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狐猫と旅する  作者: 風緑
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第163話 交わす言葉と互いの呼び名


 〖幻影通路〗に閉じ込められてから少し時間が過ぎた、その間もパリス様のお喋りは続く。無言になって私を不安にさせない為だなと察する。だけど仮に此処に一緒に入ってしまったのが他の誰かであったとしても彼は変わらずに接しただろうと私は考える。この方がそんな優しい人間だと十二分に理解している。未来の王としてそれだけではダメなのは分かってるがそれでもパリス様はそういう御人なのである。


「―――――それで王城で飼われている動物や魔物が増え過ぎてね。父上と母上からいい加減にしろと怒られてしょうがないから城下で貰い手を探したら馬鹿な真似をするなとまたお叱りを受けて…」

「当然です。パリス様が誰にでもどころか何にでもお優しいのは分かり切った問題ですが、それでも最近は度を越してます。可愛いのは否定しませんけど数が数です。城に来る度にペットが目に見えて数を増やしているじゃないですか、何処から拾って来るのか分かりませんがショップにでも売って下さい。城下で不特定多数にプレゼントするなど滅茶苦茶です」

「でも売るのはどうにもねえ、ちゃんと可愛がってくれる人に贈る方が良いでしょ?一番は手元に残す手段だけどそんな方法はないかな?」

「そんな事を聞かれましても……ああ、でも、そういえばお茶やお菓子を出す軽食店で店内に動物を放し飼いにして自由に触れる様に躾けて放置してお客様と遊ばせて楽しませる店が最近、何処かで作られたとどなたかが仰ってた記憶がありますから王都になければ作ってみるのも良いかも知れませんわね」

「成る程、それはいいね。会いにも行けるし可愛がることも出来る。此処を出たら是非、アルディージャに一店舗を作らせて貰おうかな?カトレア嬢も好きでしょう?可愛いの」

「う……そ、それは…その…」


 図星である。私は愛らしい犬、猫、小動物から魔物の幼体、その他も色々と大好きだ。お母様が動物の毛に弱いので自宅で飼う事は出来ないが城に来るとゾロゾロと溢れている色んなペットをコッソリと抱いたり撫でたりしている。うう、知られないように気を付けていたつもりだがバレバレだった様だ。何だか恥ずかしいから隠していたけど今更か、明らかにしても問題あるまい。


 だけど秘密を見抜かれているという事はそれだけ観察されていたという訳だ。なんだろ?私も昔からパリス様を視界に収めて来たけど向こうも同じだったんだと、不思議な感じがする。婚約されない為、もしくは好みとは言い難い彼の性格改変を狙って様子をずっと前から眺めていたのだけどパリス様は何を思って此方に意識を割いていたんだろう?知りたいけれど分からない。話を続けるそのお言葉を聞きながら私は考え込んだ。


「出来上がったら来店一番乗りはカトレア嬢に頼もうかな?是非とも評価をお願いするね。後は出品する食品や飲料についてはユーチャにも協力して貰おうかショルテはちょっとこういうのには向かないかな?でも仲間外れにすればまた拗ねそうだからねぇ。何か役割を与えないと…」

「そうですわね、ペットのお世話でも頼んで見ては?嫌っては無かった筈ですから何とかなるでしょう」


 何処に店を出すか、従業員、給仕から料理人、世話係、連れていく動物、魔物の選別、出品する品々の仕入れ迄、考えなければならない課題は山積みだ。そもそも私にしろパリス様にしろ国家運営、領地経営、社交、お茶会、夜会については準備から開催まで一通り学んでいても一般平民の喫茶店の切り盛りや繁盛のさせ方は習っていない。まぁ、一部の応用は可能だろうし、伝手も使えなくはない筈である。だけど王族が商いをするとは非常にマズイかもしれない、言い出した私が問題視するのも何だけど、それでもあの可愛らしい仔達が捨てられたり処分されるよりはマシだろう。但し、これ以上は増やされない様にだけ注意しなければなりませんわねと思いを巡らせる。


