第159話 ガルガード王国とお馬鹿な王子?
「―――――そんな訳で我等に課せられた任務は『アトランティカ大国とサイバリス聖国の和平交渉の妨害』です」
「三ヶ国の同盟が崩れるとこの反乱は間違いなく粘る事は出来ても最終的にガルガード王国の敗北に終わります」
「何としても交渉決裂、戦争を継続させる為に第三王子の嫡男であるパリス・ドラグニウム・ロムルスを攫うか最悪、暗殺して戦争継続派を焚き付ける作戦でした」
ふむふむ、今になってサイバリス聖国に抜けられては困るから帰り道に刺客を放ったのか、でも、妙だな?本格的な和平がなりそうになったのはつい最近だ。その前は完璧に交渉をすると見せかけた罠だった。
あれか敵を騙すにはまず味方からで本気で反乱の終結を風聞してたのか、それを真に受けて継続を望んでいる者達を有利にして動かす為にパリス君を狙ったと、だけどパリス君って第三王子の長男だったのか、問題を起こさなければ次の次の大帝だな。
セアラはパリス君がそこまで大物だとは思ってなかったらしくて「え?え?」とちょっと混乱中。気付いてなかった事に私がビックリである。内乱の調停というこれだけの大事に駆り出される人物に超厳重―――と、迄とは言えないがそれなりの護衛と公爵家の婚約者、これで察せない方が問題だ。と、いうかそれだけパリス君に興味が湧かなかったとも言えるか、哀れである。
それは兎も角、つまり彼等は一番、最初の話し合いを終えてアルディージャまで帰って来るパリス君を待ち伏せたが一足…いや、数足遅く会談の為にケッセルメンクからレルソックへと向かってしまった。追い掛ける事も考えたらしいがこれ以上、深く入り込むのは危険と判断して此処で長旅疲れで油断しているだろう御一行を待ち伏せることにした。
「しかし待てど暮らせど戻って来ず…」
「情報についても全くで…」
「近くの街に部下を向かわせる訳にも行かず、野営地に旅人を装って潜り込ませても聞ける話は大したものではない。隠れている身としては大きな行動は起こせないし、襲って野盗紛いの真似をして物資を奪えば討伐団が派遣される恐れがあるから周囲にある植物や獲物、魔物を獲って糧を得るしかなく…」
成る程ね。〘魔導袋〙に準備してあった食料も早々に底をついて、もう木の皮だって齧るぞ!って位に飢えた結果が今の私の作ったご飯に陥落したガルガード王国の騎士達だ。どのくらい此処でパリス君を待ち伏せていたのやら…三ヶ月くらいは超えてるだろう。随分と前から準備していた様だけど色々と不足してるな。とても万全で兵を伏せたとは言い難い。緊急な情報で慌てて適当に向かわせただけという感じだ。
そう迄してサイバリス聖国の離反を防ぎたかったか、まぁ、最初はそう思わせただけで実際は無理難題を叩きつけてパリス君を狙う作戦だったからなぁ…。あれ?しかし、そうなるとパリス君ってば狙われ過ぎじゃね?【恩恵】の【未来予知】もあってあちこちを巡らされてるからだろうな。目障り極まりないんだろう。他の王族はほぼ城から出ないのに彼だけはあっちこっちに行かされてるからなー。
「加えて今回の情報が得られた経緯、裏に第一王子からワザと情報が流されたという噂がある。余程、第三王子を大帝位に付けたく無く足を引っ張りたい様だ」
あー、話に聞いたバカボンの第一王子か、そんな阿呆な真似をしてたのか、要らんことをせずにちゃんとガルガード王国の相手をしてろと言いたい。出来の良い弟が目障りだからとその子供を殺しに来るなと、本当に手に負えないタイプなのだろう。迷惑だ、なんとかならないモノかと考えるが所詮は他国の問題だからなー。私とセアラが何処まで手を出して良いモノか分からない。パリス君達を大帝都アルディージャまで無事に送り届けるのは仕事として確定だけど、余計な仕事を増やさんで欲しい。
「さ、最後に…その…現状を伝えに本国に【遠話】を使える部下を一月ほど前に帰したからもしかしたらもう一度くらいは襲撃が来る可能性が……」
「「………」」
ええい!増援が来るのかい!今更になって数十や百程度が襲って来ても相手にならんが迷惑な事は変わらん!兎に角、一応は気を付けて旅を続けようと歩みをを進めた。あ、約束通り情報を吐いた三人には食事を与えて食べ終わったらもう一度、縛り上げて気絶させ仲間の側に転がしておいた。後は捕縛の者が到着するまで無事だと良いがどうだろうな?って所だ。まぁ、食糧確保の為に周囲一帯の魔物は狩まくっていた様なので多分、大丈夫だろう。私達はアルディージャへの道中にある最後の森を抜けた。
「しかし、伯父さんかまた余計な事をしてくれたものだね」
