第022話 出発と作戦会議?
大体13時頃になって扉がコンコンと叩かれる。
私は耳を立てる。
「聖女様、正門に騎士の方々が到着されたそうです。ご準備をお願いします」
来たようだ。
「分かりました。参ります」
そう言ってセアラが席を立ち、私も巣箱から出た。
「着いて来るのですか?」
それを見たリーレンさんに尋ねられる。
「ミィッ!」(当然っ!)
と、返事をすると「分かりました」と言って私の狐猫をダメにする巣箱を自分の【魔導袋】に仕舞う。
やっぱり便利だなーアレ。
しかしこれで寝床の心配は無くなった。
旅先でもお気に入りの狐猫をダメにする巣箱が使えるとホクホクだ。
因みに先程から【鑑定】【検索】さんも常時展開にした私の目にはリーレンさんの【鑑定】結果なども表示されている。
『リーレン・メスラ 17歳』
そう表示されている。
セアラは『セアラ・シャリス 11歳』だ。
ホントにまだまだ子供だった。
序でに部屋の中を見回すと置かれている品々は安物が多い。
ベッド等も豪華に見えるが【鑑定】に現れる判定金額は銀貨3枚だ。
他の品々も銅板数枚から銅貨数枚だ。
清貧と言えばいいのかもだが違和感がある。
そもそも着ている服も普段着の聖女服と正装の聖女服しか見た事無い。
聖女候補生の女の子でもお洒落してるのを見た事が何度かあるのにセアラにはそれが一切無い。
唯今着ている聖女の正装は大層にお高い。
【鑑定】『地獄毒蛾の糸で作られたローブ。価値金板10枚』
手にする杖もお高い。
【鑑定】『アストラーデの聖杖。価値金板30枚』
聖女として活動する時は高価な出立でそれ以外は余りに質素清貧。
何となく、何となく変な感じがする。
その正体を私は掴めなかった。
『セアラトリーレン、マスターノオトモダチ。オトモダチハダイジナヒト』
(そうだよ。二人はお友達。セアラには何でか恐がられるけどね)
『セアラハマスターガコワイナゼ?』
(分かんないけどセアラも良い子だから気にしない、大丈夫)
『コワガラレルリユウフメイ。セアライイコダイジョウブリョウカイ』
今まで実際に話せる相手が居なかったからか【検索】さんとの会話は楽しい。
歩いてるだけで色々と話して来るので面白い。
しかしこの【探知】【検索】【鑑定】の常時展開は意外とキツイ。
私が【並列意思】と【思考超加速】を持ってなかったらとても処理出来なかったと思う。
持ってて良かった【並列意思】と【思考超加速】だ。
そうして歩いて中庭に着いた。
其処で意外な人が待っていた。
セリアーナお婆ちゃん大聖女様だ。
「大聖女様」
そう言ってセアラは膝をつく。
リーレンさんも礼を取る。
私はお座りしている。
今更ながら、セアラも大分私に慣れたな。
視界に入るとガクブルだけど近くを歩くだけならもう大丈夫な様だ。
このまま早く慣れて欲しいと思う。
でもこの時は別の驚きで心が一杯だった。
セリアーナお婆ちゃん大聖女様の鑑定結果。
『セリアーナ・シャリス 70歳』
え、同じ苗字?二人って祖母と孫なの?