 しかし、随分と平和な話題を交わしていますわねと考える。とても内乱の真っただ中であるアトランティカ大国、その幼いとはいえ王族と公爵令嬢で話される内容の会話ではない。世情にあった物騒な事を言われても今の状況では返答に困るから有り難いのは確かだけど、いや、そういった対応に困る話にならないように意識しておられるんだろう。元々、その様な議題は私達も授業なら兎も角、日常では滅多に行われないから唐突にされてもどうしようもないのが事実ですけれど、今だに係わらせて貰えるモノでも無いですし、教わって今後、自分達の代でどのように対応するか考えるように言われてるくらいだ。


「ですが、こんなに沢山の愛玩動物を一体、何処で見つけて保護してくるんですか?そんなに頻繁に捨てられたりはしていないでしょう?」

「いや、それが僕が出歩くと不思議と出会っちゃうんだよね。探してる訳じゃないんだけど縁があるというか運命というか、どうにも何か繋がりがあるみたいで…まぁ、これもそんな普通じゃない授かりものって事で一つ」

「はぁ…」


 本当なのか疑わしくて、何とも素直に頷けないけど真実として受け容れるしかない様ですねと自分を納得させる。実際に現在、王城で飼われている色々な小動物、魔物の幼体となるやもの凄い数だ。拾って来るのが王族なので無下に扱う真似も出来ず、色々と関係者が頭を抱えてしまう困った難題へと変わってしまっている。狩猟や見張り、伝令として使えるならまだしもパリス様が拾って来るのは殆んどが本当に可愛がる為だけにしか用途が無い、小っちゃな仔達だから扱いに悩む、もうなす術がなく、7割以上が城のあちこちでコロコロと遊んでいるだけだ。その光景は心が癒されるものだが一部を除いてそれだけを目的に人間はペットを養ったりしない。世話も無償で遣り繰りされる物とは違うし、住み家や寝床、食事だって準備や予算が必要だ。一応、パリス様が自由に出来るお金から仕度されてるが自分が稼いでいる金銭では無いから度が過ぎたのでお父様の第三王子殿下とお母様の第一位の聖女様にあんまりだとお説教を喰らったのね。私個人としてはこの犬から猫から狸に狐、鳥に加えて魔物までもうより取り見取りで楽園な気分ですけれど、どの子も安らぎを与えてくれる。


「私もあの仔達が不幸になって欲しくは無いので協力しますが出来る範囲だけですよ?そんな力になれるとは思えませんけれど…」

「いや、凄く助かるよ。カトレア嬢は僕なんかと違って優秀で得難い知者だからね。求める以上の成果を出してくれるよ」


 そんな事は無い。確かに同年代に比べれば自分は知識も経験も豊富で最近は大神殿にも顔を出す様になって、その実力と頭脳から未来の大聖女候補と煽てられてはいるがパリス様がそれに劣っているとは思わない。実際、その性根がちょっと為政者に向いていないのは確かなのだが、それを補っても余りある素質は有している。真面目に研鑽はしていないけれどそれでも、誰よりも優れたモノを内に秘めているのだ。なんだかんだ言いながらずっと傍で見て来た私だから解る。次代は第三王子殿下が継ぐだろうけどその後はきっとパリス様が大帝となられると確信している。私はその時、どうしてるだろう?今と変わらない関係でいるだろうか?それとも――と、考えると頬がまた熱を持ってしまう。本当に私はどうしてしまったというのか?確かにそのような立場として自分はパリス様の近くに置かれていたのだけどずっと意識してない、好意なんて抱いてないと思っていたのに……4年の時を一緒に過ごした結果がこれだ、まったく、私は自分で思っていた以上に容易い女だったみたいだ。


