表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐猫と旅する  作者: 風緑
28/166

第028話 ダビートの災厄、本気の聖女?


 私はもっと―――楽しい時間を皆と笑い合って居たかった。


 そう思った所に背筋をゾクリと震わせる気配がした。

 近付いてくる。


 何時か感じた、いや、最近は何時も感じてるあの気配。

 それが凄まじい速度で近付いてくる。


 当時よりなお早い。

 当時よりなお強い。


 それが走って来る。

 そして巨大な【水晶息吹】が放たれた。

 【大結界】に当たる。


 貫いてくる。

 死が連想される。


 其処に更に速度を上げた真っ白い、真っ白い、真っ白い、真っ白な光が飛び込んでくる。

 爪が振り下ろされる。

 斬撃が飛ぶ。

 それが巨大な【水晶息吹】を粉々に打ち砕いた。


 そして私を護る様に目の前に立ち、全身の毛を逆立て大きな尻尾を膨らませたのは、純白のファトラの幼生だった。


「ミィーーーーーッ!!フシャーーーーーッ!!」

 そう鳴いて白いファトラの幼生は水晶大亀アルケイロンに突っ込んだ。


「いけない、待ってーっ!」

 止めようとするが止まらない。

 白い獣は怒っている。


 しかしこの大広間には【狂乱草】の煙が充満している。

 あの子まで【狂乱】状態になってしまう。


 私の【大結界】の鎧も穴が開いている。

 【狂乱草】の煙の侵入を防ぐ為に張り直す。


 大広間は既に二大魔物の決戦場だ。

 水晶大亀アルケイロンの吐く【水晶息吹】とあの子が放つ爪の斬撃、牙の攻撃、何故か巨大化したり、伸びたりする尻尾の攻撃?が飛び交う。

 私など巻き込まれれば命はない。


 水晶大亀アルケイロンは最早、私など興味が無いのか襲って来るあの子に夢中だ。

 一方であの子はまだ理性が残っているのか【狂乱】状態になりながらも私を護る様に立ち回ってくれている。


 ならば私にはまだ出来る事があるっ!


「この場は任せますっ!頑張って下さいっ!」

 そう言ってあの子に【光輝】を掛ける。

 私が死ぬか気絶するまでステータスが倍化する【恩恵ギフト】光があの子を包む。

 あの子の攻撃力と速度が跳ね上がる。

 水晶大亀アルケイロンの本体は傷つけられないようだが背中の水晶―アムディの聖石を砕く。


 アレはとてつもなく固い筈なのだがと思いつつ、自身に【技能】【加護】と【祝福】を使い、更に【恩恵ギフト】【光輝】を掛ける。

 そして出口に向かって真っ暗な洞窟を駆けた。


 元々、一本道だ。

 迷う事も、運よく転ぶ事も、躓く事もなく洞窟を抜けた。


 其処には誰も居ない。

 騎士達4人は、リーレンはノーザン様は此処まで案内をして下さったノース様は無事にダビートへ危機を報せられただろうかと思う。


 兎も角、急がなければと思い私は山を駆け下り始めた。

 岩山を半分程降りた所で、ズシンッ!と言う音と共に山が大きく揺れた。

 疲労もあってふらついていた私は山道から足を踏み外す。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 叫び落ちる私。

