第090話 星暦4977年と星暦4984年?
星暦4977年――ダアト山脈神託の円卓神殿。
『滅びが破滅へと』
『罪を受け容れよ』
『自業自得』
『結末は変わった』
『ダスドが滅す』
『未来はない――筈?』
『蘇った初代大聖女の《血》が人類の希望となろう』
『『『『『『………』』』』』』
神託の内容が変わった、更に恐ろしいモノになった、只の一柱のみアストラーデ様だけが『希望』が生まれたと言われる。
やはり神々はテレスターレ聖国が初代大聖女の《血》を蘇らせる計画を始めた事を知っておいでだ。
そしてソレが許されないと言葉が突き刺さる。
やはり私達は許されないことをしているのではないかと思ってしまう、そんな悩みすらもアストラーデ様はお見通しの様だ。
『良い、汝等に罪は無い、未来を得ようと足掻く事は罪にならぬ、信じよ、己の行いを』
だがコレから行う事は本当に許される事なのか?もう間もなくあの子達は産まれる予定だ。
初代大聖女の《血》を宿した赤ん坊、2人が産まれる事無く流れたが5人は無事に産まれそうだ。
しかし、存在が酷く弱々しく不安定な様だ、僅かな事で死んでしまいそうな儚さをどの子にも感じる。
何としても守らねばと思う、私達の勝手で産み出される命なのだ、決して死なせる為に産み出されるのではない筈だ。
『その汝の想いを忘れるな、ソレが必ず導きとならん、ではまた会おう、我が子等よ』
他の神々は怒りの気配を向けるままで何も言わなかった、アストラーデ様のみが語って下さる。
我が神にして悪魔、邪神たるお方、三柱の大神は7眷属神に三つの面をお与えになったと聞く、創造神ファーレンハイトが神としての顔を、破壊神イスマイルが悪魔としての顔を、調和神ヴァリアスが揺れる邪にして神たる顔を作ったと言われる。
私に見せられるアストラーデ様の面はどの顔が最も色濃く出ているのだろうか?私には分からない。
只、息を吐いて鼓動を鎮めると私は掲げていた『アストラーデの聖杖』を戻し椅子に腰かけた。
次の大聖女が立ち上がる、その次のダスド帝国の大聖女は前とは別の若い子だ、数年前にダスド帝国はテレスターレ聖国に侵攻して来た。
しかも皇帝遠征だ、当時の皇帝自らが乗り出してきた、余程の自信があったのだろうが結果は返り討ち、皇帝も討ち取った、結果として今はラインハルト・ズィーガーと言う人物が皇帝になっている。
まだ若い、しかし慎重な油断ならない相手だと言う噂を聞く、その皇妃でもある大聖女かと思うと気を付けなければと思う、私は警戒したが声を掛けられる事も何もなく【神託の儀】は終わった。
ダアト山脈を降りてアストラリオンに一度戻って其処から聖都テレスターレを目指す、初代大聖女の《血》を受け継いだ赤ん坊は1月7日に残った5人全員が無事に産まれたそうだ。
『セラス』『セララ』『セポラ』『セリス』『セアラ』と名付けられたと聞いた、只一人『セアラ』だけが黒目黒髪だった初代大聖女と違い金髪碧眼、何故かは分からない、母体の影響かとも考えられるらしい、どうしてか私はその子が酷く気になった。
初代大聖女と同じく【鑑定】で調べれば全員が【恩恵】を三つ備えているそうだ、只持ってる【恩恵】は違うらしく初代大聖女と全く同じと思われるのは『セアラ』だけだそうだ。
コレも何故かは分からない、見た目では初代大聖女『セアス』様に最も違う『セアラ』が【恩恵】は同じとは皮肉な事だと思った。
兎も角、聖都テレスターレへの道を急ぐ、私はあの子達を守らなければならない、私達の勝手で実の父親も母親も居ない愛されない子を作るのだ、私が護らなければと思う。
そして私は聖都テレスターレへと辿り着いた。
