第018話 魔物の恐怖、頑張る聖女?
翌日、騎士達が到着するまで残り二日。
私は中庭の訓練場、その隅っこの木陰に隠れて【疾駆】と【空間機動】を発動、超高速反復横跳びの特訓をしていた。
【隠形】も発動してるし隠れられてると思っていたが動いてると効果が薄いらしい、聖女候補さんの一人が此方を見てポカンとした後に目をコシコシしていた。
うん、そうだよ。
見間違いだよ。狐猫がこんな早い訳がないでしょう、気のせい、気のせいと念を送ると何か伝わったのか、本当に気のせいと思ったのか自分の訓練に戻って行った。
もうちょっと深く、奥に隠れようと移動して再びシュタタタタタタタンッ!と超高速反復横跳びを再開する。
【疾駆】と【空間機動】の【LV】よ上がれ―と願う。
願いは叶わなかった。
残念ながら【LV】は上がらなかった。
無念。
そろそろ昼食だ。
移動しようと歩き出す。
何時もと気分を変えて正門から入った所にある中庭と通る。
相変わらず良い匂いと空気を感じる中庭だ。
そこでふと見ると中央の東屋にセリアーナお婆ちゃん大聖女様が座っていた。
傍らにはその護衛騎士らしいリーレンさんよりもかなり年上っぽい妙齢の女性騎士の姿があった。
何となく気になって近付く。
「本当にロズベルトは困った事を…セアラにもしもがあれば…」
声が聞こえた。
どうやらガマガエル神殿長のやらかしたセアラへの任務の話がセリアーナお婆ちゃん大聖女様にも伝わったらしい。
足元まで近づいて「ミャアアン」と鳴いてみる。
「あら、ふふ、どうしたの?こんな所でお散歩かしら?」
む、中々の手捌きとご機嫌で撫でられている内にヒョイと持ち上げられ膝に置かれる。
セリアーナお婆ちゃん大聖女様は結構なお歳の様だが背筋もピンとしておりしっかりしている。
まだまだお元気なようだ。
「ちょっと困った事になってしまってねぇ、対策を考えていたのだけど…ファトラちゃんには良い案が無いかしら?」
「ミィミィ、ミィィ、ミィ」(そう言われえも情報が少なすぎて何にも浮かばないですよ)
と、返事を返してる間も私の体をセリアーナお婆ちゃん大聖女様の指が這いまわる。
くう、何時かのリーレンさん程では無いがツボを押さえた中々の撫でっぷり…。
流石は歳を経た大聖女様と称賛する。
「ふふふ、此処が気持ち良いのかしら?」
おおう、そんな所を?!
くう、予想外の場所だ。
しかし、良い。
これはいい。
と、不意に喉がゴロゴロと鳴った。
おおう?!喉がゴロゴロ言った?
私、今、完全に狐猫じゃない?
くぅ、この私から初の喉ゴロゴロを呼び起こすとはやはりやるなセリアーナお婆ちゃん大聖女様めっ!
そう心の中で感嘆を上げる。
「可愛いわね。本当にセアラは何であんなに脅えてしまうのかしら?こんなに可愛いのに」
「ミィミィミィ、ミィミィゥ、ミィ?ミィミ」(そうですよねー、何ででしょうね?ホント)
セリアーナお婆ちゃん大聖女様の疑問に私も不思議だと首を捻る。
其処で教会の鐘がゴーンと鳴った。
お昼の合図である。
「大聖女様、ご昼食の時間です」
「そうね、今日は此処でこのまま食べるわ。運ばせてもらえる?」
セリアーナお婆ちゃん大聖女様がそう言うと護衛騎士さんがそれを伝えに離れて行った。
「さあ、ファトラちゃんもご飯を食べてらっしゃい」
そう言われて「ミィ」と返事をして伸びをする。
セリアーナお婆ちゃん大聖女様のお膝は心地よい。
狐猫をダメにする巣箱程では無いが許されるなら此処で寝たいほどだ。
それぐらい安心感と心地よさがある。
そして何となく顔を上げると真面目な顔でセリアーナお婆ちゃん大聖女様が私の瞳を覗き込んでいた。
「……ファトラちゃん、セアラをよろしくね」
「ミィミ!」(任せて!)
