第009話 私疾走、貴方〇〇?
「ミィ、ミィミィーー!!」(アイ・キャン・フラーーイ!!)
そして私は宙に飛び出す。
紐無しバンジー、【空間機動】バンジーだ。
登る時はあれほど苦労したが降りる時は随分と楽に出来そうだ。
ヒューーー、スタン。
ヒューーー、スタン。
ヒューーー、スタン。
と、言う感じで一定距離落ちる毎に【空間機動】を発動して落下速度を調節していく。
この分なら一日は無理か、二日もあれば山を下りられそうだ。
原因は迫って来る気配【探知】さんも仕事をしている。
ワイバーン(仮)の群れだ。
こちら側にも居たようだ。
しかし、最早恐れるに足りず。
【並列意思】発動、マルチロックオン。
【並列意思】は複数の思考を同時に出来るようになる【技能】だ。
だから【探知】さんで得た情報を処理しながら【猛爪攻撃】を狙った敵に当てると言う芸当も出来る。
近寄って来るワイバーン(仮)を【探知】さんで俯瞰する。
一番近い敵、集団で居る敵、一番奥に控えている敵など丸裸だ。
頭に浮かんだマップに倒しやすい敵、崩しやすい敵から次々にロックオンしていく。
私は平和主義者だが襲って来るモノを許すほど博愛に満ちてない。
前の登山口でもそうだった。
ある程度を狩ってやれば割に合わないと無視されるようになる。
その心づもりで攻撃する。
そしてワイバーン(仮)と私の戦火は切って落とされた。
【探知】さんの情報処理をしながら攻撃を行う。
言うは易しだがやってみると中々にキツイ情報量が多すぎる。
それでもやる。
【探知】に先発隊が引っかかる。
血気盛んなのが多いのが陣形がバラバラだ。
個別処理に移る。
【空間機動】【疾駆】を活用して一瞬で懐に入る。
ワイバーン(仮)の顔に驚愕の顔が浮かぶ。
だが次の瞬間【猛爪攻撃】でワイバーン(仮)の頭は吹き飛んだ。
続けざまに次の標的に移る。
陣形の取れていない今がチャンスだ。
各個撃破に移り次々とワイバーン(仮)を撃墜していく。
不利を悟ったのかワイバーン(仮)が陣形を組む。
隙は無いように見えるが、そんな物は関係ない。
力で押し通るまでだ。
必勝の陣形を編んだつもりになってる私が教えてやる。
不条理というものを―
真っ正面からツッコむ私を見てワイバーン(仮)の長は無謀と思っただろう。
しかし、私の最高速度と【探知】の精度、【並列意思】【思考超加速】はそれを覆す。
私が突っ込むと全てのワイバーン(仮)が一点集中に炎弾を放った。
【探知】の計算では着弾まで5秒、4秒、3秒其処で私は【空間機動】と【疾駆】で射程外に逃れた。
続けて自由落下で先頭に居るワイバーン(仮)に狙いを定める。
至近になって気付いたようだがもう遅い。
【猛爪攻撃】を放ち頭を吹き飛ばす。
続けて動揺が広がる前に二番目のワイバーンに狙いを定める。
また上空から振り下ろしの一撃を放つ。
それを間一髪で防いだ。
ふうん、と思う。
先程のワイバーン(仮)より才能が有りそうだ。
だが、それまでだ。
【疾駆】で驚くワイバーンの顔を【猛爪攻撃】を放ち吹き飛ばした。
続いて三匹目を狙う。
引きつった顔で私を睨みながら襲い掛かってきた。
しかしこれまでの二人に比べて単調すぎる。
躱しざまに【猛爪攻撃】を放ち終わった。
そこでワイバーン(仮)の動きに変化が生じた。
撤退、退避命令が出たのか次々と戦線を離脱し始める。
納得せずに私を襲う者も居るかも知れないがその時はその時、個人責任だ。
LVもまた上がったしホクホクだ。
私はまたカマクラの寝床を作り兎の毛皮に包まれて眠った。
翌日、酋長(多分)の決定が不服なのか三匹の若いワイバーン(仮)が襲ってきたが返り討ちにした。
【探知】さんの識別範囲からは逃れられない。
【空間機動】【疾駆】【猛爪攻撃】の三連コンボが見事に決まった。
そして久々に山を下り森の中に入る。
惜しみながらもお世話になった兎のモコモコ毛皮を穴を掘って埋める事で処分する。
「ミャーミャー、ミャミャン」(色々とありがとう。お世話になりました)
そう思いながら感謝の念を捧げ供養を行う。
しかしモコモコふわふわの毛皮だったとは言え鞣しもして居ない一品だった。
体が生臭い。
風呂は無いにせよ、水を浴びて体を洗いたいところだ。
水場を探して森の中を歩く。
森の木々と草花の臭いに落ち着く。
やはり私は山ではなく森の動物なのだと実感できた。
心地よさを感じながら知らず【疾駆】して森の中を駆けまわっていた。
走ってる最中にオークを見つけた。
無論討伐する。
肉は相変わらず美味だった。後は牛が出てくれれば文句無いんだが出てくれないだろうか?