赤ん坊はどの子も可愛らしかった、遠い過去な我が子を思い出す、産まれてまだ一月程度だが『セラス』は盛んに手を動かす『セララ』は大人しいがやたらと【恩恵】を暴発させる困った子だ『セポラ』頭を動かして何時も何かを追っている『セリス』この子の【恩恵】は【魔導】の適正を上げるのかもう【魔導】を使ってしまう、まだ驚かせる程度しか出来ないが将来が楽しみだ『セアラ』は本当に大人しい、【恩恵】の暴発は良くするが周りに被害は無い寧ろ正に【恩恵】ばかりだ、ステータスが倍になったり、長年の痛みが消えたりと良い事しか起きない、そして私が解るのか近付くと喜ぶ。
どの子も色々あるがやはり持ってる生きる気配が儚い、眼を離すと死んでいそうで怖い、私はアストラリオンに帰らず聖都テレスターレで仕事をするようになり常に初代大聖女の《血》を継ぐ赤ん坊に付いているようになった。
だが何時もは付いていられない、1歳に慣れずに『セララ』が亡くなった、私は泣いたもう今度こそは我が子を失うまいと頑張った、だがそれでも護り切れない、3歳になって直ぐに『セラス』が散った、小さな葬儀が行われる、王宮内が騒がしくなって来た、何時までも此処に隠して育てる事も出来ない、市居に放つ事が5人の間で話し合われる、私には止められない、子供達との別れが加速する。
◇
「父上、あの子供達は何なのですか?」
先触れも無く執務室に来た息子ファイラル十一世が声を上げる、遂にコヤツにも知られたかと思った。
嫌、勘が鋭い息子だ余の限界が近いと悟ってこれ以上はと思って声を上げたのだろう、嬉しい事だ、40を過ぎてやっと授かった男児だった、それまで女ばかりだったので諦めていた最後の子が男だったのは嬉しかった、今も昨日の事の様に思い出せる、だがだからこそ息子には背負わせられない。
「先触れも無く何事か、ライアン」「はっ」
「ちっ、ハインツ」「はい」
余の護衛騎士とファイラル十一世の護衛騎士が暫し揉めた後に連れ出されていく余の護衛騎士、大した者だ、ライアンをこうもアッサリ無力化するとは、ハインツとはブロード伯爵家の次男だったか?凄まじい腕の者を護衛に付けたなと思う。
「良い護衛を付けて居るな」
「父上が俺を今まで自由にさせてくれた成果ですよ。だが俺ももう24歳だ、子供じゃない、いい加減に頼っては貰えませんか?」
そう言って余に対してむくれる姿はまるで子供だ、だがコヤツは多くの騎士や文官、民に慕われている、きっと余よりも良い聖王となるであろう、だからこそ汚点は付けられない。
「これは余が初めて始末を付けなばならない問題だ。子の手は借りられぬ」
きっぱり言うとファイラル十一世は「あー、もうっ!」とガリガリと頭を掻いた後にビシリ!と指を突き付けて来た。
「良いですか父上」
「むっ、う、うむ」
「約11年前に父上がバシャール侯爵領からジュンと言う男を城に連行させた事は調べが付いています。奴が行っていた禁忌の実験の事も、コレでもまだ言いませんか?」
ジュンに着いて知られていたか、確かに僅か五人で全てをこなせる筈も無く間に人を挟んで色々と手を回して人を揃えて居たが何処かに穴があった様だ、知られていてはどうしようもない。
「それとも父上のお体が命数を使い果たし回復薬や治癒魔導が効かなくなっている事も合わせて言って欲しいですか?」
「それも知られていたか」
コレが禁忌を破った罰なのか元々、病弱だった身に今年に入って余の命数が尽きて回復薬や治癒魔導が効果を及ぼさなくなった、絶対にバレない様に細心の注意を払ったつもりだったが知られているとは驚きだ、何者が調べたのだろうか?
