第047話 怪しい神官と暗殺者?
「ようこそお出で下さいました。聖女様」
そう言って私達を出迎えてのはまだ若い神官さんだった。
20代、30代に見える。
名前は分からない。
何故なら――
【鑑定】『――――鑑定不能――――』
――だからだ。
あからさまに怪しすぎる。
セアラも何か不思議そうな顔をしながら神官さんの顔を見るが、兎も角、挨拶が先と思ったのか胸を張る。
「聖女第一位セアラ・シャリスと申します。秘草採取の任にて立ち寄りました。此方がラーラー山で採取した秘草になります」
セアラの言葉にリーレンさんは【魔導袋】から秘草が一杯入った袋二つを取り出す。
「これ程の量を、ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」
側に控えていた神官さんに預けて運ばせる。
「いえ、此方こそ。民の為にお願いします。それで失礼ですが貴方様のお名前は?」
セアラが尋ねる。
去年見なかった神官だから不思議そうな顔をした?
そう思いながら私は神官さんを詳細に【鑑定】していく。
「これは申し訳ない、オーレルと申します。十日ほど前から新たな神殿長として着任しました。新参で未熟ですがよろしくお願いします」
「神殿長でしたか、お若そうなのに立派ですね」
「いえ、いえ、聖女様には負けますよ」
にこやかに話す。
嘘は感じられない、セアラも反応しない。
でも何かが変だと【鑑定】を続ける。
【鑑定】―服―可能、―ズボン―可能、―靴―可能、―首飾り―可能、―腕輪―可能、―指輪、―鑑定不能、これだと思った。
「ミィミミィミィミィ」(指輪について聞いて)
「え?指輪?」
「指輪ですか?」
私の言葉に反応してセアラが声を上げオーレルさんも反応する。
「え、ええ、珍しい品だと思って」
「はは、確かに神職には豪華ですね。此処に来る前の神殿でお祝いに貰ったモノで気に入ってます」
嘘は言ってないと思う。
確かに神官さんが付けるにはちょっと豪華だが大神殿にはキンキラガマガエル神殿長とか存在したし、おかしくない。
指輪を見る目も懐かしそうだ。
「そうだ。ご夕飯はご一緒させてもらってよろしいですか?旅のお話もお聞きしたい」
「はい、よろしければ、あ、でもこの子、ハクアも一緒でよろしいですか?」
私を抱き上げながら言うセアラ。
コレは前もって話し合ってた。
何時、毒が盛られるか分からないから食事には私を連れて行くようにと―
断られたら一緒の食事は断る予定だが、どうする?
「綿猫も一緒ですか、では貴賓室を使いましょうかあそこなら大丈夫です」
許可が下りた。
一先ずは安心だ。
さて、この如何にも怪しい神殿長オーレルさん、どう動く?と思う。
「どう思われます?」
コレから三日間を過ごす二人と一匹の部屋に通されて直ぐにリーレンさんが聞いてきた。
セアラは考え込むそぶりを見せて答えた。
「【神眼】でハッキリと見通せない、こんな事は初めてです。白いのに靄が掛かった感じで…」
「ミィィ、ミミィミミミィミ。ミミィミミミィミ」(同感、鑑定不能だった。指輪が原因見たい)
「ハクアも信用は出来ないと」
【鑑定】の事、私の【技能】はまだ秘密にする様だ。
セアラは言葉を濁した。
「そうですか、私も十分に注意しましょう。同じく何か感じる」
リーレンさんも頷いた。
全員が賛同だ。
「では夕飯までにお風呂に入って身だしなみを整えます。ハクアも一緒に入ります?」
「ミィィミミィミィミィィ。ミィミミィミミィミミミィィミミミミミ。ミィミミィミミ)」(心惹かれるけどパス。シルバーとズィルバーにも伝えて来るわ。食事には注意と)
そして一旦、私は二人と分かれた。
よし、よし、ごめんね、シルバーとズィルバー、我慢させてその上に何だけどご飯が危ないかも知れないから気を付けて、賢い貴方達なら大丈夫だろうけどね。
一応、在るだけのニンジーとアッポーを持って来た。
危ないと思ったらこっちを食べて欲しい。
「「ヒヒーン」」
了解した。
と、啼かれた気がしたのでシルバーとズィルバーを十分に愛でて飼葉や水の安全を確認して部屋に戻る。
セアラとリーレンさんはまだ戻ってなかった。
この間に軽く少し、考察してみる。
ラーラー山の秘草に毒が撒かれてた。
秘草に用があるのは聖女だけ摘むのも聖女、明らかにセアラ狙いだ。
私が【鑑定】持ちとバレる――かは兎も角、聖女一向に毒を見抜く【LV】の【鑑定】持ちが居るのは知られた筈だ。
そしたら神殿で如何にも怪しんで下さいな【鑑定不能】な【指輪】装備の神殿長、怪しいけど、逆に怪しすぎて撒餌にでも引っ掛かった気分だ。
情報が足りない。
【検索】さーん、何か気付かない?
