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狐猫と旅する  作者: 風緑
70/166

第070話 平和な日常とその裏で?


 終わった。

 全てが終わったと感じた。

 あの日、最後の手段のつもりで【鉄機兵】を配置して、それをまんまと出し抜かれてからもうなりふり構うのを止めた。


 闇ギルドに聖女の暗殺依頼を出した。

 バレれば多くの首が飛ぶ。

 それでも出来るとやった。


 そして動き出す暗殺者、あの弱い聖女だ楽に殺されると思った。

 だが、何時まで経っても成功の報告が来ない。

 A級の暗殺者すら向かわせたと聞いたがそれでも殺せない、暗殺者は無能ばかりかと考えた。


 時間が過ぎて格領地を経由して差も聖都から依頼が出されているように細工して居たが二ヶ月と少し、遂にバレた。

 いや、良く持った方だと言えるだろう。

 こんな大規模な暗殺依頼で今迄バレなかったのだ。


 それだけでも自分で自分を才ある者だと考える。

 なのに、終わってしまった。

 遂に知られてしまった。


 聖王、公爵家、侯爵家、大聖女の名迄入った正式な令状。

 大聖女候補第一位セアラ・シャリス暗殺依頼者の容疑で裁判が行われる日まで無期限の謹慎。

 お終いだった。


 こうなれば責めて家族に、親類縁者に責が及ぶ前に毒を呷るべきである。

 それで救われるかは分からないが最悪は回避出来る筈だ。

 そう思って年代物の葡萄酒を飲む。


 巨万と思えた富も其処が見えた。

 もう残り少ない。

 散々暗殺依頼にばら撒いた結果だ。


 この葡萄酒も残された最後の一本だ。

 最後の一杯で毒を飲もうと味わって飲む。

 コンコンと扉を叩く音が聞こえた。


「誰だ」

「だ、旦那様、お客様です」

 従僕やメイドも随分と辞めた。


 残ったこの男は長年使えてくれた一人だ。

 無下には出来んがコレから死ぬ男が客と会う訳にも行かない。

 こんな状況の自分に会いに来るなど余程のモノ好きか奇特な奴だ、他殺を疑われても面倒だ。


「帰って貰え」

「で、ですが…」

 従順な従僕が言う通りにしない、怒鳴ってでも言う事を聞かせようとした時にその覚えのある声が聞こえた。


「こんばんは、ロズベルト・ダーリントン伯爵、少し見ない内にちょっと健康的になられたようだ。生きていて結構、コレで計画を修正せずに済む」

「貴様っ!ハミルトンッ!」

 数ヶ月前に姿を消した男が立って居た。


「貴様っ!今更、ワシを笑いに来たかっ!」

 怒りのままに怒鳴りつけるが涼しい顔でそれをやり過ごす。

 何時もそうだ、コイツは怒鳴っても呆れるか、平然とするだけ、只の平民が憎たらしい。


「そんなに僕は暇じゃありませんよ。元スポンサー様のよしみで助けに来てあげたんです。これがその計画についての説明書です。この通りにやって下さいね。元スポンサー様」

 ふざけるな!と怒りのままに机の上に抛られた分厚い封筒を殴りつけて立ち上がる。

 変わらず平然としたままのハミルトン。


「計画だと?!貴様がワシを使うと言うのか?何様の積もりだ!おかしなガラクタ作りしか出来ない平民が!お前は創っていた鉄屑と一緒に――」

 言った瞬間に冷気を感じた。

 発生源はハミルトンだ、震えが走りへたり込みそうになるのをどうにか耐える。


「僕が作った物をガラクタ?それでどれだけ儲けました?しかも我が神、我が〇〇を鉄屑?やはり死んでいた事にして計画を変更しますか?」

 凄まじい恐怖を感じた。

 今迄に怒った姿など見せた事が無かったハミルトンに、貴族で伯爵家筆頭、神殿長であるワシが、今日さっきまで死ぬつもりだったのにこの男に殺される事を恐れている。


「とはいえ、今から使える者を探す手間も惜しい。反省し、謝罪するなら許しましょう。元スポンサー様」

「あ、ああ、飲み過ぎていた様だ、謝罪する。言い過ぎた、すまなかったハミルトン」

 自分でも驚く程、素直に謝罪をする、たかが平民に、だが本当に恐ろしかった、ワシは目の前の男のホンの一面しか知らなかったと実感した。


「許しましょう。では、計画書の確認を、間違いなくやって下さいね」

