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狐猫と旅する  作者: 風緑
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第011話 ダメです女騎士さん、そして脅える聖女?

 男の人達から離れあのお〇らし聖女さまが眠るテントに入る。

 中には騎士の人が一人と眠っている少女が一人だ。


 因みに騎士さんは女の人。

 間違っても男の騎士さんがお〇らし聖女さまを着せ替えたり汚れを拭いたのではない。

 彼女の名誉のためにそれは断言しておく。


「あ、帰ってこられましたか、狩りに行ってたのですか?」

「ミィ」(そうだよ)

 返事をする。

 この騎士さん。

 うん、名前をまだ知らないし区別するために女騎士さんと呼ぼう。

 オーク相手にくっ殺されちゃいそうだけど、何はともあれこの女騎士さんが先刻の騎士擬きとの戦いの後に私に話しかけてくれた騎士さんだ。


 今の所では一番、感じが良い。

 女騎士さんは心配そうに眠るお〇らし聖女様を眺めながらも偶にチラチラとこちらに視線をくれる。


「ミィィ?」(何?)

 何だろうと思いながら近付いてみる。


「あ、いえ、その…貴方はもしかして私の言ってる言葉が分かるのですか?」

「ミィ」(そうだよ)

 返事をして頷く。


「凄いですね。ファトラは賢いとは聞きますが…此処までとは何年目の幼体なのでしょう?」

「ミ?ミィミィィミ?」(え?何年目の幼体、私って何年もこのままなの?)

 その言葉に疑問を覚え首を傾げる。

 自分の生態については全く知らない。

 そう言えばさっきも男の騎士の一人がファトラの幼生期間は長いとか言ってた。


 私が母狐猫のサイズになるのは何年後の事なのだろう。

 そう思っていると女騎士さんはウズウズと言った感じで「その…触らせてもらっても良いでしょうか?」と言って来る。


「ミャー」(いいよー)

 頷いて安請け合いする私。

 ついさっきも男の騎士達にグリングリンされたばかりだ。

 今更である。


「で、では…」

 ゴクリと唾を飲み込む音をさせながら私に恐る恐る手を伸ばして――触れる。


「や、柔らかい、暖かい、フワフワで…」

「ミャ、ミャミャミャ」(ぬ、中々の指捌き、オヌシやるな)

 さっきの男の荒々しい撫で方と違い、優し気に撫でられる心地よさ。

 む、しかも頭のツボを押さえるような触れ方…こ、これは中々。


 あ、しかもそんな所まで、ダ、ダメだやっぱりダメ、でも心地いい、我慢できない。

 くぅぅ、的確に此方のウィークポイントを、な、何故そんな絶妙な指捌きが、ああ、イッて、イッてしまぅぅぅっ!


 女騎士さんの指捌きにグッタリした私は更に抱き上げられ頬擦りされて胸に抱きしめられる。

 む、この女騎士さん結構な巨乳だ。

 前世で貧乳だった私の敵だ。

 しかし今世ではそんな次元に居ないからどうでもいいか、今の私は胸が六つもあるし…ああ、しかし胸までフワフワでヌクヌクでプニプニで幸せ気分だ。


 そんな揃って幸せまったり時間を二人で満喫していると―「…ううん」と言う声が響く。

 女騎士さんがハッとして「聖女様っ!聖女様っ!お目覚めですかっ?!」と叫びながら私を放り出し寝ていたお〇らし聖女様に駆け寄る。


「ミャ?!ミャミャ!」

 突如、空中に放り出されたが其処は【思考超加速】を持つ私。

 華麗にクルクルクル、シュタッ!とキャット空中三回転を決めて着地する。

 10点っ!と自己採点もして見る。


「リ、リーレン?此処は…」

「野営地です、魔導の使い過ぎからか聖女様はお倒れになられたのです。覚えておいでですか?」

「!そ、そうでした、皆は!皆は無事ですか?!」

「ご安心を軽症の者は居ますが重傷者も死傷者も居ません。聖女様と此方のファトラのお陰です」

「ファトラ?」

「はい、あ、す、すみません、つい放り投げて…お、お怪我は…」

「ミィーー」(気にしなくていいよーー)

 と前脚を振り振りしながら返事をする。

 それにしても女騎士さんはリーレンと言うのか、覚えておこう。

 ん?あれ?お〇らし聖女様の様子が…。


「………」

 何だかお〇らし聖女様が硬直していらっしゃる。

 私を凝視して固まっている。


 ほらほら愛らしく可愛らしい狐猫ちゃん、ファトラですよー。

 命の恩人ですよー、お礼は求めないけど感謝はしてね?


