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狐猫と旅する  作者: 風緑
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第103話 血雪の円卓会議の日(伍)?


「お母様…」

「フィーデル王女…」


 泣きながら暗い通路を歩く私を護衛の騎士が慰めてくれる。それでも涙は中々止まらない。こんな別れになるとは思っても居なかった。ホンの一日前の楽しく幸せだった時間が嘘の様だ。お母様はきっと死ぬ気だった。お父様もだ。フォルテは無事だろうか?レイザンは?セアラは?ハクアは?其処迄考えて私はハッとした。そうだ、セアラはこんな悲しみを乗り越えて生きてきた筈なのだ。私よりも幼いあの子が越えて来た道を年上で王女である私が越えられなくてどうすると思う。ゴシゴシと涙を拭った後に私はキッと前を向いた。


「進みましょう。皆さん」

「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」


 暗闇の中を只、歩いて行く。途中で何度か休憩を挟んだが本当に一昼夜を歩く様だ。今頃、皆はどうなっているだろうと思う。心配で心配でたまらない。でも今の私には何も出来ない。どうか、どうか無事でありますようにと願うのみだ。


 出口に到着した。階段がある。だが蓋が閉じられている。護衛騎士が推してみるがビクともしない。コレはと思って私も見てみる。蓋に小さな窪みを見つけた。お母様から渡された指輪を嵌めてみる。ガコンと音を立てて蓋が開き始める。完全に開いた所で護衛騎士から順に外に出る。最後に私が出て指輪を外して指に嵌める。どうやらここは納屋の様だ。扉は閉まっていて外は見えないが隙間から光が漏れている。どうやら昨日と違い今日は快晴の様だ。時間は時計で確認すると午前十時、昨日中に入ったのが十五時頃だから十九時間程を通路の中で過ごした様だ。


「フィーデル王女、では開けます」

「はい」


 慎重にそっと扉が開かれ護衛騎士が外を覗く。そして振り返って頷いた。どうやら安全な様だ。【探知】にも反応は無い。外に出る。太陽が眩しい。あれ?今、何か赤い点の様な物が空を……気のせいかしら?


「フィーデル王女、聖王家が極秘に経営する宿はあちらの様です。参りましょう」

「あ…はい」


 言われて私は歩き出した、宿に少し近付く。次の瞬間に私の顔色が変わった。


「いけないっ!待ってっ!」

「え?」


 私が叫び護衛騎士が首を傾げるが遅かった。バンと言う音と共に宿の扉が開かれダスド帝国の赤い鎧を着込んだ騎士達三十名が飛び出してきた。私と護衛騎士達の顔色が青くなる。この場所を知られていた?何故?どうして?王族でも秘中の秘だ。私だって昨日まで知らなかった。それが漏れていた。有り得ないと思う。


「ふっふっふ、何故知られていたか?と言う顔ですな。フィーデル王女。いやはや、あれで確かにロズベルト・ダーリントン伯爵は有能な様だ。王妃となった大聖女は過去に何人もいる。その中の数名がダーリントン伯爵家だったと言うのが答えですよ」


 ロズベルト!あの男が!あいつは何処まで、何処まで国を売り払うような真似をしたのかと生まれて初めて憎しみとも言える感情を私は覚えた。


「さて、ファイラル十一世は囚われエリアーナ王妃、フォルテ王子は死亡、レイザン王子は死に掛けで行方不明らしいですが何処かで野垂れ死んでるでしょうな。忌まわしき〖帰還死人イーヴィルス〗のセアラ・シャリスと綿猫ファトラの幼生体も死亡、貴方で最後です。フィーデル王女。構えっ!」


 ああ、告げられたその言葉に私は絶望した。皆、皆、死んでしまったの?私ももう直ぐ死ぬ?お母様、私は最後の約束も護れずに、誰の仇を討つ事も出来ずに此処で散るようです。親不孝をしてしまう、こんな娘をどうか叱って下さい。


「撃てぇぃ!」


 その言葉と同時に凄まじい音が鳴り響き、私の視界は真紅に染まった。


テレスターレ・フォン・フィーデル、テレスターレ聖国第一王女、14歳。―――没。                                  ?