ビックリした。
二人に似た要素は無い。
セリアーナお婆ちゃん大聖女様の髪は紺色で茶色の瞳。
セアラは金髪碧眼美少女だ。
旦那さんか子供夫婦の血かな?そう思う。
でも二人の関係は何処か距離があった。
立場もあるが、それにしてもセアラはセリアーナお婆ちゃん大聖女様に甘える様子を見せなかった。
セリアーナお婆ちゃん大聖女様はセアラを可愛がってるように思えたけれどもセアラは距離を置いていた。
「大丈夫、こっそり見送りに来たから、聖女セアラ今回の任務、止められなくてごめんなさい」
セリアーナお婆ちゃん大聖女様が頭を下げる。
セアラが慌てて立ち上がりセリアーナお婆ちゃん大聖女様に声を掛ける。
「いえ、いいえ、任務を受諾したのは私です。大聖女様の責任ではございません。必ず、必ず身命を賭して任務を終わらせてきます。ですから頭をお上げください」
セアラが必死に言うとセリアーナお婆ちゃん大聖女様は顔を上げてニッコリと笑いながら「なら預けても大丈夫ね」と言った。
そして懐から黄金色の球を取り出す。
セアラの手にするアストラーデの聖杖の嵌っているのと同じ球だ。
いや違う。
【鑑定】の反応にまたビックリした。
其処には―【鑑定】『アストラーデの宝玉。価値金板100枚』―とあった。
本日最高額である。
コレって重要な秘宝なんじゃないと思う。
「これは…まさか…」
「必ず戻ると言うから貴方に預けるの、帰ってらっしゃいね。聖女セアラ」
その言葉に「はい」と返事をしてセアラは手にした杖の黄金色の球を外し、アストラーデの宝玉を嵌める。
杖の神々しさが増した気がした。
実際に【鑑定】で見ると価値が金板130枚に上がっている。
「それじゃあ、気を付けていってらっしゃい。聖女セアラ、リーレン、ファトラちゃん」
「は、はは、はいぃぃぃっ」
「はい」
「ミィ」
最後に私を呼んだ事で意識したセアラがどもったが兎も角、私と二人は神殿を後にして外へと歩き始めた。
「聖都テレスターレより参りました。ノーザン・バレーです。あの…今回はダビートにてアムディの聖石の確保任務と伺っておりましたが聖女シャル様の護衛ではないのでしょうか?」
如何にも初めて見るが誰だ?この聖女と言った不躾な視線を送って来る【鑑定】結果『ノーザン・バレー 28歳』。
おう、こら、家のセアラちゃんに文句あるのか?やったるぞこらと狐猫パンチをシュッシュッするがこの場に居る騎士5人は此方を見ていない。
「聖女シャル様は過労で療養が必要との事で代役として聖女第一位のセアラ様が赴く事となった。以降は聖女様と呼ぶように」
「は、はっ、了解しました」
慌てて礼を正すノーザンさんの後ろで部下の一人が小さく「何だ例の成り上がり聖女かよ」と小さく呟くのが【五感強化】をされた私に届いた。
成り上がり?何の事だ?と疑問に思うがセアラとリーレンさんは馬車に乗り込み他の者も馬に跨る。
私も急いで馬車の屋根に飛び乗る。
目指すはテレスターレ聖国の北東端ダビート。
「出発」
と、言うノーザンさんの声に私達は旅立った。
旅は順調だった。
町の門を抜けた所でセアラが馬達に付与を掛ける。
速度が一気に上がる。
倍程になる。
正確には【魔導】ではなくセアラ特有の恩恵と言うらしいが便利な物だ。
ダビート迄一月の道程だったがこの速度なら半月以内に付くだろうという話になった。
4時間ほど進み広場を見つけて今夜は此処で野営となった。
私の夕飯は兎肉を適当に焼いただけだった。
美味しくない。
神殿の料理人さんの腕に陥落したか?
いや、それでもガレスさんの所の騎士さんは美味しく料理してくれた。
つまりはこの部隊がダメダメって事だ。
料理一つだが先が思いやられる。
いや、食は人生の活力の源。
美味しいご飯とても大事。
三大欲求の一つと思い改める。
ノーザンさん達ははしゃいでいる。
酒を持ち込み飲んでる様だ。
良いのか?と思う。
ガレスさんの所は任務中は一滴も飲んでいなかった。
不安だ。
早速、リーレンさんが酔った騎士に絡まれた肩を触られる。
何してくれてるんじゃっ!コラーーーーーッ!!と鳴く。
「ミィーーーーーッ!フシャーーーーーッ!!」としか聞こえないだろうが鳴く。
リーレンさんは肩に回された手を払い、夕飯に戻る。
騎士も「チッ…」と舌打ちして離れる。
一安心だ。
次は私が絡まれる。
「食ってるかー」
と陽気に言われ頭を撫でられる。
「ミィミィミィ」(大変塩辛いだけのお肉ですが食べてますよ)
返事をする。
すると頭を撫でられた。
雑で乱暴な手付きだ。
セリアーナお婆ちゃん大聖女様やリーレンさん、一度だけ撫でてくれたセアラを見習えと言いたい。
こうしてみるとガレスさんのグワングワンとした撫で方も趣が在ったと思う。
次はセアラが絡まれた。
コップに入った飲み物、どう見ても酒を飲まされようとしている。
だから家のセアラちゃんにっ!何をしようと言うんじゃコラーーーーーッ!!
