第091話 先王の死と始まるセアラの話?
星暦4984年。
「あの子は元気で居るか?」
「ええ、先日で7歳になりました。ダアト山脈から正に飛んで帰ったセリアーナがお祝いにケーキを作って一緒に食べたと言っていました。心配は無用です」
ファイラル十一世の言葉に余はベッドの中から安堵したように頷いた。
もう起き上がる事も出来なくなって何日が過ぎたか、せめて全てが終わる迄は生きているか首として役に立ちたかったがそれも叶わない様だ。
無念だと思う。自分の後始末は自分でしたかったが不可能な様だ。コレが余への罰なのかとすら思った。
「大丈夫です。『セアラ』にはセリアーナとバッツが付いてる。父上は気にせずに休んでおいて下さいよ?」
「そうだな、すまぬ。ファイラル」
謝るとファイラル十一世は笑って「父上はもう十分に頑張られた後は俺の仕事だ」と言って寝室を出て行った。
ああ、だがそうか、あの子は元気で居てくれるかと僅かに余は安らいだ。しかし、ファイラル十一世から報告を受ける様になってどの位が過ぎただろうと思う。
余が直接に報告を受けたのは何時が最後だったか?もう随分と昔に思える。『セアラ』は5歳から6歳になるまでに体調が大きく改善した。
それまでは病弱で儚い雰囲気が消えなかった『セアラ』だがどんどんと元気になって行ったらしい。そして6歳になったその日にアストラリオンの大神殿に突撃した。
『わたしをセリアーナさまのようなりっぱな『大聖女』にしてください』
そう言って大神殿の門番に頭を抱えられたそうだ。聖女は素質さえあれば誰でも成れる職だが長く国を支えていく職だ。貴族階級の者が殆んどで一般人からの『大聖女』等まず有り得ない。
現に今までも庶民からの『大聖女』は殆んど出た事が無い。余等もセリアーナも良いタイミングで『セアラ』を大神殿にとは思っていたがまさか神殿に登録可能な6歳になって直ぐに自分から行くとは思っていなかった。
当日は事態を知ったセリアーナがセアラを相手に酷く慌てていたそうだ。
兎も角『セアラ』は6歳で神殿に保護される事になった。セリアーナの元だコレで安心だと皆が思った。
だが事態はそう簡単には行かなかった。まず『セアラ』の素質が試された。聖女には問題なく付けた。そして【恩恵】が周りに知られた。
『初代大聖女』と同じ三つの【恩恵】それが周囲を沸かせた。『初代大聖女』の再来と騒がれたがそれも最初の数ヶ月、余りにも伸びない『セアラ』のステータスと【LV】に周りが呆れ始めた。
当然だった『セアラ』はまだ《友》を得ていない。初代『セアス』様と『鳳凰』様の様な【絆】を繋いだ相手が居ない。弱くて当然だ。
だがそう言っても相手は納得しない。其処迄も何もかもが『初代大聖女』と同じかと言われると此方は言葉を返せない。そうだと言えるし違うとも言える。
まず『セアラ』は外見が『セアス』様と全く違う。黒目黒髪だった『初代大聖女』と違って金髪碧眼だ。また【LV】とステータスは低かったが壮健だったという『セアス』様と違い『セアラ』は6歳になるまで病弱で何時死ぬかも分からない儚さだった。
既に違う部分は幾つもある。全く同じだとは言えない。だが『セアラ』は『セアス』様の遺髪から産み出された存在だ。《友》を得て【絆】を結ばないと強くは成れないと言うのは変わらないだろうと思った。
しかし《友》等どうやって作らせれば良いのかが分からない。そもそも作ろう思って作らせれるモノでは無い。誰か歳の近い者に演技でもさせて近付ける?ダメだ『セアラ』は【恩恵】の【神眼】を持っている演技は通じない。成らば演技では無く真にそうなり得そうな者を近付ける?やらせてみた普通に仲良くなって友達になったがそれだけだった。
まだ時間はあると放置する事になった。急ぎ慌てる必要は無いと『セアラ』にもきっと定められた運命の出会いがあると余等は信じることにした。