「カトレア嬢には助けられてばかりだね。僕にも何か恩を返せればいいんだけど欲しいモノとか無いかい?」


 私の求めるモノ…それは一つだけだ。今後も変わらず今まで通りにパリス様の隣に居られる事が許される存在であるという一点、それで十分に満たされる。だけど、はっきり口にしてしまうのは何だか非常に負けたような気がするので絶対に言わないけれど…うん、そうだ、認めてしまおう。原因や発端、この想いの最初の始まりが私には一切、思い浮かばないけれどこのカトレア・レームデルグはパリス・ドラグニウム・ロムルスに何時の間にやら恋してしまっていたのだと、しかも初恋、相手は婚約者候補と誰からも注意を受けない、問題視されない、寧ろ誰もが願ったりな結果でしょう。本当に欠片も考えていなかった、私はもっと、こう、お姉様の様に自分で己に見合った相手を探し出すだろうと思っていた。正にこんな結末は予想外、一体、何処に惹かれたのか私自身でも理解が及ばないけどもう否定は出来ない。


 加えて私がパリス様を助けているというのは間違いだ。実際に頼まれて手を貸す時もあるけれど機会はそんなに多くない、寧ろ私が知らない内に実は少し苦手としている同年代や年下との付き合いとか、大体の仕事を既にそつなくこなす要領の良さから回されてくる面倒な事案などより遠ざけられて護られていた方が多いだろう。本当なら此方こそ感謝を持ってその恩を何らかの形でお礼にせねばならない立場だ。


 そんな彼に私が願う事、それは先の通り一つ確かにあるけれどもう既に手に入れているも同じだ。それでも絶対とは言えない、しかし望みを叶えてくれるというなら――それを確定させてしまおう。心に決めてゆっくりと口を開く、パリス様がどうお返事を返されるかちょっぴり不安だがご自身が仰ったのだ、今になって「やっぱり止めた、ダメ、なし」とはならないだろう。私は相応の決意を持ってその言葉を紡ぐ。


「そうですね、それではお願いを一つ…よろしいですか?」

「いいよ、何かな?」


 何時も通りにニコニコと笑顔で私に相対するパリス様に私もニコリと微笑みを浮かべて顔を見る。さて、普段と変わらずに受け流すか、慌ててくれるか見物である。出会ってから4年が過ぎているがパリス様から私に何か手伝いや力を貸す様に求められる時はあっても逆は無かった。いや、同じく「助けて貰ったお礼に何かしようか?」と言われた事は何度かあったが今までは変わらず「特に何もございません」と答えていたからだ。でも今回は別、自覚してしまった以上は行動に移すべきである。そして私はその言葉を告げてしまった。


「これからは私を呼ぶ時は『カトレア』とお呼び下さい。私もパリス様を今より『パリス』と呼ばせて頂きます」

「へ?え?あ、あれ?いや、ちょっと待って…それは…その……本気?」


 パリス様――いや、パリスは驚愕の表情でこちらを向いている。此処まで激しく動揺されるこの方を目にするのは出会って以来、初めてかも知れませんわね。お互いの名前の呼び方は様々な決まりがある。本当に親しい無二の親友ならば夫々にファーストネームで呼び合うけど、それが男女でしかも婚約者候補となるとそれは更に一歩進んだ関係になるという表明である。つまりは候補者ではなく婚約の確定だ、名前の呼び方一つでそれが定まってしまうのだ。互いの名を呼び捨てで呼び合うというのはそれを周囲に知らしめるという意図を持つ訳だ。