「そこまで知っているならコレが並で無い事も予想出来よう?成らば…」
「父上…」
まだ何とか立ち入ろうとするファイラル十一世を止めようとする余の言葉を遮って息子が言った。
「これ以上は…本当にお身体が限界なんだ」
「………」
熱い家族の情が入った言葉だった、返す言葉が無い、自分でもそう思う、限界が近いとこのままでは取り返しのつかないミスをしてしまう可能性があると、そんな予感がしていた、分かっていた、それでも余はファイラル十一世にこの件に係わって欲しく無かった、だから妥協した。
「………半年だ」
「半年?」
「………それまでに此方が受け入れられるようにしておく、それまでは待って欲しい」
「………解った。父上、半年だな?だがそれまでに本当に危ないと思ったら介入するからな?それは理解してくれよ?」
「ああ、解った」
余は理解していなかった、自分がどれ程にギリギリなのかを、危うい状態になっているのかファイラル十一世がもう無理だと判断したのに余はまだ大丈夫だと考えてしまった、失敗だった、この時点で力を借りるべきだった『セポラ』と『セリス』が5歳を前に命を失った、セリアーナが二人の側に怪しい者の気配があると情報を掴んで直ぐだった。
二人の側に行きたいと言うセリアーナを止めて他の者を向かわせた『セアラ』をセリアーナには護らせた。
ダスド帝国の影が見えた為に工作を疑ったのだ、間違えた、致命的に、向かわせた者こそがダスド帝国の工作員だった、普段なら見抜いただろう事を見抜けず護るべき二人の命を失った。
ファイラル十一世との約束の半年の二ヶ月前だった、余りのショックに余は倒れた、気付いた時にはもう息子は全てをセリアーナから知らされていた。
以来、余はベッドの上の生活となり形だけ聖王として残って殆んどの執務をベッドで行うようになった、他国との面会や折衝は全てがハウル公爵家か外交を行うレバノン伯爵家、息子のファイラル十一世任せだ。
息子は後悔する、こうなるのならもっと早くに強引に交渉すべきだったと、余も悔いる、早くに力を借りるべきであったと『セポラ』と『セリス』を失った今、残されたのは『セアラ』のみ、この子だけは何があっても護らなければならない。
全てを知ったファイラル十一世に悩みは無く『セアラ』を護る為に全ての手段を投じる、余も最早、自由に動けぬ身なれど可能な限りのサポートを行う、だが最早、回復薬や治癒魔導の恩恵に預かれぬ身は日に日に弱っていく、せめて己が始めた初代大聖女の復活と言う罪の清算をして逝きたいがそれも叶うか分からない。
ならばせめてあの子の笑顔を見て逝きたい、余の性で産まれた命、只、国の未来の可能性を願って生まれた命、それにも意味は価値はあるのだと心から伝えて逝きたい。
罪と罰は全て余にある、汝らに罪は無い、名も無く消えた二人、赤子で散った『セララ』3歳で儚くなった『セラス』、余の失敗で亡くした『セポラ』『セリス』、一人残された『セアラ』どうかあの子が笑っていられる世界であって欲しい。
それは余の様な咎人が願うには過ぎた願いだろうか?傲慢な祈りだろうか?それでも、それでもと信じる、どうかあの孤独な少女に救いをと余は思い続ける。
◇
星暦4984年――ダアト山脈神託の円卓神殿。
『破滅へと転がる』
『忌み子を産みし咎』
『天罰覿面』
『全ては終わる』
『ダスドが粉砕す』
『未来がある筈――は?』
『残されし初代大聖女の《血》に《友》を探させよ【絆】が未来を決める』
『『『『『『………』』』』』』
相変わらず他の神々は厳しい、アストラーデ様のみが道を示してくれる。
でも神々が悪いのではない正に言われる通りに罪は私に私達にある。
『セアラ』を『セララ』『セラス』『セポラ』『セリス』達を、名も無く消えた二人を作った罪は私達が死ぬまで背負って行かねばならない咎だ。
命を弄んだ罪は重く深い、一度、地獄に落ちた程度で許される物だろうか?と考える。
きっと許されない、無限の獄に落とされるやも知れない、生まれ変わる事すらない無限に落とされる、正直、恐ろしいでもそれだけの罪を私は犯してしまったと思う。
『良い、許す』
アストラーデ様の声が聞こえる『許す』と、だが私は私を許せない。
『セラス』を救えなかった『セララ』を助けられなかった『セポラ』と『セリス』を失った『セアラ』を孤独にした。
私はその事が何より許せない、あの子達は生きていれば互いが互いを支え合えた筈なのに、そんな未来を奪ってしまった、それが許せない。
『汝は強いな』
『強い』とアストラーデ様の声が響いた、だが私は強く等ない、只、あの子達の母であっただけだ。
血は繋がっていない、お腹を痛めてもいない、それでも私はあの子達の母であったと私は胸を張って言える。
どれ程、許されない存在であろうともアストラーデ様以外の神々にその生を否定されてもあの子達と過ごした日々は私の忘れられぬ思い出であり、かけがえのない物だ。
私が耐えられるのも強くいられるのもあの子達が残してくれたモノがこの心にあるからだ。私はそう思ってアストラーデ様の言葉を否定するがその言葉を我が神は否とした。
『汝は強いよ、セリアーナ。その心の在り様は未来へ確かに希望を繋いだ。死の運命から良くぞ初代大聖女の《血》を護り抜いた。我は汝を認める、死後は我が眷属として召し上げる』
死後の魂の行く先を生前に決定される。大聖女として最高の栄誉だ。
私は死後、地獄ではなくアストラーデ様の元に向かう様だ。それは救いだろうけど何故か喜べない、私だけが良いのだろうかと?