しかしそうなると『セアラ』の立場は苦しくなった。三つの【恩恵】を持つが【技能】は6歳になるまで病弱だった為に聖女の基礎の4つだけと言う歪な存在が出来上がってしまった。
そして現大聖女のセリアーナに気に居られており出掛ける時には何時も一緒と言う具合だ。他の聖女見習いから面白い顔はされない。弱い『セアラ』は格好の良い苛めの標的とされた。
聖女の資格があるから聖人君主という訳ではない、それは分かっている王とて清濁併せ吞むモノだ。だが6歳の少女が苛めを受けていると言うのは気分が良いモノでは無かった。
苛めをしている者に貴族の子女が多いと言うのが尚更だ。『セアラ』は既に苛酷な運命にある。それ以上、傷を増やしてくてるなと余は願った。
それが叶った訳でも無かろうが確かその頃からだ。余が完全に何も出来なくなり寝た切りになってしまったのは、以来はファイラル十一世が『セアラ』はどうしているか伝えてくれるが耳障りな事は断って居るのかそう言った話は聞かなくなった。
もう余が心配するまでも無くファイラル十一世が影に支え、セリアーナが正面から支える形がキチンと出来上がっている。もう余には護る為に何をしてやる事も出来ない。必要のない存在になってる。
14年前になるのか計画を始めてから、許されない所業だった。少なくとも『セアラ』あの1人生き残った少女には余に恨みを晴らす権利がある。頬を張り、殴り、蹴り、殺す事すら許されるだけの真似をした。余は愚かな聖王であろう、コレだけの事をして全てを息子に、ファイラル十一世に押し付けて逝く。何という未練の残る終わりか、それが余への罰なのだろうか?何という罰なのか、これほど辛く苦しい罰は無い。
脳裏を過ぎって行く数々の思い出、セリアーナ、エイディ、スパーツ、リッツ、リリム殿、ホウ様、ファイラル十一世、『セアラ』こんな所で無責任に脱落する余を如何か許さないで欲しい『セラス』『セララ』『セポラ』『セリス』今、そちらに行く。いや、お前達と余ではきっと行く場所が違うな、余には地獄がお似合いだ。
『セアラ』本当にせめて一言、謝罪をしたかった。真実を余から告げたかった。余に怒りと悲しみをぶつけて欲しかった。本当に皆、こんな愚かな聖王の為に…
「………すまなかった」
それが誰にも聞かれない余の最後の言葉となった。
テレスターレ・フォン・ロブロニカ十六世、テレスターレ聖国368代目聖王。69歳――没。
.
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「ん?」
「どうかしたセアラ?」
「いや、今、誰かが私を呼んだような?」
「気のせいじゃない?」
「そう…かな?」
「そうだよー、早く頑張って掃除を終わらせよ、また大聖女様のお話聞かせてよ」
「うん」
「やれ、やれ、2人共本当にセリアーナ様が好きだね」
◇
「ミィミミミィミ?ミィミ?ミィミィミィミ?」(セアラの秘密?良いの?リーレンさんは?)
「リーレンには聞かせられません。リーレンは2年後にはレバノン伯爵夫人になってる人です。許可は下りません。教えて良いのはハクアだけです」
私にしか教えられないかー、そう言われると、ちょっと…。でもセアラの秘密が何だと前に思った通りだ。何があろうと私はセアラの友達だと信じてドンと来いと言った。
「!っ……へへ、ありがとうございます。ハクア」
ホンの僅かだけだけどセアラの震えが静まった。うん、安心して話せよと思う。本当に私は大丈夫だからとセアラの体に自分をくっ付ける。
そしてセアラは話を始めた。
「私は――『初代大聖女』である『セアス』様の遺髪から造られた複製人間や人造人間とも云うべき人間、この世界で言う『帰還死人』です」
「ミ…ミィミミ、ミィミィミ?ミィミミィミィミ…ミィミィミ、ミィッミミミィミ?」(え…複製人間に人造人間?帰還死人って…この世界、そんな技術あるの?)
