第004話 一匹で放浪?
母狐猫と兄弟姉妹達と別れて何日が過ぎただろうか?
私は一人で森の中を歩いていた。
安心できる寝床は中々見つけられず木の穴の中や茂みの奥などに隠れて眠っているが安全とも思えず熟睡が出来ない。
一応、気休めかもだが【隠密】をLV10まで上げておいた。
すると【技能】【隠形LV1】に変化した。
コレで見つかりにくくなったと思いたい。
あの男達はしつこく私を追って来そうな気がする。
だが、母狐猫の仇であるあの連中を許すつもりは無いし、兄弟姉妹達の無事は確認したい。
その為に必要なのはやはり強くなる事。
ふっふ、久々にスパルタンな特訓をやるのだとブンブンと猫パンチの素振りをしようとしてふと止める。
そう言えば母狐猫を助けようと考え無しに【爪攻撃】に【SP】を振って【猛爪攻撃】にしてしまったがコレってどのくらい強いんだろうかと考えた。
鉄の鎧の男をバッサリやっちゃってたからこの辺りでうっかり振るってしまったら何故か空き地が出来上がってしまうかもしれない。
うん、取り合えず暫くはスパルタンな猫パンチの特訓は封印で、代わりに嚙みつきの方を特訓しよう。
此方はまだLV3だから大丈夫なはずだ。
そうして私は道に落ちてる木の枝をガジガジと嚙みながら当てもなく森の奥の方、奥の方へと歩いて行った。
しかしこの森は本当に広い。
生まれてこの方、木が生えてない場所を見た事が無いほどに広い。
川には流石に生えてなかったけどそれくらいだ。
後は兎が何処にでもいる。
角が生えてるし正式には角兎とか言うのかも知れないけど少し探せばあっちこっちに居る。
兎は繫殖力が高いと聞いたが正にそれなのだろうか?
一匹でもまだ自分の体より大きいので狩ると一日は食事に困らない。
最も家族で分け合って一匹を食べるのも美味しかったが…ダメだ。
思い出すと泣けてくる。
そんな事を思いながら歩いていると唐突に蜘蛛に出会った。
あれ?蜘蛛ですよ?何か御用?
実際、不快害虫として見たらギャー!と言う人も居るけど私はそんな嫌いじゃない。
蜘蛛は益虫。
Gとか食べてくれるしね。
アシダカ軍曹さんは何時もご苦労様です。
朝も晩も私は殺さないよ。
逆に黒光りする例のアレとか百本足なソレとかは大嫌いだ見たら悲鳴を上げて逃げる自信がある。
奴等は天敵。
だがしかし、目の前に居る蜘蛛はどうだろうと思う。
大きさは比較して自分の…何倍くらいだろ、楽に1メートルくらいはありそうな蜘蛛だ。
果たしてこの蜘蛛は益虫と呼んで良いモノなのだろうか?
やっぱりこのデカさじゃあ人とか猫とかでも糸でぐるぐる巻きにして頭からバリボリやられちゃうタイプだろうか?
等と考え込んでいる内に蜘蛛はこちらに向かってブシューと糸を吐いてきた。
うん、やっぱり益虫じゃない。
魔物だわと確信して【猛爪攻撃】を放つ。
流石に嫌いじゃないとは言っても蜘蛛を齧りたいと思う程に上級者じゃないですよ、私は。
そうして蜘蛛の魔物は三つに別たれてアッサリと息絶えた。
そしてピコーンと告知が来る。
LVUPキタコレー!
早速、ウィンドウが表示される。
【名前】無し
【種族】ファトラ
【位階】零
【LV】3 → 4
【気力】13 → 15
【理力】12 → 14
【霊力】17 → 20
【魔力】21 → 24
【SP】1412 → 1413
【技能】【牙攻撃LV3】【猛爪攻撃LV1】【隠形LV1】【翻訳LV10】
前と違って何時の間にか数値が上がってる様子は無しと、でも、そろそろ新しい技能とかが欲しいなぁと思う。
そう言えば気にしない振りしてたけど【技能】の【翻訳LV10】って何なんだ?
この世界の人間の言葉が理解できたのはこの【技能】のお陰なのか?
転生特典って奴なんだろうか?
それにしてはちょっとショボくね?
