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狐猫と旅する  作者: 風緑
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第015話 天敵遭遇、ちょっとだけ縮まる距離?

 西館は広かった。

 東館と同じく逆向きのL字型だが広さは段違いだ。

 倍くらいある。

 豪華さは負けてるが…。


「中央の訓練広場は剣槍弓斧様々な武器を扱う訓練と【気力】【理力】【霊力】【魔力】の扱いを訓練します。設備は冒険者ギルド、傭兵ギルドに負けますがそれなりの物が揃っています」

 リーレンさんの説明の前では子供達から青年直前までの人々が色々と訓練していた。

 木の人形に打ち込みをやっている少年。

 巻き藁をスパンと両断している青年。

 試合場のような場所で剣を打ち合う少年、色々だ。


 目移りしてしまう。


「ミャーミャミャー」(私も此処を使って良いの?)

「え、自分も此処を使って良いか?ですか?貴方にはあまり目立って欲しくないので出来れば東館の中庭をオススメします。規模は小さいですが設備は揃っているので」

「ミャミャー」(分かったー)

 リーレンさんとの意思疎通はかなり完璧だ。

 早くセアラにもこの領域に達して欲しいモノだ。


 そんなセアラは離れた場所で同年代か年下に見える少年少女に囲まれて笑っている。

 うん、聖女様モードだね。

 安心安全な状態だ。


 其処で私の目を奪われる物が現れる。

 それは鉄の鎧を付けた案山子に向かって魔法を放つ少年少女の姿。


 ふおぉぉぉぉっ!ついにファンタジー定番キタコレ。

 私も使えるかな、使いたいな、どうすればいいのかなと思い、尻尾をブンブン振りながらその様子を見る。


「おや、魔導に興味がおありですか?」

「ミャ!ミャ!ミャーミャーミャ?ミャ!」(はい!はい!どうすれば使えるようになりますか?先生!)

 この世界では魔法を魔導と呼ぶのかと思いながら目をキラキラさせズビシと手を上げて尋ねる私。


「残念ながら魔物は一部を除いて魔導を使えません」

「ミャッ?!ミャミャミャ?」(え?!そうなの?)

 驚きの一言に私は固まってしまう。


「ご存知かと思いますが魔物には人の持つ加護ステータスが御座いません。生まれ持った【気力】【理力】【霊力】【魔力】そして僅かな生まれ持つ【技能】は成長で強くなりますが【LVUP】や新たに【技能】を覚える事が無いのです」

 う、ううん?あれ?私って【LVUP】してるし、【技能】もポンポン覚えてるし、『試練』てのも受けられるよね?

 今まさに【LV20】になって次の試練を受けられる状態になり、視界の端に開いても居ないステータスから「早く次の試練を受けろー」と念が送られてくるのだ。


「そして人は【LV】が10になる度に『試練』が降され乗り越える事で更なる力を得られます」

 うん、『試練』超えました。

 ステータス100も爆上がりしました。

 ビックリしました。


「私も【LV19】の時に第一の『試練』【LV29】の時に第二の『試練』を乗り越え夫々に加護ステータスが10と20もあがったものです。新たな技能も授けられました」

 ええ、私は【LV10】で受けて100も上がったけど…。

 これはつまり次の試練を受ける【LV】になるまでは『試練』を受けられるけど超えた時のボーナスポイントが減っていくという事か、貴重な情報だ。

 【LV20】の間に次の試練を受けないと行けない。

 

「試練は一度しか受けられず。段階的に難度が増して行きます。此処500年程は第七の『試練』を超えた記録はありますがそれ以上は伝説レベルです」 

 マジかー、そんなに厳しいのか試練。

 十分に準備して挑むとしよう。

 そうしようと心に決める。


「伝説では全十全ての『試練』を乗り越え神に至った者も居るとか…あくまで伝説ですが、と、このような事を貴方に話しても無意味だったでしょうか、申し訳ありません」

 いや、いや、いや、大変、為になる情報でした。

 心から感謝しますと意味を込めて「ミャーミャミャー」と鳴く。


 しかしこうなると自分が【LVUP】出来たり新たに【技能】を覚えられたりするのは秘密にした方が良さそうだ。

 心にそう決めてうん、うんと頷いておく。


「では屋内の案内に移ります」

 そう言って歩き出すリーレンさん。

 着いて行く私、それを見て子供達に「またね」と言いながら私達に近付いてくるセアラ。


 でも近付くにつれて右手右足が同時に動きギックン、ギックンしだす。

 うん、頑張れセアラ、面白おかしく可愛い君を私は応援しているぞ。


「一階は東館と同じで食堂と浴場です。浴場は三日に一回ですが」

 設備は同じでも使用回数には制限があるのか、貴族&富裕層と平民&貧民の差だなと思う。

 まあ、入れるだけマシなのかとも思う。

 不潔いくない。


 食事事情も気になる。

 やっぱり格差があるんだろうなぁと、そうなると貴族側の厨房が使える私は幸せだ。

 良かったと思う。


 でも獲物が取れなかったら飯抜きなのよ?

