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狐猫と旅する  作者: 風緑
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第008話 山頂到達、そして誰?


(やーまーは―高いーなー、大き―いーなー)

 作詞作曲、私。

 ふ、何となく暇で音楽の才能を披露してしまった。

 実際には「ミャーミャミャーミャーミャー」としか聞こえないだろうがそんな事は気にしない。


 前世では微かに友人から「貴方は絶対に歌を歌わないで口パクだけで良いから」と称賛されていたことを思い出す。

 自分の才能が恐いぜ。


 はい、そんな事をしながらも絶賛、登頂中の私です。

 かなり高くまで来ました。


 アレから余りにうっとおしくて隙を見て何匹かワイバーン(仮)も狩りました。

 そうすると諦めたのかワイバーン(仮)は近寄って来なくなりました。

 最初からそうしてれば良かったかも、LVもまた上がったし、只やっぱり皮が硬くて食用には出来なかったけど【牙攻撃】のLVが上がれば食べられたのかなーと思わなくもない。


 そうこうして登っている内に段々と寒くなってきた。

 山の頂上は寒いとは聞いてたけどこの段階で寒いとは、これ以上、上に行ったらどうなることやら。


 等と考えているとまた兎を発見。

 おお、色が白い。

 私と御揃いだ。


 雪兎かな?と、想いながら【疾駆】で接近して【牙攻撃】で仕留めた。

 そう言えば前から思ってたけど、私って小さな毛玉狐猫で全力で噛み付いても皮を齧る程度で骨まで届いてないよね?


 何で首の骨をボキィとやって倒せるんだろ?

 うーん、やっぱあれかな【猛爪攻撃】みたいに【牙攻撃】も力場か衝撃波みたいなのが出ていてそれが届いていると見るべきなのかもしれない。

 今更ながら何となく自分の力を考察してしまった。


 こういう時こそ何かあったアレそう【記憶】とかのスキルが生えて良いのよ運営さん―じゃなくて神様的な人。

 等と言ってるとホントにピコーンと音が鳴る。


 おお、マジでキター!さあ、何だ?と思うと。


『【技能】【記憶LV1】を獲得しました』


 本当に【記憶】覚えたー、何、神様って見てたの?

 タイミング狙い過ぎじゃない?

 そう思いながらホクホク顔で狩った兎を食べ始める。


 うん、食べなれた味だ。

 色が変わっても中身は変化なしなのね。

 因みにそろそろ生後四ヶ月になろうと言うのに私は手の平サイズのままだ。

 兎一匹もまだ食べきれない。


 成長期は何時来るんだろう?

 やっぱりLVUPして進化なのかなー、でもLV10で試練だったからLV20でもまた試練っぽい気がするし、どうなんだろう。

 考えながらハムハムと食べる。

 食べるがやはり半分以上が食べきれない。


 家族で食べるには足りないくらいだったのに一匹ではお残ししてしまう程だ。

 う、思い出すと涙腺が緩む。


 残してしまった兎の遺体に「ミャ―、ミャミャー」(ごちそうさま、ごめんなさい)と謝罪をして歩みを進める。


 歩く、歩く、歩く、そして私は銀世界に入った。


(ふおぉぉぉぉぉ、雪だぁぁぁぁっ)

 辺り一面雪である。

 自分の体色と相まって境が分からない程だ。


(うー、前世では子供の頃は厚着して駆けまわって遊んだけど…今世では只、寒いとしか感想が出ない)