「二言はありません。どうかよろしくお願い致します」

「えー……えーと、カトレア嬢?ホントに良いの?一度でも正式に交わしちゃったらそう簡単には破棄出来ないよ?」

「その程度は知っております。私の意志は先に述べたとおりです、撤回する事はありません、それとパリス、私を呼ぶ時に『嬢』はもう必要ありません。カトレアです」

「いや…でも…その……カトレア嬢?」

「カトレアです」

「……………カトレア」


 諦めた様な顔をしてやっと私の名を口にしたパリス、うん、何で自分が好かれてしまったのか全く理解が出来ないという感じだ。正直、私も同じだから一緒だけれど、それでもこの方は性格が優しすぎて甘すぎる以外は王族として大抵の役割は十全にこなせる有能な得難い人材なのだ。足りないとされる部分は私とまだ決まっていない、もう一人の正妃となる大聖女候補と他の者達で補佐して支えると致しましょう。迷いを振り切って決断してしまえば特にどうという葛藤は無かった。私はやっぱり正妃や大聖女になりたいとは思わないがパリスの隣に立つのにそれが必要ならば躊躇わない。この人を特別な大帝にしたいんじゃない、パリスの一番になりたいのではない、只、彼がそのまま変わらずに笑顔で平和に平穏な日々を過ごして欲しい、私はその為ならばどんな努力も厭わない。全く、ここまで自分が惚れ込むとは欠片も予想しなかった。今後も厄介な事件に巻き込まれるだろうけれどそれも乗り越えて見せると心に誓う。


 その後も暫くパリスは「うーん、あれー?」と唸っておられたが私の決意が揺るがないと悟ると溜息を残して現実を受け容れてまた何時もの微笑みを浮かべた。だけど何処か不承不承といった雰囲気を感じるのは気のせいかしら?私自身は自分で言うのもちょっとなんですがこの上ない優良物件だと思いますし、他の方々からもそう判断されたから婚約者候補としてお傍に置かれたのですが?ご不満があったのなら早くに言ってくれれば周りも考えたかも知れないけれどもう遅い。こうなったからには是が非でも婚約は成立させてもらう。私を惚れさせた責任は取って貰おう。


「だけど、僕なんかでカトレアと釣り合うかい?もっと相応しい男性が居るんじゃあ…」

「あら、パリスは自信がありませんの?私は自分の人を見る目を信じますわ。貴方はそのままで居てくれれば良いのです。もう余計な事は言いません。これからもずっと隣に立つのを許してくれれば私は満足です」

「うん…カトレアがそれを嫌でないのなら僕は受け容れるけど…後悔しない?」

「しつこいですわよ、パリス、もしかして私の事がお嫌いですか?」


 私がそう言ってジロリと顔を見上げると「まさか!ちょっと唐突過ぎて混乱してるだけだよ!」と答えて顔をブンブンと左右に振る。その頬は能々、眺めると僅かにだけど赤い、羞恥か照れかそれとも私と同じく相手を想ってだろうか?判断は出来かねるけど嘘は吐いていない様だ、此処は自惚れてだけど私もパリスに愛されていたと考えてしまおう。確証は持てないけれどもうそれなりに長い付き合いだ、ある程度は察せられる。こんな状況でありながらそのままお互い寄り添うように隣へ座って語り合っていた私達だったがそこで微かに響いて来た『音』に気付き警戒して2人揃ってそっと声を潜めて何時でも動けるように立ち上がる。


「救助かな?早すぎる気もするけど…カトレアはどう思う?」

「閉じ込められてまだ2時間程度です。迅速に助けが動いたとしてもこの短時間では有り得ませんわね。仕掛けてきた犯人の手の者である可能性が高いかと」

「同意見だね。じゃあ、取り合えず反対方向に逃げるとしよう。ではカトレア、お手をどうぞ」

「はい」


 差し出されたパリスの手を取って私は刺客からの逃避行に移った。動き出すとこの〖幻影通路〗という代物の厄介さがとてもよく分かる。進んでいるのか下がっているのか、右に曲がっているのか、左に折れているのかを把握する事も出来ない。そもそもが外敵、王城への侵入者に対する最終防衛手段、これで敵を足止めて弱らせて仕留める罠だ、簡単に抜けられる筈がない。私はそもそも存在を知らなかったし、パリスも存在を聞いていただけでそれほど詳しくはないようだ。助けが来るまで何としても生き延びなければならない。当てもなく私達は彷徨い歩き続けた。

狐猫の小話

亜神が作った数々の超高性能魔導具があちこちにある超魔窟な王城内です。

この手の超級魔導遺物は秘匿されてる訳ですが管理している七賢人の人数が相手側に多い為に罠にかけられてしまいます。

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