また「ミィーーーーーッ!フシャーーーーーッ!!」と鳴く。
強く断れないセアラが困っているとリーレンさんが出て来る。
「聖女様に何をされるおつもりですか?」
そう威圧しながら言う。
おおう、怖いよ、リーレンさん。
怒らせるとコワイと心に刻む。
騎士さんはすごすごと退散した。
流石はリーレンさん護衛騎士の鏡と称賛する。
そうこの場には護衛の5人の騎士とリーレンさん、セアラ、私の全員が揃って焚火を囲み夕食を食べていた。
セアラの精神的健康の為に私の席は離れてるけどな。
全員が集まってるのは水晶大亀対策会議の為である。
「それで聖女シャル様が居られないのでしたら誰が水晶大亀を【聖歌】で眠らせるのでしょうか?聖女様は【聖歌】をお使えに?」
訊ねてくる、ノーザンさん。
表情は不安そうだ。
「いえ、申し訳ありませんが私は【聖歌】を歌えません」
セアラがはっきり言うと騎士達に動揺が走る。
「おい、どうするんだよ?」
「たった五人だぞ?」
「五人でB級の災禍の水晶大亀を相手するって?無理、不可能だろ」
騎士達が次々に声を上げる。
うん、騎士の人数は私達も予想外だった。
会った事が無いけど聖女シャルとやらが出れないならもっと一杯の騎士さんが派遣されると思ってた。
でも来たのは何時も通りの寝ている亀から水晶を取るという任務と思ってる五人だけ。
報連相が成って無いと思った。
これもあのガマガエル神殿長の仕業か、己、ガマガエル神殿長と考える。
「あのそれではどのように採取を?」
恐る恐ると尋ねるノーザンさん。
そんな彼に凛としてセアラは言う。
「ダビートの民に助力をお願いします」
そうハッキリと言った。
私の考えた作戦と一緒だなと思う。
「何とか説得して【聖歌】を歌って頂きます」
セアラはそう言うがノーザンさんの表情は硬い。
難しそうだと思っているようだ、何、ダビートの人ってそんなに気難しいの?と私は思う。
くぅ、ならば頑張って悩殺ポーズを考えねば、あんなのが良いかな?こんなのが良いかなと考える。
『シタカラウルウルノヒトミデミアゲルノガサイキョウ』
おお、【検索】さんそれは良いアイデアだ。
採用と決める。
「そしてもしもどうしても協力が得られない時は此方を使います」
セアラがそう言うとリーレンさんが【魔導袋】からおっきな革袋を取り出して中身を取って見せる。
それは乾燥してカラカラになった草だった。
【鑑定】の結果には『魔眠草 価値銅板3枚』とある。
(【検索】さん『魔眠草』って何?)
訊ねる。
『モヤストマモノヲネムラセルケムリヲダスクサデス』
そう返事が返って来る。
成る程、【聖歌】を使う代わりにこっちで眠らせる訳ねと思う。
「皆さんが水晶大亀の周りに『魔眠草』を撒き火を放ったら私が【技能】【大結界】で水晶大亀を覆い煙を充満させて眠らせます。その隙に水晶を刈って戴ければと思います。ご協力をお願いします」
そう言ってセアラが頭を下げる。
何処かバツが悪そうな顔をする騎士達。
「分かりました。手段はそれしかなさそうだ。ご協力致します」
ノーザンさんが返事をして作戦は決まった。
コレでどうにかなる事を祈ろう。
取り合えず作戦会議はそんな感じで終わった。
狐猫の小話
【アストラーデの聖杖】の球は大聖女の持つ杖の【アストラーデの宝玉】以外は効果が無い只のレプリカのガラス玉です。
本当は大聖女以外は持つことを許されません。