 モフモフ毛皮もっと仕事しろと言いたくなる寒さである。

 それでもまだ山頂は見えない。


 実際、何処まで高いんだろうこの山はと思う。

 【空間機動】で試しに駆け上がってみても良いかもだけど下手をしてまたワイバーン(仮)の群れにでも襲われたら危険極まりない。

 今は小康状態だけど油断は出来ない。


 危険と思われる行為は出来るだけしない。

 安全が第一だ。

 着実に私は山を登っていく。


 夜になった。

 雪を掘ってカマクラ擬きを作って蓋をして中で眠る。

 風が遮れるだけでも暖かい。

 丸まってぬくぬくして眠る。


 だけど、母狐猫の兄弟姉妹の温もりが恋しい。

 その日の夜は皆が揃ってた頃の夢を見た。

 ちょっとだけ嬉しかった。


 朝、伸びをして顔を洗い毛づくろいと狐猫のルーティーンをして水を飲む代わりに雪を食べる。

 ひゃっこくて体が冷える。

 だが飲み水が無いのだ。

 贅沢は言ってられない。


 ポスポスと雪に小さな足跡を残しながら山を登る。

 寒い寒いと思っていたが時間が経つにつれ慣れて来たのか寒さを感じなくなってくる。

 毛皮が仕事を始めたかと安心してたが其処ではたと気付いた。


 いや、コレ寧ろヤバい状態なんじゃないかと、確か低体温症とか言う。

 うろ覚えだけどそんな危ない状況の寸前な気がしてきた。


 ヤバイ、何とか体を温めないと、でもどうやって?

 全力ダッシュでもする?

 ダメだ汗をかいたら悪化しかねない。

 どうする?どうする?どうする?と思っていると【感知】さんが反応。


 何だこの忙しい時にと思って確認すると高速で寄って来る物体が一つ。

 この速度、ワイバーン(仮)だな。


 あ、そうだ。

 ワイバーン(仮)って火を吐くよな。

 あれで暖めて貰おう。


 注意:後で考えるとこの時の私は寒さでアホになってたとしか思えなかった。本当にそうとしか思えなかった。


 ワイバーンを目視、さあ、炎弾を撃って来いとばかりに先制の【猛爪攻撃】直撃するが急所では無いのでダメージは低い。

 だが、注意は引けた様だ。

 ギロリとこちらを睨む様が見える。


 そして口元に火の粉が見える。


 さぁ、バッチコーイ。 ← アホの子


 炎弾が放たれる。

 回避する。

 雪に直撃する。

 火が消えて雪が水になる。


 あれ?暖かくならない。

 ワイバーン(仮)のブレスってこんなアッサリ消えちゃうものなの?

 ほら、もっと頑張れ。

 私に温もりをプリーズ!


 そして放たれる【猛爪攻撃】、ワイバーン(仮)の炎弾。

 繰り返される応酬。

 【猛爪攻撃】は大したダメージにならず、炎弾は全て回避した後雪を溶かすだけで消えていく。


 全っ然、暖かくならない!

 苛立ちが込み上げてきた。


 こちとら寒い中、何とか暖を取ろうとしているのにワイバーン(仮)の炎弾が思った以上に貧弱で全然、燃え上がらず暖まれない。

 何故だ!予想と違う!もっと激しく燃え上がるモノだと思ってたのに!


 ええい、このワイバーン(仮)め、お前は気合が足りん!

 私は業を煮やして【空間機動】で駆け上がる。


 突然、私が空中を駆け上がった事に驚いたのかワイバーン(仮)の動きが一瞬、止まる。

 もっとこれくらいの勢いでっ!炎を吐かんかぁぁぁぁぁっ!!!


 ワイバーン(仮)の頭部への【猛爪攻撃】今までに無いほどのズドンと言う音と反動が返って来る。


 あれ?と思う私の前には頭部を無くし落下していくワイバーン(仮)。

 そしてピコーンとなる音。

『【猛爪攻撃LV2】が【猛爪攻撃LV3】にUPしました』

『LVが上がりました』

『【技能】【並列意思LV1】を獲得しました』


 あっれぇぇぇっーーーー?!予想と違うぞ。

 何でこうなった。

 私は暖を取りたかっただけなのに何故フィーバータイムに入っているのだ?


 オカシイと思いながらも兎も角、結果はウマウマだった。

 暖かくはならなかったけど、取り合えず一時、寒さは忘れられた。


 そして私はションボリと足を踏み出し辺り一帯すっかり溶けた水が氷になった雪原に足を取られて数百メートルを転がり落ちていくのだった。


(うう、酷い目に合った)