 ゴロゴロと転がり落ちて地面に落ちる。

 幸い【大結界】と『地獄毒蛾ヘルモスのローブ』のお陰で傷一つない。

 そして幸いな事に直ぐ傍にダビートの街への門。

 大幅なショートカットに成功したようだ不幸中の幸いですね。

 と、思う。


 だがさっきの激しい揺れは何だったんだろうと考える。

 原因は直ぐに分かった。

 街に降り注ぐ水晶の矢【水晶息吹】水晶大亀アルケイロンが外に出たと悟った。


 あの子でも広間に釘付けは出来なかった様だ。

 間に合わなかったと思った。

 偶に自分にも振って来る【水晶息吹】を【大結界】で防ぎながらそれでも私は街の中心、目的地である水晶大亀アルケイロンの大水晶目指して走った。


 降り注ぐ水晶の雨、砕ける家、傷付く人々、それでもと惜しみなく【治療】と【月光】を使い癒す。

 だが、消耗が半端ない、今にも倒れそうだ。

 加えて【治療】【月光】が効かない者も居る。

 死んだ者、【命数】が尽きたの者だ。

 【命数】とは個人、個人で違い、回復魔導を受けられる回数の差だ。


 基本的には1人が数百から数千、ステータスにも表示されないので分からない。

 歴史上には10回だった何て人もおり、神が定めた寿命の一つと考えられている。

 【命数】が尽きた者が年寄りに多いのも証拠だ。


 そして逃げ惑う人々に混ざって走って、走って、走って目的地である、中央広場―水晶大亀アルケイロンの大水晶の前、巨大なアムディの聖石の前に立つ。

 これから自分が行う事は酷く体力を使う。

 僅かながらも回復しようと懐の小容量の【魔導袋】から水を取り出し、乾ききっていた喉を潤す。

 一息つき、深呼吸して息を整える。


 そして『アストラーデの宝玉』が嵌った『アストラーデの聖杖』を水晶大亀アルケイロンの大水晶触れさせる。

 私にはまだ秘密がある。

 リーレンにも言ってはならない秘密。


 それを知るのは大聖女様と聖王陛下、後は数人だけだ。

 だが、事が此処に至っては惜しまない。

 繋がった『アストラーデの宝玉』が嵌った『アストラーデの聖杖』と水晶大亀アルケイロンの大水晶。


 『解放』…『同調』…『接続』…『吸引』…水晶大亀アルケイロンの大水晶は長らくこの地に安置されていたからか、地中の『地脈』『霊脈』『龍脈』と繋がっている。


 幸いだ。

 無尽蔵に【霊力】と【魔力】を吸い上げれる。


 私の体力が続く限りだが――そして力を行使した。







「狂乱状態になった水晶大亀アルケイロンが襲ってくるだと?!」

 緊急事態だと執務室に突撃してきたリーレン・メスラ護衛騎士とノーザン・バレー騎士隊長を私は怒鳴りつける。


「はい、ですから今すぐに住民に避難勧告を」

「貴様等の仕業かっ!」

「……はい、申し訳ございません」

 項垂れるリーレン・メスラ護衛騎士とノーザン・バレー騎士隊長を睨む。


 だが、分かっている。

 知っている。


 彼等―彼女等の責任ではないと、今の大聖女候補一位には疑問があった。

 突然の平民の抜擢、シャリス公爵家との養子縁組、一気に他を飛び越えての大聖女候補一位。


 疑うな、謎に思うな、疑問視するなと言うのが無理だ。

 調査させた。

 娘、聖女シャルにも連絡をするように文を送った。


 結果は先日の晩餐の通りだ。

 散々なモノだった。


 この少女は聖女足り得ないと思った。


 だからロズベルト大神殿長の誘いに乗った。


「聖女セアラを任務としてそちらに送るので失敗させて順位を落とさせる協力をして欲しい」と―


 ロズベルトは好きではない。

 権力、金銀、女性と欲に塗れた男だ。

 だが――使える。

 才能はある。

 長年、多くの大聖女を輩出してきたダーリントン伯爵の人間なのは違いない。


 だから乗った。

 あの余りに文武不相応な聖女を蹴落とす為に、なのに――


(奴はダビートを滅ぼす気かっ!)

 怒りが込み上げる。

 迂闊に乗った自分の失敗だ。


 何とかしなくてはならない。


「兎も角、屋敷の全ての人間を集めろ北区の住民から避難させる。貴方方にも手伝ってもらうぞ」

 リーレン・メスラ護衛騎士とノーザン・バレー騎士隊長に言うとハッと礼を返した。

 そこでふと疑問に思った。


「セアラ・シャリスはどうした?」

 聖女と言う尊称は付けない。

 ふさわしくないからだ、そうするとリーレン・メスラ護衛騎士が口を開いた。


「聖女様は水晶大亀アルケイロンを足止めする為に一人、残られました」

「は?」

 思わず言葉が口に出た。

 何を言ってるんだリーレン・メスラ護衛騎士は?と思った。


 【LV】も低く、ステータスも低い、【恩恵ギフト】だけで【技能】にも恵まれない。

 そんな少女が一人で狂乱状態になった水晶大亀アルケイロンの前に残った?

