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狐猫と旅する  作者: 風緑
162/166

第162話 閉ざされた廊下と自覚


(1、2、3…1、2、3…と)


 アルディージャとケッセルメンクとの季節毎の移動生活にも慣れて来た。教育も本格的に始まり今日は社交ダンスを習っている。お相手は勿論、パリス様だ。私はイヤなんだけど、このままなし崩しに婚約者にされそうだ。こんなに早く、結婚相手が決まるのは何だかとてもモヤモヤする。ただ確かに貴族なのだから生まれた瞬間には血統書付きのペットの様に主や夫や妻が定められてしまっている場合だってある。だけど、それでもお父様にはもっと娘に愛情を!と思ってしまう。まぁ、それはそれ、これはこれだ、知識や技術を学ぶ機会は大事、一生懸命に覚える。身に付いたモノは将来、必ず自分を助けてくれると教えられているから私は頑張る。


「カトレア嬢は真面目だね。もうちょっと気楽にやらない?」

「パリス様、しっかりリードしてくださいませ」


この方は相変わらずだ。胡散臭い笑顔とは言わない、もうハッキリと心の底から誰にでも優しい人だというのは理解してる。だけどこの内戦で荒れ果ててしまったアトランティカ大国で必要とされる王になれるかというと、とっても不安だ。この国の現代史の授業で習ったが今のカール・ドラグニウム・ロムルス138世はどちらかと言えば好戦的な穏健派である。少し矛盾してるけど、そんな御人なのだ。


 どうにもならない敵は徹底して叩き潰すけど、隙や弱みと切り崩せる急所があればそこにつけ込んで殲滅――等はせずに懐柔、篭絡、屈服させて落としていく。先々代大帝と先代大帝がかなり容赦のない蹂躙と殺戮をやらかしたのでサイバリス聖国にゼルザルド聖国、ガルガード王国は結託して反撃に転じて内乱は泥沼化した。「馬鹿がっ!」と現大帝が立ち上がり、カール137世を強制的にその座から引きずり降ろして後を継ぐと追い込まれつつあった戦況を五分まで戻して怪しかった者を抑え込み、中立か味方に変えていった。


 そして現在、戦況はなんとかアトランティカ大国が有利になったが膠着気味だ。連携をとる三ヶ国を崩すには一手が足りない、そのまま時が流れて戦いが続く中でカール138世も遅くなったが結婚されて子が生まれた。その中の男児三人、長男と次男、三男で誰が選ばれるか揉めに揉めたがカール138世の鶴の一声でまだ当時10歳だったカエサル・ドラグニウム・ロムルス第三王子に決定した。


 当たり前だけど長男の第一王子カペル・ドラグニウム・ロムルスは荒れに荒れた、当然の如く自分が後継者に任命されると思ってたから激怒したらしい、かなり無茶苦茶な真似をしたそうだけど幼い私に詳細は伝えられない。よくもまあ、地方か最前線に送られないなという程のやらかしをしたと聞いた。どうせ弟の第三王子の暗殺でも狙ったんだろうなと予想する。


 今はアトランティカ大国に伝えられている神託『北の地を訪れて力を得た者がこの国に平穏を齎すだろう』というのを信じて北を目指して戦っているそうだがどうだろう?と言った所だ。現大帝も第三王子も特に気にしてる様子はなく、監視だけは付けて放置している。時が来れば向かうだろうけど、それまでは面倒だから好きにさせておこうって感じかな?


 まあ、内乱と王家の問題をどうにかするべく考えるのは私の仕事ではない。悩むのは自分自身の未来である。ソッと目線を上向けて目の前の顔を見つめる。「どうかした?」と尋ねられたので「……いえ、何も…」と答えてダンスに集中する。悪い人では無いのだが、どうしても自分が将来、パリス様の隣に立ってアトランティカ大国を支えている姿が想像できない。隣を向くとユーチャ嬢とショルテ子息が踊ってる。


