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狐猫と旅する  作者: 風緑
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第003話 家族との別れ?


 朝、目を覚ます。

 私が伸びをすると母狐猫が体を起こし、他の兄弟姉妹達も目覚め始める。


 起きて先ずペロペロと手を舐めて顔を洗う。

 この体になってからすっかり猫の習性が身に付いた。


 その後は傍の川に行き水を飲んで母狐猫にも水を運んでいく。

 兄弟姉妹達も真似て同じようにして行く。


 だが、狩りに関しては別だ。

 これは私にしか出来ないと言うかやってはいけない。

 他の兄弟姉妹では返り討ちか他の動物、魔獣の餌になるのが関の山だ。


 言い聞かせて分かるのか、そもそも言葉が通じてるのか分からないが「ミィミィ」と着いて来ないように言って私は一人で森の奥に入って行く。


 今日は二度目の狩りだ。

 昨日は上手く行ったがまた上手く行くとは限らない。


 慎重に慎重を重ねて身を隠しながら森の中を歩く。

 そして今回は思いの外近くで早々に兎を発見することが出来た。


 再びゆっくりゆっくりと兎の後ろに回り込む。

 ジーと隙を窺う。


 気付かれればそれまでだ。

 チャンスは一度きり。


 暫くして兎が足元の草を食んだ瞬間に私は飛び出した。


 また兎の首筋に噛み付き爪を立ててがっちりとホールドする。

 兎は何とか逃れようと暴れまわるがそれは許さない。

 こちらも必死なのだ。


 全力で噛み締めているとまた昨日のようにボキィという音が響いた。

 兎の体から力が抜ける。


 どうやら仕留められたようだ。

 力の抜けた兎を引き摺って巣穴へと帰る。


 好調な出だしだ。

 尻尾を振り振り喜びながら帰り「ミィーーー!」と鳴く。


 すると巣穴から兄弟姉妹と母狐猫が出て来る。

 喜んで餌に嚙り付き皆で食べた後、二匹目を狙って私はまた狩りに出る。

 今度は中々見つからない。

 それどころか一度、鳥に襲われた。


 鷲の様な鳥類だ。

 気を付けていなければこっちが餌にされる所だった。


 それまで以上に注意して歩みを続ける。

 そして兎が二匹居るのを見つけた。


 一匹なら兎も角、二匹は厳しい。

 身を隠して一匹になるのを待つ。


 中々離れない。

 夫婦か恋人なのだろうかと考えそう言えば私の今の父親ってどうしてるんだろうと思った。


 母狐猫はずっと一緒だが父狐猫は見た事が無い。

 種だけ付けて何処かに行ってしまったのだろうか随分と薄情な父親だなと思う。


 そんな益体の無い事を考えている間に兎が一匹だけになっていた。

 チャンスを逃さず私はまた兎を仕留めた。


 そこでまたピコーンと音がしてウィンドウが現れる。


 【LVが上がりました】の表示が出る。


(ふぉぉぉぉぉっ!LVUPキターーー!!)

 私の心の中でファンファーレが鳴る。

 続けて―


【名前】無し


【種族】ファトラ


【位階】零


【LV】1 → 2


【気力】8 → 10


【理力】7 → 9


【霊力】11 → 14


【魔力】15 → 18


【SP】1513 → 1514


【技能】【牙攻撃LV2】【爪攻撃LV2】【翻訳LV10】


 ―と、表示が現れる。


(気力と理力は2上昇、霊力と魔力は3上昇か、高いのか低いのか分からないけどコレで狩りがしやすくなるならありがたいよ)

 そう考えて少しだけ軽くなった気がする兎を咥えて私は巣穴へと帰って行った。


 この日は二匹の兎で打ち止めになった。

 翌日LVも上がったし今日は三匹を狙いたいなと思案しながら私は森の中を歩いていた。

 そこでハッと何かの気配に気付く。


 凄い速度で何かが此方に近付いてくる。

 私は慌てて身を隠す。


 だけじゃ足りない。

 追いかけてくる何かは正確にこちらに気付いて走って来る。


 私は急いで傍の木に駆け上がり木の葉の中に身を隠した。


「ウーーー、ワンッ!ワンッ!」

(犬の声だ)

