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狐猫と旅する  作者: 風緑
20/166

第020話 二度目の試練、高すぎる壁?


 流石にそろそろ『試練』を受けようと思った。

 【LV20】になってからまだ小物ばかりだが結構、色々と倒している。


 何か大物に会えば【LV】が上がってしまうかもしれない。

 その前に終わらせたい。


 午後には予定の騎士達が到着するのでそれまでに終わらせたい。


 朝食後に訓練場の隅っこに移動する。

 今の今までうっとおしかった点滅ボタンを触る。


『LVが一定値に達しました。位階を上げる試練に望めます。試練を望みますか? ・はい ・いいえ』

 前に出たのと同じ表記が出る。


 迷わず・はいを選択。


 そして私は光に包まれた。


 辿り着いた先は前と違い広々とした平原でなく鬱蒼と茂る森の中だった。

 さて、何が来るかなと身構える。


『再び試練に挑む者よ。良くぞ来た』

 また声が聞こえた。

 しかし、相変わらず声はすれど姿は見えず。

 そんなに見られるのが恥ずかしい格好なのかと思う。


『この短い間にLVを上げ良くぞ。二度目の試練に挑む決断をした。汝の決意に改めて敬意を表する』

 そう思うのなら姿位は現しませんかね。

 この自称:神様と思うが相手はやはり姿を現すつもりは無いらしい。


『第二の試練は汝の壁と戦ってもらう。これは汝が目指す存在が実体化したモノである。見事、打ち破って見せるが良い』


 その言葉と同時に再び黒い靄が集まって行った。

 それは再び私の知る姿を取って行った。


「ミ…」(あ…)

 それは忘れる筈もない。

 母狐猫の姿だった。


 もう会える事は無いと思っていた母狐猫の姿。

 私の瞳に涙が溜まる。


『では試練を乗り越えて見せよ。さすれば汝には更なる力と技能が授けられるであろう。汝に再び光と闇の導きが在らんことを―』


 言葉が途切れる。


「ミギャォォォォォォォン!!!」

 母狐猫は一声大きく吠えると私に向かって飛び掛かって来た。


「ミィミ!ミィィ!」(母狐猫っ!やめてっ!)

 私は叫びながらバックステップで躱す。

 だが、直ぐに爪の追撃が来る。


 私よりも早い?それにこれ【猛爪攻撃】。


 スピードは分からないが母狐猫は【猛爪攻撃】は持って居なかった筈だ。

 強化されてると思った、前の試練の男と同じだ。


 【猛爪攻撃】が毛皮を掠める。

 血が流れる。

 【鋼体】を得ていなければもっと重傷だった筈だ。

 幸いだったと思う。


「ミィ!ミィ、ミィィミィ?ミミミミミ?」(母狐猫!やめて、私が分からないの?名無しだけどあなたの子供の狐猫だよ?)

 【空間機動】で駆け上がり避ける。

 だが木々の幹を足場に駆け上がり追って来る。

 どうやら【空間機動】は持って居ないようだ。

 しかし、速度で負けてる。


 追いつかれる。


「ミィィィ!ミィミィ!」(やめて母狐猫っ!お願いっ!)

 叫ぶが止まらない母狐猫。

 その顎が開き―


 ズバンッ!


 凄まじい音が響いた。

 間一髪、地面に向かって【空間機動】を蹴りその一撃を回避した私は冷や汗を流す。


 何て噛みつきの威力!

 衝撃波だけで周囲の木々の先端が吹き飛んでいた。


 間違いなく高レベルの【鋼牙攻撃】、嫌、それ以上かも知れない。

 追撃の【猛爪攻撃】、此方も【猛爪攻撃】を放ち迎撃する。


 しかし【猛爪攻撃】も【LV】が負けてる。

 軌道を逸らすだけで精一杯だ。


「ミィゥ!ミィミィ!ミィゥミミ!」(やめてっ!母狐猫っ!やめてよっ!)

 必死に叫ぶ私。

 お構いなしに急降下して口を開く母狐猫。

 全速力で退避、だが衝撃波だけで吹き飛ばされる。


 小さな体にまた傷が増える。


 また【猛爪攻撃】、痛む体に耐えて此方も【猛爪攻撃】だが怪我とダメージの為か本来の威力に及ばない。

 軌道を逸らしきれないっ!


 血飛沫が待った。

 私の白い体はまた赤く汚れた。


「…ミィィ、ミゥ?ミィィィ?」」(…母狐猫、やめて?こんなことしないで?)

