第014話 神殿生活、聖女のお着換え?
コン、コンと金槌の音が響く。
私の寝床を作ってくれている神官さんが出してる音だ。
形は大き目の鳥の巣箱と言う感じ、せめて外から見えなければセアラも安心するのではと言う配慮の結果だ。
因みに同時にギコギコと言う音もしている。
私の出入りの為に扉に狐猫ドアが作られているのだ。
ついでにそれはあっちこっちのドアに作られている。
セアラの隣の部屋のリーレンさんのドアにも作られた。
私が自分の食べる食材は自分で狩ると知れると厨房の裏口にも作られた。
大工仕事得意な神官さん多いな。
暇してる神官さん意外と多いなと思った。
何はともあれ私が快適に過ごせるように神殿に大改築の嵐が駆け抜けた。
神殿の神官さんって暇なのかなともう一度、思った。
「時間がないので今日は取り合えず急ぎと思われる場所だけ案内します」
「ミャミャー」(よろしくお願いします)
リーレンに案内されて神殿内を歩く。
今、私達が居るのはセアラの部屋の前だ。
東館はL字の形で五階まである。
部屋は六つ。
第一位の聖女であるセアラの部屋、隣が護衛騎士のリーレン。
その隣が第二位の聖女の部屋、隣が護衛騎士。
その更に隣が第三位の聖女の部屋、隣がまた護衛騎士となってる。
聖女達と護衛騎士の名前は教えてもらえなかった。
次四階、第四位、第五位、第六位の聖女とその護衛騎士の部屋が上と同じであるそうだ。
飛ばす。
次三階は聖女見習い達の部屋。
一室に二人から四人部屋らしい。
護衛騎士は居ない。
全部で三十人位の聖女候補が集められているそうだ。
二階は勉強部屋、色々と聖女としてあるべき事を学ぶ部屋らしい。
図書室もあった。
結構な蔵書量がある。
試しに見てみると読めた。
【翻訳】の力だろうか?
知らない文字なのに読める。
違和感はあるが助かる。
知識を蓄えようと思った。
一階は食堂と大浴場。
食堂は裏口だけ侵入可能で食堂と調理場、食材保管庫は侵入禁止と言われた。
毛が飛び散ると問題が起こる可能性があるからだそうだ。
私の食事は獲物を狩って裏口から入って人を呼び調理して貰って其処で食べるになりそうだ。
浴室は五階、四階には部屋に備え付けがあるが私が使って良いのは大浴場だそうだ。
まあ、自分で洗えないから洗ってもらう身になる訳だが野生の誇り的にこれはどうだろうと思う。
微妙な感じだ。
綺麗好きなつもりだが誰かにワシャワシャ洗って貰うのはどうかと思う。
一度だけ利用してから決めよう。
心地好かったらセーフ。
何となくダメだったらアウト。
そういうことにした。
そしてL字になってる間の中央広場。
結構広い。
体を動かしたり鍛錬する為の広場だそうだ。
そして入り口の正門より小さいけど豪華な門がある。
富裕層街への門だそうだ。
つまりはお金持ちや貴族専用の門。
一般人が使う正門より豪華でも納得だ。
次は中央神殿。
此処は三階建て、一階は礼拝堂。
今日、セリアーナお婆ちゃん達と話した部屋が此処、一度来たんで覚えてる。
右側に倉庫があり貴重品が色々と収められてるらしい。
左側が貴賓室、偉い人が来た時に持て成す部屋だ。
一階はこれで全部らしい。
二階は料理長とか先生とか此処に住み込みで働いてる人たちの部屋。
通いで来る人も居るので全部の部屋が埋まってる訳じゃないけど12部屋あるそうだ。
三階は大聖女様と神殿長と神官長の部屋。
取り合えず案内は此処まで左にある西館は明日だそうだ。
あそこには神官達や孤児達が住んでいるそうだ。
何故かちょっと背筋が震えた。
どうしてだろう?
何にせよ今日は行かないと聞いた。
安心した、あれ?何でだろう?
取り合えず其処でリーレンさんと分かれた。
夕方になった。
夕ご飯のお時間だ。
ごっはっんっ!ごっはっんっ!なっにっかっなっー!