 三人のハミルトンと私はぶつかり合う。互いの攻撃が互いを少しずつ傷つける。だが私が受けるダメージは僅かずつ、僅かずつ、私の中の熱を高め攻撃力を上げて【限界天元突破】発動へのカウントダウンになる。でも事態はそんな悠長な事を言ってる場合じゃなくなってる。このままじゃ、このままじゃセアラが、何とか、何とか円卓会議の間に乗り込んでガマガエル神殿長を黙らせないとっ!


『わ、わた、私の、私の両親は―――』


 脅え、震えるセアラの声が聞こえる。ダメだセアラ!それ以上はっ!


『言えまい、答えられまい、何故ならお前は―――』

『ロズベルト!貴様っ!』

『ロズベルト、貴方は!』


 次に放たれる一言はセアラの破滅の一言、私にはもうそれを止める術はなかった。


『親など存在しない『帰還死人イーヴィルス』なのだから』


 ああああああああ!言いやがったっ!暴露しやがったっ!あのガマガエル神殿長めっ!聖都テレスターレ中に響いていた戦いの音が一瞬、止まった様に聞こえた。テレスターレ聖国側の騎士達が絶対に動揺している!一刻も早く会話の全てが漏れてる事を報せないと、でも円卓会議の間の下の階にある広間にはプリアさん、シャルさん、リリさん、ララさん、パティちゃんが、他にも付き添いの人達が沢山、居た筈だ。誰かが報せに走って無いのだろうかと思う。もしかしたらそっちにも何かあったのかも知れない。兎に角、急いで戻らなければと最早、我武者羅に爪と尻尾を振るう。被弾も増えるがもう猶予は無い。構うものかと暴れる。だが――。


「「「そろそろお終いだ、子猫ちゃん」」」


 三人にハミルトンが同時に言った?なんだと?もう少しで【忍耐】様の熱も半分【限界天元突破】も使用可能にと思っていたら危機感知、今度は何が?と思った瞬間【探知】に三つの赤点が現れ急接近、瞬く間に私は吹き飛ばされ、意識を僅かに失った。


「ミゥ…」(うぅ…)

「起きたかい?子猫ちゃん」

「ミィミィミ!」(ハミルトン!)


 慌てて体を動かそうとして気付く、両手――両前脚を一人ずつのハミルトンにがっちり捕まれて宙ぶらりんにされている。このっ!と思い振りほどこうとするが気絶した為か【忍耐】の熱が消えて〖最高級回復薬〗も使われたのか発動寸前だった【限界天元突破】も元に戻っている。捕まえられた腕はビクともしない。なら【神武尻尾攻撃】でと思ったら―――。


「ああ、その尻尾は邪魔だねバンだ」


 何?と思ったら実際にドンッ!と言う音が響いて尻尾の一本が根元から吹き飛んだ。


「ミギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」


 私の凄まじい悲鳴が上がる。痛い!いたい!イタイ!痛すぎる!此処までの傷は過去に負った事が無い。何をされた?と振り返ると其処には銃を手にした四人目、五人目のハミルトン、更に離れた位置には六人目も居る。ハミルトンが倍になった?三人でも限界だったのに六人は無理だ。相手しきれない。私の顔に初めて諦めが浮かびそうになった。


「南側の掃除が終わったからコッチに合流させたんだ。楽勝だったね、あいつ等は」


 南側?副騎士団長達か?あの人達が全滅させられた?確かにこのハミルトンの相手等、私やリフレイアさんでないと不可能だろう。よくもっ!と思い根性で再び尻尾を動かす。


「あーあ、諦めが悪いね。今度はバン、バンだ」


 ドンッ!ドンッ!と続いて音が響いて私の尻尾が二本、再び吹き飛ぶ。絶叫が上がる。


「さて、質問だ。子猫ちゃん、コレだけのダメージを負って子猫ちゃんの【技能】は反応しているかな?」


 その一言に私はサッと顔を青くした。間違いなく重傷な筈だ。ダメージを受けている。なのに【忍耐】様の熱が溜まる様子も【限界天元突破】も発動可能になる気配が無い。ハミルトンの科学兵器はそれらの判定すら超えてこっちに傷を与えて来るのかと私は驚愕した。


「どうやら反応しないようだね。次に行こう。四本目のバンだ」


 ドンッ!と音がする。また私の尻尾が宙を舞う。叫び声が上がる。


「ミギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

「尻尾ばかりじゃ詰まらないな。足も潰そう。今度はそっちをバンだ。《僕》」

「解ったよ。《僕》」


 今度はドンッ!と私の左足が銃弾の餌食になる。何度目かの私の悲鳴が響く。


「ミ、ミ、ミ、ミィィィ」(あ、あ、あ、あぁぁぁ)