 其処にまた【鋼牙攻撃】、喰らう訳には行かない。

 痛む体に鞭打ち全速で【空間機動】駆け上がる。

 衝撃波。


 木っ端のようにふきとばされる。

 其処へ再びの【鋼牙攻撃】、【空間機動】で直角に飛ぶがまた衝撃波に嬲られる。


 そのまま【空間機動】も展開できずに草の上にボンボンとバウンドしながら落ちる。


「…ミィ、ミィィ。ミィゥミミ?ミミミミィ?ミィゥミミミィミミゥ」(…母狐猫、やめてよ。また怪我したの?って傷を舐めて?だって本当の母狐猫はこんな母狐猫じゃないもの)


 【猛爪攻撃】躱せない、足が動かない。

 迎撃の【猛爪攻撃】威力が足りない。

 弾き散らされる。


 私が吹き飛ぶ。

 もう真っ白だった体は真っ赤だ。

 白い部分を探す方が難しい。


 それでも私はまた起ち上る。

 そして必死に語り掛ける。


「…ミィ。ミィミィ。ミィウ。ミミミミミィ。ミィミィミィミミィミ」(…痛いね。ホントに痛い。ごめんね。何度でも謝るからごめんね。だから元の優しい母狐猫に戻ってお願いだから)


 其処で初めて母狐猫の動きが止まった。

 何時まで経ってもマトモな反撃をしない私を訝しんだ様に見る。


『…何故、戦わぬ?』

 自称、神(仮)の声が唐突に響く。

 本当に不思議そうな声で。


「…ミィミミミミミミィ?ミゥゥ?」(…声を出すのも億劫なんで黙っててくれますかね?バカミサマ?)

『ならば念じるだけで良い。心を読む』

(プライバシーの侵害だっ!そういう所が駄目神なんだっ!)

『はっはっは、流石は我が招き者、我等が愛し子よ』

 怒ったのに不敬とか言われずに楽しそうに笑われた。

 うん、ちょっと見直してやっても良いかも知れない。


『して、改めて問う。何故、戦わぬ?お主の力であれば容易く倒せるであろう』

(そうね。【SP】使って【技能】強化すれば楽に勝てるでしょうね。でもこれはそう言う戦いじゃないのよ)

 私がそう強く思うと伝わったのか不思議そうに首を傾げる気配がした。


『疑問なり。力で勝たずして何で勝つ?何の為の試練、何の為の試合か?』

(決まってるじゃない心の強さよ)

 神とやらが絶句した。

 いや、何を言ってるのかが分からないと言う風だろうか?


『如何なる意味か?』

(母狐猫は私達が捕まった時に本来なら一人で逃げられた)

 私はあの時の事を思い出しながら、その思いをぶつけるようにしながら念じる。


(何だって自分の命は惜しい。母狐猫は逃げてよかった。私達は殺される訳じゃない。売られるだけだったんだから)

 自由は無くなっただろう。どこかの好事家に飼われて愛玩されただろう。嫌だとは思うが安心安全な危険の無い生活だ。それはそれで良い事もあったかも知れない。


(でも母狐猫は違った。私が逃げられると悟ったら助けに来てくれた。自分の全てを捨ててっ!子供なんてまた産めばいいのに私一人の為に全てを賭けたっ!)

 それは母狐猫の私への深い愛情だったのだろう。

 自由に生きろと言う祈りだったのだろう。

 こんな所で終わるな、前へ進め、行けという願いだったのだろう。


 死に別れた今、その愛情を返す術はない。

 祈りに応える術もない。

 願いに報いているかも分からない。


 だけど――


(だからこれが超える壁の試練と言うなら超えるのは力の強さじゃない。母狐猫の残した本当の強さ心の強さを超える戦いだっ!だから私は超えて見せるっ!母狐猫に子殺しなんてさせない!私も母狐猫を倒さない!声を掛けて、叫んで、吠えて、心を呼び起こして説得するっ!それがこの壁を超える『試練』だっ!)


 堂々と怒鳴って見せた。

 神とやらは黙った。


 目の前の母狐猫は先程から動かない。

 大見え切ったけど私は限界だ。

 次の攻撃を避けられる自信が無い。


 あーあ、ダメかな、これは…薄れそうになる意識を必死に支え。

 私は最後に一矢報いようと声を上げた。


「ミィィ…」(母狐猫…)

 ゆっくりと近付いてくる母狐猫に声を上げる。


「ミィゥミ」(ありがとう)

 それは感謝の言葉。

 母狐猫が命を捨ててまで守ってくれたから自分は此処まで来れた。

 頑張れた。


 セアラやリーレンさん、セリアーナお婆ちゃんとはもっともっと一緒に居たかったけど私は此処までの様だ。

 残念に思いながらも満足して私に向かって口を開く母狐猫を見ながら私の意識は落ちた。




 ん?んん?