「はーい、20点です。全っ然!ダメですー。最初からやり直して下さーい」

「ぬおおおおぉっ?!」


 あ、ユーチャ嬢が繋いでいた手の遠心力を使ってショルテ子息を投げ飛ばしてしまった。確かにエスコートからリードに至って何もかもが及第点にも届いてなかったけど容赦ないなとその様子を眺める。足を踏んだり蹴ったりだけはしない――というかユーチャ嬢が華麗に避けている。実際、習い始めだからこんなものだろうと思うんだけどユーチャ嬢は一切の手加減なくショルテ子息を教育するようだ。


 その後もダンスの授業は私とパリス様は波乱なく、一方でユーチャ嬢はショルテ子息を数回、床にゴロゴロと転がした。最後の方はダンスというより格闘技の訓練の様だった。終わったら休憩を兼ねてお茶について学び喉を潤す。私も淹れるがやはりユーチャ嬢の方が美味しい、フレイドル伯爵家で教えを受けた息女なだけはある。今日の監督は教師とメイドが二人にユーチャ嬢と私の5人だけだ。今なら聞きたかった事を尋ねられると私は口を開く。


「ユーチャ様は…」

「はい」

「このままだとショルテ様と結婚する様になると思いますが不安や不満は無いのですか?」


 私の言葉に直ぐ返答を行わず、ユーチャ嬢は「んー?」と少しだけ何かを考えた後に一口、紅茶を飲んでからジッと瞳を此方に向けた。僅かな時間、黙ってお互いに見つめ合う、何だろう?ユーチャ嬢は結婚についてどう考えてるか知りたかったから質問したのだけれど彼女は不思議そうな顔をするだけだ。でも、これについては向こうの方が正しい、貴族の家に女性として生まれたからには親から此処に嫁げと宣言されれば迷ったり、文句を口にせず言われた通りにしなければならないのが令嬢という存在だ。


 血を継いでいくのは貴族の義務だし、それなりの格がある家となると結婚とは相手との契約だ。基本的には相互の利益があって成り立つ、祖父母と両親も同じだった。けれど、我が家では父方の祖父母が失敗をした。夜会でお互いを見初めて婚約者となって結婚したけど長男であるお父様が産まれた頃から二人の仲が上手くいかなくなって離婚こそしなかったけど同じ家に住みながら完全な別居状態になってしまった。そんなお爺様とお婆様に何度となく話をされ、教えられたから私は幸せな婚約や結婚に夢を見られなくなった訳だ。


 身内の恥を晒す訳になるから外では話せない事情だけどユーチャ嬢からすると貴族として非常に大切な婚約と結婚に私がこの歳で忌避感を持ってしまっているのが有り得ないとしか思えないだろう。何だか面倒そうな事情を抱え込んでいるんだと見られてしまったっぽい、まぁ、大きな間違いでは無いのでこのままでいいかしら?と考えて話を進めていく。


「跡取りでもない限りは自分で相手を選んだりなんて絶対に不可能ですからねー。こうなると決められてしまった相手の方を如何に()()()()()()()()()に変えてしまうかが胆ですねー」

「な、成る程…」


 そんな手段は考えもしなかった。基本として全てを受け容れて聞き分けも良く夫の求めるままであれという一点だけを徹底して教育され育った令嬢が殆んどだからこっちが我慢するのではなくて相手を自分に合わせて変えてしまう等とは完全に予想外。でも私にそんな真似が出来るだろうか?全っ然、自信が無いしどうすれば良いのかから分からない。これはかなり難しい、行うとしても苦労しそうだ。


「まぁ、ショルテ様はちょーと、問題はありますけどー、それはこれから躾けていけば解決できますからねー。私は自分でどうにかしようと考えてますよー。カトレア様は違うんですか?パリス様は良いお方だと思いますけどー?」

「うーん…」


 確かに悪くはない、悪い人ではないんだけど、ちょっと夫にと望む好みのタイプじゃなくて私自身にアトランティカ大国の王妃と大聖女になろうという意思が無いだけだ。何かの切っ掛けでもあれば変わるかもしれないけれど現時点ではその気を全く持ってない。パリス様はどうなのだろう?父親の後を継いで大帝になるつもりでいるのか?そう言った話はされないから分からない。安易に聞く事も出来ないし難しい。


