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狐猫と旅する  作者: 風緑
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第161話 恋バナと思い出?


「そういえば、セリアさんには好きな人っているんですかー?」


 お風呂上り、湯冷ましにクピクピと冷たい果実水を飲んでるとユーチャさんが唐突にセアラに言った。ブホッ!と咽そうになる。ちょ、ちょっと待ってユーチャさんよ、今のセアラにそういった話題は…と心配して見上げると予想通りにアワアワしていた。うーん、ホンの数ヶ月前に生まれて初めて告白されて翌日には当人が生死不明になるというトンデモ事態を味わったのだ。それまでもそんな世界と無縁だったセアラの恋愛感はまだまだ初心者どころか小学生――いや、幼稚園児レベルである。


「え、ええと、好きだと言ってくれた人はいます。私は良く分かりませんが、もしかしたら好き……かも知れないです。今はちょっと離れ離れでどうなってるか分からないですけれど…ユーチャ様はどうなのでしょうか?」


 セアラが戸惑いつつフォル王子を思い出すように答えて今度は自分からユーチャさんに尋ねる。相変わらず人から向けられる好意には鈍感だなぁと思う。カトレアさんは近くで聞き耳を立てている。セアラ自身の自覚は欠片としてないがライバルとなってるからなー、動向は決して無視できないだろう。そんな超鈍々(にぶにぶ)少女なセアラにユーチャさんは答えてくれる。


「私ですかー?私はショルテ様って婚約者がいますからねー、ちょーと気難しくて、負けん気が強くて、選民思想があるけどそこは今後、要教育ですねー。キッチリと躾けますー」


 何だか問題児ではないか?ショルテ君って?よくもまあ、そんなのを夫にすることにしたなユーチャさんは探せばもっとマシな貴族の男なんて幾らでもいただろうに、それでも婚約するんだからお家の事情かな?まぁ、ユーチャさんってばこれでとてもしっかりしてるし実力もそれなり、キチンと旦那さんを矯正するだろう。と、ゆーかこちらの二人の間に愛はないな。契約だけだ、恋愛相談には全く向かない。まぁ、本来の貴族の婚姻なんてこんなものだろう。


 セアラが戸惑った様に「そ、そうなんですか…」と言うとユーチャさんは「そうなんですー」と答える。自分自身は恋愛できないけど人の恋路は気になるのかー、女の子だなーと思う。私も興味はあるぞ!自分が結婚できるか、子供産めるかは別にしてだけど、そもそも今までに家族以外の狐猫――綿猫ファトラに遭遇した事がないもんなー、何処かに居るとは思うが会えれば捕獲しておこう。ホウ様に飼育を頼めば私に相応しい雄に育ててくれる筈だ。やってくれるか分からんけど。


「そんな片や彼氏がどうなってるか分からないと親同士が決めた契約結婚という幼馴染を前に大好きな婚約者と絶賛、喧嘩中なカトレア様の心中はどうですかー?」


 ああ、成る程、なんでまた突然にこんな話を振ってきたのかと思ったらいい加減にパリス君とカトレアさんの仲の修復を考えようというユーチャさんの作戦か、確かにそろそろ改善されてもいいよなー、今だにセアラに対して偶に熱が籠った視線を向けてくるが、それでもパリス君は一生懸命、カトレアさんに謝ってるから、そろそろ許してあげて?とは私も考える。その思いを乗せたユーチャさんとセアラ、私、全然わかって無いけど皆が見てるから一緒にと視線を向けるナハト。


 だけどカトレアさんは「うっ!」とちょっぴりたじろいでしまったが暫く無言の重圧に耐えた後にプイッとそっぽを向いてしまった。残念ながらまだ許す気は無いらしい。だけど、そろそろ惜しい所までは行ってるかな?もう一押しか二押しって感じである。頑張れパリス君と思う。元々がデレてたんだからもう一度、落とすのは難しくない……筈、としか言えない。


「カトレア様ー、そんなにダメですかー?」

「ダメですっ!そんな簡単には許しませんっ!」


 うーん、もう十分な気がするんだけどまだまだの様だ。早く素直になれば良いのに引っ込みがつかなくなってるのかな?拗らせてしまったモノだ。パリス君にも非はあるがあるがホント、そろそろ勘弁してあげて欲しい。どうせ何時かは縁りを戻すのだから今でも問題なかろうに…だけど断固としてカトレアさんは許しを与えない様だ。ええい!めんどくさっ!自分に正直に生きろと言いたい。