どうせなら母狐猫や兄弟姉妹達とも意思の疎通がしたかったわとツッコミを入れてみる。
そして夜が来る。
狐猫になったお陰か夜目もバッチリでよく見えるんだが夜はやはり寝たい気分になる。
今はあんまり眠れないけど…
それは兎も角、寝床を探す。
木のうろは無いし穴倉も無い。
茂みの中で寝るしかないかと諦めて近くにある茂みに入って丸くなった。
せめて良い夢が見れます様にと願いながら私は眠った。
朝、目を覚ますと同時に周囲の気配を探る。
実際にはあれ以来熟睡出来ていないので危険があれば直ぐ様に目を覚ますだろうが念の為だ。
何もないと判断すると伸びをして顔を洗い、毛づくろいして茂みを出る。
次は水を飲みに行く。
可能な限り川の近くを通って移動しているので飲み水には問題ない。
何時も通りに水を飲もうと顔を近づけた所で唐突に危機を感じて跳ね飛ぶ。
すると寸前まで居た所を巨大な魚が跳び上がった。
私を一飲みに出来るほどの大きさだ。
ビックリして暫し呆然とする。
今まであんな魚には遭遇しなかった。
この辺りに生息しているのかはたまた運が良かったのか、それともあれも魚に見える魔物なのか、兎も角、これからは水を飲むにも注意が必要なようだ。
危険度ばかり上がるなぁと思いながら私は水を飲み森の奥へと歩みを進めるのだった。
其処から更に二日程進むとそろそろ良いんじゃないか?と思えて来た。
森のかなり奥まで来た流石に此処までは追って来るまいと考えた。
何より寝心地の良い木のうろを見つけた。
ついでにオークをぶっ倒した。
そうあのくっ殺さんのオークである。
私が前世な女子高生のままだったら危なかっただろうあのオークだ。
母狐猫も一度だけ狩ってきたモノだ。
あの高見にはまだ遠いと思えていたが【猛爪攻撃】の前にはオークも一撃で三枚おろしだった。
偉大なる母よ、その頂ぎに近付くのも遠くないのかも知れない。
そう思っているとLVも一気に二つ上がった。
更にオークを食べてると【牙攻撃】のLVが4に上がった。
更に更に【危機感知LV1】なんて技能も生えてきた。
ちょっとフィーバータイムだ。
少し落ち着いてステータスを見てみよう。
【名前】無し
【種族】ファトラ
【位階】零
【LV】4 → 6
【気力】15 → 19
【理力】14 → 18
【霊力】20 → 26
【魔力】24 → 30
【SP】1413 → 1415
【技能】【牙攻撃LV4】【猛爪攻撃LV1】【隠形LV1】【危機感知LV1】【翻訳LV10】
こうなると悩みどころだ。
【危機感知】のLVを上げたい。
だが【SP】は限りがあるし、素の状態でも私の危機感知は高く思える。
過去の犬然り、先程の魚然りだ。
ならば今後に有用な技能を得る事を待って此処は温存しておくかと考える。
オークの遺体はデカすぎて運べないし、一日、二日で食べきれる量でも無いので此処に放置しておく。
暫くこの場で足を止めて様子を見る事にする。
もしもまだ追って来ているようなら更に森の奥へ行くことにしよう。
私はそう決めて暫くの間、この場所を安住の地と定めたのだった。
定住を決めると心地が違うのか少し安眠出来るようになった。
しかしアレだな。
生まれてもう恐らく二ヶ月か三ヶ月目だろうけど私っておっきくならないなぁと思う。
母など自分の十倍以上前世の猫より二回りは大きい程だったのに未だに私は手の平サイズだ。
やはりアレなんだろうか?
LV上がって進化とかそういうタイプの、ならLV上げないとなー、でもオーク倒してからこっち食べ物はオークの肉がダメになるまで喰えるし、蜘蛛はあれ以来遭遇しないし、経験値を得る手段が無いんだよなー、良し、こうなったらやはりスパルタンな特訓を再開しようと思いつく。
【技能】のLVが上がったり、新しいのが生えてきたらいいなぁと言う心持で、そうして嚙み噛みして跳ね回って走り回って【猛爪攻撃】を発動しないように猫パンチを連打して日々を過ごす間に【立体機動LV1】と【疾走LV1】と言う技能が生えてきた。
【疾走】まんま走るのが早くなる感じで【立体機動】は三次元的な動きに補正が入るらしいモノだった。
【疾走】は兎も角、【立体機動】は便利そうだったので早速【SP】を突っ込んでLVを10にした。
すると【空間機動LV1】になった。
コレは何もない所に足場を出せると言う優れモノだった。
いやあ、お買い得でしたね、奥さん。
そんな感じで私は着々と【技能】のLV上げに励むのだった。
そしてオーク肉がそろそろダメになるかなぁと言う時にそれはやって来た。
【危機感知】に反応、素早く木に登って身を隠す。
すると二人の男がやって来た。
見忘れる筈もない、母狐猫を殺し、兄弟姉妹達をさらった奴の仲間達だ。
こんな所まで追ってきたのかと見下ろす。
「なぁ、まだ進むのか?この辺りはオークやデーモンスパイダーが出るんだ。二人じゃ危ないぜ」
「分かってるよ。もう少し進んだら戻る。しかしリーダー、アレクの野郎もがめついよな。あのファトラ三匹だけでも大層な収入になっただろうに、希少種を見つけ出して来いなんて」
「そうだな。このアドラスティア大樹海を抜けたらダアト山脈、それを超えて隣国のテレスターレ聖国まで行かれたらもう捕まえる事は出来ねぇ。それまでに捕まえたいってのは分かるが、この樹海を行くのに俺達の人数じゃあ厳しいぜ」
成る程、この森はアドラスティア大樹海と言うのか、大樹海と言うだけあって大層、広いのだろうと想像できる。
そして森を抜けると山脈があり、その先の国まで行ければ自分の身は安全と…話が聞けて良かったと思う。
仇だから逃がしたり許したりはしないけどな。
「おい、見ろ。あれ…」
「オークの死体か、この切り傷はまさか…ヤバイ、逃げるぞ。もしかしたら近くに…」
「ミィ」(逃がさない)
一声鳴いて男達の後ろに降り立つ。
振り返り顔色を青くして慌てて逃げ出そうとする二人、しかしもう遅い。
【猛爪攻撃】を放ち二人をアッサリと葬る。
あの時に男達は全部で十四人居た。二人はあの時に殺して今また二人、残りは十人。
まだまだ弱いこの身では不意を打たないと殺せない。
残った十人もこれで警戒を強めるだろう。
だから急がない。
だけど絶対に許さない。
敵討ちを心に誓い、私は歩み始める。
目的地は決まった。
このアドラスティア大樹海を超えてダアト山脈へ、其処からテレスターレ聖国。
その地で力を蓄えてまた此処に戻って来る。
私は男二人の遺体ともう食べられなくなったオークの死体を残しその場を去ったのだった。
狐猫の小話
因みに今回、狐猫が倒した豚戦士は劣化豚戦士と言う一回り弱いE級な高位の魔物です。
母狐猫が狩った豚戦士D級の災害には届きません。