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狐猫と旅する  作者: 風緑
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第044話 暗雲と実はお金持ち?


「くそっ!どうなっている?」

 ワシはそう言ってダーリントン伯爵邸にある自室の机を殴る。

 本来ならばもう配備させた【鉄機兵】がセアラの馬車を襲っている筈の時間だ。

 それが一向に【魔導具】【通信機】に連絡が入らない。


 廃棄を控えた【鉄機兵】の最後の仕事としての盗賊討伐に見せかけたセアラの暗殺。

 少々、強引で無茶があるがバレない様に上手く事を進めた。

 何一つとして問題はない筈だった。


 しかし予想された成功の連絡はその日は無かった。


 翌日になっても、数日が経っても連絡は無い。

 代わりに来客の報せが来た。


 スコート侯爵家の者だと言う。

 スコート侯爵家は世界の為のアムディの聖石の流通に聖王家が関与する事が無い様に聖王家の影響力を防ぐ為に敢えて侯爵家に留まって居るのであって実際は公爵家よりも力も立場も強い。


 まさか知られている?

 ワシは震えた。


「旦那様、如何なさいますか?」

 執事が不安そうに尋ねるが追い返す事など出来ない。


「構わん、会おう」

 そしてワシは応接間に向かった。


「ガリー・レバンと申します。スコート侯爵家の執事長をしております。偶々、所用で聖女シャルの元へ使わされていたので此方に寄らせて頂きました。初めまして、ロズベルト・ダーリントン伯爵、いえ、ロズベルト神殿長とお呼びした方が?」

 名前は知っている。

 ヴァン・スコート侯爵の右腕だ。

 そんな者を寄越すとはと思った。


「どちらでも、此方こそ初めましてガリー・レバン殿」

 挨拶を返して席と茶を進めるが、ガリーは断り、その場に立ったまま話出した。


「本日は確認に参りました。聖女シャルとお約束なされた【鉄機兵】の廃棄と生産中止についてです。お済ですか?」

 気付かれているっ!

 ワシはそう悟った。

 だが、隠せない。

 必死に言い繕う。


「せ、生産中止は既に廃棄も順調、残りも最後の盗賊討伐を終わらせれば即時に廃棄を――」

「盗賊討伐に見せかけた聖女セアラの暗殺でしょう。存じております」

 ワシに全てを言わせる前に言ってのけた。

 やはり知られていたとガクガクと足が震え、滝の様に汗が流れる。


「我等も気付いた時は遅かった。危ない所でしたが聖女セアラは幸運に愛されているか女神アストラーデの加護をお持ちのようだ」

 その言葉に、は?!と思う。

 スコート侯爵家が気付いて助けたのでは無いのかと驚いた。


「B級、災禍ルインの魔物である、戦闘馬バトルホースに【恩恵ギフト】の【光輝】を掛けて騎士達を置き去りにして僅か一日でカンタコンペまで辿り着いたそうです」

「なっ?!」

 思わず声を上げてしまう。

 戦闘馬バトルホースがセアラの馬車を引く馬になっていた事は知っていた。

 神殿で実際に見て馬小屋も建てられたからだ、また忌々しい魔物が増えたと思った。

 だが、まさか自分達だけが先行するとは考えもしなかった。

 騎士達と歩みを揃えるとばかり――それではワシが準備させた【鉄機兵】よりも速くにカンタコンペに辿り着いている。



「さて、先日に聖女シャルから渡された旦那様からの手紙にも書かれていた筈です。『聖女セアラを第一位と認める。害そうとすれば次は無い』と、覚えておいでですね?」

 ワシはもう膝から崩れ落ちそうだ。

 こんな筈では、こんな筈では無かった。

 何が、何が原因だと考える。

 ワシは、ワシは只――


「ですが旦那様は寛大です。幸いな事に今回は誰一人、何一つの犠牲も無かった。だから見逃す――と」

 ギリギリで、本当にギリギリで首の皮一枚繋がったようだ。

 安堵に息を吐く。


「但し―」

 その安堵を打ち消す様に威圧を滲ませながらガリーが言葉を続ける。


「今回“だけ”です。“次”はけっしてありません。肝に銘じて置いて下さい。それではこれにて失礼させて頂きます」

 それだけを言ってガリー・レバンは去って行った。


 呆然とした。

 どれだけの時間をその場に立っていたか分からない。

 空虚になっていた心に沸々と煮えたぎるモノが浮かんでくる。


「だ、旦那様…」

 只、立ち尽くすワシを心配してか執事が声を掛けてくるがワシは吹き上がった怒りを目の前のテーブルにぶつけた。


「己っ!!」

 ガシャアンッ!