「えーと、カトレア様?私が言うのも何ですがパリス様も心から反省していらっしゃいますし、許してお上げになった方が…」

「……セリア、自覚も無くそう言われてしまうと無性にイラッとしてしまいますわね」

「???」


 現状で最もパリス君の心を搔き乱してるセアラの言葉はカトレア様にとっては嫌味に聞こえてしまうのかな?まぁ、本人に悪気はないのだ、ホント、実際、確実にそんなつもりは全然ない。だけど現状で惑わせちゃってるからなー、セアラともかなり仲良くなってるカトレアさんだがその言葉には複雑極まりない感情が籠ってる。気持ちは分かるけどセアラに八つ当たりしないでね?と心底願う。カトレアさんがそんな子じゃないのは理解してるけどね。


「兎に角!今はまだ絶っっっっっ対!にダメです!パリス様には二度とあんな真似をしないように徹底的に知らしめます!」


 うーわ、前にも言った気がするがこれは愛しさ余って怒り100倍って感じかな?残念だけどまだまだ信頼関係の回復には時間が必要な様だ。哀れではあるが自分が蒔いた種だしなぁ、これ以上は更にカトレアさんを頑なにさせるだけだ。仕方がない諦めるか、パリス君よ。もうちょびっとだけ耐えるのだとエールを送っておく。それが届くかどうかは別だけどね。お風呂を上がって私達は夫々の部屋へと戻っていった。さて、遅くなったけど今夜はホウ様宅に〘集団エリア長距離転移ロングジャンプ〙だ。初の真の【人化】もお披露目である。どんな姿になるのかなーとワクワクしながら私達は【並列存在】を残して〘転移〙した。







 私の名はカトレア・レームデルグ。アトランティカ大国でも有数の森林資源を誇るケッセルメンクとその周辺都市を統治するレームデルグ公爵家の次女である。我が家は初代が⦅屍竜ファフニール⦆を浄化する為に遣わされた聖女とその護衛だった王家の血を引く騎士だったからか以来、レームデルグ公爵領では高名な騎士と聖女が何人も生まれた。


 だけど、それも短い間だった。⦅屍竜ファフニール⦆が⦅死体王花タイタンアルム⦆となり、森が茂る様になると聖女の浄化はもう大丈夫だろうと行われなくなった。でも魔物は大量に増えたので騎士も聖女も実力は上がり、アトランティカ大国の中でも特に武よりの公爵家となった。私のお姉様は偶々か聖女の素質は開花しなかったが女だてらに騎士になって現在は第一騎士団所属となっている。


 私と違って「婚約者は自分で探す」と言って憚らず、最近になってやっと王宮の魔導師団の一員と恋仲になったと大喜びの手紙が来ていた。うん、やっとかあという思いと大丈夫だろうか?という不安で半々だ。家格が見合ってる相手なら良いのだけどとだけ心配する。お兄様は現在、第八騎士団所属でレルソックに詰めている。立場も既にかなり上だ、レームデルグ公爵家の跡取りとしての勉強も欠かしていない。婚約者もちゃんと決まってるし、ある程度の実績を積めばケッセルメンクに帰って今度は次期領主としてお父様の補佐に回る予定となっている。


 対して私は産まれて少しして直ぐに聖女の素質がある事が発覚、歳も近いし公爵家という事からトントン拍子に次の大帝であるカエサル・ドラグニウム・ロムルス第三王子の長男であるパリス・ドラグニウム・ロムルスの婚約者候補になってしまった。はっきり言ってしまって「面倒ね…」としか思わなかった。お父様、お母様、お姉様、お兄様、屋敷の使用人にメイド、領民は大切だけど、国母になれる程に自分が優秀だとも国をどうにかしたいという理想ももってない。


 加えて子供ながらも賢しかった私は王族の一員になるというのに夢も希望も持ってなかった。所謂、白馬の王子様なんて思い描く様な恋に恋する少女じゃないし、それに付随する王妃という立場が持つ責任の重さが分からない程に馬鹿でもない。私もお姉様の様に騎士を目指してしまおうか?そんな事を考えても当時まだ5歳だった私に抗う術は無く、その日に王城へとお父様に連れられて行ってしまった。大帝都アルディージャは流石に栄えていた。ケッセルメンクも大きな街だが比べ物にならない。王城もまた別格だ、流石は歴史のあるロムルス王家だと考えながら案内されて城の中にある庭園へと通された。そこに用意された席には既に三人が座っていた。席はもう一つしか空いてない私が最後だった様だ。