二つ返事で了承して今度こそピョンとセリアーナお婆ちゃん大聖女様の膝から飛び降りる。
さーて、今日のお昼ご飯は何かなーとご機嫌に尻尾フリフリで歩く。
そんな私の後姿をジッと見るセリアーナお婆ちゃん大聖女様の視線に私は気付く事は無かった。
お昼ご飯の兎肉は和風な感じで焼いてあった。
とても私好みだ。
美味しかった。
さてそろそろ狩りに出掛けねば、その前にセアラとリーレンさんの様子を見て来るかなと部屋に戻る。
任務が決まってから二人は忙しく動いている。
持って行く資材、食料、設備等の準備。
訓練から色々な話し合いを行っている。
私が部屋に戻った時も話の最中だった。
何かの本と書類を前にアルケイロン対策の作戦会議の様だ。
二人っきりの。
話しながら二人の目が偶に宙を向き、空中を指が動く。
どうやら話し合いながら【SP】を振って【技能】を強化しているらしい。
本来は己の【ステータス】は秘匿する物らしいが二人の間には隠し事は無いらしい。
今、此処に居る私にも聞こえちゃってるけど誰にも言わないしそもそも言えないから大丈夫だ。
しかしセアラはかなり【SP】が豊富な様だきっと随分と善行を積んできたのだろう。
代わりに【LV】は低くまだ8らしい、私より低いとはビックリだ。
まあ、どう見ても前衛じゃなく護られる後衛だもんね。
しょうがない。
対して騎士のリーレンさんは【LV32】、『試練』を二度突破してるそうだが、感じ【ステータス】は私と大差ない気がする。
【LV19】と【LV29】の時に突破したと言ってたからね。
ボーナスポイントの差が大きい。
序に【SP】は余り余裕が無いらしい。
大分、迷って振っている。
二人共頑張っている。
私も負けていられない。
私は部屋を後にして森に出掛けた。
さあ、獲物狩りとスパルタンな特訓の時間だ。
【牙攻撃】の【LV】はまだ上がらない。
頑張って噛み噛みしてるからもう少しだと思うのだが、代わりに兎は三匹狩れた。
此処では新記録だ。
後、蟻が一匹また沸いていた瞬殺した。
そういえば昨日の魔物について(上)に蟻は載って無かった。
下巻に載っているのだろうか?
加えて能々考えれば地上に居た蟻は全滅させたけど女王蟻っぽいのは倒してない。
地中にまだ居るのかも知れない。
気を付けよう。
そして私は兎の一匹を咥えて、一匹を右前脚に刺して、一匹を左前脚に刺して街に戻った。
言っておくが私はアホの子では無い。
ちゃんと学べる狐猫。
やればできる狐猫。
前回ちゃんと学んだ一編に運ぶのは大変だと、だから隠れて街の近くに【空間機動】で降りる。
そして兎二匹を隠して一匹を咥えて街の中に入る。
神殿に置いてくる。
取って返す。
二匹目を咥える。
門を抜けて神殿に入って置く。
最後の兎を取りに戻る。
咥えて門を抜ける。
門番さんが「え?あれ?え?」とこっちを見てるが気にしない。
技能を使ってる所さえバレなきゃ良いのだ。
きっと大丈夫。
多分、大丈夫。
大丈夫だったら良いなぁと思っておく。
夕ご飯はシチューだった。
一度、ガレスさんの所の騎士さんもシチューにしてくれたがあれとは別の味わい。
断然、こっちが美味しい。
さすがプロと称賛する。
ご飯が終われば図書室の時間だ。
今日こそアルケイロンの事を知らねばと中に入る。
すると上巻と次の本との間にスペースが出来ていた。
誰かに借りられた?!と思った。
そりゃそうだよな。