私は驚きの余り全身と尻尾を膨らませて目を真ん丸に開いてしまった。複製人間、人造人間、帰還死人って、セアラが?え、ホントに?私はビックリし過ぎて大混乱だ。
「あれは2年と少し前でした。それまでは私は自分を普通の人間だと思ってました」
おおう、セアラが本格的に話を始めたよ、よし、もちつけ、もちつくんだ私、こういう時こそ平常心だ、平常心。そうだ、素数を数えるんだ。 2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37、41、43、47、53、59、61、67、71、73、79、83、89、97―――って、違う、そうじゃない!如何、最初の爆弾が凄すぎて大動揺した。よし、セアラの話を聞くぞー。
「私は―――」
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「私は――やっぱり大聖女ならセリアーナ様が大好きです」
「だよね、だよね。やっぱり素敵だよね。セリアーナ様」
「はー、わっかんねーなー、大聖女ならやっぱ伝説の初代セアス様だろ、どうしてお前等は揃ってババコンなんだ。フィナッ、セアラッ!特にお前はそれでも初代様と同じ【恩恵】持ちか」
ピシピシとキャルちゃんに額を指で突かれる。アウチと額を押さえて私はそそくさと隣のフィナちゃんの背に隠れた。
「フィナちゃん助けてー」
「あ、ずっこいぞ!セアラッ!」
「きゃあ、セアラッたら」
きゃあ、きゃあと三人で騒ぐ、フィアナ・バジャール侯爵令嬢、キャロル・キャロライナ・ハープシブ伯爵令嬢、2人はどちらも平民の私からすれば雲の上な高位貴族だ。それでも私と仲良くしてくれる。大切な友達だ。此処は大神殿の東館二階の勉強部屋、全員で33名の同じ聖女候補生年上年下含めてが勉強している。と、言っても年下は1人だけだ。私は6歳から此処に居るけどずっと最年少で唯一の平民だった。皆が年上で貴族、今思い出しても大神殿に突撃はやり過ぎだった。6歳になれば神殿に聖女候補生として登録出来るとセリアーナ様から聞いた私は6歳になると直ぐに行った。
「わたしをセリアーナさまのようなりっぱな『大聖女』にしてください」
うん、今思い出しても無茶なお願いだ。頭を抱えた門番さんにゴメンと謝りたい。そして一応と素質を調べられたら聖女には問題なく付ける事が発覚「平民の聖女候補生は何十年振りかっ!」と騒ぎになった。騒ぎを聞きつけてセリアーナ様がやってきた。
「一体、何の騒ぎです?って、セアラッ?!どうして此処にっ?!」
知らない大人に囲まれ騒がれて怖くなっていた私はそのままセリアーナ様に向かって走って行って抱き着いてしまった。
「セ、セリアーナ様この子は隠し子か隠し孫ですか?」
「違いますっ!」
また大騒ぎになった。私はどうしたら良いかが分からなくなってセリアーナ様に抱き着いたままぐずり出してしまった。そんな私をセリアーナ様は優しく撫でてくれた。「しょうがないわね、セアラは――」と、嬉しくて暖かくて私は結局、泣いてしまった。そうして私の神殿生活が始まった。
神殿の生活は知らない事と驚きで一杯だった。それまでお母さんと私とお手伝いさんだけだった生活が一気に何十人との共同生活になった。ご飯の時間からお風呂の時間、寝る時間、起きる時間も決められた生活に変わった。ご飯は食べ方すら違った。皆は凄く綺麗に食べるのに私は全然だ。「よく見て覚えなさい」と歳上の私と同じ聖女候補生のお姉さんから言われる。私は頑張って覚えた。