裏口から入り其処にある扉を引っ掻きながら「ミィミィ」と鳴く。
するとデッカイ人が出てきた。
ガレスさん並じゃないか?
「よーし、さぁ、食え」
私の前に皿が置かれる。
男の人は料理人らしく私には触らない。
毛が付くからね。
置かれた料理に鼻を近づけてフンフンと匂いを嗅ぐ。
良い匂いだ。
早速一口、ハグハグ。
スパイシーな感じだ。
私の持ち込んだ兎はかなりの一品に進化していた。
流石はプロが作った品、見事過ぎる。
お腹がポンポコリンになるまで食べた。
でも三分の一程残してしまった。
残念。
その様子を見て男の人は―
「この位の量で良いのか」
―と、言っていた。
明日からは適切な量を出してくれるだろう。
私は一度部屋に戻った。
セアラはまだ寝ていた。
いや、気絶していたかな?
枕元に立つ。
此処まで接近したのは初かも知れない。
「うーん、うーん」
うなされている。
私と同室はそんなうなされる程に嫌か、己こうしてやる。
と、プニプニ肉球パンチを喰らわせる。
連続して喰らわせる。
更に連続して喰らわせる。
「うーん、プニプニ、プニ、プニ……」
寝言が安定してきた。
どうやら悪夢は去ったらしい。
流石はプニプニ肉球パンチである。
これで一刻でも早く、私に慣れてくれれば良いんだが…。
そして私はまた外に出て行った。
獲物を狩らねば明日の朝ご飯が無い。
狩りの時間だ。
ピョンピョンと高く高く昇っていく。
【空間機動】を駆使して高く高く。
街は今更ながら本当にデカかった。
丁度、街の中央に神殿がある。
其処から街が広がった感じだ。
うーん、森、森、森ないかな?
探す。
ちょっと北の方に行ってみる。
無い。
でも湖があった、湖面の反対方向に灯りが見えるので街がありそうだ。
隣町だろうか?
近付いてみる。
規模としては神殿のあった街の三分の一と言う感じだ。
湖、魚とれるかな?
釣りは不可能だ。
どうやって採る?
【猛爪攻撃】乱発して見る?
当たったら浮いてくるかもしれない。
ダメだ環境破壊いくない。
神殿の街に戻る。
今度は東だ。
また【疾駆】する。
お、【探知】さんに反応。
何か居る、何か一杯居る。
しかも森だ。
森があった。
やった良かった。
獲物の宝庫だ。
よっしゃー!飛び降りる。
下降しながら下を見る。
【探知】さんで見えるMAPは赤い点が一杯だ。
まるで蟻の様な数だ。
兎かなー、兎だと良いなー、でも数が多すぎるな…なんかちょっと嫌な予感が…
そして見えた。
【五感強化】の視界の中に敵の姿が―
マジで蟻じゃんかボケーーーーーッ!!!
急降下フライング狐猫肉球ドロップキックが炸裂する。
一匹のデカい黒蟻が正に地面に埋め込まれて息絶える。
ふっふっふ、ぬか喜びさせやがってこの蟻共が…
その威圧に意思を持たない筈の蟻が僅かに退く様に見える。
目の前の蟻共は口から何かを吐いて攻撃してきた。
ギ酸って奴だろうか、だが、数が多くとも【思考超加速】の前には遅い。
余裕で回避。
そして―
【猛爪攻撃】【猛爪攻撃】【猛爪攻撃】【猛爪攻撃】【猛爪攻撃】【猛爪攻撃】【猛爪攻撃】【猛爪攻撃】【猛爪攻撃】【猛爪攻撃】【猛爪攻撃】
【猛爪攻撃】と放ちまくる。
次々と吹き飛ぶ蟻の群れ。
殲滅じゃーーーーっ!!!
私は暴れまわった。
それはもう暴れに暴れた。
ジャンピング肉球パーンチッ!
ジャンピング肉球キーックッ!
フライング肉球パーンチッ!
フライング肉球キーックッ!
トドメにスクリュー肉球ドライバーッ!