 嘘も大概にしろと思った。

 だがその顔は至極、真面目で嘘を言ってる気配はなく――


「…まぁ、良い。直ぐに向かうぞ。説明を行う。エントランスホールに全員を集めろ」

 そして全員に説明を行う。

 水晶大亀アルケイロンが目覚めた事、狂乱状態になっている事、北区から順次避難誘導を行う事だ。

 皆が顔色を変える。

 続いて響いた私の―


「急げっ!」

 の声に全員が屋敷を出ようとする。

 だが、次の瞬間に凄まじい揺れが館を襲った。


 何人かが慌ててその場に座り込む。

 調度品が床に落ちる。

 シャンデリアが揺れる。


 私も立っていた階段の上から落ちそうになり執事のガリーに支えられる。


「旦那様」

「大丈夫だ、全員っ!直ぐに外へっ!」

 そして使用人達は外に出て、私も続く。

 そこで見てしまった。

 水晶大亀アルケイロンを、洞窟を抜けてしまった。

 外に出てしまった。


 間に合わなかったと悔恨が襲う。

 【水晶息吹】水晶の矢が街に降り注ぐ。


 水晶大亀アルケイロンの周りを小さな白い点が飛びまわっている。

 必死に【水晶息吹】を迎撃しているようだが大きさと数が違い過ぎる。


 三分の一程しか落とせていない。

 多くが街に降り注ぐ。


 だが諦めてはいけない。


「全員っ!今直ぐ動けっ!一人でも多く民を救うのだっ!」

 叫ぶ。

 皆が動き出す。


 そこへ――


「旦那様っ!」

 ガリーが声を上げる。

 何かと思い振り返り見てしまう。


 正に自分を狙って貫こうかと言う水晶の矢。


 あんな物から身を守る【技能】など持ってない。

 迎撃できるステータスもない。


 しかし、こんな所で私は死ねない。

 指揮する者が居なくなれば被害は更に広がる。


 なのに―

 避けられない―

 死――


 そう思った瞬間、傍にあった塔が倒れてきた。

 同じく【水晶息吹】で倒壊した塔が私を貫く筈だった矢を巻き込んで倒れ軌道を逸らす。


 結果、私を貫く筈だった矢は当たらず、倒壊した塔の破片で傷を負った者も居なかった。

 奇跡だと思った。


「旦那様、急ぎ移動を南区なら安全です。其処から指示を」

「分かった、急ごう」

 そう言って駆けだす。

 逃げ回る人々が多い。

 馬車や馬は使えない、自分の足で走るのみだ。


「しかし先程は幸運でしたな。旦那様の日頃の行いでしょうか?」

「そうかもな」

 九死に一生を得て余裕を覚えたのかガリーが軽口を叩き、私も笑って返事をする。

 そこでふと心に思い浮かぶ事があった。


『どうか【祝福】を与える事をお許しください』

 あの少女はそう言って私に聖女の【技能】【幸運】を使った。


『残りは善行で【SP】を貯めて【幸運】は【祝福LV5】、【障壁】は【大結界】まで強化を…』

『【幸運】を【祝福】に?運が上がるだけと言われる【技能】など気休めにすぎん』

 【祝福】にまで上げたと言う少女に運など気休めだと言った。

 だが今、運に救われた。

 まさかと思いながら私の心に何か思うモノが出来た。


 走って中央広場まで来た時にその少女を見つけた。

 セアラ・シャリス。

 何だやはり逃げているでは無いかと思った。

 あの護衛騎士は嘘を吐いたのだと悟った。


 立ち止まった私を見て「旦那様?」とガリーが呟くがセアラを目に止めて「ああ」と納得した。

 その間もダラダラと汗を流しながら少女は手にした杖を水晶大亀アルケイロンの大水晶に押し付けて小声で何か呟いている。


 無視して先に進もうとした瞬間、声が響いた。


「【大結界】」


 その言葉と同時に巨大な黄金の壁が北区全部を覆った。

 そしてそれは水晶大亀アルケイロンの【水晶息吹】を完全に防ぐ。