 そこは食堂で安心して食べられる、貴族、富裕層、平民、貧民、孤児のが恵まれてるかもしれない。


 此方だって野生を保つ為に苦労して居るのだと言っておく。


「三階は学び舎、学校です。日替わりで一般の者から孤児にいたるまで読み書き計算を教えます。一クラス四十名で全部で六クラス、二百四十名が学んでいます」

 240人と聞くと多く思えるが街の規模から見ると少ないかな?

 日替わりと言っていたから生徒も年齢別で日によって変わるのだろう。


「四階は孤児院で親の無い子が暮らしています。今は14歳から3歳の者が100名ちょっとでしょうか」

 むう、意外と多い?

 いや、意外と少ない?


 判断材料が少なくて頭を傾げる。


「孤児院は此処以外にも存在しています。この神殿が受け入れられる孤児の数は120名なので余裕を持たせているのです」

 と、補足説明してくれた。

 此処以外にもあるのか孤児院、親を亡くした子、私と一緒だ。


 魔物の身ではお金をばら撒く何て出来ないしせめて幸福を願っておくことにする。


「五階は神官達の部屋になります。女性部屋と男性部屋で別れて夫々に男性部屋50、女性部屋30となっています」

 男性の方が多いのね。

 そう言えば昨日も寝床作りと改装で男性神官さんにはお世話になったけど女性神官には会ってないわー、何してるんだろうと思う。


 そこで扉がガラガラッと開いた。

 セアラと同年代や年下っぽい子供達が駆け出してくる。

 授業が終わったらしい、休憩時間だろうか?


「シャーリー、レント、マリー、皆、ただいま。元気だった?変わった事は無かった?」

 友達に会えた嬉しさからか私が近くに居るのに目に入らないようでセアラが子供達に駆け寄っていく。

 うん、やっぱり微笑ましい。


「セアラ?セアラだ」

「馬鹿っ!セアラ様でしょ」

「違うよ、聖女様だよ」

「聖女様、聖女様、字此処まで覚えたの、褒めて、褒めて」

「すごいわ、頑張りましたね」

 そう言って自分より幼い少女の頭をなでるセアラ。

 子供達が次々とセアラの元に集まり人の輪が出来る。

 彼女が親しまれている証拠だ。


 絵になるなー、と思いながらホンワカしてその光景を眺める。

 隣でリーレンさんも眩し気にそれを見ている。


 私とも早くあんな関係に成れれば良いのにと思って見ていたから気付かなかった。

 背後から伸びる手に―


「捕まえたーっ!」

 ギュッと掴み持ち上げられて私は「ニャ?」(え?)となり、隣に居たリーレンさんも「な?」と声を上げる。

 馬鹿な?!危機感知能力が高く【探知】さんも持っている私の不意を突くだと?!このガキンチョ何者と振り返る。


 そこに居たのは身長はセアラの頭一つ分は高く、小太りな少年だった。

 セアラより年上、同年代かな?

 嫌々、それより早く逃げねばそう思って暴れるがかなりの力で掴まれていて抜け出せない。

 後、痛い。


 本気になれば抜け出せるだろうがこの子がスプラッターになりそうで怖い。


「セアラのペットか?スゲー、フワフワのモコモコだ」

「ちょ、俺にも触らせろよ」

「スベスベだスゲー。猫かなコイツ」

「狐でしょ、尻尾がこんなに心地いいなんて…」

「あ、この狐、何か尻尾が二本あるぞ?」

「じゃあ、一本ちぎって良いんじゃない?」

「千切れるのかよ?此処はナイフかハサミだろ」

「お前等、こいつは猫でも狐でもねーよ。ファトラって魔物だ。傷つけたり殺したら怒られる奴だ!」

「バレなきゃ良いんだよ、バレなきゃ」

「そうだよな、セアラのペットだし…」

「おーい、ナイフ持ってきたぞー」


 ちょ、顔、顔を掴むな。

 足、足はそっち方向に曲がらないからっ!