そう思ってたところで待望の川を発見。
【探知】さんで周囲に巨大魚が居ない事を確認して飛び込む。
ちょっと冷たいが心地よい。
(ふぃーーー、極楽じゃーーー)
等と思いながらたっぷりと水浴びを堪能。
覗いちゃイヤよ。
狐猫毛玉だけどれっきとしたメス―もとい少女(?)何だから等と誰も居ない事を【探知】さんで確認しておきながらのたまってみる。
そして体の生臭さと汚れをとってピカピカの純白の毛皮に戻った私はブルブルと体を震わせて水気を飛ばして念入りにグルーミングして自慢の体毛を乾かすのだった。
其処で日が暮れて来たので休む事にする。
四日目、あの女神が言っていた日付だ。
だが、こんな森の奥で少女を助ける何て事態があるのだろうか?
疑問符が浮かぶ。
まぁ、成るようになるかと歩みを進める。
ゴブリンの群れと遭遇した10匹ぐらい居た。
一掃する。
するとピコーンと音が鳴った。
『LVUPしました」
と、表示が出る。
そういえば最近ステータス画面を見てなかったと思い確認してみるかと表示する。
【名前】無し
【種族】ファトラ
【位階】壱
【LV】10 → 16
【気力】130 → 154
【理力】129 → 153
【霊力】141 → 177
【魔力】145 → 181
【SP】1359 → 1371
【技能】【牙攻撃LV6】【猛爪攻撃LV3】【隠形LV3】【記憶LV2】【探知LV2】【疾駆LV2】【空間機動LV3】【並列意思LV1】【思考超加速LV2】【翻訳LV10】
【気力】【理力】【霊力】【魔力】【SP】の上昇値が上がってる。【SP】が2【気力】【理力】が4に【霊力】【魔力】が6になっている。
LVUPでの上昇値以外の上昇はないようだ。
そう言えば最近はスパルタンな特訓が出来ていなかった。
再開せねばと心に誓う。
【技能】LVが結構上がっている。
先日に覚えたばかりの筈の【記憶】とか既にLV2だ。
【思考超加速】のLVも上がっている。
中々の成長率ではなかろうか、流石はワイバーン(仮)の群れも撃退出来る私。
【LV】も上がって次の試練が見えてきた。
念入りに鍛えて備えなければと思いながらまた森を歩く。
【探知】さんが反応、そしたら熊さんに出会った。
あの強敵だった熊である。
しかし、あの時の熊より一回りは小さい。
まだ子供なのだろうか?
私よりかは遥かに成長して大人っぽいけれど。
そんな熊は既に私をロックオン。
ええい、面倒な。
喰えない熊肉何て用は無いのにっ!