 下は木の枝に隠れて見えないが声だけは犬と同じ物だった。

 見つかれば危険だと更に身を縮こまらせる。


「なんだぁ、ベン、其処にファトラの臭いが残ってるのか?」

 人の声が聞こえた。

 どうやら犬は人に飼われているモノらしい。


「ウーー、ワンッ、ワンッ、ワンッ!」

「どうした見つかったのか?」

「いえ、姿は見当たりません。匂いだけが強くこの辺りに残ってるんでしょう」

「なら住み家も近いかも知れんな。お前等、徹底的に探すぞ!」

「「「へいっ!」」」

 男達の声が聞こえ徐々に遠ざかっていく。

 なんとか危機は脱したようだ。


 そこでまたピコーンと音がする。


(わわわっ、静かに、静かにして見つかっちゃう!)

 と、心の中で必死に叫ぶが音は他人には聞こえないのか男達が戻って来る気配はない。

 ホッとしながらウィンドウを見ると【隠密LV1】を獲得しましたと表示されていた。

 どうやら身を隠しながら動いていたのが良かったらしい。


 他にも役に立ちそうな【技能】が早く欲しい物だ。


 しかしそこで、でもと思う。


(さっきの声の男達はファトラって言ってた。ファトラって私達の種族名だよね。つまり私達を狙ってる?)

 同時に人間に襲われ傷だらけになっていた母狐猫の姿が思い浮かぶ。


(此処から巣穴まではかなり距離があるけどまだ小さい私でも来れる場所、つまり、あそこはもう危ないのかも知れない)

 そう思うとブルリと体が震えた。

 でも、母狐猫はまだあまり動けない。

 他に安全な場所も分からない。


 どうしようと思いながらもどうしようもなく私はまた兎を狩って巣穴へと帰って行った。


「ミィミィミミィミィ」

 伝わるかどうか分からないがこの場所がもう危険かもしれないという事を母狐猫と兄弟姉妹達に伝える。

 しかし、兄弟姉妹達は分からないようでコロコロ転がり、母狐猫は何か考えるそぶりを見せた後にペロリと私の顔を舐めてきた。

 何となく後数日だけ大丈夫ならそれでいい。

 そうしたら満足に動けるようになるから移動しよう。

 そのように言ってる風に感じられた。


 ならば大丈夫かと私も安心した。

 そして母狐猫に甘えて引っ付き温もりを感じながらゆっくりと休んだ。


 翌日は過去最高で兎を四匹狩ることが出来た。

 加えてまたLVUPのオマケつき。

 【爪攻撃】と【牙攻撃】のLVも上がった。

 数値は―


【名前】無し


【種族】ファトラ


【位階】零


【LV】2 → 3


【気力】11 → 13


【理力】10 → 12


【霊力】14 → 17


【魔力】18 → 21


【SP】1514 → 1515


【技能】【牙攻撃LV3】【爪攻撃LV3】【隠密LV1】【翻訳LV10】


 ―と、なった。

 ふふふ、母狐猫の牙城を崩すにはまだほど遠いだろうが着実に一歩一歩進んでいるのではなかろうかと思えた。

 ついでに不思議な事に何時の間にか【気力】と【理力】が1ずつ上がっていた。

 LVUP以外でも上がる条件があるようだ。

 技能は増える事は無かったちょっと残念。


 兎も角、成果はホクホクだ。

 久々に皆が一杯に食べられゆっくりと休むことが出来た。


 そう家族五匹揃ってゆっくりと―


 翌朝、まだ早い時間に私は目を覚ました。

 嫌な臭いが漂って来ていた。

 母狐猫も気付いたようで臭いの元に目を向けている。


 私達の巣穴の出入り口の一つから煙が入って来ていた。

 煙?!火!倒木が燃やされてる?!