 私は呆然とした。

 どれほどのステータスが有ればこんな真似が可能なのかと、余りに低い【LV】、弱いステータスでは無かったのかと思った。


 続けて倒壊した建物に次々と光が降り注ぐ。

 少女の【恩恵ギフト】だ。

 死に掛けの者すら癒すと言う。


 現に倒壊した建物から男性が這い出て来る。

 何が起こったか分からないと言う表情だ。


 それを見て私は心を決めた。


「ガリー、緊急対策支部は此処に設置する。準備を急がせろ」

「旦那様っ?!しかし…」

「聖女様をお一人には出来ん」

「!分かりました」

 返事をして早速準備に入るガリー。


 ああ、認めよう。

 今更だが私は間違えていたと、見る目が無かったと、この方は立派な聖女だと、私は認めた。







 目を瞑り念じてる間にも【恩恵ギフト】の【神眼】は情報を教えてくれる。

 遠く戦うあの子と水晶大亀アルケイロンの事も、でも劣勢の様だ。

 手が足りない。


 吐き出される散弾の様な【水晶息吹】の対処に手が回らない。

 一撃で数個が限界の様だ。


 でも、あの子は大丈夫。

 絶対に大丈夫。

 心配なんか必要ない。


 一瞬、動きを止めた後、攻撃の威力が跳ね上がった。

 数本の【水晶息吹】を一撃で吹き飛ばす。


 そこで私の準備も終わる。


「【大結界】」

 巨大な硬い壁を作り出す。

 もう被害者は出さない。


 更に吸い上げた力でまだ生きている怪我人が居る建物に【恩恵ギフト】の【月光】を連続して放つ。


 余りの負荷に倒れそうになる。

 でも耐える。

 耐えて見せる。


 まだまだ頑張る。


 私は皆を護る聖女だっ!


 其処で気付いた。


 【水晶息吹】が止まっている。


 あの子が何かした?


 だけど油断はしない。


 何時、次が来るか分からない。


 力の気配は弱まっていない。


 10分程途切れていただろうか?


 【水晶息吹】が再び襲ってきた。


 【大結界】が弾く、あの子もまた迎撃する。


 だがあの子の力の気配が変わっていた。


 まるでコロナがプロミネンスを纏うように、太陽が火柱を上げる様に、太陽の輝きが燃え盛っていた。


 あの子の攻撃が激しさを増す。


 次々と【水晶息吹】を撃墜する。


 遂には吐き出された全てを撃ち落として見せた。


 そして――


 ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!


 と、言う凄まじい音が響きダビートの街を突風と衝撃波が襲う。


 私はもうそれに耐えられず、杖を手放しコロコロと地面を転がる。


 繋がりも途絶え【大結界】が消滅する。


 でもあの子が何とかしたみたいだ。


 【水晶息吹】は飛んでこない。


「聖女様っ!」


 リーレンの声が薄れ行く意識に聞こえる。


 よかった、私は約束を護れたみたいだ。


 そしてありがとう小さな、小さな、お友達、貴方のお陰で私は助かった。


 閉じようとする意識の中で私はリーレンに抱き上げられ運ばれるのを自覚した。


 消えそうになる意識の中で私は呟く――ねぇ、リーレン…だから言ったでしょう?あの子は本当の本当の本当に恐いんだって――

狐猫の小話

ダビートの街の結界は中に水晶大亀アルケイロンの住む岩山を含んでいたので攻撃を防げませんでした。

外だったら防いでます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 悪巧みは持ちかけるやつが最も利益を上げるために仕組むのですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