・ファイラル十一世聖王陛下」
何か嚙み噛みになった。あれ?私ってこんなだったっけ?まぁ、性格にも影響があったのかもなと思っておく。名を呼ばれると満足そうにファイラル十一世陛下は「ガハハハッ」と笑った。何だか恐そうな冷たいイメージを感じたけど違うのかな?左目に映る【神哭眼】の世界は真っ赤で良く分からない、不思議な事に効果も理解できない。右目の【神眼】に映るファイラル十一世陛下は大きな灰色だ。良くも悪くも無い気がする、だけど大丈夫そうだ。私は少し安心した。
「うむ、幼い身を少々、苛酷な目に合わせた。まずは謝罪しよう、すまなかったな」
気軽に謝られたが聖王様が謝罪とか有り得な過ぎる。私なんて只の一平民だよ?………いや、一平民だったか、今は人ですらない。魔物以下だ。魔導の奥義で死者を蘇らせたと言われる伝説の帰還死人だ。でもそれでも謝るという事は私がそれだけの存在の帰還死人か国が、聖王様が命じて創らせたかだろうと想像する。私はこの場で全てを知らなければならない。
「あの、私は…」
「まぁ、待てその前に全員の自己紹介だ」
そう言ってファイラル十一世陛下は私の言葉を遮った。傍に控えていた3人の男性が前にでる。
「エイリス・バジャール侯爵だ」
ビックリしたフィナちゃんのお父さんだ。言われて見れば面影がある様なない様な?中肉中背でゴツイ、何と言うんだろう?武人って感じだ。凄く強そうだ。
「スパイク・シャリス公爵、久しぶりだな」
うん、久しぶりだ。前に会ったのは約3年前になる。先王テレスターレ・フォン・ロブロニカ十六世陛下の葬儀に聖都テレスターレへセリアーナ様と初めて来た時に会って以来になる。今になって思えば平民の慰霊献花台に飾られた姿絵に見覚えがあったのは此処で会った事があるからかも知れない。
「リッテルト・ハウル公爵になる。初めまして小さなお嬢さん」
最後がテレスターレ聖国の海の玄関であるララトイヤを治めるもう一つの公爵家、ハウル公爵家の方だ。綺麗にウィンクして私に笑って見せた。どの人も危険は無さそうだと安心した。
「そして当てられたが改めて名乗ろう。余がテレスターレ聖国369代目聖王テレスターレ・フォン・ファイラル十一世だ」
リッテルト様が最後かと思ったけどファイラル十一世陛下が改めて名乗った。王衣のマントを翻らせて手にした片手持ちの小さな王杖を横に薙ぐ。何だか格好を付けてる感じだけど様になってる。思わず拍手しそうになる位だ。今の聖王様が国民に大人気だと言うのが何となく解る。あんまり偉そうじゃないし凄く親しみが持てる感じだ。
「それでお前は?」
ファイラル十一世陛下が私に目を向けて問う。私?!私は………。
「………も、元『セアラ』と名付けられた今は名前の無い1人の帰還死人です…」
小さく、更に尻すぼみに小さくなる声で私は答えた。顔も少し俯く。言っていて改めて私は人類じゃなくなったんだと突き付けられる。やっぱり私は生きていてはいけない存在なのでは無いかと思ってしまう。そんな私を後ろからギュッと抱きしめてくれる人が居た。その心地好さと温もりを私は決して忘れられない。
「それから私、大聖女セリアーナ・シャリスの愛する大切な娘です。これ以上、苛めるのならお仕置きしますよ?腕白坊や?」
セリアーナ様の言葉にファイラル十一世陛下は「ガ、ガハハハ」乾いた笑い声を上げる。聖王様が相手でも全く怯まない、流石だと思った。手の暖かさと言葉が私を肯定してくれているようだ。それだけで私は救われた。そして話が始まる。
「ではお前の生まれを話そう、発端は星暦4970年、聖王国暦3868年、今より16年前からだ。大聖女の円卓神殿――神託の円卓神殿よりセリアーナが一つの神託を持ち帰った。それが始まりだ」
ダアト山脈頂上にある大聖女の円卓神殿、アトランティカ大国、エイリーク共和国、テレスターレ聖国、スリオン聖国、ダスド帝国、リスト聖国に居る大聖女が7年に一度、7眷属神から神託を授かるという神殿だ。約3年前にはセリアーナ様も向かわれて居た。聞いては居たけど本当にあるんだと初めて知った。その神託が私の生まれた理由?