「今度は耳を飛ばそうか?ちっさいから気を付けて撃とうね。《僕》」

「ああ、《僕》」


 今度は狐猫耳に銃口が向けられる。逃げられない、逃れられない。どうしようもない。それでも、それでもと思う。セアラが苦しんでる。きっと助けを求めている。私は向かわないと行けない。《友》だから《友達》だから【誓ノ絆】が私達を結んでいる。私は顔を上げて目の前のハミルトンを睨みつける。絶対に、絶対に私は諦めない。どんなになろうとセアラを助けに向かう。私の瞳を見ていやらしくハミルトンが笑う。


「まだ折れないんだ。じゃあバ――」


 ンとハミルトンが言おうとした所で「ヒヒーン」と言う啼き声が聞こえた。聞きなれた声だ。シルバー?と思い私はそちらに目を向けた。







「プリア様、プリア様!どうしてなんですか?何でなんですか?通して、通して下さいっ!」


 パティが必死で私の張った【大結界】を叩く。周囲の他の公爵家、侯爵家、伯爵家、近衛の騎士達、リリとララも私の【大結界】をどうにかしようと攻撃を続ける。だが通す訳には行かない。ロズベルト神殿長に命令されている。『ダスド帝国の侵攻が始まったら円卓会議の間に誰も入れるな』と、家族を人質に取られている私に断る事は出来ない。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」


 ただ謝りながら【大結界】を展開、維持し続ける。誰もが諦める様子を見せない。当然だ。この私が抑える扉の向こうには皆が護るべき、護りたい相手が居るのだ。引く事など有り得ない。だけど私も護りたい者の為に此処に立ち塞がっている。引く事は有り得ない。


「聖女プリア、貴方…」


 只一人、シャルだけが何か観察するように見抜く様に私を見つめてくる。その金色の瞳に見据えられると全てを見抜かれそうで怖い。知らず体が震える。


「…脅されているのね。相手は恐らくロズベルト、アイツがやりそうなことだわ」


 気付かれたと脅える私。ハッとして攻撃の手を止めてシャルの方を向く全員。パティだけが悲しそうな瞳で私を見て「プリア様……」と言った。私は俯いて「ごめんなさい」と答える事しか出来なかった。そして次々と報告が来た。南側だけでなく東西からも⦅殺戮蜂デッドリーホーネット⦆が襲ってきたと、その迎撃にリフレイアとハクアが向かったと、その次には聖都テレスターレの結界が破壊されたと、直後に塔が大きく揺れた。何かが尖塔の頂上を破壊し降り立ったらしい、続いて都市内に無数の⦅殺戮蜂デッドリーホーネット⦆が群がった。


 そしてほぼ同時に円卓会議の間でのロズベルト神殿長とファイラル十一世陛下、大聖女セリアーナ様の声も響いてきた語られる内容は衝撃的なモノだった。私も知らされて居なかった。あのセアラが…まさかと思った。だけど周りの動揺がそれを真実だと物語っていた。その最中に最後の報告が来た。南側に向かった防衛部隊は全滅、壊滅させた全く同じ顔の三人組は今、東――ハクアの元に向かっているらしい、ハクアもその三人に苦戦、倍になれば恐らく倒されるだろう。あの人懐っこく、可愛らしい子が死ぬ?と思うと心が恐ろしく震えた。西のリフレイアも同じだと言っていた。大量の⦅殺戮蜂デッドリーホーネット⦆を使役し、全く同じ姿の恐ろしく強い人間を作り出す。ダスド帝国――いや、テレスターレ聖国は一体、何と戦っているんだろうと思った。


 長々と続いたロズベルト神殿長の話が終わった。別の男が話し出す、ラインハルト・ズィーガー?ダスド帝国の皇帝が直々に来ていた?そしてハミルトン、何故か酷く恐ろしいと感じた。そしてドンッ!ドンッ!と言う音と悲鳴が聞こえた。円卓会議の間が騒がしくなる戦闘が始まった様だ。ファイラル十一世陛下がハインツ騎士団長に指示を出すのが聞こえた。テレスターレ聖国最強の騎士だ。ロズベルト神殿長はラインハルト・ズィーガー皇帝陛下はどうするつもりかと思った。だがしかし、その戦いは長くは続かなかった様だ。ハインツ騎士団長はハミルトンと言う男に討たれたようだった。信じられなかった。円卓会議の間からまた悲鳴と騒音が響く。そのまま暫く叫びが止まらなかった。