図書室だもんな、と今更ながら思う。
借りる人はいる。
しまったなーと思う。
誰が借りたか分からない。
明日には返って来るかなと思う。
しょうがないので次の本を抜いた。
タイトルは―魔物について(下)だった。
アレ?と思った。
でも間にスペースが出来ている。
私は悟った。
どうやら魔物については(上)(中)(下)の三冊だったらしい。
そして借りた者も想像出来た。
セアラとリーレンさんだ。
思い出してみれば机に似た質感と雰囲気の本があった。
部屋に戻ったら読もうと決める。
明日の朝が遅くなるかもだが偶にはそんな日もある。
今日は読書の日と決めて本を読む。
私は甘かった。
甘々だった。
魔物について舐めていた。
上巻が最高A級の破滅だったからS級が最高だとばかり思ってた。
甘かった。
井の中の蛙大海を知らず。
S級には上が居た。
更に上も居た。
更に更に上も居た。
抜粋するとこんな感じだ。
G級の下位、F級の中位、E級の高位、D級の災害、C級の災厄、B級の災禍、A級の破滅、S級の天災、SS級の絶望、SSS級の終焉、EX級の神話となるらしい。
そして下巻はそんな化け物の紹介の宝庫。
相手出来るかっ!ちゅうのが山程いた。
こんなのが居る世界で人族よく生きてられるなーと思った。
こんなのが居る世界で人族よく内輪もめしてられるなーと思った。
馬鹿じゃなかろうか、阿呆じゃなかろうか、ホントによくもまぁこんな世界に転生させてくれたな神様。
前世死んだのか覚えてないけど私に死ねという事かと思う。
因みにS級の天災とSS級の絶望は中央大陸にも居るそうだ。
数は少ないし人里にはまず現れないから何とか大丈夫らしいけど、私が抜けて来たアドラスティア大樹海にS級の天災、ダアト山脈には何とSS級の絶望が居たらしい。
ホントによく無事だったな私。
そのページを読む。
アドラスティア大樹海のS級の天災、地獄血爪熊。
縄張りに入った者をその【猛激血爪攻撃】で粉砕する熊の魔物。C級の災厄豪傑熊、A級の破滅死呼熊の進化種と想像される。アドラスティア大樹海の奥地に住み広い縄張りを持つ。
あの熊の最上位種か、そりゃ強いわ。
ホントによく縄張りに入らなかったな私。
運が良かったと思おう。
そして次。
ダアト山脈のSS級の絶望、暴風飛竜、魔法銀を超える体の強度を持ち飛竜種の王として君臨している。【灼熱吐息】の炎は鉄すら溶かし、翼から生み出される【裂空斬破】は全てを切り裂くと言われる。基本的には無害だが山を荒らす者には容赦しないと言われる。
うん、そんな飛竜が居たのね。
私はかなり派手に暴れた気がするけどよく見逃してくれたなー。
どちらも何時か母狐猫の仇を討つためにアトランティカ大国に入る際には通る道だ。
心底、気を付けようと思った。
取り合えず身近で危険なS級の天災とSS級の絶望はこの二匹だ。
本当に気を付けよう。
残ったS級の天災とSS級の絶望は遠い。
別の大陸、島のモノも居る。
一先ずは安全だろう。
そしてページがSSS級の終焉の項に入った。
一ページずつ読み進める。
九尾狐玉藻の前、SSS級の終焉の魔物。獣人の国ウリティア連合国家に人に化けて隠れ潜むと言う。
ウリティア連合国家の守護者でもあり、国の危機には本来の姿になり戦うと言う。正体を見破ったり、攻撃しない限りは無害。