 言われるがままに封筒を開き中の書類を読んでいく。

 読み進める内に顔色が変わる、コレは真実なのか?このような事をテレスターレ聖国が?聖王が?大聖女が?公爵家、侯爵家が許した?そしてあの娘、セアラはつまり――


「………コレは全てが真実なのか?」

「ええ、一切の嘘偽りなく」

 ハッキリと断言する、ならば問題ない、この通りにすればワシは!ダーリントン伯爵家は!シャーロットは!ワシの顔が喜色に染まる。


「この通りにすればテレスターレ聖国は貴方のモノです。ダスド帝国の属国としてですが…」

「構わん、その程度の事は先に法を破ったのは奴等だ」

 売国奴と言う奴も居るかもだが先に法を犯し禁忌を破ったのは聖王達だ問題は無い。


「それでは契約は成立と、この日までしっかりと生き残って下さいね?」

「分かった」

 今日死ぬはずだった男はもう居ない、嫌、生まれ変わったと言って良い。


 ワシは得られる筈が無かった地位と名誉を手にする為に今は生き汚く生にしがみ付く事にした。

 必ず、必ずだ。

 来年の二月、王城で開かれる円卓会議、聖王と大聖女、二大公爵と二大侯爵、そして本来なら伯爵家筆頭としてワシが出席するその会議で全てを引っ繰り返すと誓った。







「ミ?!ミィミミィミミィミミィミミミィミミィミミィィミミィィミ?」(え?!本当に暗殺者の依頼主ってガマガエル神殿長だったの?)

「ガマガエル?ええ、兎も角、神殿長が依頼主だったようです」

 マジかー、流石に其処迄は馬鹿じゃないだろと思っていたが予想以上の馬鹿だった。


 現在は裁判が始まる迄は自宅謹慎だそうだ。

 通達は昨日の内に行われたらしく流石に自殺とかするかもと警戒されたがそんな心配も無く変わりない生活だそうだ。

 馬鹿って凄い。


 只、通達前から通達後に身辺に付けていた見張りが野良の魔物に殺されて発覚するまでの夜から朝の半日、行動が分からない日があるらしい。

 殺した魔物は【殺戮蜂デッドリーホーネット】、いやでもハミルトンを連想させる。

 そう言えばバーンが依頼主であるガマガエル神殿長を言おうとした時も【殺戮蜂デッドリーホーネット】で殺して止めた。


 何であの時は止めたんだろ?時間を稼ぐ為としか思えない。

 でもたったの半月だ、その半月が重要?恐らくはハミルトンはガマガエル神殿長にまだ何かをさせる気だ。

 何をさせるかは分からない。


 証拠集めが終わって裁判が始まるのが一月後、12月の中頃だそうだ。

 裁判は3回、週に1回だから全部ちゃんと出れば1月には判決だ。

 但し、病気だ、怪我だと難癖を付けて出頭を引き延ばしても2ヶ月が限度、そしたら強制執行。 


 最大迄引き延ばしたら2月の中頃か…予定では聖都テレスターレに居る頃だ。

 その頃に何があるのかセアラに尋ねる。

「円卓会議がありますね。聖王陛下と大聖女様、二大公爵様と二大侯爵様、伯爵家筆頭が揃ってその年の大まかな予定を決める会議です。今年は出席出来ませんでしたが、来年はセリアーナ大聖女様の付き添いとして私も参加予定です」


 成る程、恐らくはそれだなと予想を付ける。

 円卓会議、テレスターレ聖国のTOPが集う会議、そこで何かをさせる予定なのだろう。

 何をさせる気だハミルトンと思うが、それ以上は分からない。


 何か情報を得る手段を考えないとなーと思う。

「ハクアはさっきから難しい顔をしています。悩み事ですか?」

「ミィミミミィミ、ミィ、ミィミィミミミィミ」(何でもないわ、さぁ、頑張って作ろうね)


「はい!」

 と、セアラが元気よく返事して編み棒を動かす。

 現在、私とセアラは仲良く編み物中だ、レバノン伯爵邸で遊び―基、訓練でランニング中に編み物をしているメイドさんを発見、身振り手振りで伝えたら分けてくれた。


 尻尾二本一組と両手で三つを同時編みだ、我ながら狐猫なんかの手と尻尾で随分と器用な真似だと思う。

 興味を持った秘草採取帰りのセアラがやって来た、誘って見たら喜んで参加してきた、中々に筋が良い。

 私はこれから寒くなるしとセアラとリーレンさん、セリアーナお婆ちゃん大聖女様にマフラーを作っているのだがセアラは同じマフラ―を作っているが誰に上げるのだろう?