 私は慌てた。

 兄弟姉妹達も目を覚まし騒ぎ出す。

 私達は急いでもう一方の出口へと走り一番速かった私が外へ飛び出て続いて兄弟姉妹が追って―私達は網に囚われた。


「やったぜっ!まだ生きてるファトラのガキだ!こいつは高く売れるぜ!」

「親をやってから時間が経ってるから死んでるかもと思ったが儲けものだな!」

 男達の声が聞こえる。

 先日、私が聞いた男達の声だ。

 網の中から見回すと全部で十人以上の数が居た。


 私は、兄弟姉妹は必死に網に牙と爪を突き立てるがビクともしない。


「おい、見ろよ。真っ白いファトラが居るぞ。コイツは希少種だ。一際高く売れるぞ!」

「おおお、やったな!儲けもんだ。これだから密売は止められねえ」


 違う、私達は売り物なんかじゃないっ!

 出せっ!此処から出せっ!


 ―と、「ミィミィ」泣き叫ぶが男達に通じる訳もなく私達はそのまま運ばれそうになる。


 そこへ巣穴から最後に飛び出してきた母狐猫が襲い掛かった。


「なっ?!ぐわぁぁぁぁっ!!」

「何だと、アレだけ重傷を与えた筈なのに何で生きてやがんだ!」

 腕を嚙み付かれ、体を爪で引き裂かれ男達が狼狽する。


 母狐猫が私達を助けようと網を持った男に向かって走って来る。


 だが――矢が飛んだ。

 巣穴の反対方向に控えていた男達が一斉に射った矢が母狐猫に次々と突き刺さる。


「ミギャァァァァァッ!!」

 母狐猫が絶叫を上げる。


「ミィィィィッ!!」

 私達兄弟姉妹の声も響き渡る。


「まったく、死んでると思ったのに、成体になったファトラは人には懐かねぇからな。要らねーんだわ。お前等、今度こそキチッと片を付けとけ」

「はいっ!」

 槍や剣を手に倒れた母狐猫に男達が近付いていく。


 私は必死に声を上げた。


「ミィミィミィミィミィッ!」(止めて、やめて、ヤメテッ!)

 しかし願いは通じない。

 間合いがドンドン狭まる。


 何か無いか、何か無いかと必死に考える。


(ステータス・オープン)

 ブゥンとステータス画面が開かれる。


(位階UP、LVUP、気力UP、理力UP、霊力UP、魔力UP、技能習得。何か、何か、何でもいい、技能【爪攻撃】LV上昇)

 手当たり次第に思いつく限りを願っていくだが、反応は帰ってこない。帰ってこなかった。―たった一つを除いて。


『技能【爪攻撃LV3】を【LV4】にするにはSP4が必要です。使用しますか?』

(!はい、直ぐに続けてLV5にLV6にLV7にLV8にLV9にLV10にっ!)


『技能【爪攻撃LV4】を【LV5】にするにはSP5が必要です。使用しました。技能【爪攻撃LV5】を【LV6】にするにはSP6が必要です。使用しました。技能【爪攻撃LV6】を【LV7】にするにはSP7が必要です。使用しました。技能【爪攻撃LV7】を【LV8】にするにはSP8が必要です。使用しました。技能【爪攻撃LV8】を【LV9】にするにはSP9が必要です。使用しました。技能【爪攻撃LV9】を【LV10】にするにはSP10が必要です。使用しました。【爪攻撃LV10】が【猛爪攻撃LV1】に進化しました』


 その音声を聞くや否や私は全力で爪を振るった。

 先程までまったく傷一つ付けられなかった網が容易く切り裂かれる。


「は?」

 男の間抜けな声が聞こえるがそんなモノは無視だ。

 兄弟姉妹達も網から解放されて散り散りに逃げる。

 一方で私は母狐猫の元へと全速力で駆けつける。


「馬鹿っ!何やってんだ網を手放しやがってっ!」

「手、手放してない、そいつが、其処の白いのが引き裂いて…」

「んな馬鹿な話があるかっ!猛獣捕獲用の網だぞ!ファトラの幼体如きにそんな力が…」


「ミィィィィィィッ!!!」(母狐猫から離れろをぉぉぉぉっ!!!)

 今にも母狐猫にトドメの槍を突き刺そうとしていた男に向かって私は全力で爪を振るった。


 ズバンッ!