ロブロニカ十六世はまだかろうじて王位にあるがもう長くないと思われる。この冬を超えられるか如何かが分からない程の状態だ。
スパーツとリッツ、エイディも息子に全てを打ち明けて後を託した。最初の五人で残っているのは私一人、そんな罪深い私が良いのかと思う。私よりの他の四人に救いをと願う。
『死後は皆が同じだ。魂の欲の全てを我が飲み込み無垢になるまで回帰させて耐える事を教えて次の旅へと送り出す。問題はない、我が良いと初めさせた事、罰を与えるような真似はせぬ』
生あるモノは死後、アストラーデ様の元に送られると伝説で聴いていたが真実の様だ。
そしてその扱いは変わらないと、ならば私もそう扱って欲しいと願うが却下された。私はもう我が神のお気に入りらしい。
逃がさないという強い意志が感じられた。この忍耐の枷が外れた強欲な女神様から私は逃げる事が出来ない様だ。私は諦めて息を吐いた。
ならばその場所から我が子の無事と安寧を信じて見守ろうと思った。そしてそれは許される様だ。アストラーデ様は黙って頷いた。
『最後まで信じて見ているが良い。必ずやり遂げる『セアス』の力を継ぎ汝が育てた子だ。出来ない筈があるまい』
アストラーデ様は『セアラ』を心から信じてる様だ。
あの日から14年、自分はやはり間違った事をしているのではと迷わない日はなかったがそれでもあの子『セアラ』との日々は私に未来の希望を与えてくれた。
『セアラ』も昨年、6歳になった遂にその体から弱々しさと儚さが消えた。
今はアストラリオンの大神殿に聖女見習いとして入って学んでいる。
頭は良く物覚えは早い、運動神経も悪くないがやはりステータスが低い、本来ならば成長と共に僅かに上がって行く筈がそれもあまり無い。
儚かった影響かそれとも初代大聖女の《血》の為か、理由は分からない。
それでも元気に育ってくれるだけで私は嬉しい、前程に一緒に居てやれることは出来なくなったが子の成長は母の喜びだ。
きっと低いステータスも初代大聖女の伝説通りなら《真の友》を見つければそれで覆せる。私はそう信じた。
『ではな、汝と此処で話すのは最後になろう。次に汝と出会える日を楽しみに待つ』
そうか、どうやら私が大聖女として神託の円卓神殿に来るのはコレが最後の様だ。
次迄に私が死ぬのか大聖女が変わるのかは分からないが次にアストラーデ様にお会いするのは私が死んだ時だろう。
それを楽しみに待たれるのもどうかと思うが相手はやはり超常の存在、人の想いなどどこ吹く風だ。私はただ一言を返した。
(今日、この日までの導き感謝します。アストラーデ様)
私の最後の神託はこうして終わった。
狐猫の小話
『セアラ』を許すアストラーデ神が異端であって、他の神々が平常です。
でも刻を詠む権能はアストラーデ神が最も得意なのも事実、だから存在の抹消は考えないけど認めもしないと言う立ち位置です。