 等と言う事を考えているとお〇らし聖女様は――


「はふぅ…」

 ――と、魂が抜けるような声を出して気を失った。


「聖女様っ?!」

「ミャミャゥ?!」

 また突然に原因不明に気絶したお〇らし聖女様を前に私とリーレンさんの悲鳴が重なった。


 私はテントを追い出された。

 どうやらあのお〇らし聖女様は私に何かを感じて気絶してしまっているようだから申し訳ないが離れて欲しいと言われた。


 しかし、何かを感じてねぇ。

 そんな要素が私にあるか?

 寧ろあのお〇らし聖女様は病気なのだろうかと心配になった。

 私を見るだけで二度も気絶するとは…狐猫アレルギーなのかしら?

 いや、でもアレルギーって見て気絶する物じゃないよね。

 じゃあ、やっぱり何かを感じて?

 それこそ私の【探知】さんみたいな?


 でも私ってば【SP】がちょっと豊富にある程度の只の狐猫よ?

 それこそその気になれば誰でもペチンと潰せる紙装甲よ?

 恐がられる理由がない気しかないけどなー。


 まあ、お〇らし聖女様とは言え聖女様と呼ばれる少女だ。

 特別な力があるのだろうと思っておく。


 燃えないだけの距離を置かれたが焚火の側にタオルが置かれ「この上で休んでください」と言われた。

 有り難く好意を受け取る。


 パチパチという火の弾ける音と夜番の男性騎士を傍らに私は眠りについた。







「聖女様、大丈夫ですか?」

「ええ、ありがとう。リーレンもう大丈夫です」

 傍に仕えてくれるリーレンにお礼を言い笑いかける。

 また心配を掛けさせてしまったと申し訳なく思う。


「遅くなりましたがご夕食です。食べてからゆっくりお休みください」

「ありがとう」

 渡されたプレートを受け取る。

 食事は水とパンとシチューと果物だ。

 祈りを捧げて有り難く頂く。


「聖女様、食べながらでよろしいのでお話しても構いませんか?」

「ええ、でも二人きりの時は名前で呼んで欲しいわ」

「いえ、任務中である限りは貴方は聖女様で私は騎士ですから」

 固いなぁと思いながらクスリと私は笑う。

 年上ではあるがこの親友の頑固さはその親に似たのだろうかと思うと可笑しく思える。


「リーレンが聞きたいのはあのファトラの事ですね」

「は、はい、確かに強力な力を持つようですが我等を助け、人の言葉を理解する知識もあるようです。何故、聖女様があれほど恐れるのか分からず…」

「私の恩恵(ギフト)は知ってるわよね」

「はい」

 リーレンは頷く。

 恩恵(ギフト)加護(ステータス)と違い稀に持つ人が現れるモノだ。

 この苛酷な世界で神は人が魔物と戦えるように()()()()加護(ステータス)を与えた。

 その中で更に少数の人間に恩恵(ギフト)と言う力も与えた。

 そんな恩恵(ギフト)を三つも与えられて生まれたのが私―セアラ・シャリスだった。


 私の持つ恩恵(ギフト)、あらゆる傷を癒す【月光】、騎士に力を与える【光輝】、そしてあらゆるモノを見抜く目【神眼】この三つだ。


「【神眼】が強く反応したのあの子、あのファトラは――太陽に見えた」

「え…」

「誰の手にも届かない、近付いても行けない、眩しくて、熱くて、遠くて、絶対に必要なのに其処に在ってはならない。そんな存在に視えた」

「聖女様にはあのファトラがそれ程のモノに見えたと?」

 リーレンの呆然とした呟きに頷きながら手元のプレートに載ったシチューを少しかき混ぜてから口にする。

 時間が過ぎたからか少し冷めていた。


「……国法に反しますが特例として隷属―飼う事を考えた方がよいでしょうか?」

 リーレンの言葉に私は首を振る。


「無理ね。太陽に首輪なんてかけられないわ。出来るのはあのファトラの意志を尊重して自由にさせておく事だけよ」

 その言葉にリーレンは絶句して言葉を失う。

 会話が途切れている間に私は食事を進める。


「あのファトラはどうするのでしょうね。私達に着いて来るのか、森に一匹で残るのか…」

