第157話 苦戦する狐猫と神との会話?
「ミミィミィィィッーーー!!!」(ぬおうわぁぁぁっーーー!!!)
私の〖黒牙〗と影の刀がぶつかった次の瞬間、私は宙を舞っていた。うん、力も負けてるがそれ以前に私の体が軽すぎる。影は恐らく人間の5歳児相当として20キロぐらい、刀が1キロって所、一方で〖黒牙〗も同じ1キロちょっとだけれど、私自身は1キロもない。700グラムって程度だ。その差は何と20倍以上、刀が激突するだけで軽々と飛ばされてしまう。
ホウ様との特訓ではその辺も考えて手加減してくれてたから打ち合いが成り立っていたが実戦ではアウトだ。勝負で重要なパワー、ウェイト、リーチが絶望的な差となっている。テクニックとスピードで上回るしかない。さて、受けるは絶対にダメだ。吹き飛ばされるか叩き付けられる。影の攻撃は全てを流し、捌き、躱す、それ以外に術は無い。
先ずは速度だ。これはどうかな?と、全速力で突撃する。影の刀が振り下ろされる。影は小っちゃいが私はそれよりさらに小さい手の平サイズだ。警戒すべきは振り下ろしと斬り上げだけ、横薙ぎは問題ないだろう。地面すれすれを狙わないと当てるのは不可能だ。小っちゃいのは不利だが攻撃を回避するという一点においては此方が遥かに有利だ。
走り抜けて一撃を回避してそのまま影の足元を切り裂きにいく。素早く戻された刀が〖黒牙〗の一刀を受ける。向こうは手を使ってるので刀を自在に振るえるが咥えているだけの私は駆け抜け様に一閃、それしか出来ない。頑張れば突きも出来なくはないが咥え直すのが面倒だし、体当たりに近い一発だからかなり厳しい。仕留めるトドメになら兎も角、普通に振り回すなら具合が悪い。
だけど、初撃を止められてもそのまま疾走、全速で走りながら二撃目、三撃目を振るう。狙うは足一択、刀使いの胆である足捌き――歩術を潰す。と、言うより体の大きさの差から他は狙えない。駆け回る。小動物特有の地を這う走りに影の方は――着いて来られていない。幸いだ、かなりの差がある。緩急を付けて上手く動くだけで影からの攻撃は全部、回避が可能だと思われる。
さて、続けて腕の差はどうかな?と計る為に敢えて影の一撃を逸らしに挑む。タタタタタッ!と寄って来るのを待ち構え間合いに入ると同時に袈裟斬りで振り下ろされた一刀を〖黒牙〗で受け流す。うん、技量はこっちが上だ。いや、それ以前に外見通りの子供の刀だ。最初は焦ったけど本物の5歳児相当に実年齢20歳近くの経験と物覚え、体を動かすある程度のコツ、転生してからこっちの実戦と修行の日々は伊達ではない。
地面を叩いた影の刀に対して私は素早く急所を狙って〖黒牙〗を走らせた。ギリギリどうにかという感じで躱された。むう、あと一息だった、惜しい。でも大体は理解した。真面にぶつかれば負け確定だけど、速さと技で押し切れば勝てそうだ。秘策は使わなくても良さそうだなと認識して〖黒牙〗をガッチリと咥えて全力を持って立ち向かった。
影は意外と粘った。いや、耐久力が高いんだな。ちょっとやそっとの傷は何とも感じない様で平然と動いて反撃してくる。だけどもう易々と避けて隙に〖黒牙〗で斬り付ける。喰らい付く様に私は影を襲う。少しずつだが致命的なダメージが増えていく。片足はかなり深く刃を刺しこんだので影はもう動けなくなってる。今はガムシャラに刀を振り回すだけだ。だけどこっちの方が厄介だ。
私が影の急所を断って倒すには飛び掛からないといけないがこうも滅茶苦茶に刀を振るわれては近寄れない。動きを封じられたのは成果だけれどその後が続かない。ちょっと困ったぞッと。刀と刀がぶつかればまた私は飛ばされるからなー。追い打ちの危険はないし、イチかバチかで狙って見たがまた宙をポーンと舞った。ダメかーとヒラリと回転して足から着地、あ、何だか私ってば猫っぽいと感じた。実際に狐猫だしね。
影の動きが変わったこっちに刀の先を向けてジッとしている。うーん、防御に徹するつもりの様だ。私が周りをウロウロすると必ず正面に来るように向き直る。全力ダッシュで周囲を巡って追いつけなくなったという場面で飛び掛かったがヒュンと突きが繰り出された。死角から狙ったつもりがバレバレだったっぽい。ええい!後はトドメの一撃だけなのに何とも難しい。
睨み合う、このままでは埒が明かない。まだ試練が始まって何十分と経ってないしまだまだ余裕はあるけど、膠着状態というのも困る。仕方ないと覚悟を決めて私は再度、突撃を行った。【技能】が無いのでそこまでの速さは出ないが1歳の狐猫としては十分なスピードだろう。目の前の影もそれに合わせて再び私を狙った刺突が放たれる。片足がもうダメで立てずに座り込んだ体勢での一突きだがそれなり、当たれば私は一発だろうがそんな訳には行かない。
迫る刃先を紙一重で避ける。危なっ!まったく【技能】様々だ。日常どれだけその力に助けられてるか知れない。でもこの試練はいつものホウ様と行ってる訓練の延長の様なモノだ。慣れてしまいさえすれば何とかなる。繰り出された突きが床に当たり跳ねる。その隙間を縫って駆け影の首を狙うが躱した刀が翻って地面を擦りながら私を斬りに来る。
おっととピョンと跳んで回避――直ぐに(しまった!)と慌てる。【亜空間機動】が使える心算でジャンプしてしまったが、今は【技能】が封印されてる最中だった。ワタワタとする私に影の手にする刀が蛇の様に追いかけて跳ね上がる。真下からの切り上げだ、空中の私には回避が出来ない。ヤバい!このままじゃ真っ二つである。必死に体を捻るが逃れられない。
(くそっ!〖精霊糸の円環〗!)