 そう思いながら私は【空間機動】でピョンピョンと山頂目指して跳んでいく。

 あの後、よくよく考え直して兎を探して狩りまくり毛皮を剝いでそれを幾枚にも体に纏って暖を取ると言う天才的な閃きを経て私は山頂への道を再び歩んでいた。

 ワイバーン(仮)との一幕は忘れる事にする。

 アレは悪い夢だったのだ。

 うん、そうに違いない。


 兎も角、【猛爪攻撃】もLV3となりワイバーン(仮)もそれ程の脅威となり得なくなった今、技能を惜しむ必要はない。

 【空間機動】で私は山頂を目指していく。


 はぁ、兎の毛皮はぬくぬくだなぁ、それに比べてワイバーン(仮)の炎のだらしない事よ。

 いや、アレは悪い夢だったのだ。

 忘れよう。


 そして遂に私は山頂へと辿り着いたのだった。


(おおおぉぉぉ、凄い景色だ)

 辺りを一望できる。

 後ろが自分が踏破してきたアドラスティア大樹海、本当に深く長い森だ。

 この山頂から見ても果てが見えない。


 対して反対方向、山を覆うように広々とした森はあるがアドラスティア大樹海程ではない。

 此処からでも果てが見えてその先には平原が見える。


 よくは見えないが街道らしきものも見える。

 きっと人が暮らす街があるのだろう。


 そしてそこがテレスターレ聖国、あの男達の言葉を信じるなら自分が安全に居られる筈の国だ。

 ポスポスと山頂に積もった雪の上を歩き此処からはまた【空間機動】バンジーで一気に落下して降りるかなーと考えていた。

 と、そこで【探知】さんに反応があり目を横に向ける。


 そこには明らかな人工物の建造物があった。

 何処か神殿を思わせるような厳かな建物だ。


(こんな所まで登って建てたんだ。凄いなぁ、ちょっと見てみようかな)

 そう思ってポスポスと歩いて行く。

 神殿に近付くと足元に雪が無かった。

 それどころか空気も違い暖かい。


 何か結界の様な物が張られているのかも知れない。

 兎の毛皮のお陰でぬくぬくまるまるしている私だがこの暖かさは心地よかった。


(今日は此処で休んで【空間機動】バンジーで降りるのは明日にしよう)

 そう考え直して私は中に入って行った。


 扉が閉まっていた。

 取っ手には手が届かない。

 しかも押して開く扉で無く引いて開く扉の様だ。


 【空間機動】でピョンと跳んで爪を引っかけて引っ張る。

 多分、思い切りやっても大丈夫だろうが一応、慎重に引っ張る。


 ギィィィィッ


 と、扉が開く。

 私が入れるだけの隙間を作ったら中へと入る。


 中は外よりもなお心地よい空気に満たされていた。

 兎の毛皮も必要ない位に暖かい。


 テクテクと奥へと入って行く。

 すると扉が勝手に閉まる。


 ビクッとするが【探知】さんに反応は無い。

 安全だと判断して歩く。

 入った中には円卓があった。


 中央には何か水晶の球の様な物が置かれ入り口から一番遠い正面にある席だけが豪奢に作られその後ろに何か神を模したような像があった。

 席の数は全部で七つ、夫々の椅子の後ろにまた何等かの神を模したような像が飾られている。


(神殿かと思ってたけど違うのかな?会議場?こんな所で?)

 ゆっくりと円卓の周りをまわってみるがこの一室だけの様で他の部屋は無いらしい。

 寝床は無いみたいだなと残念に思いながらじゃあ、椅子の上で寝ようかと思いつく。


 そう言うのはあまり気にしない性質だが何となく一番豪勢なのはちょっと恐れ多いし寝にくそうだ、他の物から選択する。

 ど・れ・に・し・よ・う・か・な・と選ぶ。

 決めた椅子にピョンと飛び乗りモフモフ兎毛皮を纏って眠りに付こうとする。


 その瞬間、座った椅子から光が放たれた。


(え、うぇぇぇぇっ?!何これ、一体、、何事?!)

 私は混乱する。

 そこでそう言えば【探知】さんがこの建物に反応していたことを思い出す。

 呆然とする私の前で円卓の中央にある水晶の球から人の姿が浮かび上がる。

 よく見ると私が座っている椅子の後ろにある像の姿をした人だ。


 もしかして神様って奴?

 そう考えながら呆気に取られて浮かび上がった女性の姿を見る。


『ファーレンハイトの愛し子よ』

 厳かに響くような声で言いながら女性が私を指差す。


(ファーレンハイトって誰?愛し子って何?私の事?)