余計な襲撃があったので時間を取られた、今日は森の出口で野営だ。明日の昼頃には次の街へ到着予定、そうなれば一息付けるかな?って所だ。その街を含めてあと三つを通過すればこのアトランティカ大国の中央都市にして最大の大帝都であるアルディージャに辿り着く。それでパリス君の護衛依頼は終了。私とセアラ、ナハトはまた何かの仕事を受けつつ北の果てにあるスメラギ目指して全力疾走をする訳だけど上手く傭兵の任務にありつけるかが問題だ。
後はパリス君だなー。流石に此処まで守って友好を築いてきたのにお別れして直ぐに何かがあったとかは寝覚めが悪い。ある程度まではその身を護る手段を考えないといけない。セアラの【神授】で何時でも【神域】を展開可能な〖魔導具〗でも持たせておくかな?カトレアさんとユーチャさんにもだ。だけど、本当に第一王子は碌でも無い様だな。何とかしておかないと本気でトンデモナイ事態を引き起こしそうだ。
「あの…アトランティカ大国の第一王子という方はそんなにダメなのですか?」
セアラが恐る恐ると尋ねる。私も何となくひどいとしか知らないからと皆を見る。パリス君は先程の言葉通り、何時も通りの優し気な笑顔を浮かべてはいるが何とも言えない困ったなぁって感じの表情になる。カトレアさん、ユーチャさん、ローレンさん、ケベルさん、カレッサさん、モニカさんも揃って渋面になる。まぁ、第三王子派な上にパリス君を始末させようとしてきた相手だ。悪い感情しか持ち合わせていないだろう。
「うーん、伯父さんはねぇ、兎に角、自分が一番でないとイヤなんだ。何をしても弟達に勝てない、本来なら長男である自分がアトランティカ大国の大帝になる筈がお爺様――カール138世の一言で僕の父上に継承権を持っていかれてしまった。それが許せなくて憎くて、憎くてしょうがないのさ。だから父上を蹴落とそうと色々と画策するけど殆んどが裏目、僕を狙ってきたのもこれで三度目かな?流石にガルガード王国にやらせたのは初めてだけどね」
うわー、予想以上に酷そうだ。骨肉の争いか、しかも本気で命を狙うとかマジでヤバすぎる。甥まで標的とかよく廃嫡されて放り出されないもんだ。現大帝のカール138世は何を考えているのやら、バカでも長男だからと非情になり切れなかったのだろうか?でもそこは他の息子と孫の為に決断して欲しかったものである。因みにカトレアさんとユーチャさんにもう一人の幼馴染というショルテという子も襲われた過去があるそうだ。害しかねえ、もう始末してしまえとしか思わない。
「私も新年の義で王城に泊まった時に寝室へあのバカ王子の息子が忍び込んできた時にはどうしてくれようかと思ったわ」
「あー、私もです。危なく酷い目に合う所でした。叩き出しましたけど、奥方様は良い方なんですけどお子様達がもう揃って父親の影響を受けてか歪んでしまっていて…」
息子もダメなのかっ!本気でこのアトランティカ大国の王族は大丈夫か心配になるわっ!奥さんは一人で伯爵家の長女、第一王子を支持している七賢人の娘らしい。超常識人でまともとの話だが産んだ息子二人は父親と夫の教育の成果でダメダメに、物凄く苦労して頑張ったが全てが徒労に終わって燃え尽きた感じで表にもあまり出て来なくなったそうだ。被害者だなー、可哀想だ。
因みにパリス君のお母さんは大聖女候補第一位の二人の内、一人でそれは優しくしっかりした人でもう一人ともとても仲良し、家族構成は同い年の妹が一人、二つ下の妹が二人、四つ下の妹が一人と五つ下の弟が一人だそうだ。女の子が多いな、次の次の大帝は問題が無ければパリス君かその弟のどちらかだろう。優秀な夫を迎えて女帝って可能性もゼロではないけど大聖女の夫が大帝だからまず有り得ないかなーと思う。
このアトランティカ大国の大聖女は黒の大聖女と紫の大聖女と呼ばれて夫々が今は大帝の正妃と第三王子の妻である。カトレアさんは現在、黒の大聖女後継候補第三位だそうだ。まだまだ若いのに大したものである。第二位はそこそこな年齢で伸びしろも怪しいのでパリス君の婚約者候補からは外された。対して紫の大聖女はというと現在、二位は黒の大聖女と同じだが、第三位は何とパリス君の同い年な妹である。だから婚約者には出来ずどうするか困っているとの事、カトレアさんにとってはライバルで互いに競い合ってると言う。
しかし、聖女の素質は遺伝する上に望めば王族でも神殿に入れるんだなーと知った。だけど何でそんな王族の女子が聖女をやってるかと言うと他の皆が曰く、当人のイーナ・ドラグニウム・ロムルスさんは『わたくしはお兄様の妻になるのです!』と14歳になった今も堂々と言ってのける超絶ブラコンで歯止めが効かず、代わりの実力ある聖女を必死こいて育てるか捜索しているとの事だ。何かアトランティカ大国の王族ってまともな王の血を引く者として民の為に頑張ってちゃんとやってるのが少なすぎる。