「テレスターレ聖国がダスド帝国に滅ぼされるという神託だ。6神は大人しく受け入れよと言った。アストラーデ神のみが『救いの為には初代大聖女の《血》を甦らせよ』と言われたそうだ。神々は大層、お怒りになったそうだがな」
アストラーデ様、テレスターレ聖国が崇める神位第二位の女神様だ。【強欲】の悪魔で【忍耐】の女神、【回帰】の邪神にして【藍】を司るとされている。初代大聖女の《血》、そうかそれが私や『セポラ』『セリス』なのかと悟った。【恩恵】が同じ訳だと思った。でも微かに思い出した『セポラ』『セリス』は私と違った気がする。それにキャルちゃんに聞く初代大聖女『セアス』様は黒髪黒目だ。私は金髪碧眼――今は片目が真っ赤だけど容姿が全然違う。何でだろうと思った。
「そしてあるお方より頂いた『セアス』様の遺髪よりお前達が産み出された。7人が作られ2人が流れた、5人が無事に産まれたが育ったのはお前と『セポラ』『セリス』のみ、加えて『セポラ』『セリス』はダスド帝国の間者、工作員により殺された。残ったのはお前一人のみだ」
『セポラ』『セリス』はもう居ないのか、私はどうやら1人ボッチの様だ。せめて2人が生きて居てくれればこの感情を共有できたのにと思ってしまう。許されない帰還死人で存在も只の1人、私は沈みそうになるがセリアーナ様が肩を抱いてご自分の体に引き寄せてくれた。うん、そうだった。私は孤独じゃない。何があってもセリアーナ様が居てくれる。それが私の心を軽くした。
「まだ予想だが数年以内にダスド帝国は再びテレスターレ聖国に攻め入ると考えられる。それが神託による予言の日だろう。その対策の為にお前に真実を告げて力を手にして貰う事になった」
戦争が起きると聞いて私は驚いた。私が産まれる前からテレスターレ聖国とダスド帝国は仲が悪く頻繁に戦っていた。今でも大規模な戦闘は無いが小競り合いはしょっちゅう起こるそうだ。そんな戦いに私が参加する?無理、無茶だ。私は有り得ない程に貧弱だ。超弱々だ。戦争なんて参加したら秒で死んでしまう。恐れおののく私にファイラル十一世陛下は笑って大丈夫だと言った。
「《友》を探すのだ。お前を護り支える唯一人の掛け替えの無い《真の友》を」
《友》?《友達》?フィナちゃんやキャルちゃんとは違うのかな?と思うと不意に小さなあの子が思い浮かんだ。うん?何でだろう?もうずっと思い出さなかったのにどうして?と思ったが記憶は其処で途切れた。私はどうして?と思いながらもファイラル十一世陛下に尋ねた。
「《友》ですか?」
「そうだ、初代大聖女『セアス』様も最初は貧弱であったが強大な存在を《真の友》として急成長した。その《血》を受け継ぐお前の前にもきっと現れる筈だ。それを信じて我等も待つ」
そんな伝説は聞いた事が無い。キャルちゃんだって知らないだろう。でもこの場に居る方々は知っているようだ。セリアーナ様も頷いている。《友》それを得るだけで私は強くなれると言うのだろうか?何だか変な感じだ。
「話は以上だ。何か聞きたい事はあるか?」
ファイラル十一世陛下が言う。私はおずおずと口を開いた。
「私が《友》を得て戦争に参加する事でテレスターレ聖国が救われるんですか?」
その言葉にファイラル十一世陛下は「それは分からぬ」と答えた。え?!どういう事?と私は首を捻る。私はテレスターレ聖国を護る為に産み出された存在じゃないのかと?訳が分からない私にファイラル十一世陛下は続けて言った。
「アストラーデ様は『救いとなる』と言われただけ、ダスド帝国を退けられるとは言われなかったそうだ。その後もお前が『人類の希望となる』『《友》を探させよ』と言われただけだ」
そんなに詳しくは教えてくれないのか、意外と意地悪だな神様ってと私は思った。うん?ならなんで私はこんな苦しい思いをして真実に向き合わされたんだ?別に秘密のままでも良かったんじゃないかと思う。
「それは出来ぬ、10歳を前に真実を告げる事は決まっていた。それは絶対に逃れられないお前の運命だ」
そうなんだ、確かにどうしようもない私の定めだ。変わってしまった今更になって言ってもどうしようもない。本当に此処まで変化が起こるとは思っても見なかった。
「だが余等も此処まで変化があるとは想像していなかった【鑑定】されれば一発だな。隠す手段はあるのか?」
ファイラル十一世陛下は私に尋ねる。皆が私が衝撃から此処まで変化を及ぼして変わってしまうのは予想外だったようだ。まぁ、大丈夫だと頷いて私は【恩恵】【埋葬】を使用。これは自分のステータスを完璧に隠し偽装し封印する【恩恵】だ。突破は絶対にされない。種族を帰還死人から人類に偽装、【神哭眼】を【神眼】に封印、後は【恩恵】【埋葬】その物を隠して終わりだ。名無しだけはどうにもできないけどコレは後でどうにかして貰おう。
「戻ったか、どうも血に染まった【神哭眼】は何か攻撃を受けているようで落ち着かなかったが戻ると問題はないな」