『ジョウホウガタリマセン』
だよなーと思う。
『タダ、カンテイフノウニスル【カンテイシャダン】ハシンカデ【カンテイギソウ】ニナリマス】
【遮断】より【偽装】の方が上なんか、逆っぽいけど、確かに偽装の方が有用かなと思う。
『ソシテシンデンチョウノ――――――――――――――――――――――――――――――――』
え、そうなの?全然、気付かなかった。
貴重な情報だ。
ご褒美は苺味のキャンディーだ。
『アリガトウゴザイマス』
等と【検索】さんと話しているとセアラとリーレンさんは帰って来た。
さて、そろそろ夕食の時間だ。
揃って神殿長であるオーレルさんが待つ貴賓室へ向かう。
無事に終わるか、毒が出るがドキドキだ。
食事は問題なく進んで行った。
並べられた料理にも私が食べてるモノにも毒は無い。
「―――ハクアが煽って戦闘馬が爆走してしまって、経った一日でカンタコンペに、あの時は怖かったです…」
「ハハハ、それは大変だったでしょうね」
うん、何だか心にグサグサ刺さる。
終わった事だし、罰もくれたんだからもう良いじゃないかと思う。
食事は和やかに進んでいるが毒への注意と自分に吐かれるセアラの毒に食事の味が分からない。
多分、美味しい方だと思うけどね。
「――でも戦闘馬の背中で駆ける感触、アレは忘れられません。また全身で風を感じたいです」
やはりセアラを馬車の屋根から降ろすのは難しいかもだリーレンさんと思いながら食べる。
食事が終わり一段落、食後のお茶が運ばれてきて女神官さんが机に並べようとする。
そこに如何にもじゃれ付いたように飛び掛かる私。
「え?きゃっ!」
三つのカップが床に落ちる。
中身がこぼれそして煙を上げながらどす黒いシミが広がって行く。
「なっ?!」
「えっ?!」
「あっ?!」
セアラ、リーレンさんとオーレルさんが驚き声を上げる。
毒だ。
鑑定では――
【鑑定】『マダラ紅毒ダケ。価値銀貨1枚、猛毒キノコ、バラード森林産、無色無味無臭、死亡危険度大』
――とある。
「これは、聖女様と私を毒殺しようと?」
リーレンさんが声を上げセアラが震える。
「ち、ちが、ど、どういう事だ?」
女神官さんに尋ねるオーレルさん、どちらも顔は真っ青だ。
「わ、私は何時もと同じようにお茶をいれただけで…何もしておりません。信じて下さい」
女神官さんは泣きながら言ってる。
嘘じゃないな、利用されただけっぽい。
加えて毒は全てのカップに入っていた。
オーレルさんも対象だ。
これはやっぱり――。
「聖女様、申し訳ありません。この者と私は一時謹慎します。どうかご慈悲を」
膝をついて深く頭を下げるオーレルさん、女神官さんも慌てて倣う。
「分かりました。この件は大神殿に送って調査して頂きます。沙汰が下る迄は大人しくしておくように」
セアラがそう言うと二人は部屋に帰って行く。
私達も部屋に帰る。
二人共、顔が暗い。
特に結構、楽しくお喋りしていたセアラが暗いかな。
「……やはり彼が犯人なのでしょうか?」
リーレンさんが呟きセアラが「分かりません」と答える。
私は何も言わない。
確証がないからだ。
「ですか、これで落ち着けば大丈夫です。少し早いですがそろそろ休みましょう」
ここまでの旅とラーラー山の登り下り、疲れは貯まっている。
「分かりました」
リーレンさんも同意して横になった。
実際、リーレンさんは護衛として頑張ろうと剣を抱いたまま横になって起きていたが、やはり疲れには勝てずか寝息を立てだした。
その頃には私もセアラも熟睡。
しかし、【探知】さんは優秀だ。
頭の中のマップに赤い点が生まれる。
同時に『マスター、キマシタ』と【検索】さんも起こしてくれる。
巣箱を出る。
ガラス切りでガラスに小さな穴が空けられ細い筒が伸びてくる。
毒の吹き矢か、古典的だな。
させんけどと窓に向かって【猛烈爪攻撃】。
ガシャァァッン!
窓が音を立てて割れて張り付いていた黒い影が吹き飛ぶ。
「て、敵襲っ?!」
「ハ、ハクア?」
音にセアラとリーレンさんも飛び起きるが後だ。
影を追って私は夜のララトイヤの街へ飛び出した。
【空間機動】で空中を走り既に逃げに移った影を追う。
【五感大強化】【千里眼】【夜目】狐猫目で相手を確認。
男だな。
中肉中背で目立たない、何処にでもいるタイプだ。
だからこそ、ちょっと怖い。
男は私が空中を走って追って来るのを見て驚愕の気配をさせる。
そういえば【立体機動】な動きをするモノは居るけど【空間機動】は私以外は見た事が無い。
何でだろう?と思ったが今は取り込み中だ。
頭を切り替える。
男が私に向かって何かを投げる。
針だ。
しかも黒塗り、毒付きだ。
流石は暗殺者だ。
尻尾に【気力】を込める。
三本尻尾が輝き出す。
【尻尾タイフーン】と勢いよく振り抜いて烈風を起こし針を散らす。
【気力操作】で作った技だ。
あんな物なら楽に吹き飛ばせる。
しかし本当に獲得して良かった尻尾攻撃。
これがなければ街中なんかじゃ戦えない。
【金綱牙攻撃】も【猛烈爪攻撃】も威力がありすぎて迂闊に使えない。
尻尾が増えるのは問題だが感謝、感謝だ。
そこで針の効果が無いと知れると男は次に煙幕を張った。
だが、【探知】さんからは逃げられんと思っていたら大量の針を辺りに撃ち出した。
また【尻尾タイフーン】で吹き飛ばすが、辺りの僅かな通行人に当たりそうになる。
そちらにも急いで尻尾を伸ばして【尻尾タイフーン】。
僅かに男から目を離した隙に【探知】さんから赤い点が消える。
何っ?!と思う。
だが見回しても男は見つからない。
これはアレだ。
恐らくは【隠密】の最終進化な【隠身】だ。
此方を攻撃しようとする行動を見せるか意思を逸らしさえすれば完全に身を隠せるんだろう。
厄介な能力だ。
此処はやはりと思いながら私は神殿に帰った。
狐猫の小話
【検索】さんが大活躍で真犯人への目星が付きました。
なければ狐猫も騙されたでしょう。