黒竜皇帝サリディアス、SSS級の終焉の魔物。地人の国バルガス王国のフィリーディン山脈に住む竜の王。大層な酒好きで地人が納める酒を対価にバルガス王国の守護を受け持っている。美味い酒を差し出せば願いを聞いてくれることもある。基本的には敵対者以外には攻撃しない。
皇帝炎鳥鳳凰、SSS級の終焉の魔物。最古にして最大の鳥とされ世界各地を飛び回っている。不老不死とも言われその羽根には死者を蘇らせる効果があると噂される。どこにも属さず自由に空を駆けている。敵対すれば【炎無効】を持っていたとしても【神炎】に焼かれる。
島喰大蛇、ボーラ、SSS級の終焉の魔物。その名が表す通りに島すら丸飲みにする世界最大の大蛇。体長、体高共にキロメートルを超え名前通りに実際に島を喰い島民全てを喰ったとされる。海を往く者がこの魔物に遭遇すれば一溜まりもない。
蒼海青龍メルトヴィレイ、SSS級の終焉の魔物。海に住まう龍種の王。深海に住まうらしく目撃例は少ない。伝説では水と氷を自在に操るとされる。島喰大蛇、ボーラと敵対しており島喰大蛇、ボーラに襲われた船を蒼海青龍メルトヴィレイが救った事もあるらしい。
暴食餓狼スコル・ハル、SSS級の終焉の魔物。森人の国、ヴァハラ王国にある世界最大の樹海ウノ大樹海に潜むとされる狼種の王。癒えない餓えに呪われており目に付くすべてを喰らうとされている。但し森人の守護者という伝説もあり、どちらが真実かは今だに謎のままである。
八岐大蛇カムナギ、SSS級の終焉の魔物。鬼人の国に封印されており、現在唯一人の手で抑えられたSSS級の終焉の魔物。伝説ではその吐く毒は【毒無効】すら突破し全てを溶解させたと言う。封印は鬼人によって守られており封印が解ければ世界の滅亡すら在りうるとされる。
SSS級の終焉の魔物は全部で七匹だった。
安全なの危険なのと居るがどれもやべーとしか言えない。
関わったら絶対死ぬ。
よし絶対に係わらないと心に誓う。
絶対だからね。
フラグじゃないよ。
絶対の絶対に係わらないからね。
そして最後の一ページ。
EX級の神話。
伝説の魔物。空に浮かぶ二つの月の一つが神によって封じられたこの魔物だとされる。詳細は一切不明。只、名前だけが残る。鎮魂曲ムー。
パタンと本を閉じて息を吐く。
いやー、半端ないってマジで、今までの狐猫生ハードモードだと思ってたけど、ノーマルかイージーだったわ。
難易度ルナティックな魔物がこんなに居るとか洒落にならない。
あー、なんかホラーを見た気分だわ。
あの怖くて一人で寝れない的な?夜のトイレも一人で行けそうにない。
私はトイレ行かないけどな。
はぁ、ちょっと部屋に帰って落ち着こう。
そしたら中巻を読もう。
そうしよう。
部屋に戻るとセアラはまだ起きて書類とにらめっこしていた。
うん、まだ十代前半な若い子がこんな遅くまで、無理しなさんな。
そう思うがセアラは手と眼を止める気配はない。
頑張るなぁと思う。
何がこのまだ幼い少女を頑張らせているのか分からないが応援したくはなる。
こんな子がこんな世界で頑張ってるのだ。
負けていられない。
そう思うとさっきまで感じていた不安とか恐怖とか吹き飛ばせる気がした。
セアラが休んだ頃に起きて中巻を読もう。
そう思って私はコッソリ巣箱に入って丸まったのだった。
狐猫の小話
SSS級の終焉とEX級の神話はまず遭遇が有り得ないので基本、人類最大の脅威はS級の天災とSS級の絶望です。
こいつ等はあちこちにかなりの数が居ます。
実際に内輪もめしてる人族はダメダメです。




