第042話 再び秘草採取の旅と大暴走?
「では行ってまいります。セリアーナ大聖女様、ロズベルト神殿長、ユリシーズ神官長」
セリアーナお婆ちゃん大聖女様に膝を付き首を垂れながら挨拶をするセアラ。
傍らには私とリーレンさんも控えている。
「ええ、聖女セアラ、貴方の旅に【祝福】を、どうか無事に」
言葉と同時に掲げられた『アストラーデの聖杖』から黄金の光がセアラ、私、リーレンさんに降り注ぐ。
前にセアラがヴァン侯爵に掛けていた【技能】だと思い浮かぶ。
「ありがとうございます。セリアーナ大聖女様」
立ち上がり扉に向かって歩き出すセアラ。
続くリーレンさん、そして私も――と、見せかけてチラッと守銭奴神官長とガマガエル神殿長を見る。
守銭奴神官長は変わりない、相変わらずな感じだ。
まあ、初対面以来何も無いからね、見逃してやろう。
一方でガマガエル神殿長は憎々し気だ。
やはり色々とダメージがありそうだ。
それを確認して満足気に私はセアラ達と扉を出た。
中庭を抜けて正門を越える。
その先で待つのは見覚えのある騎士8人が待っていた。
「聖女様、お久しぶりです。再び秘草採取の任と聞きました。護衛はお任せください」
そう言って頭を下げるガレスさん。
相変わらずデッカイ、こっちは尻尾しか育ってないのに、しかしまた頭をグワングワンされるのかなーと思う。
「ありがとうございます。ガレス様、今回は北から右回りと長い旅になりますがよろしくお願いします」
ガレスさんに頭を下げるセアラ、私が側に居てももう全然、大丈夫だなーと感慨深い感じがする。
「聖女様は少し変わられましたか?以前よりずっと堂々としておいでの様だ」
「そうでしょうか?でもそう見られるのならハクアのお陰ですね」
セアラがそう言って私を見て笑う。
私も「ミィ」と鳴く。
「ハクア?」
首を傾げるガレスさん。
「この子の名前です」
私を持ち上げるリーレンさん。
「そうか、良い名前を貰ったな、ちっこいの」
そして予想通りに頭をまたグワングワンされた。
くぅ、【物理攻撃完全無効】を持ってしてもこの脳への衝撃、デカさやはり恐るべしと考える。
その様子を面白そうに見て笑い、セアラは馬車に乗る。
私は何時も通りに屋根の上だ。
「……やっぱり、何処か変わったような?」
セアラを見てそう呟くガレスさん。
ふふん、そうだろうと私は思う。
それは3日前の事だ。
次のセアラの任務が決まった。
10月から12月の秋の間に北周りで街を回りそこの森などで秘草を採取して各街に卸す任務だ。
毎年の物らしい。
まあ、この前の水晶大亀見たいな危険は無さそうだし、じっくりと技能を上げて次の【試練】に臨もうと思って変わらない日々を過ごしていた。
図書室の本は一巡りしたようで今は物語系ばかりになっている。
面白くはあるので良いけど、実用的なのが欲しい所だ。
ちょっと残念に思いながら部屋に帰った。
セアラはもう寝ていると思ったので狐猫をダメにする巣箱Mk-2に真っ直ぐ向かう。
すると――
「…ハクア」
「ミィミ?」(セアラ?)
まだ起きていたのかとベッドに近付く。
「私は…このままで良いんでしょうか?」
「ミゥ?」(何が?)