首から垂れ下がっていた黒に銀糸のマフラーが私の意志に応じて変化して直ぐ様、体全体を覆う。柔らかい糸だが強度は最高級とされる〖精霊石〗から生まれた〖精霊糸〗その強靭さは絶対な筈、180度、半回転するように影の刀が弧を描く。そのまま絡まれて私の体は刀に引っ掛かって床へと叩き付けられる。
(ぐぎゅう?!)
斬られる事は無かったが運悪く首に刀が挟まり地面に押さえつけられて圧迫される。そのままグッと力を込めて断ち切ろうとしてくるが〖真鋼〗製の〖精霊糸の円環〗と〖精霊糸〗の服に護られて無事でいられるが極まり方が悪い。呼吸が出来ない、窒息させられる。何とか抜け出さなければともがくが力で完璧に負けてるので脱出できない。いや、それ以前に首の骨がポッキリいきそうだ。
(まずい、油断した…こんなドジな死に方とか間抜けすぎる。何とかしないと…)
ジタバタと動いてどうするかと必死になって考えを巡らせる。そんな間にも影が力を込めてくる。カハッ!と呼気が吐かれ、首から嫌な音も聞こえる本格的に危機だ。ネズミを追い込んだ猫が逆に噛まれたって気分がする。こうなったら悩んでる暇はない。やるしかないともう一度〖精霊糸の円環〗に意識を通してその糸を思い通りに操る。
(絡み取れ!)
〖精霊糸の円環〗から飛び出した糸が影の刀に巻き付き押しのけようとする。本来は身を護る防具、そういう用途は考慮されて無かっただろうがこの事態だし相手はステータスも【技能】も持たない影だ。これでどうにか…と考えながらどんどん糸を放出していく。噴き出る〖精霊糸〗に押し負けて遂に隙間が出来て私が呼吸を取り戻し、頭を引き抜く。糸でグルグル巻きにされてしまった刀はもう刃物にも鈍器にもなり得ない。
「ミィミミミィミィィミィミィミィミミミィミミィィ!ミミィミィー!」(最後の最後によくもやってくれたが今度こそトドメ!終わりじゃー!))
〖黒牙〗を閃かせる。影はもう使えないと判断した刀を捨てて手を向けてくるがもう無駄だ。掻い潜ってその首を今度こそ跳ね飛ばした。ふぅ、真っ当に突破は出来たけど予想外に苦戦したモンだ。セアラがやった様にさっさと〘魔導袋〙の中身で圧し潰してしまえば楽だったかと今更になって考えるが後の祭りだな。やれやれ、さぁ、報酬を頂くとするかな。
『見事』
おう、正当に終わらせたぞ、自称:神様(仮)よ。文句はなかろうな?と、言うか確かに強かったが、そんなに絶望的?という程でも無かったな。セアラは秘策を使うしか勝ち筋が見いだせず苦戦したと言ってたけど私にはそこまででは感じずに勝てた。力、重量、防御は上だったが速度と技術、装備で勝ってたお陰だ。
まぁ、試練が無事に突破出来ただけ喜ぼう。
『何の事は無い、汝が幼すぎるゆえだ。1歳で第八の試練など前例がない。忌み子の歳で試練も有り得んが汝の歳で試練も、無茶だ。故に相手の影も弱すぎた結果である』
成る程、12歳のセアラには相応な影を向かわせたがそれを考慮しても私の相手をした影は幼すぎたと、まあ、1歳だからね。肉体年齢で考えてくれていたのかと思えば非常に助かった結果だ。精神年齢で出されていたら本気で勝ち目がなかった。それこそ本気で〘魔導袋〙の中身でドンガラガッシャン!する以外に勝つ手段は無かっただろう。本当に倒せてよかった。
『それでも普通ならば倒せる相手ではない。汝が真に在り得ない存在という証明である。経った1年やその程度で超えられる試練ではない』
そこは、もう潜り抜けて来た戦いと特訓の成果としかいえないな。いったい、どれだけ命懸けな喰うか食われるかの争いと地獄の訓練を乗り越えて来たのかと考えると冗談ではなく碌な思い出が無い。私の今世は生まれてからほぼ戦闘か修行しか強く記憶に刻まれとらんなと思う。兎も角、これで第八の試練は終了だ。あとは色々と授けられる迄は此処で自称:神様(仮)と駄弁るかと話をする。
(そういえば今回はセアラに余計な事は言ってないでしょうね?)