 凄まじい音が響いた。

 見ると男の金属鎧に私の爪痕とは思えない程の巨大な切り裂き跡が残り男は倒れ伏していた。


「な、何だ、コイツ」

「気を付けろっ!只のファトラの幼生体じゃないぞ!」

 男達が私に対して警戒を強める中で私も「フシャーーーッ!!」と全身の毛を逆立てて男達を威嚇した。


「くっ、何とか生け捕りにしろ、希少種の上に変異種だ!とんでもない額になるぞ」

「だ、だが、リーダー、命あっての物種だ。こんな危険な奴は此処で始末しといた方が…」

「それでもやるんだよ!その為に手前等は集められたんだろうがっ!」

「シャーーーーッ!!!」

 声を上げて私はそのリーダーだという男に突っ込むアイツを倒せばこいつ等は瓦解するかもしれない。

 そう思っての行動だった。

 其処で男は想像だにしてなかった行動を起こした。


「ちっ、ほらよっ!」

「へっ…リーダ…ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」

 右隣に居た男を自分の盾として引き寄せた後に私に向かって突き飛ばしたのだ。

 猛爪攻撃は男を切り裂き目測と目標を見失った私は慌てて急制動を掛ける。

 そこへリーダー格の男が手にしていたハルバードが叩き付けられた。


「ミギャァァァッ!!」

 直撃こそしなかったモノのまだまだ軽すぎる私の体はその衝撃波で吹き飛ばされる。


 油断していた。

 私なんてまだまだだった。

 幾ら猛爪攻撃を獲得したと言っても体はホンの数十グラムの小さなモノでLVはたったの3、【気力】や【理力】もやっと二桁、【技能】だって三つしかないのだ。

 攻撃が通じるからとマトモに戦える訳が無かったのだ。


 吹き飛ばされた衝撃で体中が痛い、痛い、痛い、痛い。

 立ち上がれない。


「へっ、コレで俺も大金持ちだな」

 そう言いながらリーダー格の男が私に手を伸ばす。


 嫌だ、否だ、イヤだ、いやだ、悔しい、口惜しい、くやしい。


 そう思っても体はまだ思うように動いてくれない。

 涙が溢れそうになる。


 そこへ―


「フギャァァァァァァァッ!!!」

「なっ?!」

 母狐猫が立ち上がり男へと襲い掛かった。


 もうボロボロで動けない筈なのに、それでも母狐猫は男に立ち向かっていった。


 そしてその目が言っていた。


(いけ)

 と。

 見回すと網から逃げ出せた兄弟姉妹達がまた捕まっていた。

 もう助け出す術もない、唯一、只一人助かるのは、逃げ出せるのは私一人で――


「……ミィ…」

 イヤだと言うように弱々しく啼くが母狐猫はもう此方を見なかった。

 只、目の前の男を見据える。


「死にぞこないが、邪魔しやがって…手前等、やっちまえっ!!」

 言いながら男もハルバードを母狐猫に向かって振り下ろす。

 それを母狐猫は躱すがまた矢が襲い掛かる。

 走り抜けて躱すが何本かが刺さる。

 それでもリーダー格の男を狙うのをやめない、止まらない。


 私が逃げ出すまで――



 私は振り返らずに痛む体に鞭を打って走り出した。


 母狐猫から、兄弟姉妹達から、家族達から背を向けて――


「あっ!くそっ!おいっ!!逃がすなっ!!」


 男が叫ぶが私は振り返らない。


 走り続ける。


 泣きながら疾走する。


 今日という日を私は決して忘れない。


 この二度目の―いや、新しい狐猫生で家族と言う温もりを失った日を決して…

狐猫の小話

綿猫ファトラは本来ちゃんと夫婦で仲良く子育てします。

父狐猫が居ないのは妊娠中の母狐猫を護って人間に狩られた結果です。

父狐猫も偉大でした。狐猫は知りませんが…

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[良い点] ものすごく、泣いた。 [一言] C級師匠をランキングで見かけて来ました。 こっちもすごく好きな導入です。
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