 蹴られたテーブルがひっくり返り、載っていた物の全てが絨毯にばら撒かれる。


 汚れが広がり割れたカップが広がる中でワシは呟いた。


「…ギルドだ」

「は?」

「闇ギルドに使いを出せ」

 ワシはハッキリ言った。


「旦那様、それは流石に―」

「構わんっ!」

 止めようとする執事を一喝する。


 もう【鉄機兵】は使えない。

 ハミルトンが消えた今、新たな【科学】の【兵器】に期待も出来ない。

 ならばもう手はそれしかない。


 勝手の栄光を、勝手の輝きを、幾人もの大聖女を世に出したダーリントン家の名声を取り戻す為に、ワシは決意した。







 ふん、ふん、ふーん、おお、シルバーよ。

 相変わらず、綺麗な黒鹿毛だ、美しいぞ。


「ヒヒーン」

 おっ、ズィルバー、君の鹿毛も美人さんだ、負けてない。


 私は馬車の屋根の上でなくシルバーとズィルバーの背中を行ったり来たりしてご機嫌を取っている。

 でも、やっぱり可愛い、お馬さん。


 ラブリーだ。

 ビューティーだ。

 プリチーだ。


 しかし、今更ながらどうしてあの時は大爆走させてしまったのか、こうしてのんびりも良いモノなのに自分でも分からない。

 のんびりと言ってもそれでもセアラの【恩恵ギフト】【光輝】が掛かった普通の馬より速くて先行しているけれどもだ。


 あの時は正に私達は旋風、誰にも止められない勢いだった。

 けど、本当に何かが囁いていたのだ。

 風が叫んでいたのだ。


 急げ、走れ、全速力だと、私は悪くないと胸を張る。

 ご飯抜きは辛かったけど、本当に辛かったけど、ものすっごく辛かったけど、後悔はしない。

 してるけど、しない。


 反省してるけど、しない。

 次にまた囁かれたらまた全力爆走させてしまうだろう。

 そう思う。


 またご飯抜かれるだろうけどやる。

 ――――多分。


「ブヒヒーン」

 おお、ごめんよ、シルバー、とってもカッコいいぞ、後少しだ、頑張ろう。

 そうして私はピョン、ピョンとシルバーとズィルバーの背中を飛び交いながら次の街へと着いた。


 町に着いた。

 うん、今迄で一番小さい。

 名前はスイルだそうだ。


 領主は居らず委任された町長が治めているそうだ。

 町長の家は狭いから全員は泊まれない。

 泊まるのは私とセアラとリーレンさん、ガレスさんにシルバーとズィルバーだ。


 騎士7人と馬7頭は町の宿屋だ。

 一応、滞在予定は5日、明日と明後日が秘草採取で1日休んで出発だ。

 問題なく進めば良いなと思いながら町長の家に向かった。


「では、今年もよろしくお願いします」

「此方こそ、またお越しいただきありがとうございます」

 去年も来たのか知ってるらしい町長さんとセアラが挨拶を交わす。

 そう言えばカンタコンペの領主邸でも一緒だったなと思い出す。


「しかし今年は可愛いお供が増えましたな」

 私を見ながら町長さんが言う。

 ふふっ、そうだろうとクルッと回ってキュピーンと可愛いポーズを決める。


 撫で撫でされた。

 うーん、まぁまぁかな。


「そして凄いモノもお連れになりましたな」

 シルバーとズィルバーを見ながら言う。

 ふふっ、そうだろう、そうだろう、とても賢く、カッコ良く、美人な自慢のお馬さんだと私はふんぞり返る。

 だけど、町長さん、B級の災禍ルイン戦闘馬バトルホースはやっぱり怖いのか撫でない。


「はい、自慢の友人達です」

 ハッキリと言い切ったセアラに「ミィィィー」(セアラー)と私は嬉しくて抱き着く。


「ヒィン」

「ブヒヒィン」

 シルバーとズィルバーもセアラに嬉しそうに顔を擦り付ける。


「それではお部屋にご案内を、戦闘馬バトルホースは馬屋に」

 町長さんがそう言って私とセアラ、リーレンさん、ガレスさんとシルバーとズィルバーは別れた。


 後でご褒美にアッポーとニンジーを持って行って上げようと思った。


 夕飯はまぁまぁだった。

 料理人さんが作っているのか奥さんが作っているのか知らないけれど、悪くはない味だった。


 そしてセアラとリーレンさんはお風呂、私はその間にシルバーとズィルバーの元へ行く。


 よーし、よし、ズィルバー、アッポーを持って来た。

 三個だ美味しく食べると良い。


 シルバー、勿論、ニンジーも持って来た。

 三本だ味わって欲しい。


 嬉しそうに食べる二頭を見てふと思った。

 アレ?これってダメじゃないかと、一応は飼い主――主人である私だが世話代と餌代等をまったく出していない。