うん?【神哭眼】って攻撃系の【恩恵】なのかな?【恩恵】は持って居れば何となく理解、把握が出来るモノだけど【神哭眼】は全然だ。何だろう?この【恩恵】はと私は首を捻る。
「それで他に聞きたい事は無いか?」
「はい」
正直、分からない事は一杯だがもうこれ以上は限界だ。取り合えず知った真実を受け止めて、《友》を探すという道が示されたら其処迄だ。これより上はもう私が持たない。
「よし、ではまずはお前に無くした名を授ける。これまでと同じだ『セアラ』を名乗るとよい」
名付けが行われる。名前を無くした私に元の名前が帰って来る。私の名前がある。それだけで何か少しだけ救われたような感じがした。
「そして10歳になると同時に『セアラ・シャリス』を名乗れ、セリアーナの義娘だ」
え?と顔を上げる。私がセリアーナ様の養子に?10歳でどこかの貴族の養子になるなら出来ればセリアーナ様の――と思って居たがそれが叶うとは思って居なかった。嬉しくなって隣のセリアーナ様を見上げる。でも喜ぶ私と違ってセリアーナ様は動揺している。顔色もまた少し青い、どうして?と思った。ファイラル十一世陛下の声は続く。
「同時に聖女第一位の位を授ける」
ええっ?!と私は驚いた。聖女第一位とは次期大聖女候補一位の事だ。【恩恵】だけの弱々聖女候補の私が突然、聖女一位?!有り得ないと思う。ああ、でもその為のセリアーナ様の元への養子縁組かと悟る。シャリス公爵家の後見があれば多少、無茶でも可能だ。今の私は聖女候補でも一番下っ派だが立場が跳ね上がる様だ。でも聖女には清貧が求められる。己の生活費と必要なモノは全て自分で働いて稼がなければならない。私のこれまで聖女候補としての生活費、お小遣い、必要経費は全てセリアーナ様が出してくれていた。弱々な自分が自分の生活をどうやって支える?と不安になる。
「最後にセリアーナとは距離を置いて貰う事になる」
え…、それは、それだけは耐えられない事だった。私はセリアーナ様が居たから今迄の日々に耐えて来れた。セリアーナ様が一緒だったから頑張れた。そのセリアーナ様から離れないといけない?それだけは、それだけは無理だ。私にはどうあっても我慢出来ない。
「ど、どうしてですか?」
震える私の呟きにファイラル十一世陛下は沈痛な表情で声を上げる。それはどうしようもないのだと言う感情が詰まった言葉だった。
「セリアーナはセアラ、お前に深く係わり過ぎている。養子にして聖女第一位にすればこれまで以上に探りに来る者が増えるだろう。少しでも真実を知らされない為の処置だ。理解してもらいたい」
解る。私が帰還死人である事が知られれば大変な事になる。それこそ主導したテレスターレ聖国が揺らぐほどの事態になるだろう。だから聖女第一位に育てる為にこれまで面倒を見た。この後は自分自身の力で道を切り開くのだと距離を取るのはある意味で丁度良い区切り、自然な事だ。でもだからと言って私は納得出来ない。解りたくない。セリアーナ様から離れる?他の何と引き換えにしても自分――私には耐えられない。
「い、いや、いやです。それは…それだけは…」
必死に懇願するそれだけは許して欲しいと、でも誰も頷いてくれない。セリアーナ様すら悲しそうに目を伏せるだけだ。私は今日此処で人であった自分を失い掛け替えの無い唯一の家族まで失ってしまうのかと再び溢れ出した涙を押さえられなかった。
「いやぁぁぁぁっ!!!」
「セアラッ!」
私は悲鳴を上げて部屋を飛び出した。城の離れにある此処は昔は後宮だったそうだ。だから道が幾つにも乱れて入り組んでいる。私より遥かに【LV】が高い方々でも一度、見失せればそう簡単には見つけられない筈だった。廊下を走り、身を隠し、廊下を走り、身を隠す。そんな真似を何度も繰り返した。私は泣きながら走って逃げた。もうどうしようもないと分かってるのにそれでも逃げた。涙で【神眼】が曇って良く見えない。それでも私は走った。走って、走って、その先に誰かを見た。
「ん?うわっ?!」
「きゃ!ご、ごめんなさい」
良く見えない視界で誰かにぶつかりそうになり慌てて避けたが態勢を崩して私が転んでしまった。転んだ私にその誰かは手を刺し伸ばしてくれた。涙で顔が良く見えない。でも同い年位の男の子の様だった。おずおずと手を伸ばすと引っ張って立ち上がらせてくれる。
「大丈夫か?泣いて?怪我をしたのか?」
「い、いえ、これは……」
何と言えば良いのか分からなくて口ごもっていると「セアラッ!」と呼ぶ声が聞こえた。ファイラル十一世陛下の声だ。いけない、逃げないとと思い。「本当にごめんなさい、失礼します」と言い残して私は走りだした。後ろで「フォルテ?!どうして此処に?」「休憩時間にちょっと探検を…それより、父上!あの子は誰何ですか?父上が泣かせたんですか?」「い、いや、それは…」何だか足止めしてくれてる。チャンスだと思って私は駆け抜けた。
狐猫の小話
【神哭眼】標的となった相手の【技能】を破壊、消滅させてしまう凶悪な【恩恵】です。
但し、セアラは今だにその真の力を発揮出来ません。