もう、本当に国を背負う立場ある存在としてしっかりしろと言いたいが結局は人間だから自分の欲に忠実なのかと頭を抱える。だけど本当に只でさえ内乱でゴタゴタなのに王宮内も権力闘争で纏まりが無いとか救いがない。せめて纏まって問題を解決、対処をしてから争えと教育したい、まぁ、無理だろうけどね。それでもサイバリス聖国の問題は方がつきそうなのだ。どう落としどころを付けるかまだ調整は大変だろうが、終わらせてしまえば他の二ヶ国も動きが変わろう。
こちとら移動中だから詳細は分からないが《影》さんからの情報によるとゼルザルド聖国にはサイバリス聖国がアトランティカ大国との和平の調停に入った事が素早く知らされてかなり動揺をさせてる。このままだとサイバリス聖国に向けられていた戦力の全てが自分達――ゼルザルド聖国に襲い掛かって来る。そうなれば間違いなく負けは必須だ。もう一度、サイバリス聖国を煽って開戦をと狙ってももうそれで動く愚か者は居ない。裏では色々と動いた様だが全て潰した様だ。ゼルザルド聖国が諦めるのもそう遠くないだろう。
一方のガルガード王国は行動が読めない。相手をしている第一王子派の騎士団と魔導兵団は情報を隠匿してるし、カール138世は実はもう病床らしく、殆んどの実務は第三王子が行っているそうだ。本当なら王族の結婚なんて凄く早くに行われる筈だが内乱のお陰で結婚予定だった大聖女の一人が死亡、もう一人も駆け回る羽目になり結婚が遅れに遅れた。40ギリギリになってやっと妻を獲得したがやっぱり遅すぎた。
黒の大聖女は高齢出産が祟って一人しか子供が作れなかった。これが問題児な第一王子である。もう一人の紫の大聖女は二人を産んでこれが第二王子と第三王子。黒の大聖女もそろそろ怪しい年齢だが、まだ元気だ。だけどカール138世が崩御すれば大聖女を引退だろう。まだ少しだけ若い紫の大聖女も同じくだ。その後は第三王子の妻でパリス君のお母さんな聖女が大聖女だな。
そんな事情のアトランティカ大国でガルガード王国の情報は貴重、現在の斬帝大帝である第三王子も《影》を送ったりして情報収集を試みているが難しい所らしい。第一王子やその支援者が邪魔をしまくるからだな。今回、売国行為を行ったと知られれば流石にもう軽いお咎めでは済まないだろう。軽く謹慎くらいでは終わらないだろう。どこかの辺境に適当な爵位を与えて蟄居ってとこか、私としては首落としてやれとも思うけどな。
「まぁ、そんな訳だから伯父さんも今回のこれは流石にやりすぎで終わりかな?機密を漏らして敵を動かすとか、討つ為なら兎も角、味方に犠牲を出すべく流出させたんだからもう庇う者はいないだろうね。『部下が勝手にやった!』とか言うかもしれないけどサイバリス聖国との会談は本当に機密だったからね。知っているのは極一部だけそれを外部に漏らしたとなるとその分も罪に上乗せだね」
本気でバカ王子だったんだなー、救いがないわ。息子は同レベルっぽいから気にしないけど奥さんは不幸だな、報われて欲しいと思う。《影》さんが【遠話】で伝えてるだろうし、私達がアルディージャの王城に辿り着けば第一王子はもうチェックメイトだろう。そうなればどんな目に合うのやら、今頃は何とかしないとと必死に考えてるかも知れないが私とセアラ、ナハトが居る限り万が一も無いと思う。
だけど、何かをやらかすかもなーと警戒する事にする。配下は北西で戦っていて殆んど手元に十分な戦力はないだろうが間違いなく対策に手を打って来るだろう。まぁ、バカの考えだから気にする事はないだろうと考えるが、どうにも勘が囁くのだ。『まだ油断するな』と、人質とか取られる?身内に誰か裏切り者でも居る?誰か隠し玉でも手元に置いてる?分からん、分からんが……注意すべきだ。
さあ、第一王子はこれからどんな行動を起こして来るか?いずれにしても今日はもうすっかり夜も更けてしまった。当番の見張りを残して私達はサッサと寝ることにした。私はカトレアさんに抱かれてセアラはナハトを抱いて夫々の簡易宿泊所に入る。アルディージャまでは残り僅か、其処に何が待っているのか注意を払って街道を往く私達だった。
狐猫の小話
骨肉の争い、それも王族となると半端ないモノになりますね。
第一王子は本物の馬鹿で第二王子は戦バカ、第三王子が真面だったのが救いです。
因みに第二王子は結婚に興味なく逃げ回ったので今だに独身。




