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狐猫と旅する  作者: 風緑
24/166

第024話 到着、そして目覚めるモノ?


 ダビートに到着した。

 道程は13日だった。


 街はアストラリオン程では無いが壁に囲まれており栄えていた。

 テレスターレ聖国の北東端と言うからもっと寂れた印象を抱いていたが全然違った。


 聖女の来訪という事で門で並ばされる事もなく、街へ入る。

 街の中は集合住宅の様な物はなく一軒家ばかりで住民も裕福に見えた。


 馬車が街路を行くと「聖女様の馬車だー」「聖女様ー」と声が掛けられるがセアラが顔を見せると不思議そうな顔をする人が殆んどだ。

 セアラの事がこの街にはあまり知られて無いのかな?と思う。


 対して私は大人気だ。

 狐猫をダメにする巣箱は片付けられ私は馬車の屋根の上で堂々としている。


「白いファトラだー」

「綺麗」

「可愛い」

「フワフワだー」

「愛でたい」

「あれ?尻尾が二本ある?」

 等々と色々だ。


 ふっ、存分に私の可愛さに参るが良い。

 そして必ず【聖歌】を歌って貰おうと考える。


 馬車が街の中央広場に到達した。

 其処で私は目を疑うモノを見た。


 馬鹿デッカイ水晶である。

 10メートルは有に在ろうかと言う卵型のそれは堂々と街の中心に鎮座していた。


 【鑑定】の結果は『水晶大亀アルケイロンの大水晶 水晶大亀アルケイロンの背中に生える水晶 価値金板50枚』とある。

 これが今回の目的である推定B級の災禍ルインで最悪S級の天災カタストロフな魔物の水晶大亀アルケイロンの物かと思うと背筋が震えた。


 呆然と私がそれを眺める中、馬車は進んで行く。

 絶対に水晶大亀アルケイロンと戦ってはダメだと改めて思った。


 馬車は進み街の一番奥にある領主邸へと入った。

 玄関前に馬車が止まると扉が開き如何にも執事さんと言う男性と数名のメイドが降りてくる。


 セアラとリーレンさん、騎士達も馬、馬車から降りて出迎えに相対する。

 一方で私は馬車の屋根の上のままだ。

 ジッと様子を俯瞰する。


「ようこそお出で下さいました。聖女様、スコート侯爵家の執事を務める。ガリー・レバンと申します」

 【鑑定】の結果表示。『ガリー・レバン 47歳。執事。男性』

 【LV】UPの影響か見られる情報が増えていた。

 見れば解る情報だけどな、そう思いながらも他のメイドさんも鑑定する。

 流石に怪しい人物は居ない。

 歓迎されてる雰囲気でも無いけどなと思いつつガリーさんを見る。


 礼儀正しい態度だが歓迎してませんオーラをひしひしと感じる。


「ミィィン」

 と、鳴いて悩殺ポーズの一つを取ってみる。

 一瞥されただけで終わった。


 馬鹿な、効果が無いだとと驚愕する。

 メイドさんには「可愛らしい」「美しい」と小声が聞こえ評判の様だがガリーさんには効果が無い様だ。


 男性には効果が薄い様だと思いながらならばとクルクル、シュタンッ!と回転して馬車の屋根から飛び降りる。

 芸と思われたのか(実際に芸だが)メイドさんがパチパチと拍手してくれる。


 【鑑定】の結果で名前とか丸わかりだけど一杯居そうなのでメイドさんで統一だ。

 メイドさんの評価に満足しつつガリーさんを見るが一瞥だにされていなかった。

 強敵だと感じる。


「では館に入って旅の疲れをごゆるりとお癒し下さい。晩餐には当主が聖女様と同道の騎士さまとお会いになられます」

 そう言って先に立って歩き出す。

 セアラとリーレンさん、ノーザンさん他、騎士さんが付いて行く。

 私は最後尾を行く。


 周りをメイドさんが囲んでる。

 何かのプロっぽい動きだ。


(訓練されてる?)