憤慨しながら振り下ろされる【爪攻撃】を【疾駆】で回避。
【空間機動】で駆け上がり首をチョンパ。
何時かと同じパターンだ。
【技能】が増えて成長した今の方が遥かにスムーズだけどね。
そして倒れ伏す熊。
血はだくだくと流れだしていく。
うーん、熊肉は不味いと聞いてるが小腹は空いてる。
いっちょ挑戦してみようかと思う。
噂通りだった。
不味かった。
口直しが欲しい所だ。
牛でも出てくれれば大喜びで突撃するところだが【探知】範囲に敵影はない。
うう、何か獲物を狩る迄この口の中のえぐみと言うか臭みというかと付き合わなければならないのかと思うと気分が滅入る。
もう昼も近い。
獲物は見つからないから水でも飲んで口の中を洗浄しよう。
そう思って私は探知範囲内にある川へと向かった。
この際、お魚でも良いよー、狩れないかなー。
お魚は狩れなかった残念。
尻尾で釣りまがいのことが出来ないかなーとも挑戦したけど釣果はゼロだった。
時間だけを無駄にした。
濡れた尻尾を振るって舐めて乾かす。
と、そこで違和感に気付く。
尻尾の横にまだちょっと短いもう一本の尻尾が生えてきていた。
あれぇぇぇぇっーーーー?!
何コレーーーーッ?!
尻尾が二本って猫又って奴?
私は狐猫から狐猫又に進化したってか?
体の成長の前に尻尾が増えるとはこれ如何に?
思い出してみるが母狐猫の尻尾は一本だった。
そう見せてただけかも知れないが多分、一本だ。
私って男達に確か「希少種だ!変異種だ!」と、言われてたけどその関係なんだろうか?
うーん、悩みは尽きないが悩んでも仕方がない。
なるようになれだ。
私は森の出口を目指してテクテクと歩き出した。
兎だ。
兎を見つけた。
本当は牛が良かったけど贅沢は言ってられない。
瞬殺した。
黙々と食べる。
ああ、この食べなれた味。
口の中が洗われる様だ。
熊はもう駄目だ。
襲われたら狩るけどもう喰わん。
アレは喰い物じゃない。
そう決心して兎を食べれるだけ食べてまた歩き出す。
其処で【探知】さんに反応。
かなり先の距離に何か大勢の反応がある。
注意しながら近寄っていく。
「……様っ!…逃げ………っ!」
「……レン、…もっ!」
「早……!……が………ぎます。持ち………っ!」
意識を集中して聴覚を研ぎ澄ますと声が微かに聞こえた。
ううん?人が争っている?
そこでピコーンと音が鳴る。
『【技能】【五感強化LV1】を獲得しました』
おお、【技能】獲得ラッキー。
これはお祝いだね。
喜んでいると【技能】のお陰か声がさっきよりハッキリと聞こえるようになる。
どうやら数人の人達が多数の男達に襲われているようだ。
記憶がよみがえる。
母狐猫を殺された時、兄弟姉妹を捕らえられた時。
私は駆け出していた。
よくは分からないがどう考えても襲って来る奴等が悪い。
襲われている者達は助ける。
あの日、逃げる事しか出来ず、誰も助けられなかった私じゃない。
私は強くなった――筈だ。
十数人の男が何だって言うんだっ!
蹴散らしてやると私は【疾駆】した。
【五感強化】で強化された視界の中に今にも剣に刺されそうになっている少女が見えた。
まだ幼い、十代前半のようだ。
そんな少女はハッとして私の居る方角に目を向け脅えるように後ずさった。
ううん?何故に?まだ見える距離じゃないですよね。
しかも今、目の前に居る自分を殺そうとしている男よりも如何にも愛らしくプリチーな毛玉モコモコの狐猫である私が恐いと?
気にしたらダメだ。
そう思いながら私は全速力で【疾駆】して―
「へっ、自分から首を差し出すとは殊勝じゃねえか、安心しな。せめて苦しまずにあの世へ――」
等とのたまっていた男に突撃した。
場に一瞬の静寂が訪れる。
その一瞬でも【思考超加速】を持つ私には十分な時間だ。
少女を護る様に布陣していた5人の騎士、襲って来ていた側も騎士に見える。
鎧の形状は異なるけれど、その数は12名。
1人は私が殺ったから正確には13名か、何時かの男達の姿が重なる。
悪党死すべし慈悲はない。
そして私は襲って来ていた側の騎士達に躍りかかった。
「なっ、ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁっ!!」
「な、何だ!何が…ぐわぁぁぁぁぁっ!!」
「来るなっ!来るなぁぁぁぁっ!!!うわぁぁぁぁぁっ!!」
悲鳴がこだまする。
【空間機動】【並列意思】【疾駆】【猛爪攻撃】【五感強化】持てる技能を出し惜しみしない私の前に完全武装の騎士達が次々と倒れていく。
ふっ、一撃でも貰えば死ぬのは私なのだろうが有名な格言を教えよう「当たらなければどうと言う事は無い!」と、そして瞬きの間に騎士達は全員が地に伏した。
そこでピコーンと音が鳴る。
『LVが2上がりました』
おおう、人間倒しても経験値って入る訳?