「兎に角、話し合われないとですねー。まだ確定ではないですけどカトレア様が最有力候補ですから、もっと仲を深まれないといけません」

「……確かにユーチャ様の仰る通りです。何時までも距離を空けている訳にはまいりませんし、もっとパリス様を知る努力をせねばなりませんわね」


 言われた様に私はパリス様との関係の見直しを計った。だけど、いざ友好関係を築こうとすると何故か近付かせて貰えない、一定の距離感を保とうとされる。難しい、最初の頃は妙に馴れ馴れしかったのにいざ、仲良くなろうとすると離れて行く。何が何だか分からない。首を傾げながらその様子を観察する。どうのこうの言いながらも付き合いは長くなり段々とその素顔、本質を悟る様になった。そして数年が過ぎてすっかり互いが傍らに居るのが普通になりそろそろいい加減に決断をと考えていた時にそれは起こった。


「パリス様!パーリースーさーまー!!!」


 出会ってから4年が過ぎて私は9歳となり、パリス様とショルテは10歳、ユーチャは11歳となった。私とパリス様は相変わらず只の幼馴染の関係となっているが今年に入ってユーチャとショルテの二人は婚約した。予想していた結果だ、このままいけば来年には私もパリス様の婚約者確定だろう、正直に言って非常に悩ましい。いや、パリス様を嫌いではない、もう4年の付き合いになる、どんな人物かはよく理解した。


 まず分かり切ってたけど優しい、これは誰に対してもだ。今日も座学の時間になってもやって来ないので探していたら庭園で土いじりの手伝いをしていた。王家の人間が何をやっているのかと思うがこの人はこういう人だ。少しでも困っているなーと目に映った誰かを見捨てられない。お人好しにも度が過ぎる。学んでいる筈の帝王学はどうしたのかと言いたい。


 後は頻繁に護衛を撒いて街中をうろつく様になった。「社会勉強だよ」とか宣ってるけどそんな殊勝な真似ではなく自分が楽しみたいからあちこちに行って遊んでいるのだと私は知っている。もしかしたら本当に何か学んでいるのかも知れないけど将来の役に立つことを身に付けてるとはとても思えない。まったく、王族としてもっと自覚して欲しい。王族になりたくない私が言うのも何だけど…。


「やあ、カトレア嬢。どうかした?今日もまた慌ててるみたいだけど?」

「誰の性ですかっ!もう午後の授業が始まるのにパリス様の姿が無いから探してたんです!何でこんな所で庭師のお手伝いをしてるんですかっ!」

「いや、大変そうだったからちょっと手伝いをと思って…」

「そこで自ら手伝い始める方がいますかっ!城の騎士でも魔導士でもメイドでも構わないので頼んで下さい!さ、行きますよ」


 パリス様の手を掴んで歩き出す。あ、土を触っていたからちょっと汚れてる。うう、だけどしょうがない、後で手袋を別の物と交換しよう。今はどうしようもないからこれで我慢しないとダメだけど、普段から身だしなみは整えておかなければならない。潔癖とまではいかないが今の姿で土の汚れなど付いててよいモノでは無い。眉根を寄せながらパリス様の手を引いて廊下を歩く。


 アルディージャの王城は広い。派閥ごとに区画が別れているので私でも行ってはならない、近付いてはならない、決して寄ってはならないという場所が幾つか存在している。この先はそんな中でも特に私達にとって危険区域の一つが近い。そこは第一王子の子供と関係者が暮らしている、何をして来るか分からないという点で最も注意すべき相手だ。皆から気を付ける様に言われてしまっている。


 「やれ、やれ」と私の後に着いて来るパリス様。この人は本当に相変わらずで考えが読めない。勉学も実技もやる気は今一つだけど才能はある。王族の一員として恥ずかしくないモノを持っているのにそれをあまり活かそうとしない。なんとなく、私もアトランティカ大国の正妃や大聖女に何か成りたくないけれど、パリス様ももしかしたらそうなのだろうか?と考えて振り返ってみる。


「カトレア嬢?どうかした?」

「………いえ、別に何でもありません」


 今は二人きりの状況とは言え不用意に話せる内容ではない。聞いたらあっさりと答えてくれそうだけれど、それでも注意すべき話題だ。こんな誰の耳があるかも分からない廊下で口にしてよい言葉ではない。しかし、改めて考えると4年も一緒に居てその本当の願いを知る事も無かったんだなぁと残念に思う。私も誰にも「王族の婚約者になりたくない」とか「大聖女なんて無理」等と話せなかった。