 何となくそう感じる。

 メイドさんに見えて冥途さんな感じだ。


 色々と注意を払いつつ、私達はスコート侯爵家の屋敷に入った。


 寝室に通された。

 広い、私とセアラとリーレンさんの一匹と二人部屋だ。

 普通に二人部屋ともいう。


 狐猫をダメにする巣箱が設置され私を見てガクブルするセアラから身を隠す。

 落ち着いたようだ。

 話し声が聞こえる。


「…やはり歓迎されてる雰囲気では無いですね」

「聖女様…」

 セアラの沈痛そうな言葉にリーレンさんが敬称で呼ぶ。


 それは私も感じた。

 やはりシャルと言う聖女が来る者だと多くの人が思ってたようだ。

 それにセアラを知らない者も多く感じた。


 初めて会った時はノーザンさんもそうだった。

 第一位の聖女って大聖女の次に有名なんじゃないの?と思う。


 だがセアラは若い。

 まだ11歳だ。

 聖女第一位になって日が浅いのかも知れない。


 しかしそうなると別の疑問が出て来る。

 そんなポッと出の若い聖女にいきなり第一位の称号を与えるか?と言うモノだ。


 聖女候補生にはセアラより年上も一杯居た。

 同年代も居た。

 年下も居た。


 なのに第六位の聖女とかから上がって行くのでなくいきなり第一位の聖女になった様に思えるセアラ。

 確かノーザンさんの部下の騎士も言っていた「成り上がりの聖女」と、何だろうコレは、何なんだろうコレはと思う。


 だが情報が足りない。

 余りにも知らない事が多すぎる。


 神殿内でもセアラの陰口を聞く機会は多かった。

 だけどあんまり気にしなかった。

 やっかみかなぁと思っていた。


 もっと注意して調べて置くべきだったかもと今更になって思う。

 知る必要が在ったと後悔する。


 だけどもう遅い。

 遅すぎる。


 これから知って行くしかない。

 そう思いながらセアラとリーレンさんの会話に耳を傾ける。


「どう考えても皆に聖女シャルではなく私が来ることが隠されていた節があります。神殿長ロズベルト様のお考えでしょうが…」

「あの方は何としても聖女様を次期大聖女候補第一位から引きずり降ろそうとお考えのようです。自らの娘である聖女第二位のシャーロットを一位に戻そうと…これまでとてそうでした。あのダスド帝国騎士の襲撃にも関与したと噂が在ります。決して油断できないお方です。何をして来るか分かりません」

「その様な噂が?」

 私とセアラが出会う経緯となったあの襲撃事件、あれにもガマガエル神殿長が係わってる可能性があると知らされてセアラが驚きの声を上げる。

 うん、本当にあのガマガエル神殿長ならやらかしていても不思議は無い。


 それにしてもセアラが第一位になるまでガマガエル神殿長の娘が第一位だったのか、きっと高飛車で高慢ちきな性格に違いないと想像する。

 多分、間違ってないと思う。

 しかし、私と出会う以前にもやらかしていたのね。

 己、許せん。

 ガマガエル神殿長めっ!帰ったら【大尻尾攻撃】で引きずり回しの刑だと心に誓う。


「領主邸内にも私に対する悪意と敵意が満ちて見えます。……説得はやはり難しいかも知れません」

「……そうですか」

 それってセアラが持つ【技能】を超えた【恩恵(ギフト)】って力の効果でしょ?

 確か【神眼】と言う。

 でもそれってきっと当てにならないよと突っ込む。

 私ってばこんなに人畜無害なのにっ!人畜無害なのにっ!人畜無害なのにっっっ!(大変、大事な事なので何と三度も言いました)

 その【神眼】を通すと物凄く恐い存在に見えるんでしょう?

 絶対に不具合だと思う。

 若しくは迷惑な神様のイタズラだと思う。

 出ないとこんなに愛らしい狐猫が化け物に見える筈ないと言いたい。


「それでも何とか頑張ってみます。絶対に諦める訳には参りませんから」

「……畏まりました」

 セアラのその言葉を最後にリーレンさんが満足気に、嬉し気に、誇らし気に返事を返した。


 絶対に諦めないか…

 その言葉がセアラらしいなと思えた。

 この弱そうな少女は強い。

 固い、折れない、曲がらない芯の様な物がある。


 結構、その場、その場でブレる私の野生の掟とは大違いだ。

 だからそんな強い少女を見ていたい。

 護りたいと思ってしまう。


 そして二人の話は難しい物からこの街に入って見た物、暮らしていた人々についてと言った他愛無い物に変わる。

 特に話題の中心は街の中央で見た、水晶大亀アルケイロンの大水晶だった。

 恐ろしいと思ったがそれ以上に神々しく、美しく、綺麗だったと話す。


 私はそんな事は全く思わずにコエー、戦えねーとしか思わなかった。

 魔物として戦闘中心に脳が毒されているのかも知れない。


 そんな二人の何処か年相応な話を聞きながら私は狐猫をダメにする巣箱の中でコッソリと悩殺ポーズの練習をするのだった。


 そして暫く時間が過ぎて部屋の扉がノックされてガリーさんが「晩餐の準備が整いました。ご案内いたします」その言葉に私は巣箱から出てセアラとリーレンさんは立ち上がった。


 戦闘ではないが戦いだっ!と気合を入れた。


 晩餐に招かれたのはセアラとリーレンさん、ノーザンさんの三人と私の一匹だった。

 狐猫が入って良いのかな?と今更になって思うが招かれたのだ。

 良しとしよう。


 入り口でリーレンさん、ノーザンさんは腰の剣をメイドさんに預ける。

 うん、武器の持ち込みは禁止だよね。


 でもセアラの杖は預けられなかった。

 不思議だなーと思った。


 後で知ったが聖女の聖杖は常に聖女と一緒。

 他の者には触らせられない、触れないそうだ。


 部屋に入る。

 デカすぎるテーブルに三人の人物が座っていた。


 真っ正面に座るのが、【鑑定】の結果表示。『ヴァン・スコール 37歳。侯爵。男性』隣が『ロビン・スコール 14歳。侯爵家長男。男性』更に隣が『ディア・スコール 34歳。侯爵夫人。女性』だった。


 侯爵であるヴァンさんが立ち上がり歩いてセアラの前に膝をつく。

 え?侯爵ってかなり偉いよね?それが膝をつくって聖女ってそんなに偉いの?と驚く。


「ようこそお出で下さいました。聖女様。ダビートの民を代表して歓迎いたします」

「ありがとうございます。此方こそ急な訪問に係わらず手厚い歓迎を感謝致します。どうか【祝福】を与える事をお許しください」

 そう言うとセアラは手にした『アストラーデの聖杖』を掲げた。

 部屋に黄金の輝きが満ちてキラキラとした光がヴァン侯爵に降り注ぐ。


 幻想的な光景だ。

 目を奪われる。

 美しいと思えた。


 同時に聖女の【技能】かな?

