第034話 夢な世界と最後の晩餐?
「おお、勇者名無しよ。死んでしまうとは情けない」
何だか髭もじゃの王冠を被ったおっさんが私の前に座っている。
つーか、死んで情けないとは何事だ?
命を賭けて戦ったのならそれは称賛されるべきだろう。
「名無しが次の【LV】になるまでに必要な経験値は596だ。では行けい、勇者名無しよっ!」
ほほう、次の【LV】に必要な経験値はそれだけか、それは有用な情報だ。
それだけはありがたく貰おう。
そして私は目の前で立ち上がり行く先を示すようにビシィッ!と指差す、王様擬きを【超尻尾攻撃】でグルグル巻きにして引き摺って歩く。
「ちょ、勇者名無しよ何をする?乱心したか?」
いいえ、只苛酷な戦いで死んで情けないという王様擬きにノブレスオブリージュの手本を示して貰おうかと思ってね。
「余、余を魔物と戦わせようと?む、無理じゃ」
何で無理なの?王なら剣の訓練位してるでしょ?
「い、いや、余は才能が無かったから…」
大丈夫、訓練と実戦は違うわ。
「誰か、出会え、出会え、勇者名無しが乱心したぁ」
兵士が次々と出て来るが肉球パンチと肉球キックに敵は居ない。
全て倒す。
全てプニ打ちよ、安心なさい
「プニ打ちとは何だ?」
プニ打ちとは肉球のプニプニで相手をヘブンさせる技よ。
殺さない、怪我させない、幸福一杯な夢の3K技である。
そして城を出る。
街を歩く。
狭い街だ。
外まであっという間だ。
現れたわね、あなたの仕事よ、行きなさい。
「余、余にこのような仕打ち只で済むと思っておるのか?」
ゴブリンの前に立たされ、ガクブルする王様擬き、此方を見て笑っているゴブリン。
狐猫とおっさんのパーティーだしょうがない。
さぁ、行くのよ。
「く、くそぉぉぉぉぉっ!!!」
腰の豪華な剣を抜きゴブリンに斬りかかる王様擬き。
ミス!ダメージを与えられない。
ゴブリンの反撃、王様擬きに9999のダメージ!王様擬きは死亡した。
ホントにダメね。
「だから無理じゃとゆーたろーがっ!!」
棺桶になった王様擬きが立って喋る。
中々にシュールだ。
因みにゴブリンは私の一撃で空の彼方だ。
何かお金らしい銅貨を落とした。
それでこれからどうすればいいの?
「教会に行って余を生き返らせてくれ」
随分と生死感が軽い世界ね。
「そう言う世界じゃ」
街に戻って教会に向かう。
でも死者の復活ってボッタクられるんじゃないの?
「金ならある。大丈夫じゃ」
棺桶の王様擬きがふんぞり返った。
死者だと言うのに元気一杯だ。
神父様に声をかける。
今更ながらなんで狐猫が普通に人と会話出来てるのか不思議だ。
まあ、そういう夢だと考える。
「王様の復活には銅貨5枚が必要です。支払いますか?」
ゴブリンが落としたお金で足りた。
王様擬きは生き返った。
でもorzしてる、流石に気の毒になった。
「余の…余の…存在価値って…」
貴方に足りないのは覚悟――そしてスパルタンな特訓よ
「覚悟と特訓…」
呆然と王様擬きは呟く。
勇者が居るって事は魔王も居るのよね?
それを僅かな勇者パーティーに倒させたら恐怖と疑心暗鬼から第二の魔王誕生よ。
「そ、それは…」
そうならない為には多くの人の力を結集して魔王を討つべきよ。
あなたが世界を纏めるのそれが覚悟よ。
「余が世界を纏める…」
その為にも必要なのがスパルタンな特訓よ。
正に血の滲む――いえ、血を吐き、骨を折り、全身を苛めに苛め抜く特訓よ。
言いながら私はそこまでやって無いなと思った。
「じゃ、じゃが余はもう歳が…」
歳は関係ないわ。
やるかやらないかよ。
実際に生後数ヶ月で私は今の強さよ。
そう言うと王様擬きはハッとして私のお手々を取った。
「勇者名無しよ。余が間違っていたようだ。これからは粉骨砕身、世界の為に努力しようぞ」
目が覚めたのなら何よりだわ、それで私の目は何時になったら覚めるのかしら?
「なんじゃ、気付いておらなんだのか?勇者名無しは聖女に抱きしめられて窒息〇、そこをコレ幸いと我等が空間魔法で召喚――」
ちょっと待ってっ!ちょっと待ってっ!
今、不穏な発言を聞いた。
私が〇んだ?
しかも異世界転生でなく異世界転移させられた?
セアラ達に会えないと思うと血の気が引く。
そこへ――
『この様な世界に紛れていたか、『ファーレンハイトの愛し子』よ』
あ、何時もの自称:神様(仮)だと安心する。
『我が僅かに眼を離した隙にこのような地へ招かれて居ようとは、直ぐに戻るぞ。彼の地はまだ汝を必要としている』
その言葉と同時に私は光に包まれていく。
其処に王様擬きの声が響いた。
「勇者名無し様、大変にご迷惑をおかけしました。お詫びに我が王家に伝わる秘術をお授けします。何卒、お許しを」
あー、うん、こっちも何だか色々とごめん。
貰えるモノなら貰っておくわ。
ありがとう、頑張ってね。
打倒魔王。
「はっ!必ずやっ!」
それを最後に私の意識は途絶えた。
後に歴史は語る。
この日にとある世界で英雄王が生まれたと、だが、私がそれを知る事は無い。
うう、ううん?