 言ってもどうしようもないという諦めもあったが、それ以上に家の立場的に断る事など不可能な問題だった。だから、自分に出来る事でユーチャに言われた様にせめてパリス様を変えようと色々と頑張って見たけどダメだった。4年前から変化がないどころか悪化すらしている。うん、だって何をしても効果が無いんだもん。アドバイスに従って挑戦に挑戦を重ねたけど本当に何一つとして意味を成さなかったのだ。


 ショルテのように負けん気が強ければ、私が男を誑かせる絶世の美女だったら、変化はあったかも知れないが生憎どちらも存在しない。何とも困った結果だ。本当にこの人はどう教育すればいいんだろう?でもそれ以前に王家の帝王学の授業でも変わらないからある意味で筋金入りのお気楽極楽思考である。まったく、私の好み以前に矯正しないとこのアトランティカ大国の未来が危機である。それはそれとして授業が先だ歩みを進めて城内の廊下を目的地目指して行く。そこで――


「待って」


 繋いでいた手をグイっと引かれた。何?と振り返るとパリス様は今まで見た事も無い程にまじめで真剣な表情でもって正面を睨んでいた。なんだろう?何もおかしい所はない――そう思った瞬間、廊下がグニャリと曲がった気がした。「えっ?!」と驚いて瞳を見開く。目の前の通路は歪み、捻じれていきどんどんと異常な事態になってしまう。そこら中に変な霞の様な物まで生まれ始めて状況は悪化した。


 油断していた、人が溢れている城内だからちょっとだけ一人で行動、皆と手分けしてパリス様を探そうとした結果がこの様だ。これは何だろう?城の中にある通路を変貌させて通った者を捕らえるか、迷わせ疲労させて弱らせるといった〖魔導具〗か、何かだろうか?間違いなく普通じゃない、こんな想定外の事態に巻き込まれるなど欠片も予想していなかった。


「〖幻影通路〗か、誰が発動させたか分からないけど面倒なモノを…」

「〖幻影通路〗ですか?」


 王族としてパリス様は知っておられる様だが私は聞いた記憶がまったくない。この見るからにまともに歩けそうもなく、通るのが難しそうな廊下がその〖幻影通路〗と呼ばれる代物なのだろう、閉じ込められた訳ではないがこれでは進む事も、戻る事も出来なくなった。いや、どちらもやろうと思えば出来るだろうが、おそらくは入り口にも出口にも辿り着けない。これは一体、どう対処すれば良いのかと私は生まれて初めてと言えるほど今の現状に恐怖を感じていた。



「これは焦ってもしょうがないね。ちょっと落ち着いて事態を見守ろう」

「パリス様…でも…」


 不安になって見上げると彼は何時も通りに何でもない様に私に向かって「大丈夫だよ」と笑顔を向けていた。こんな時でも普段と全く変わらない、それが上手く言葉に出来ないがもの凄く心を落ち着かせ安心させてくれた。壁に背中を預けて座り込んだパリス様に習って私もその横に腰掛ける。特に変化は無い、まぁ、数分程度で異常が回復したりはしない。でも、なんだろう?今まではどんな時でもユーチャやショルテ、給仕や護衛といった者が傍らに居たから完全に二人っきりというのは初めてだ。何故だか無性に胸が騒めき、頬が熱くなる。おかしい、パリス様なんて私の好みではない筈なのに…。慌てて誤魔化そうと話題を振る。


「そ、そういえば〖幻影通路〗ってなんなのですか?私は初めて聞いたのですが?」

「ああ、これは敵に城内へ潜入された時の最終防壁手段だね。攻め入った兵や騎士等を閉じ込めて惑わせる一種の人造迷宮ダンジョンを作り出す初代が残された神造の〖魔導具〗だよ」


 私が知らないのも納得な超機密の国宝の一つとも言える品による効果だった。「えっ?!その様なとんでもない〖魔導具〗に囚われてしまって本当に大丈夫なのですか?」と、唖然として尋ねるが「気にする必要ないよ。問題無し」と、慌てる様子など一切無く、落ち着いて微笑みを浮かべて私に答える。ここは不安に思うところかもしれないが、何故かパリス様を疑う気にはならず私は安心してその隣に寄り添った。