 私の意識が浮上する。

 私は何か暖かいモノに包まれてペロペロと傷口を舐められていた。

 忘れられない、忘れたくもない、決して手放したくなかった温もりだ。


 私は母狐猫に包まれて傷口をペロペロと舐められていた。


「ミィィ!」(母狐猫っ!)

 ヒシッと抱き着く。


「グルゥゥゥ」

 母狐猫は嬉し気に鳴きまた傷口をペロペロしてくれる。

 狐猫をダメにする巣箱なんて目じゃない。

 私の真なる天国は此処に在ったと確信する心地よさだ。


『気付いたか』

 む、この感動な場面に無粋な神様(仮)め等と思いながら声を聞く。


『見事であった。汝は我等が予想しえない形で試練を乗り越えた。位階の上昇を承認する』

 おお、やったね、母狐猫、親子の愛情パワーの勝利だよとヌクヌクの毛皮に体を擦り付けて甘える。

 すると母狐猫は私をペロペロしてくれる。

 ちょっと傷口が染みるけど幸せ感が満載で気にならない。


『汝が目覚めるまでに随分と時間が過ぎた。我が降臨して居られる時間も後僅かだ。質問があるなら応えよう』

「ミャ、ミィィミ、ミィミ。ミィミミミミミミィ?ミィミィィィミィミィ?」(あ、じゃあ、前回の続きで。貴方が私を転生させたって言ってたけど本当?それに汝等って事は他にも転生者が居るの?)

 母狐猫にじゃれ付きながらついでと言う感じで尋ねる。


『うむ、我等は魂の流れを管理する。恒河沙、阿僧祇、那由他、不可思議、無量大数とある魂の中で目に付いた魂を己が世界に招く。我は16の魂を選び招いた。その際、偶然にも引っかかって我が世界に招かれたのが汝の魂だ』

 うわ、選ばれた一人とか思ってたけどそんなクレーンゲームで二個取れたとか卵の黄身が二つあったみたいな感じで私はこの世界に転生したのか、しょーもな、思った以上にしょーもな。


『だが汝は面白い。最も傷付いた生まれ出るのが遅かった魂にして我等の予想を超えていく。これよりの日々も励み更なる高みを目指すが良い』

「ミ?ミィミィミィミミィミ?ミミィミミミィミィミィミミ?」(え?最も傷付いて生まれるのが遅かったってどういう事?私ってば魔物だから他の転生者がバブバブ赤ちゃんしている間に成長出来てるんじゃないの?)

『時間は尽きた。その疑問にはまた次の機会に応えよう。さあ、最後にせめて別れを惜しむと良い』

 その言葉を最後に神様(仮)は去ったのか声が消える。

 そして徐々に世界が薄くなっていく。

 母狐猫の姿もだ。


「ミィゥ…」(母狐猫…)

 そう言うと頬擦りして母狐猫は私から離れ目の前でお座りした。


 そうだ。

 母狐猫は死んだのだ。

 もう会えなかったのが当たり前で、こうして再び会えたのが奇跡で、分かってる。

 分かってるのに―


「ミゥゥゥゥゥゥ…」(離れたくないよう…)

 私はポロポロと涙を零してしまう。


「グルゥ…」

 しょうがない娘ねとばかりに母狐猫は近寄って涙を舐めとってくれる。

 だけどそれも一瞬。


 ボフンと音を立てて母狐猫は黒い靄となって散った。

 森も消え一回目の試練の時と同様の何もない世界に辺り一面が変わる。

 何も残らなかった全て夢だったと言うように消えてしまった。

 そして――


「ミィゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーー!!!」

 私は声を上げて泣いた。

 これが最後だからと思いながら、触れ合えた温もりを忘れないと誓いながら、もう失わないと願いながら、私は思い切り泣いた。

狐猫の小話

今更ですが【空間機動】はほぼ狐猫の【固有技能】です。

【立体機動】を持って居る魔物は多いですが【空間機動】には進化しません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 神は人の心がない。 まあ仕方ないですけど、負けないでと応援することしか出来ません。
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