変遷1(へんせん)
〜登場人物〜
杠葉夏樹
橘蒼
・夏樹の幼馴染
小暮舞
・夏樹のクラスメイト
朝の時は気付かなかった、いや気付いていなかったんだ。
蒼の顔を直視できないぐらいに、自分の事で頭がいっぱいになっていたのかもしれない………
冷静になってきた今になって気づくなんて………
目の下に刻まれたくま、目頭が赤くなり少し腫れているように見える目元、顔色もいつもより悪く見えて思わず、なんて顔をしてるんだよと言ってしまった。
蒼は自分では気付いていないのか
何のこと?と答えるといつもの様な笑みを浮かべたが、いつもとはあきらかに違う。
俺の態度を見て、蒼が笑顔で大丈夫だよと言うと同時に衝動的に蒼の両肩を掴んでいた。
「今の蒼の顔は全然大丈夫じゃないからな!他の人は分からなくても今まで誰よりも1番近くに居た俺は騙されないからな、無理してるなら言え!俺じゃ役立たないかもしれないけど、一緒に考えることは出来るから頼れ!」
少し言い方はキツくなったかもしれないが、あの作ったような顔を見たら抑えがきかなくなった。
蒼は一瞬、目を大きく見開くと本当に大丈夫だよ昨日は寝付けなかっただけだから、今日ちゃんと寝れば平気だよと答えてくれた後、少し困ったような笑顔をしながら、なっちゃん肩が少し痛いから手を離して欲しいと言われて、まだ蒼の両肩を掴んでいたことに気付き慌てて手を離した。
蒼は片方の肩を抑えうつ向きながら色んな所が痛いよと呟いた。
強く掴みすぎたかもしれないゴメンと蒼の顔を見ると少し赤くなってるように見える夕日に照らされるだけでは無さそうだから、もしかしたら熱が出てきたのかもしれないと自問自答を繰り返しながら、家まで送ることを決めたが、蒼は大丈夫と繰り返すばかりで埒が明かない。
大丈夫を繰り返してる時に限って大丈夫じゃない事に気づいてないんだ。
「いつも俺ばかりが蒼に頼ってばかりだから、たまには俺も頼りになりたいし、俺が蒼を家まで送りたいから送らせて」
そう伝えると、なっちゃんがそこまで言うならと渋々ながら納得してくれたみたいだ。
蒼は『俺がしたい』と言う事には基本的には断らない、ずるいかもしれないけど、今回は1人で家に帰さない為にわざと『俺が』と言う言い方をした。
なとなく気まずい空気がながれる中、隣を歩く蒼を盗み見るとやっぱり顔そして今は耳の辺りも赤く染まって見える。
きっと熱が上がってきたに違いないその証拠に、口数がいつもよりも少なく感じる。
蒼の家の玄関まで送り届け今日は早く寝ろと伝え帰ろうとした時に、蒼から呼び止められた。
振り返ると、もうすぐ沈みそうな夕日に照らされ元々色素の薄い髪や目がキラキラと光を帯びていた。
本当に綺麗な顔してるなと見惚れていると。
今日のなっちゃん、いつもと違う気がするけど僕なにかしちゃったかな?
そう聞いてくる蒼の目がなんとなく水っぽさを含んでいる気がした。
なっちゃんともう1度、俺を呼ぶ声に何もされてないから大丈夫だよ。
蒼と一緒で寝不足なだけ、と伝えると何かを呟いた後に明日も一緒に学校に行こうねと笑顔で言われた。
蒼が、家に入るのを見届けた後、男の俺から見ても、やっぱり驚くほど綺麗な顔してるよな、俺にそんな事を思われてもきっと嬉しくないと思うけど……
そんな事を考えていると口元が緩んだ。
蒼は自分の体調も悪いのに俺の事を1番に心配してくる事に関して若干の危うさを感じる。
俺に彼女が出来たと伝えたら何て言ってくれるだろう、一緒に喜んでくれるだろうか?
次の日、蒼は今まで通りの笑顔で待ち合わせの場所で待っててくれていた。
数日後、蒼との今までの関係が変わり始めるとは、この時の俺は、まだ気付いていなかった。
小暮さんから告白されて気付けば1週間が経っていた。
自分の中では結論は出ていたけど、蒼や諒太との関係が今とは少し変わってしまうのではないかと怖さがあって返事を長引かせていた。
しかし今日、俺は小暮さんに返事をすると決めていた。
読んで下さりありがとうございます。
次回更新は5/23(月)です。
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