尋ねると自称:神様(仮)は暫く、黙ってからゆっくりと口を開いた。重々しく、本物の神っぽいプレッシャーを感じさせる言葉を向けてくる。
『…忌み子には堕ちた【恩恵】を使わぬように釘を刺した』
(ちょ、コラッ!自称:神様(仮)!理由は言ってないでしょうね?喋ってたら…)
『言える訳があるまい。只の『帰還死人』であればまだ問題は少なかったが【恩恵】の全てが堕ちた今、あれはもう恐ろしい『爆発物』でしかない。伝えて封が外れれば全てが吹き飛ぶ』
そうなんだよなー、セアラには決して伝えられない。もう存在そのものが色々と危険な状態なのだ。加えて命も危ない。本人もそれはもしかしたら悟ってるかも知れないが、その後に起こる事迄は想像だにしていないだろう。私としてはセアラを死なせないのが一番だけどね。あの子が死ぬのは私の後だし、遥かな未来だ。必ず『亜神』にして見せると心に誓う。
『…だが『ファーレンハイトの愛し子』よ。汝の方が危うい、何故、忌み子にそこまで尽くす?このまま酷使すれば汝は遠からずその命数が無くなるぞ?」
あー、やっぱりそうか…元々がボロボロに傷付いた本来なら転生するような魂でなかったと言ってたもんな。手違いで転生枠に入って今の私になったが実際には長い時間を掛けて休眠して傷を癒していた筈なのだ。それが肉体を得てしまった。人間じゃなく狐猫――綿猫にしたのも恐らくは『どうせ長くは生きられないから短い間でも可愛がられれば…』程度の考えだったんじゃなかろうかと思う。
しかし、私の命だ使い方ぐらい自分で決める。何となく平穏にしてれば十数年、今のままだと数年、無茶をすれば更に短くって所であろう。最低で一年程度、持てばいいのだ。セアラを神化させればそれで役目は終わりだと考えている。うん、でも出来ればガマガエル神殿長とラインハルト、ハミルトンは討っておきたい所だけどもしかしたら難しいかも知れない。
(今更になって言われてもね。私は私の生き方を変えないよ。もっと早く教えられてれば考えたかも知れないけどもう遅い)
『…そうか』
何か無念そうに自称:神様(仮)は言葉を発する。まぁ、おそらくは超久々な『神』候補者だろうからね。大事に成長して挑んで欲しいだろうけど私がこんなのだからねー。もう諦めて欲しい、一切の忠告をして来なかったそっちが悪いとしか言えない。だけど、教えられてもそう変わりはなかっただろうとは思う。あ、ついでに疑問だ、動きを見せないハミルトンの奴は何をしている?と尋ねる。
『…あの者は次はダスド帝国の下でスリオン聖国を落とすべく兵士の改造を行っている。自らの【魂魄憑依】を入れた成体強化複製人間を作った技術の劣化術式を騎士と兵士に施している』
うーわ、またヤバい真似をしてやがるな。あの【鑑定】と凄い誤差を生じさせる肉体強化手術を施しまくってるってとんでもない。施術にどれだけかかるか、どのくらいパワーアップするか分からないが危険極まりない。強さと数によっては一国など簡単に落とせる。やっぱり長くは放置できない。先日、撃ち落とした中にそんな兵は居なかった気がするからまだ数を揃えている最中だろう。
その後も色々と話を聞いて最後に自称:神様(仮)は『せめて汝が願いが叶う事を願う』と言葉を残して消えていった。さてと、これから私の最後の【技能】習得か、何となく結果が分かってるけれど黙って待つかとその場で佇んだ。
狐猫の小話
勿論、大人しく等していないハミルトン達です。
そろそろ再戦の日も近いかも?