此処に来るまで私は貴族と平民の違いを知らなかった。他の聖女候補生は皆が貴族、私だけが平民、皆が同じに見えるにに何が違うんだろう?と思った。「流れる血が違うのよ」と言われた、ビックリした。怪我は私もした事がある。痛かった、赤い血が流れた。でも貴族の人は違うらしい、どんな色なのかと思った。何日か経って怪我をした聖女候補生の子を治した。血の色は同じ赤だった。アレ?同じじゃないと思った。「意味が違うわ」そう言われた。どういう事なのか当時の私は良く分からなかった。
お母さんが一度だけ神殿にやって来た。私が居ないと毎月のお金が貰えないと怒っていた。お金の事が私には分からなかった。一緒に居たセリアーナ様がお母さんに渡していた。それでお母さんは満足した様だった。二度と神殿には来なかった。皆にはお父さんとお母さんが居ると言われた。私にお母さんは居るがお父さんは居ない。そしてお母さんは優しくて暖かいそうだ。厳しくて怖いと言う人も居た。私のお母さんはどちらにも当て嵌まらない。私のお母さんは私に無関心だった。どうでも良いモノとしか見なかった。厳しくも怖くも無かった。私に優しくて暖かいのはセリアーナ様だけだった。
【恩恵】が三つある事が騒ぎのなった。「初代大聖女の再来か?」と言われた。【恩恵】の能力もほぼ同じやっぱり騒がれた。でもそれも数ヶ月だった。私はダメダメだった。【LV】は上がらない、ステータスは伸びない、【技能】は覚えない、本当に全然ダメだ。そして神殿の生活が4年を過ぎようと言う今になっても私はダメダメなまんまだ。相変わらず【LV】は上がらない、ステータスは伸びない、【技能】は覚えない、只、【恩恵】があるだけ、そう陰口を叩かれ苛められたりもした。辛かったし悔しかった、負けたくなかった、頑張った、でも私は変わらなかった【恩恵】だけのダメダメ聖女候補生だ。
それでも良いのだ、東館では孤立していた私にそれまで西館でしか友達が居なかった私の元に一昨年、キャルちゃんが、昨年はフィナちゃんが来てくれた。私は寂しく無くなったし二人といるので苛められる事も減った。そしてキャルちゃんは私の為に色々と『初代大聖女』様の文献を調べてくれている。先日も地脈、霊脈、龍脈に自身を繋げての強化法と言うのを見つけて来てくれた。試しにやって見た、出来たと思う。でもやったと思った次の瞬間に私は倒れていた。気が付いたらベッドに寝かされて居て心配そうなフィナちゃん、キャルちゃんが側に居た。そして話を聞いたセリアーナ様に二度とやったらダメだと怒られた。私が挑戦したのは聖女の持つ『神の杖』と大聖女の『神の球』が揃って初めて出来る大技だそうだ。それでも物凄く体に負担が掛かる技で数日は確実に寝込むらしい。反省だ次からはキチンとセリアーナ様に確認をしてから挑戦しよう。そう思いながらセリアーナ様の前を三人で去ろうとした。そこでセリアーナ様の声が響いた。
「セアラ」
「はい?」
「来週、聖都テレスターレに向かいます。また一緒に来るように」
「あ、はい、分かりました」
セリアーナ様が出掛ける時、私は何時もご一緒だ。セリアーナ様の馬車の馬を【光輝】で強化するのだ。何時もの事なので何とも思わなかった。
「いいなー、セアラはセリアーナ様とご一緒出来て」
「へへ、帰ったらお土産話するね」
「うん」
「はー、本当に何が良いのやら…」
この時の私は気付かなかった。セリアーナ様が私に苦しそうな表情を向けていた事に、そしてこの旅で何を知る事になるのかまったく気付かなかった。
狐猫の小話
過去話が終わってやっと始まるセアラの話です。
狐猫の出番が少なくて残念です。
バッツはセアラの影の護衛でテレスターレ聖国No.2の騎士です。
8話の時も狐猫が現れなければ彼がセアラを助けてました。