そして二時間ほどで蟻を全滅させたのだった。
はぁ、食えない相手を殺すって空しい。
大量の大量過ぎる蟻の遺骸を前に私は呟く。
百五十匹位殺した所で『LVが上がりました』と出てまた【試練】がピコンピコン光ってるけど放置。
もうちょっと【技能】を鍛えて挑戦しようと思う。
しかし流石に疲れた。
しかも獲物は無し散々だ。
今日はもう帰って寝よう。
そう思って【空間機動】でピョーンと飛び立つ。
そしてその帰り道。
それは大黒蟻の大行進を未然に防いだご褒美か、兎を発見して狩る事が出来ホクホク顔で帰還出来たのだった。
あー、極楽じゃーと、私は巣箱の中でゴロンと寝返りを打つ。
体にぴったりフィットする箱。
フカフカのクッション。
心地よい木の香り。
前世でも猫鍋と言うのがあったがあんな感じだろうか?
正に狐猫をダメにする巣箱だ。
だがしかし、もう朝だ。
外に出なければならない。
昨日の蟻の殲滅で疲れたからか、巣箱の余りの心地よさにぐうたらし過ぎたからか、既に何時もより遅い時間なくらいだ。
うう、堕落したい。
でもダメだ。
必死に自分を激励して巣箱から出る。
「………あ……」
「………ニャ?…」(………パンツ一枚?…)
丁度起きて着替え中だったのか長い金髪を背にパンツ一枚で白い素肌を曝すセアラが目の前に居た。
ブラジャーはしていない。
そもそも存在し無いのかな?
しかしお胸はちっぱいだ。
前世お仲間だ。
でもまだ成長前だから相応なのかな?等と【思考超加速】で考えながら見ていたら―
「キャァァァァァァァァッ!!!」
「ミャ?ミャミャ?ミャーミャ?ミャミャミャ?ミャミャー?」(え?何で?私雌よ?前世も女よ?少女の裸見ても誰得よ?)
叫んで体を隠すセアラと声に驚いて混乱する私。
其処にドタドタドタと音をさせて―
「聖女様ッ?!何事ですかっ!」
叫び、飛び込んでくるリーレンさん。
だが直ぐに私を見てセアラを見て事情を察したのか剣に手を掛けていた構えを解く。
「ほら、貴方は此方へ。聖女様、私達は外に出ていますのでその間にお着換えを」
「は、はは、ははは、はは、はい、はいぃぃぃぃっ」
あ、ああ、そうか私を直視しちゃったからお〇らし聖女様モードになってたのね。
納得して差し出されたリーレンさんの手の中に飛び込む。
そして部屋の外に連れ出された。
「ささ、先、先程はたた、たい、大変、おみ、お見苦しいも、も、モノをおみ、おみ、お見せしても、もう、申し、申し訳、ご、ござ、ござい、ございませえん」
真っ白に金字の刺繍が入った普段の聖女服と顔は隠さないが顔の両脇を垂れさがるヴェール付きの帽子を被ったセアラが出て来る。
この前の森で手にしていた綺麗な装飾と黄金の宝玉が付いた白い杖は手にしていない。
後で聞いた話だがあの杖『アストラーデの聖杖』は任務の時だけ神殿から貸し出される物らしい。
「ミャーミャミャ、ミャミャ、ミャミャミャミャー」(気にしなくて良いよ。そもそも見苦しくなんてなかったし、可愛かった)
気にするなと手を振り振り返事をする。
ホンのちょっとは距離が縮まったかな?
何とか言ってることが理解できた。
「気にするなと言っておいでのようですよ。さて、聖女様、今日はどうなさいますか?」
「きょ、きょきょ、今日はま、まま、ま、まずに、にに、西、西館にい、い、いっ、行って、こ、ここ、子供達、に、あ、あ、あ、あい、会い、会いに」
「…そうですか、分かりました。貴方は十分に注意して下さいね」
唐突に言われた言葉、意味がよく分からないまま西館に入る。
狐猫の小話
聖女は基本的には自分の身の回りの事はしっかり自分でやるので侍女とかは居ません。
大聖女候補になると一部、洗濯などは聖女候補生がやってくれます。
因みにブラジャーはちゃんとあります。