目が覚める。
何だかすんごい変な夢を見ていた気がする。
よく思い出せない。
何でだろう?そう思っているとリーレンさんが私を覗き込んだ。
「気が付かれましたか」
凄く心配そうに見下ろして来るリーレンさん、どしたん?と首を傾げる。
「聖女様が居られなくなって慌てて探していると貴方を抱きしめた聖女様を発見して…」
ああ、うん。
ちょっと思い出した。
セアラがおかしくなっていてすんごいジタバタした記憶がある。
「聖女様に強く抱き締められた貴方は死んだようにダランとしていて…」
何だろう?思い出してはいけない事を思い出しそうになった。
体が震える。
オモイダシテハイケナイ。
ワスレナケレバナラナイ。
「慌てて引き離しましたが、聖女様はお酒を飲まれたようで私から貴方を取り返そうと暫く必死に…」
ああ、そう言えば確かにセアラは酔っていた。
絡み酒なのか色々と言われた。
私が居なくて部屋に一人ボッチで寂しかったとか言ってた。
今だに触るのはギリギリって感じだが、本当に大分、慣れたなと思う。
是非、この調子で行って欲しい。
「それでも酔いの為か眠くなったようでそちらでお眠りに、貴方はグッタリして動かず。どうすれば良いか分からなくて…回復薬を試そうかと思った所でピクピクと動き出して今に至ります」
そうかー、予想以上に私の状態は悪かったようだ。
【物理攻撃完全無効】を持つ私を其処迄追い詰めるとは…セアラ恐ろしい子。
何しろ、〇んだと言われたしね。
アレ?オカシイ、自分が今、言った事を思い出せない。
不思議だと思いながら寝ているセアラに目を向ける。
セアラは猫の様に丸まって寝ていた。
それを見た瞬間、全身の毛がブワッ!尻尾の毛がブワワッ!!と膨れ上がり素早く後退りする。
リーレンさんが私を見て首を傾げて「どうかしましたか?」と尋ねてくる。
「ミ、ミ、ミ、ミィ、ミィミミ、ミミミミミィ」(だ、だ、だ、だい、だいじょう、大丈夫よよよ)
ガクブルしながら返事をする。
嘘です。
恐いです。
むっちゃ恐いです。
すっごい恐いです。
ものすっごい恐いです。
今更ながらセアラのお〇らし聖女モードの気持ちがわかる。
こんな状態だったんだろうなぁと、だが私はトイレに行かない狐猫、お〇らしの心配だけは無い。
「ではそろそろ帰りましょう。何時までも聖女様を此処に寝かせていては風邪を引いてしまわれる」
そう言ってリーレンさんはセアラをお姫様抱っこする。
セアラがその感触に「ううん…」と声を上げ私はまたビクッとする。
「行きましょう」
「ミ、ミ、ミミ、ミミィ、ミィィィィィ」(は、は、はは、ははは、はいぃぃぃっ)
聞こえないのが幸いな程、私の言葉は噛み噛みだった。
夜、私とセアラは同室だ。
最近は毎日、セアラのベッドの端っこで寝てた。
だが今日は違う。
私の寝床用に作られた箱の中だ。
体へのフィット感は無いがツルツル、スベスベの毛布は中々に心地良い。
決してセアラが恐いから離れて眠るのではない。
偶には使わないと準備してくれた人に悪いから使うのだ。
そうだと断言して置く。
改めて言うがセアラが恐い訳ではない。
翌朝は早朝から忙しく動き回る。
ダビートの街の教会への訪問、挨拶、この街に住む聖女候補生への面会と感謝、孤児院への慰問、犠牲者への改めての献花等とスケジュールがパンパンだ。
これも明日にはアストラリオンに帰る為だ。
水晶大亀との戦いの結果、かなりの日数を休む事になったセアラは既に帰還予定日を越えている。
本当は昨日と今日で終わらせる予定が私のせいで街の大宴会になったので今日中に回らなければならなくなった。
うん、ゴメン。
だが走るセアラとリーレンさん、メイドさん達も疲れた様子はなく笑って次々と終わらせていく。
住民からも「昨日は楽しかった」「ありがとう」という声が移動中に響く。
今日は大変だけどやっぱりやって良かったと思う。
そして夜になる。
朝と昼は簡単な食事だったが夜は別だ。
現スコート侯爵家での晩餐である。
そこそこに広い家を借りたようだが侯爵家としては全然、狭い。
幸いな事にスコート侯爵家の主従で水晶大亀の犠牲になった者は居ないそうだ。
最初の晩餐の時にセアラがヴァン侯爵に贈った【福音】の効果だといいなぁと思う。
スコート家は前の三人にシャルさんが加わった四人。
今日は実家だからか聖女の正装でなくドレス姿、やはり超美少女だ。
一方で相変わらず私を見つめるロビン君(邪神)。
ダメです、私は上げません。
私の体は何時か出会う立派で素敵な雄狐猫のモノです。
そう思いながら視線に耐えて【猛烈爪攻撃】を撃ちたい要求を抑える。
私の今日のご飯は牛さんだ。
それも危険猛牛だ。
昨日のを私の為に取っておいてくれたらしい。
味はもう言葉が出なかった。
気付いたら皿が空になっていた。
神は此処に居たっ!と感じた。
さて晩餐は終わりお茶が配られ皆が御寛ぎモード、前回は此処からが酷かったが今回はどうなるか…
まぁ、心配無さそうな雰囲気だけどね。
狐猫の小話
異世界転移させられました。
世界観はまんまDQです。
狐猫は忘れてます。
今後も思い出しません。