私は首を傾げる。
「公爵令嬢の地位も、次期大聖女一位の立場も大聖女様に与えられただけ、その上、どれだけ頑張っても得られなかったステータスの力までハクアに貰って、他者から与えられてばかりの自分が大聖女等なっても良い者かと…」
何となく察した。
今までアレが足りない、コレが駄目だと言われてたのが急にひっくり返る状態になってセアラは悩んでいるのだ。
10歳になって突然、公爵令嬢になり、聖女第一位になったが、周りの評価は厳しかった。
最初のヴァン侯爵がそれだ。
でもセアラの頑張りを見て認めて貰えた。
将来に期待すると言われた。
頑張ろうと思った矢先に突然、私に名前を付けただけでステータスが成長してしまった。
目標を持ってもっと頑張ろうと思った矢先の肩透かしだったんだろう。
そしてまた貰った、与えられてしまったと混乱し悩んでいるのだ。
でも違う。
「ミィミミィミミミィミ。ミミミィミミィミミ」(セアラは与えられたんじゃないわ。自分の手で勝ち取ったのよ)
「え?」
枕元に飛び乗った私を不思議そうに見るセアラ。
「ミミミィミミミミィミィミィミミィミ、ミィミィミミミミミィミ。ミィミミィミィ、ミィミィゥミィミ。ミィミィィ、ミィミィィ、ミミミィミミィミミミィミミミィゥミミミィミミィミ」(セリアーナお婆ちゃん大聖女様はセアラなら未来を希望を託せると信じて養子に、聖女一位にしてくれたのよ。私だって同じ、セアラだから信じた。頑張って、頑張って、絶対に逃げないセアラだから名付けを受け容れた)
「私を信じて?」
私は頷いてセアラの頬に顔を擦り付けた。
「ミィィミミィミ、ミィミミィミミ、ミミミミィィゥ、ミィミミィミィミ、ミミミィミィィゥミ、ミミィミミィィミゥミミミミィィミ。ミィミミィミミィミミ?ミィミミミィッミミ。ミィミミミィミミミィ」(今はヴァン侯爵だって、リーレンさんだって、シャルさんだって、リフレイアさんだって、他にもきっと沢山、セアラの頑張りを未来を信じてくれてる人たちがいる。皆の信頼に期待に応えてあげて?セアラなら絶対に出来る。世界で一番の大聖女にね)
いつの間にかポロポロと流れていたセアラの涙を舐めながら言う。
「ミミィミミィィミゥミミミミィィミ?」(それでもどうしてもと言うのなら勝って見せて?)
「……勝つ?」
不思議そうにセアラが呟く。
「ミミィミミィィミミミィミミミミィィ?ミィミミィミミィミミミミミィミィゥミ、ミィィ、ミミミィミィミミミミミミィィィミミミィィ。ミィィィミミミィミミミィミミミ」(【絆】は互いのステータスを高め合うのでしょう?私がセアラに贈るステータス以上になって見せて、まぁ、私は世界最強な狐猫になるつもりだから負けないけどね。ドンドンとセアラのステータスを上げてあげるわ)
「!ま、負けません、わ、私だって5…いえ、3年でハクアに勝ってみせます!きっと、絶対!必ず!」
私が胸を張って自慢気に言うと負けないとばかりにセアラが声を上げる。
その目にもう涙は見えない。
「ミミィミミィミィミ、ミィィミ」(信じてるからね、セアラ)
そして私達は初めて体を寄せ合って一緒に寝た。
「……うう、でもハクア、歳下なのにお姉さん見たいです…」
「ミィィ、ミィィミミミィィィミミミィィミミミィィ」(そりゃ、今世はまだ生後半年だけど前世は16か17だったからね)
「…生後半年ならやっぱり私がお姉ちゃんです。これからセアラお姉ちゃんと呼んで下さい」
「ミィィミミィミィミミィィミミミィ。ミィミミィィィミミミ」(前世を足せばこっちがお姉ちゃんよ。ハクアお姉ちゃんと呼んで)
「私の方がお姉ちゃんです!」
「ミィィミ!」(私よ!)
ちょっとしょうもない喧嘩もしてしまった。
でも―――
「………ねぇ、ハクア…」
「ミィ?」(何?)
「もし本当に私が世界一の大聖女になって…ハクアが世界最強な狐猫になったら…その時は…」
「ミィゥィ?」(その時は?)
「きっと―――――――――――――――――――」
そして、セアラは今までよりももっとずっと前を遠くを見る様になった。
流石は自慢の友達だと思う。
因みに【LV】も上げに行った。
1上がって今までは伸びなかったステータスも増えたらしい、喜んでいた。
後1つで【試練】だねと言うと【LV10】で【試練】と驚いていた。
『死ぬ気ですか?!』等と言われた。
しかし、私が【LV10】で【試練】を突破したと知ると『自分もっ!』と言い出した。
リーレンさんは慌てていたがきっと越えると思う。
なんせ未来の世界一の大聖女なのだから、でも今はそれよりも新しい旅だっ!
