第002話 初めての狩り?
あれからまた幾日かの日々か過ぎた。
私と兄弟姉妹はスクスクと成長している。
相まって食欲も増える。
母狐猫は頻繁に狩りに行くようになった。
実際に母狐猫はかなり強いようで自分より大きな獲物ですら狩って来る事がある。
むう、取り合えず最初の目標は母越えだな。
世界最強への道は険しい。
私は決意を新たにスパルタンな特訓を再開した。
兄弟姉妹との遊びも過激さを増していく。
狐猫パンチと狐猫キックが炸裂する。
流石に本気噛みはしないがパンチとキックは手を抜かない。
そして遂に三対一に勝利。
私の最強伝説へのプロローグが上がった。
ドヤ顔で三匹の兄弟姉妹の前に立つ。
何処か悔し気な雰囲気を出す三匹。
フフフ、悔しければまた挑んでくるが良い。
チャンピオンは何時でも挑戦を受けるのだ。
狭い世界のチャンピオンだけどね。
と、得意気にしていると母狐猫が今までに無いほどの大物を狩ってきた。
コレはアレ、所謂オークって奴じゃないですか?女騎士さんが「くっ、殺せ」されちゃう的なあの代表格の、自分の三倍か四倍はあろうかと言うその巨体を引き摺って帰って来る母狐猫。
母狐猫よ、あなたは格も偉大であったか、超える壁の高さに打ちのめされながら今日は家族皆でオーク肉を貪った。
うん、意外と美味しかった。
そんな日が何時も通りに続いていたある日、私は普段と変わりなく目の前の木に向かって猫パンチを繰り出しスパルタンな特訓に勤しんでいた。
更に噛み付き攻撃も加える。
先日に見た【ステータス】に【爪攻撃LV1】と【牙攻撃LV1】があったからだ鍛えて行けばLVが上がるんじゃないかと思っての行動だった。
そうこうしている内にピコーンと音がして目の前にウィンドウが開いた。
【爪攻撃LV1が爪攻撃LV2にUPしました】と表示がされた。
予想は当たっていたとヒャッホイと小躍りした。続いて【牙攻撃】のLVも上げる為に手当たり次第に木の枝に噛み付いて粉砕していく。
生まれて直ぐから猫パンチで鍛えていた【爪攻撃】に比べて最近になって知ったばかりの【牙攻撃】はまだ上りが遅い。
それから三日ほどを掛けてやっと【牙攻撃LV2】になった。
これは小さな一歩でも自分にとっては大きな一歩だ。
やはり鍛えて行けばLVは上がる。
偉大なる母を目標に私はペシペシ、カミカミと特訓を続けた。
そんな訓練を続けていたある日、私は唐突に閃いた。
そう言えば【ステータス】の技能であったから【爪攻撃】と【牙攻撃】を鍛えていたけど、他にも走って回ってみれば【疾走】とかジャンプして周ってみれば【跳躍】なんて技能が得られるんじゃないかと。
私のスパルタンな特訓はまだまだお遊戯レベルだったらしい。
この日から更に走り回ったり色々な動きを試す訓練が追加された。
平和な日々が続いていた。
朝起きると母狐猫は狩りに出かけ私と兄弟姉妹はじゃれて遊びまわったり一人離れて特訓したりする日々。
そんな毎日がまだまだ続くものだと私は無意識にずっと思っていた。
それが儚いモノであるとも知らずに―
ある日、狩りに出かけた母狐猫が帰ってこなかった。
何があったのか分からない。
夜になっても帰ってこない母狐猫を呼び、悲しみ「ミィミィ」と鳴く兄弟姉妹を舐めて落ち着かせてから初めて四匹だけで倒木の中で身を寄せ合って寝た。
心細く寂しい夜だった。
翌日になってもまだ母狐猫は帰ってこなかった。
食事はまだ今日の分までは残っている。
それを食べて腹を満たす。
だが、このまま母狐猫が帰って来なかったら…そう思うと不安になる。
祈る様な気持ちで私は兄弟姉妹は母狐猫の帰りを待った。
そして朝が過ぎ、昼が過ぎ、夕方になりかけた所で母狐猫が帰って来た。