 そもそもお金を持ってない。


 セアラのお世話だ。

 養われ状態である。

 我が野生の掟に反する。


 これは緊急問題だ。

 相談せねばなるまい。

 シルバーとズィルバーを一頻り愛でた後に部屋に帰ってセアラに相談した。


「――ミ、ミィミィミミミィィミミミィミミィミィミィミミィミィミィミ、ミィミミィミミミィミミィミミゥミミミミィミィミミミミミ?」(――と、いう訳で本来なら私が全額を負担すべきなのにセアラに背負わせちゃってるの、私がシルバーとズィルバーの為にお金を稼ぐ手段ってないかしら?)

 そんな訳でお風呂を上がってまったりモードなセアラに尋ねた。

 今日は私とセアラ、リーレンさんの2人と1匹部屋でリーレンさんも傍に居る。


 リーレンさんに私の声は分からないけれど「え、ええと、ハクアがお金を稼ぐですか…」何か困っているセアラにリーレンさんが「?どういう事です?」と尋ねセアラが通訳する。

 セアラから話を聞いてリーレンさんが「成る程、そういう事ですか」と頷く。


「問題ありません、あの二頭の世話代は全て貴方のお金から出ています」

「ミィミミィミミィミ?!」(にゃんですと?!)

 驚く、私。

 しかし生まれてこの方、一銭も稼いだ覚えが無い。

 何でそんな私がお金を持ってる?と首を傾げる。


「ミミィミミミィミ?」(どういう事?)

 また尋ねる。

 セアラが通訳してくれる。


「まず貴方はダビートで危険デンジャラス猛牛ワイルドブル二頭を提供しました。覚えてますね?」

「ミ?ミィ、ミミィミミィミィミミィミミミィミミィミミィミミ…」(え?うん、私はセアラの回帰祝いに只で配ったつもりだったけど…)

 違ったのだろうかと首を傾げる。


「二頭ともにスコート侯爵家が買い取った形になっています。危険デンジャラス猛牛ワイルドブルはA級の破滅ディザスターで超高級食材です。価値は一頭で金板1枚します」

 ビックリだ。

 買ってくれていたとは、因みにこの世界の貨幣は銅貨、銅板、銀貨、銀板、金貨、金板、白金貨で10枚ごとに繰り上がりだそうだ。

 大体、平民の毎月の月収が銀板3枚程、多分、日本の価値だと銀貨1枚が1万円くらいだろう金板となるとかなり高額だ。


「他にも魔物を大量に街に卸しました。全てスコート侯爵家が買い取った事になってます。更に―」

「ミィィミィィィ?」(まだあるの?)

 私のビックリは止まらない。


水晶大亀アルケイロンの攻撃から街と民を護り癒した聖女様に30年の間、ダビートのアムディの聖石の報酬から1割が贈られる事になっており、その1割の更に1割が貴方への報酬とされています。知能の高い貴方に何時かお金が必要となる機会があるだろうというヴァン侯爵の計らいです」

 全然知らんかった。

 いや、知らされて無かったんだけど、そんな事をしてくれてたのかヴァン侯爵。

 1%と言えどアムディの聖石の報酬はかなりお高い筈だ。


 ヴァン侯爵、ホントにありがたい。

 初対面の酷さが嘘のようだ。


「最後にあの二頭の戦闘馬バトルホースは貴方の従魔です。今回の秘草採取の任務の馬車馬として使うにあたって報酬が払われる事があっても貴方が負担する事は無い。お分かりですね?以上です」

「ミィィ、ミィミィミィミ!」(はい、分かりました!)

 考えてみればその通りだ。

 馬車馬と言う仕事をしている二頭だ、報酬が支払われて当然だ。

 私の悩みは杞憂所か、実は意外とお金持ちと言う事実を知るだけだった。


 生まれた悩みは全く問題無かった。

 元から二頭の従魔証と獣魔の環から神殿に建てられた馬小屋と世話代、餌代の全てが自分のお金らしい。

 見せて貰った私の名前の商業ギルド発行の口座は凄い額だった。

 私は立派な小金――いや、お金持ちらしい。


 ちゃんとシルバーとズィルバーの二頭は私の力で養えていた。

 満足である。

 問題は消えた。


「さてそれでは話が終わった所で日課の授業です。よろしいですね?」

 そう言って私達の前に立つリーレンさん。


 佇まいを正す私とセアラ、そして今日もまた【技能】習得の授業が始まる。

狐猫の小話

無一文と思っていたらかなりのお金持ちだった狐猫です。

味方になると本当に有能なヴァン侯爵です。

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[一言] 経済をするネコ。我らネコと和解せり。
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