「私としては残って欲しいけれど…着いて来そうな気がするわ。大神殿にも聖王陛下にもご報告が必要ね」

 私の勘が余り外れない事を知っているリーレンは顔色をちょっと悪くする。

 これからの激務を想像したのだろう。


 私も想像すると億劫になる。

 最もその前に私にはする事がある。

 それが一番、大変な事だ。

 今から想像するとまた倒れそうになる。


「聖女様、あのファトラが着いて来ると予感されるならば明日またお会いになるのですよね。耐えられますか?『二度ある事は三度ある』と聞きます」

「だ、大丈夫よ。伝承には『三度目の正直』という言葉も残っているからっ!」

 そう強がってはみるものの手はカタカタと震えていた。

 うう、出来れば時が止まって欲しい。

 明日が来ないように――そんな事を祈りながら私は夕食を食べ終えまた眠りについたのだった。







「き、き、き、昨日はた、た、た、た、たす、助けて頂いて、ほ、ほん、本当、ほ、ほ、本当にか、か、か、かんひゃ、かん…感謝して、お、お、お、おり、おり、あす」

「……ミィ……」(……うん……)

 お〇らし聖女様はテントの陰に半分、隠れてガクガクと震え嚙みまくりながら必死で私に昨日の礼を告げてきた。

 私としては其処まで恐いなら無理しなくて良いよという気分だ。

 何だか酷い事をしているみたいで申し訳が無い。


「それでは我々は昨日の一件があるので今日、此処を立ち森から出る為に移動を開始します。貴方はどうしますか?着いて来ますか?此処に残りますか?」

「ミィミィ」(着いて行くよ)

 そう言って立ち上がって歩いて見せる。

 それで意思は伝わったようだ。


 着いて行く理由は女神の神託の件もあるが朝ご飯が美味しかったからだ。

 鶏―男性騎士曰くゴーンコッコの蒸し焼きは美味かった。

 この美味しさを味わう為なら野生を捨てても良いと一瞬だけ考える程に美味かった。

 だが直ぐにダメだ、私は野生、私は野生、私は野生と自己暗示を繰り返しどうにか断ち切った。


 そんな此方の事情などつゆ知らずだろうけどリーレンさんは「分かりました」と言って同行を許してくれた。

 因みにお〇らし聖女様は「ひゃいっ!」と言ってテントの陰に隠れてしまった。

 また気絶しなければ良いけど…そうこうして居る内に撤収の準備が始まる。


 小さな革袋の中に大きなテントや設備がヒュンと一瞬で収められていく。

 ビックリしながらその様子を眺める。


 様子を見る私に興味を持ったのか男性騎士の一人が近寄って来る。


「何だ、この魔導袋が気になるのか?」

「ミィ、ミィミィ?」(気になる、何それ?)

 声に出しながら身振り手振りで伝えるとご機嫌に男性は教えてくれる。


「こいつはな【魔導袋】と言って【技能】の【収納】の効果を付与されて作られた魔道具だ。一定の量を大きさ重さ関係なく持ち運べる。と、言っても高くて持ってるのは騎士団や高位の冒険者だけだけどな」

 へー、やっぱり居るんだ。

 冒険者か、そっちルートの転生でも良かったのにと一瞬だけ思ったがそうなると母狐猫と兄弟姉妹に会えなかったことになる。

 今のままで良かったなと思い直す。


 そしてあっという間に撤収準備が終わり移動が開始される。

 移動を便利にする魔道具は無いらしく全員が歩きだ。


「聖女様、焦らずとも大丈夫です。十分に離れてくれていますから」

「わ、わわ、わわか、分かってい、い、い、いますよ。だ、だだ、だい、だいじょ、大丈夫です」

 うーん、お〇らし聖女様、ホントに大丈夫かね、この調子で…

 先行きが不安になる道のりだった。

狐猫の小話

加護ステータスは人だけとありますが正確には【LV】と【SP】が無いだけで他は在ります。

技能は生まれ持ったモノだけでそれは使えば【LV】が上がります。

因みに今更ですが越えて来たダアト山脈は4192メートルです。

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