しかも2つも上がった?
前に私を襲った男達を殺した時はLV上がらなかったのに…それだけこの騎士擬き達とあの男達は実力に差があるって事?
うん、やはり今更ながら此処迄来る事無く敵討ち出来たんじゃないかなーと思ってしまう。
だが、来てしまったモノはしょうがない。
前向きに考えよう。
そうしよう。
と、思い直して周りを見渡す。
呆然としてこちらを見る5人の騎士と小鹿の様にプルプルと震えながら私を見る守られていた少女。
おかしい。
騎士達は兎も角、少女は此処は「貴方が助けて下さったのですね。ありがとうございます」と駆け寄って来る場面ではなかろうか?
何故にそんなに脅えて青い顔で私を見るのだろう?
兎も角、一番偉い地位に居るであろう少女に寄っていく。
ズザッと少女が木を背に後退る。
ウン、キニシタラダメダ。
それ以上は近付くのをやめてチョコンとお座りして「ミィ?、ミィ?」(大丈夫?怪我はない?)と鳴いてみる。
するとそこでやっと私の姿を認識したように目を見開き。
「ファ、ファトラ?」
と、呟いた。
そうですよー、ファトラちゃんですよー、私は狐猫って呼んでるけどね。
可愛らしいでしょう、愛らしいでしょう、愛でても良いのよ?
そんな事を考えているとカクンと少女が力を失い背中の木に寄りかかりながらズルズルと倒れて行った。
「ミャ?!ミャミャ?」(え?!何、何、どうしたの?)
慌てる私と背後の騎士達「聖女さま!」と言いながら少女に駆け寄っていく。
見ていると少女の股間からシュワシュワと匂いのする液体が広がっていく。
(うわ、お〇らし、お〇らししちゃったよ。この子、そんなにあの悪党たちが恐かったのかな?)
聖女の聖水、誰得なご褒美なんだと思ってしまう。
断じて私にはそんな類の性癖はない。
そして私を恐れて気絶、お〇らししたのではない。
絶対にあの悪党達が恐くて助かった安堵と恐怖がぶり返して今の状態になったのだ。
そうに違いない。
そう思う事にする。
そんな事を私が考えてる間に聖水を漏らした聖女様は騎士の一人に抱き上げられ他に二名の騎士も付いて走り去って行く。
残った一名が私の前に跪き、語りかけてくる。
「その…先程はありがとうございました。九死に一生を得ました。貴方はどうなさいますか?我々に着いて来ますか?森に帰られますか?」
動物―ファトラに言葉が通じるのかなーと言う感じで問いかけてくる騎士さん。
助けられて此処で何もせずに放置していくのは礼に反すると思っての行動だろう。
だけど問題ない。
私には言葉が分かる。
「ミィ」(付いて行く)
そう言って騎士達に付いて歩き出す。
言葉は分からないだろうが動きを見て悟ったのか騎士さんも「分かりました」と言って先に行った騎士達を追いかけて駆け出す。
それを追って私も走り出す。
そして同時に思い出していた。
アストラーデの神託。
『四日後に汝が出会う少女を身命を賭して護り抜け、擦れば汝の願いは叶うであろう』
あのお〇らし聖女さまをねぇ…そう思いながら私は騎士達に合わせて走るのだった。
狐猫の小話
聖女ちゃんはヒロインです。激よわです。子供でも倒せるG級の下位レッサーすら勝てません。【技能】も全てが【LV1】です。【SP】は頑張って貯めてます。
序でに騎士には不意打ちだったので勝てました。マトモにやれば狐猫は死んでます。