 うん?あれ?何で私は自然とパリス様の横に座ったんだろう?おかしい…私はこの人の事などどうとも思ってない筈…だけど一度、意識してしまうと気になってしょうがない。顔が真っ赤になって、鼓動が激しくなる。有り得ない、私はもっとこう、こちらを力強く引っ張ってくれる思い切るのあるしっかりした大人な男性の方が好きなのだ。取り繕わずに話してしまうとお父様の様な。子供だなぁと生暖かい目で見られるかもしれないけど実際にまだ幼いんだから、仕方ないでしょうとしか言えない。


「そ、その…この〖幻影通路〗とやらが解ける迄はどのくらいの時間がかかるのでしょうか?」


 此方の動揺を悟られないように再び質問を投げかける。うう、これは誤魔化せているのかしら?何でこんな思ってもいなかった事態に陥ってるのだろう?私にとってパリス様は面倒で世話のかかる歳上ながらただひたすらに厄介な弟のような婚約者候補という立場でしか無かった筈なのに、ダメだ。一度そういう風に想ってしまうとどうしてもそういった方面に考えが向いてしまって頭から離れない。このドキドキが伝わらない事を祈りながら尋ねる。


「そうだね、早くても数時間、長いと数日なんて可能性もあるね」

「数日ですかっ?!」


 それはちょっと待って欲しい。流石にそんな長い時間をこの場で過ごす余裕はない、食事の用意から寝る場所、何よりもお花摘みが出来ない。生理現象は死活問題だ。これはどうにかしないと私的に超難題だ。下手をすれば一生の恥、お嫁に行けなくなってしまう。その際にはパリス様はに貰って頂くしかないかと考えてボンッとピンク色に頭が爆発する。私は一体、どうしてこんな貴族令嬢としてあるまじき思考をしてしまったのか恥ずかしくて埋まりたくなる。兎も角、平常心である。落ち着けと自分に言い聞かせて必死に鼓動を鎮めて話を続ける。


「そ、それは短くする術はないのですか?」

「うーん、残念ながらないね。外から解除してもらうしか手段はないから、まぁ、慌てずにいよう」


 慌てます。もの凄く慌ててしまいます。これ以上ない危機なのです。現時点で命が風前の灯火とまでは言わないけれどそれに並ぶ勝手、経験した覚えがない緊急事態、とても落ち着いて現実を直視できません。閉じ込められてしまったという事実も、自覚もなかったままに何時の間にかパリス様に対して抱いていた気持ちに気付かされたのも大問題だ。一体、何年何ヶ月前から私はこんな感情を胸に秘めていたのかと思う。確実に昨日、今日ではない、ずっと昔からだ。何の因果でこんなタイミングでそれが判明してしまうのか、何もかもが想定外すぎる。一体、どうすればと頭を悩ます。


「まぁ、僕等の護衛達は優秀だよ。きっと素早く解決してくれると信じよう」

「……そうですね」


 それに縋る以外、私達に頼れる者は居ない。一刻も早い救助を願うのみだ。間に合うかどうかが最も重要な点だ。時間はどうだろう?まだ平気だけれど流石に何時迄もとは言えない。2、3時間は問題ないがそれを超えると怪しい、本当に何故、こんな事に?と頭が混乱する。命を狙われるような立場でいる事は理解している。こんな警備厳重な城内で白昼堂々は全く意図していなかったけれども、兎も角、私達にはもう待つだけしか出来ない。気を紛らわせるのと迂闊な言葉を口にしない様に気を付けながらパリス様と会話する。〖幻影通路〗で閉ざされた城の廊下で私達はポツポツと語り合った。

狐猫の小話

本来ならもっと時間や相性を考えて選ぶ婚約者ですが大聖女が王妃となるこの国では選択の余地がありません。

まぁ、奴隷や平民からでも素質のある子なら候補に挙がったでしょうがそんなの探す余裕も育てる時間も無かったのでカトレア嬢です。

もう一人が決まって無いのは地位も能力も大差なくこれと決められる聖女が居ない為にこうなってしまってます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 教育の格差は大きいですよね。
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