兄弟姉妹は喜び勇んで傍に駆け寄って行った。
私も駆け寄った。
だが、近付くとその惨状の酷さに声を失った。
全身裂傷だらけで左足後ろには矢が突き刺さったままだった。
人間に襲われたのだと私は悟った。
住み家である倒木の中に母狐猫は横たわった。
息も絶え絶えで横たわる母狐猫の傷を癒そうと兄弟姉妹が必死で傷跡を舐める。
私は刺さったままの矢をどうにかしようと爪と牙でどうにか引き抜こうと努力する。
母狐猫は痛みに少し暴れたが私がしようとしている事を理解したらしく歯を喰いしばって耐えてくれた。
時間を掛けてどうにか矢を抜いた。
だが、これからどうするかが問題だった。
食事―狩りをしてくれる母狐猫は動けない。
ならばほかの誰かが獲物を狩って来なければならない。
それを誰がやるか勿論、私だ。
私がやらなければならない。
私は覚悟を決めた。
翌朝、先ずは近くを流れる川まで走る。
其処で口いっぱいに水を含むと走って倒木迄戻り口移しで母狐猫に水を飲ませる。
頭が良いのか兄弟姉妹もそれを見て真似て母狐猫に水を運んでくるようになった。
水分補給が終わると次は食事―狩りだ。
兄弟姉妹は母狐猫の傷を必死で舐めて癒そうとしている。
それを後目に私は巣穴を飛び出し生まれて―いや、前世も含めて初めての狩に赴いた。
獲物は中々に見つからない。
自分より弱いモノでないと狩れない。
下手をすれば逆に自分が狩られる立場だ。
この身はまだ弱い子狐猫の分際だからだ。
特に上空、鳥に注意しなければいけない。
地球で言う所のカラス等の鳥にとって小さい子狐猫など美味しい餌でしかないからだ。
身をひそめながら延々と走り回っている内に遂に一匹の兎が目に留まった。
自分より大きく額に大きな角が付いているが間違いなく兎だ。
母狐猫が狩って何度か食べさせてもらった覚えがある。
そっと気配を殺して近付く。
正面ではなく後ろから、少しずつ、少しずつ近付く。
そして兎が何かの音に耳を取られそちらに振り向いた瞬間、私は躍りかかった。
爪を立てて首筋に全力で噛み付く。
兎は痛みに暴れあちこちに私の体が叩き付けられる。
痛い、痛いが、兎はもっと痛い筈だ。
振りほどかれないように必死で食らいつき全力で噛み締める。
そうこうしている内にボキィと言う音がして兎の体から力が抜けた。
首の骨をかみ砕いたらしい。
勝った、殺した…と、言う思いが心を埋め尽くす。
勝利の余韻は無い。
只、生きる為に必死で足掻いたその結果が目の前の死んだ兎だった。
私は暫し呆然として何となく初めて命を奪った実感に兎に対して「ごめんなさい」と心で謝罪をしてその遺骸を巣穴へと運び出した。
巣穴に帰るのは思った以上に重労働だった。周りの気配を探りながら身を隠しながら少しずつゆっくりと重い兎の体を運んでいく。
そしてやっとの思いで巣穴に辿り着いた。
「ミィーーーー!!」
と、声を上げ帰還を母狐猫、兄弟姉妹に報せる。
母狐猫はふらつきながら兄弟姉妹は元気よく駆け出してくる。
そして目の前に置かれた獲物の兎に驚いた様子を見せる。
私は「どうだ」と言わんばかりに尻尾を振って得意気に自慢顔をする。
兎は家族全員で食べるには量は少なかったが全員が口にすることが出来た。
食べ終わるとまた家族一同で巣穴に入り丸まって眠りにつく。
母狐猫は自分の傷を舐めずに兎との戦いで付いた私の擦り傷をペロペロと優し気に舐めてくれていた。
私は安心し、心地よく明日もまた頑張ろうと思いながら眠りについた。
狐猫の小話
普通に噛み付くだけではちっさな狐猫は角兎を狩れません。
【技能】【牙攻撃LV2】で発生している力場のお陰です。