「遅くなりました。レームデルグ公爵家次女のカトレア・レームデルグと申します。どうぞ、よろしくお願いします」

「はーい、ユーチャ・フレイドルです。フレイドル伯爵の長女になりますー。こちらこそよろしくお願いしますー。カトレア様」

「俺はショルテ・シュランツ、シュランツ伯爵家次男、よろしく頼む」


 お詫びをしてから挨拶をすると早速、左右に座った男女から返答が帰って来る。ユーチャ・フレイドルと名乗った子は中々に愛嬌のある顔立ちをしている。将来が有望そうだ。一方でショルテ・シュランツは野生的で猛禽類の様な鋭い目と雰囲気を纏っている。まるで獰猛な肉食動物か危険な魔物を思い起こさせる気配だ。危険人物だなと感じた。最後に正面に座っていた人物がにっこりと笑って口を開いた。


「最後になったけど僕がパリス・ドラグニウム・ロムルス、こんなだけど一応は王族の端くれなんだ。どうかよろしくね、カトレア嬢」


 うん、パリス様、容姿端麗を地でいく王族としては並って所、十点満点なら十二点は欲しいのが八点くらいしかなさそう。加えて笑顔がとっても胡散臭い、王族という唯一無二の立場に血筋とその重さとか背負うべき責務とか纏うべき威厳や覇気はどうしたんだと、時に十の中から九を救う為に一を切り捨てたり、尊い一を救うのに九を見捨てる決断をしなければならない王になる可能性を持つ者がそんな誰にでも優しいですよーという微笑みを浮かべていてどうすると思う。


「カトレア嬢、ユーチャ嬢、シュランツ子息も聞いてるかも知れないけど僕は王家に産まれた久々の【恩恵ギフト】【未来予知】持ちでね。三人と会う事も前もって分かってた。だから気軽に声を掛けてくれると嬉しいかな」

「分かりました―。では私の事はユーチャとお呼び下さい。気楽で助かりますー、パリス様」

「俺もショルテでいい。代わりにパリスと呼ばせて貰うが構わないな」


 「いいよ」という返事を受けて二人はあっさりとパリス様のお友達になってしまった。私は内心で「えー、そんな簡単に…」と考えてしまう。何だか三人揃って温すぎる。会った初日に王族を相手に此処まで馴れ馴れしくなって良いモノか?と私は頭を悩ませる。私は身分的には王家の血も引いてる公爵令嬢だから呼び捨ての友人関係になっても不思議は無いけどそうなったら間違いなく婚約者ルート一直線である。それはハッキリ言ってお断りだ。パリス様は私の好みではない。


「私はまだその様な関係には…カトレア嬢とお呼び下さい。パリス様」

「分かったよ。カトレア嬢と仲良くなれるのはまだまだ時間がかかりそうだね」


 どうだろう?これも【未来予知】で前もって知られていたのかな?何だかちょっと悔しいというか負けたような気がする。何だかなぁ、未来、自分の将来を分かる範囲で読まれてるというのは良い気分がしない。しかも見られたら回避不能というのが凄く嫌だ。もう遅いけど絶対に近付きたくなかった。同年代に産まれてしまったのが不幸だ。


 その後も当たり障りのない会話を続ける。出されたお茶やお菓子、庭園に咲く花々や最近の流行や夫々の身近な事柄について色々と話し合う。悪くはない、話題は尽きない。私も同年代の友達って居なかったから新鮮だ。パリス様は当然だがユーチャ嬢も知識豊富、ショルテ子息も頭の回転は速い、こちらの会話を理解してしっかり返事をして来る。うん、第三王子とその派閥が息子の婚約者と側仕え、右腕候補として選んだだけはある。


 思ったよりも楽しめた初顔合わせだったけど、その後でパリス様の妹君であるイーナ・ドラグニウム・ロムルス様が「兄様は譲りません!」と叫んで会場に乱入、暴れ回って大騒動になってしまったがそれはそれだ。なんとも予想外な事態に陥って終わりを迎えてしまった。そしてこの日から私の大帝都アルディージャとケッセルメンクを行き来する日々が始まった。

狐猫の小話

カトレア嬢とユーチャ嬢は男を尻に敷くタイプですね。

揃ってとってもお強いです。

一応はこの世界、男尊女卑なんですが…

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― 新着の感想 ―
[一言] 波乱万丈で精神も成熟してる狐猫は完全に生暖かく見守る側ですね。
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