『聖都テレスターレに居る公爵家、侯爵家、伯爵家、各貴族は自領に戻り防衛体制を整えよっ!騎士団員も逃走を許可するっ!聖都テレスターレは堕ちたっ!都民も己が身を一番に考えて行動せよっ!!!』

『ハミルトンッ!』

『ありゃ、はい、はい』


 最後にファイラル十一世陛下とロズベルト神殿長、ハミルトンの言葉を残して円卓会議の間の声は途絶えた。周りが慌ただしくなる。そして何十分かが過ぎてからその人物がやって来た。


「リフ…」

「申し訳御座いません。遅くなりました」


 シャルが安堵したように階段を登って来たリフレイアに声を掛ける。元S級冒険者の最強護衛騎士、彼女は私では止められない。それでも私は退く訳には行かない。【大結界】を全力で強化する。


「無事なら良いわ。リフ、聖女プリアは脅されているだけよ。怪我はさせないで」

「承知しました」


 ああ、家族の為とは言え国を捨てる様な真似をした聖女など斬ってくれても良いのにと思っているのにシャルは私に残酷な慈悲を与える。そしてリフレイアの剣の一撃で私の【大結界】は破壊され手刀を受けて私は力を失いズルズルと崩れ落ちて行った。


「プリア様っ!」


 こんな私にまだ寄り添ってくれるパティ、本当に良い子だ。円卓会議の間の惨状が見える。倒れているがファイラル十一世陛下はまだ息がある様だ。無事なのはノットレザンジュ・レバノン伯爵だけ、ヴァン侯爵も辛うじて生きているが致命傷を負っている様だ。セリアーナ様、セアラ、ハインツ騎士団長の姿はなく、他の皆は倒れている。悠然と立っているのはロズベルト神殿長、金髪碧眼の豪奢な男性恐らくはラインハルト・ズィーガー皇帝陛下、そして白衣にぼさぼさの茶髪な男性ハミルトンだろう。その護衛らしい数人も傍に佇んでいる。


「リーン、リーンッ!」

「ノットレザンジュ様、お気持ちは分かります。ですが、この場は、この場はどうか脱出を!」

「お父さまっ!」

「シャル…ダビートの民は……受けた恩を忘れぬ。……必ず聖女様のセアラ様のお力に…」

「解りました。誓います」

「リフレイア……シャルを…娘を頼む……」

「畏まりました。ヴァン侯爵」

「陛下っ!」

「今、救出をっ!」

「余に…構うな……それより……国を……民を頼む…」


 それからシャルの「皆、思う事はあるでしょうがこの場は脱出をっ!急ぎなさいっ!!!」という言葉で脱出して行った。ファイラル十一世陛下の救出は断念され、彼等への追撃も行われなかった。リフレイアが居た事もあるだろうが生き残った者達、全員が無事に逃げ切ったらしい。その時には私の意識は途絶えていた。


 一月ほどの時間が流れた。テレスターレ聖国はダスド帝国領テレスターレ属国となった。国王はテレスターレ・フォン・ロズベルト一世陛下だ。ファイラル十一世陛下は断頭台に送られ堂々とこの世を去って行かれた。大聖女にはロズベルト陛下の娘、シャーロットが付きユリシーズが神殿長になった。私は聖女第一位である。でも格領地はロズベルトを認めずに内乱状態になっている。テレスターレは荒れている。アストラリオンは表向きはロズベルト陛下を認めているが実際はどうか解らない。私は変わらぬ日々を過ごしているが聖女達は大きく変わった。シャルとシズが大神殿を去った。他にもセアラと仲が良かった聖女候補は皆だ。セアラとハクアは死んだと伝えられている。でもヴァン侯爵の言葉、ファイラル十一世陛下の最後の言葉が忘れられない。あの一人と一匹はきっと生きてる。そして私は罪を償う日が来る。そんな予感がしていた。

狐猫の小話

本当に鬼かと言う感じでキャラが死んで行きます。

ブラック風緑です。


さて、王族は本当に全滅したのか?

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― 新着の感想 ―
[一言] お互い大変なのはその後ですよね。 まだまだ地獄の一丁目。
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