 私が戸惑う中で女性は言葉を続ける。


『全てを欲する強欲にして忍耐を知り、回帰を望む女神にして悪魔、邪神たる我、アストラーデが汝に神託を授ける』

(女神様で悪魔で邪神?設定盛り過ぎじゃない?)

 唖然としながら私はその自称、女神さまに対峙する。

 だが体は金縛りにでもあった様に身動きも声も出せないまま私はその言葉を聞く事しか出来ない。


『四日後に汝が出会う少女を身命を賭して護り抜け、さすれば汝の願いは叶うであろう』

 その言葉を最後に徐々に光が薄れ女性―女神の姿が消えていく。


『では汝がこの言の葉を信ずるのであればまた運命の鎖が交わる日も来よう。さらばだ。愛し子よ』

 光が消えて女神の姿も消える。

 私の体も動くようになるがその場にへたり込む。

 何だか知らないがどっと疲れた。

 何か体の奥にある力を凄い勢いで吸い上げられたような感覚があった。


(…寝よう)

 分からない。判らない。解らないが何か道を示された。

 信じるかどうかは別だが取り合えず忘れないように覚えてだけはおこうと思った。

 そして私は久々に十二分に熟睡し朝、爽快に目覚めたのだった。

  






「聖女さまっ!お逃げくださいっ!」

「リーレン、でもっ!」

「早くっ!人数が違いすぎます。持ちませんっ!!」

 テレスターレ聖国からダアト山脈に繋がる森、ザナドゥ森林。

 其処に生える秘草を取って来る。

 護衛も十分に付いてくる簡単な任務の筈だった。


 だが、何処からか情報を漏らされたのか、私達は悪漢に襲われていた。

 敵は全員が正規の武装をしている。

 恐らくはテレスターレ聖国と領土を相対するダスド帝国の手の者。


 次期大聖女候補第一位の私を此処で亡き者に出来ればテレスターレ聖国には大きなダメージを与えられる。

 しかし、私を護る為に着いて来てくれた者達を見捨てて一人逃げて何が聖女か、そんな者は聖女の資格等無い。


 私は仕えてくれているリーレンの指示に逆らい加護の祝福と回復の祈りをばら撒く。

 少しでも皆の力になれるように、聖女らしくあるように、でも―


 護りの陣営が突破される。

 私の前に悪漢が迫る。


「聖女さまっ!」

 リーレンが叫ぶ。

 他の者も悲壮な顔を浮かべる。


 ごめんなさい。

 私は皆を護れなかった。


 聖女失格です…。

 諦めようとした刹那。


 背筋を震わせる巨大な何かの気配を感じた。

 目の前の悪漢より遥かに恐ろしい何かの―


 私は知らず後退った。

 悪漢には私が何をしているか分からないようで首を傾げている。

 だけど直ぐに下卑た笑みを浮かべる。


「へっ、自分から首を差し出すとは殊勝じゃねえか、安心しな。せめて苦しまずにあの世へ――」


 其処に凄まじい迄の速度でやって来た巨大な気配を持つ何かが突っ込んできた。

 悪漢が吹き飛ばされる。


 何が起きたか分からない。


 護衛の皆も他の悪漢達も一瞬呆然とする。

 次の瞬間、その巨大な気配を巻き散らす恐ろしい何かは残った悪漢達に襲い掛かった。


「なっ、ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁっ!!」

「な、何だ!何が…ぐわぁぁぁぁぁっ!!」

「来るなっ!来るなぁぁぁぁっ!!!うわぁぁぁぁぁっ!!」


 悲鳴が立て続けに響き渡り10人以上居た悪漢達は瞬く間に倒されてしまいました。


 護衛の5名と私はその様子を只、呆然と眺めていました。


 そして全てが終わった後、私の前にテクテクと恐ろしい迄の巨大な気配と力を秘めた何かがやってきます。


 それは――


「ミィ、ミィ」

「ファ、ファトラ?」

 純白のまだ幼い幼生の綿猫ファトラでした。

狐猫の小話

本来は強欲 ⇔ 救恤、嫉妬 ⇔ 忍耐ですがこの世界では強欲 ⇔ 忍耐です。

他もズレてます。

回帰は7獄道技能で7大罪、7美徳と同等のオリジナルです。

この系統の技能はもう1個ありますが、それはまた何時か

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