 こら、尻尾、尻尾を引っ張るな。


 って、尻尾を千切る?!切る?

 暴れまわる私に手が殺到する。


 手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が、手が。


 そしてナイフの煌めきが見えて――


「ミギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!」


 ――と、私は絶叫した。


 そして流石にとリーレンさんが声を上げようとした時にセアラが叫んだ。


「ボラー!ハザード!貴方達っ!今直ぐにその子から手を離しなさいっ!!」

 セアラの一喝に私にたむろしていた、男の子、一部、女の子が離れていく。

 私を掴んでいた小太り少年の手が緩む。


 その隙に抜け出して脱兎の勢いで駆け出し、廊下の角の隅っこに身を潜めガクガクブルブル震えだす。


 男の子、コワイ、女の子、コワイ、子供、コワイ、子供、コワイ、子供、コワイ、子供、コワイ、子供、コワイ、子供、コワイ、子供、コワイ、子供、コワイ。


「あ、そ、そ、そ、そのこ、こ、こ子はわた、わた、私とゆう、ゆう、友誼をむす、結んだ、たた、たいせつ、大切なゆう、友人です!ら、ら、らら、らん、らんぼ、乱暴な、あつか、あつ、扱いはゆる、ゆる、ゆ、ゆるしま、許しません!」

 最初の一喝は聖女モードだったが、その後はお〇らし聖女モードだ。

 それでも言葉は伝わったのか、小太りの少年は踵を返す。


「ちっ、分かったよ。()()()()()()

 ずらずらと小太り少年と一緒だった少年少女が離れて行く。


 私はまだガクブルしていた。

 恐かった。

 マジ怖かった。


 死ぬかと思った。

 殺されるかと思った。


 脅威かと言えば脅威ではないが抵抗する時の力加減が分からないとなると脅威だ。

 殺人犯になって追われたくはない。


「ねえ、聖女様」

「ん?なあに?」

「あの子大丈夫?」

 心配そうにまだ幼女と言っていい少女がセアラに尋ねる。

 セアラは動揺しながらもなんとか――


「だ、だだ、だい、だいじょう、大丈夫です。あ、ああ、あの、あの子、あお、あの子はつ、つつ、つよ、つよい、強い子ですから」

 ――と、言った。


 うん、心の傷は深いけど大丈夫。

 今ならセアラのお〇らし聖女モードも深く理解できる気がする。


 絶対の恐怖。

 天敵を知った今なら―


「じゃあ、私も撫でて良い?」

「え?」

「ミャ?」

 私とセアラの声が重なる。


 キラキラした瞳で私を見る幼女、こ、これは断れない。

 セアラも「だ、だだ、だだだ、だだ、だい、だいじょう、大丈夫です」と言って縋る様な視線を向けてくる。


「ミィ…」(はぁ…)

 溜息を付いて幼女の前まで歩く。

 そしてお座りのポーズでカキーンと固まる。


 今の私はぬいぐるみと自己暗示する。

 頭を撫でられて、抱き上げられ、頬擦りされ、肉球をプニプニされる。


「つ、次、私にも」

 別の少女に手渡される。

 さっき出来たトラウマが刺激されて涙目になってたりなんかしない。

 私はぬいぐるみ。

 ぬいぐるみは泣かない。

 泣くぬいぐるみはホラーだけだ。


 また撫でられて、頬擦りされて、肉球プニプニされる。


 また次に渡される。

 また渡される。

 またまた渡される。


 そして数を数えるのも止めた頃、私はリーレンさんに手渡された。


 授業が再開するからと教室に戻っていく少女、少年達。

 どの顔も満喫したと言う至福の顔だ。


 一方、私は今だにぬいぐるみモード、カチーンと固まって動かない。


「あ、ああ、あああ、あの、だだ、だ、だい、だいだ、だいじょ、大丈夫で、でで、ででです、ですかか?」

 またお〇らし聖女モードながら声を掛けてくるセアラ。


「ミゥ…」(怖かったの…)

 涙目で鳴いた。


 セアラが悟ったような目でそっと手を上げて私の頭を撫でる。

 セアラが私に触れるのは初めての事だ。

 その手は暖かくて優しかった。


 また一歩、ちょっとだけ距離が縮まった気がした。

狐猫の小話

魔物には【LV】【SP】がありませんが幼体から成体へ、更に【気力】【理力】【霊力】【魔力】が一定以上になれば【進化】という変化をします。

そうすると【技能】は増えます。

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[一言] 100人もいれば当然悪ガキも居ますよね… 才能がある分怖い。
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