 どんな効果なんだろうとも考える。


 数十秒かけて光りが消える。


 膝まづいていたヴァン侯爵が立ち上がる。


「ありがとうございました。【祝福】感謝致します。では晩餐に致しましょう」

 そう言って席に着くヴァン侯爵。

 セアラとリーレンさん、ノーザンさんの三人も席に着く。

 私は隅っこに行ってお座りする。


 皆の前に前菜が運ばれてくる。

 私の前にはオーク肉を煮込んだらしい料理が皿に乗って運ばれてくる。


 美味しそうだ。

 だが、しかし、このオーク肉は私が狩った獲物だろうかと悩んだ。


 ジーとリーレンさんを見る。

 視線に気付いたリーレンさんが此方を見て頷く。

 どうやら私の獲物らしい。

 何時の間に渡してくれていたのだろう?

 兎も角、ならば迷う必要はない。


 いったっだっきまーすっ!


 私は肉に嚙り付いた。

 ホロホロだった。

 フワフワだった。

 トロトロだった。


 肉とは此処迄も美味くなるのだと初めて知った。

 幸せじゃーっ!

 叫ぶ。

 最高じゃーっ!

 呻る。


 隣ではセアラ達がマナーにのっとって行儀よく食事している。

 だが野生な此方にはそんなものない。

 バクバクと食べる。


 至高じゃーっ!

 最後に吠えた。


 隣では「これはどこどこ産のなになにの野菜です」とか「これはどこどこ産のなになにのスープです」とか「これはどこどこ産のなになにの魚です」に「これはどこどこ産のなになにのお肉です」と料理が運ばれていく。

 それを綺麗な姿で優雅に食べる人達、人間って大変だなと思う。

 私も元人間だけどさ。


 私のご飯は終わったが皆の料理は続いてる。

 まだまだ時間は掛かりそうだ。


 すると私の食事の熱中具合に空気を読んでか黙っていた【検索】さんが矢継ぎ早に「コレハナニナニ」「アレハナニナニ」「ソレハナニナニ」と声を掛けてくる。

 分かった、分かったから、相手をするから落ち着け【検索】さんと念じる。

 【LV】がちょっと上がって検索さんは前にもまして騒がしい。

 狐猫が子猫にじゃれ付かれている気分だ。


 そして【鑑定】も元気だ。

 【LV】が上がって人の場合は職業と言うか身分の表示が追加され品物の場合は生産地が表示されるようになった。

 生産地なんてわかってもどうしようもないけどな。

 今も元気一杯に侯爵家の高価な調度品と生産地、価値を報せてくる。


 また【LV】が上がるのも早いかも知れない。

 そんな脳内でのドタバタをしている間に皆の食事も終わった。

 食後のお茶が運ばれてくる。


 和気あいあいとした雰囲気はお終いだ。

 さてこれからが本番だと私は気合を入れた。







 それは眠っていた。

 長く長く眠っていた。


 だがオカシイと思う。

 何時もこの時期に聞こえる【歌】が聞こえない。


 自分を幸福だった過去の夢へと誘う【歌】が

 自分を幸せだった時代へと誘う幻の【歌】が


 聞こえない。

 聞こえない。

 聞こえない。


 起きてはダメだと思う。 

 目覚めてはダメだと思う。


 眠っていれればよかった。

 只、夢の世界に居られれば良かった。


 其処には求める全てが在ったから、眠るのは苦痛では無かった。


 だが目が覚めようとする。

 瞼が持ち上がろうとする。


 現実を知れば自分は正気で居られない。

 世界にたった一匹という真実に耐えられない。


 だから動き出せば全てが憎くて恨めしくて苦しくて全てを壊してしまう。


 ああ、【歌】が聞こえない。

 【歌】が聞きたい。


 眠りたい。

 夢の世界へと―


 そう願いながらも徐々に、徐々に、確実に


 水晶大亀アルケイロンの意識は浮上していった。

狐猫の小話

立場的には聖女は公爵級の扱いです。

大聖女と候補の1位から6位までですが、かなり偉いです。

でもヴァン侯爵はこの世界で唯一のアムディの聖石が取れる土地なので影響力は国の王より上です。

怒らせるととても恐ろしいです。

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[一言] やはり修羅の国だった聖女椅子取りゲーム。 魔物という驚異を前にしても纏まれないヒューマンのあれやそれやを感じます。
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