 私だったら良いなーと思いながらセアラが好きな人に上げるかも知れないと妄想してショックを受ける。

 セアラももう直ぐ12歳なお年頃だ、思春期だ、まだお胸は絶壁だが好きな人とか居るかも知れない。

 だがセアラの前には私という壁が合る、セアラと付き合いたくば私を超えるのだ少年よと考える。


 でも編みながらこの糸って何の糸だろう?と思う。

 毛糸や羊毛じゃない、スベスベでフワフワ、手触りが凄く良い。

 リーレンさんがやって来る、今日もドレス姿だ、護衛騎士のお休みは継続中、ガレスさん達もお休み、代わりの効かないセアラだけが秘草採取で護衛はレバノン伯爵邸の騎士さんだ。


 セアラと話して糸に付いて何か言う。

 【技能】が封印中の私はセアラの言葉しか分からない。

 セアラは「【悪魔蜘蛛デビルスパイダー】の糸ですか」と言った、私は吹いた。


 セアラがこの前に『火弾ファイアショット】で吹き飛ばしたB級、災禍ルインの魔物だ。

 コレってそれの糸か、結構お高いんじゃないかと思う。

 良く譲ってくれたなメイドさん、出発までに【技能】が戻ったらお返しをしようと決める。


 【強欲】様の反動があるだろうが大した事は無いだろうと考える。

 あ、ノッ君も来た、セアラが挨拶、私も手を振る、リーレンさんは何かあったのか顔を赤らめてそっぽを向く。

 ノッ君は相変わらずご機嫌で何かをリーレンさんに話している。


 セアラが通訳してくれる、リーレンさんは料理は余りしないがお菓子作りは偶にするそうだ。

 今日はノッ君は仕事、セアラも秘草採集で居ないから久々に作ったらしい、セアラの分も作ったのにノッ君が全部を食べてしまった。

 美味しいと食べてくれて嬉しいけどセアラの分まで食べられてちょっとお冠と言った所だ。


 本当に平和になったと感じる。

 暗殺者騒動が終わって皆に余裕が戻った。

 このままこんな日常がずっと続けば良いと思った。







「ぐぅぅぅっ!!!」

 俺は戦っていた。

 俺を絶望に突き落とした奴と――遂に見つけた。


 いや、見つけさせられた。

 決着を付けるつもりだと悟った。

 乗ってやった、襲い掛かった、そして今、極寒の吹雪の中に居る。


「『炎の嵐よ、吹き荒れろ、我が敵を、焼き尽くせ』【火炎嵐ファイアストーム】」

 【火炎魔導LV9】【火炎嵐ファイアストーム】、一瞬、炎の嵐が吹雪を押し返すが僅かな間だ。

 また氷の嵐が襲って来る、【魔導攻撃無効LV10】を持って居るのに奴の【魔導】は貫通してくる。


 だが、諦めない!刺し違えてでも奴を――「『炎の嵐よ、吹き荒れろ、我が敵を、焼き尽――』」

「あー、もう良いですよ。無意味なんで」

 何時の間にか接近されていた。


「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 大剣を両手に握り振り下ろす。

 にっくき奴目掛けて、だがヒョイと躱されてがら空きになった胸に蹴りが叩き込まれる。


 吹っ飛ぶ。

 木っ端の様に吹き飛ばされる。

 オカシイ、【鑑定】で見る限り【LV】もステータスもこっちが上だ。


 【鑑定偽装】も突破している筈、こんな事は有り得ない。

「くぅぅぅぅっ!」

 跳ね上がって起きる。


 奴の姿が見えない。

 何処に行った?