「しかし、すげぇなぁ、戦闘馬とは…」
ガレスさんの呟きに私はそうだろう、そうだろうと腕を組んで頷く。
先日の一件で私の従魔となった二頭だが元気に過ごしてくれている。
全力で楽しく走らせてあげたいので一緒に狩りに行ったりもする。
現在、可愛くてしょうがない。
自分で走った方が早いが乗ると大喜びしてくれる。
ホントに可愛い。
因みに雄と雌で夫婦な様だ。
シルバーが雄、ズィルバーが雌だ。
そんな仲良し二頭は元気にセアラの馬車を引いてくれる。
デカかった馬車が一回り小さく見える程だ。
私と門を抜ける時は何か門番さんは諦めの極致で素通りさせてくれるが、馬車を引くとなるとチェックが入る。
従魔の環は足に、従魔証はリーレンさんの【魔導袋】の中だ。
しかし流石はB級、災禍の魔物、皆が怖々と見ている。
こんなに可愛いのに…何故だ?
セアラも可愛いと思うのか時々、食べ物を上げている。
私の事はアレだけ怖がったのに…どうして?
兎も角、神殿ではすっかりと受け容れられて可愛がられている。
そしてそんな二頭が馬車を引くのは実は今日が初めて楽しみだ。
「では聖女様、そろそろ…」
「はい【光輝】」
セアラが全ての馬に自らの【恩恵】【光輝】を授ける。
そう、全ての馬に――
「せ、聖女様っ!」
「えっ…あっ!」
リーレンさんが慌てセアラがうっかりの失敗に気付く。
ふっ、だが、もう遅い。
さあ、駆けよ!シルバー!ズィルバー!正に竜巻が如くっ!!
「「ヒヒィィィィィィィィィン!!」」
ドガラッ!ドガラッ!ドガラッ!ドガラッ!と、凄まじい速度で駆けだす二頭。
「ま、待て、ちょっと待て!」
「止まれ、おい、止ま―」
「ヤバい、追いつけ――」
普通の馬に乗っていたガレスさん達が置いて行かれ声が聞こえなくなる。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「せ、聖女さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
馬車の中からセアラ、リーレンさんの悲鳴。
御者台から御者役の騎士の悲鳴が響くが私は聞こえない振りをする。
「ミミィ!ミミィミ、ミィミミミィ、ミィミミミミィミミミミィミィミィ!」(疾れ!シルバー、ズィルバー、今こそ野生のリミッターは外されたっ!)
「あ、煽らずに止めて下さいっ!ハクア!ハクアァァァァァッ!」
セアラの叫びが聞こえる気がしたが無視。
何だか楽しくてたまらない。
わーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!
笑いが止まらない。
私ってばスピード狂の素質でもあったんだろうか?
此処の峠を越えて私は伝説になるぅぅぅぅっ!
等と言って見たりする。
更に馬車がドリフトする。
馬車ってドリフトなんて出来たんだなぁと思う。
そしてまたドガラッ!ドガラッ!ドガラッ!ドガラッ!と走り出す。
もう馬車の中から声は聞こえない。
要人用の馬車だ安全設計は完璧―――な、筈だと思いつつ、まだ疾走。
そうしたらかなり前方に人影、おや?と思いつつ【千里眼】うん、弓矢とか剣を構えている。
盗賊だ。
初めて見た。
希少種だ。
結論、うん、只の障害物だ。
やっちゃえ、シルバー、ズィルバーと命じる。
何かを叫んでいた盗賊団が止まらない此方をオカシイと気付くがもう遅い。
B級、災禍の魔物である戦闘馬二頭は突っ込んだ、盛大に轢いた。
暴れに暴れた。
阿鼻叫喚の悲鳴が響く多分、再起不能だろう。
蹴散らされた盗賊を後目に馬車は駆ける。
そして三日かかると予定されていたカンタコンペに一日で到着した。
よーし、よし、よし、よく、走ってくれたシルバー、ご褒美のニンジーだ。
見た目、まんま地球の人参だ。
おお、ズィルバーもお疲れ様、アッポーが食べたいか、食べると良い。
狩った物じゃないから私は喰えないが美味しい筈だ。
二頭とも全力で走れたのが嬉しかったか毛艶がキラキラしている。
私も満足だ。
非常に楽しんだ。
是非、またやりたい。
そう思ってるとガシィッ!と頭を掴まれた。
…………………ヤバイ
「ハーーーークーーーーアーーーー」
地獄の底から響く様な声が本気で恐ろしい、振り返らせられる。
ボロボロになったセアラとリーレンさん、あと御者の騎士さん。
「たっっっっっっっっっっっっっっぷりと、お説教ですっ!!!」
うん、マジでごめんなさい。
私はこってり絞られた。
狐猫の小話
うっかり全馬に【光輝】と狐猫が煽って大暴走には実は理由があります。
セリアーナお婆ちゃん大聖女様の【祝福】の影響です。