「遅い、後ろです」


 踏みつぶされた。

 凄まじい衝撃、全身の骨が砕けるかと思った。

 実際に砕けたかもしれない、力が抜けて大剣が手から落ちる。


「がっはっ…」

「ふーん、ふん、ふん、貴方ぁ【LV】は幾つになりましたぁ?」

 答えてやる理由などない、そんな必要などない、なのに何故か言ってしまった。


「…67…」

「予想より頑張りましたね。もうちょっと早く収穫しても良かったかな?」

 まるで人を果実か何かの様に!怒りが込み上げる。


「『炎の嵐よ、吹き荒れろ、我が敵を、焼き尽くせ』【火炎嵐ファイアストーム】」

「む」

 過去最速の詠唱、炎の嵐が俺の背に足を乗せたままの奴ごと飲み込もうとする、それは流石に嫌がってか飛んで避ける。


 大剣を拾い、俺は追う。

「【限界超――】」

「ははっ!【絶零ゼロ】」


 瞬間、俺は巨大な氷像になった。

「ふう、終わりですかね。意外と頑張ったモノです。……おや?【LV】が上がらない?」

「【――突破ぁぁぁぁぁっ!!!】」


 俺を凍らせた氷を内から砕いて奴に襲い掛かる。

 奴が初めて驚愕の表情を浮かべる。

 300秒のステータス3倍、コレで片を付けると俺は大剣を振るった。


 オカシイ、俺は奴を斬っている、なのに血が流れない。

 オカシイ、野盗や盗賊の討伐で人は何度も斬っている。

 オカシイ、感触は同じなのに人を斬っている感じがしない、こいつは人ではないのか?


「はぁ、はぁ、はぁ」

 300秒が過ぎた、過ぎてしまった。

 目の前の奴は立って居る、俺は仇を打てなかった。


「何なんだ、貴様は?」

 俺の声に初めて脅えが含まれる。

「見ての通りの“人間”ですよ、只のね」


「違う、お前は人じゃない、そして何故、俺の妻を子を仲間と友を殺した?何故なんだ?」

「貴方にも永遠と平穏の世界の住人になって貰う為ですよ」

 その声は目の前からでなく横から聞こえた。


 振りむく、目の前の奴と全く同じ姿、声の無傷な奴が現れる。

「我が神、〇〇の世界に行った時にあなた一人だと寂しいでしょう?だから先に送ってあげたんですよ」

 三人目、訳が分からない、〇〇だと?一体、何を言っている?


「〇〇など人が使うモノで神などでは…」

「ああ、貴方もそう言いますか…」

 四人目、更に増えた。


「〇〇は間違えない、〇〇は正しい、○○は絶対だ。○○は必ず正解を示してくれる私の育った世界ではそうだった。○○は唯一絶対の神です」

 五人目、六人目、七人目、八人目、九人目、十人目。

 もうお終いだ。


「は、はは、ははははは」

 俺は壊れた、絶望に意味もなく笑う。

「では、貴方も○○の世界へご招待です。【緑】」


 そして俺は暴風に包まれて粉微塵になった。


「お父さん、どうかしたの?」

「貴方、疲れているの?【治癒魔導】を使う?」

「え?!あ、嫌、何だか悪い夢を見た様だ、大丈夫、キニシナイデクレ」


「そう、じゃあ、仲間の皆が待ってるわ、イッテアゲテ」

「行ってらっしゃい、オトウサン」

「ああ、イッテクル」


 何か違和感がある。

 だが、此処には亡くした筈の全てがある。

 俺は○○にイノリヲササゲこの世界で生きていく。







「ふん、ふん、ふーん、っと、これで【LV60】を超えたっと、ちょっと熟し過ぎてたな。まぁ、毎回上手くキリ良くは行かないかさてさて成体強化されたクローン体に頑張ったもんだ。あの子猫ちゃんは何処まで頑張れるかな?」

 【魂魄憑依】で生み出した強化クローンの成果は上々、結果にご機嫌だ。

 これで把握している転生者はあの子猫一匹、それとの戦いを楽しみに僕は待つ。

狐猫の小話

ハミルトンが作った成体強化クローン、【鑑定】では5000程度の数値ですが、素体が色々と強化されているので実査には万を超えます。

【技能】は本体と同じ、かなり厄介な強敵です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 度し難い――。 クローン兵団。うん、読者として目を逸らしてただけですね。
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