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涙目の孤独人 第一章 〜一匹狼〜 上巻 過去

涙目の孤独人 第一章 〜一匹狼〜



   



登場人物

 

主人公 男子 草間 月綺「くさま つき」

椿姫の双子の兄。「一六歳」高校一年。

とある秘密がきっかけで、中学の時に虐められ、友達にも

裏切られ、人との関わりをなくし、

一匹狼で生きてきた。だが、同級生の

蒼飛、秋菊と出会う。好きな動物 うさぎ

好きな食べ物、「スイーツ、チーズ」


兄弟 女子 草間 椿綺「くさま つばき」

月綺の双子の妹。椿綺もとある秘密を持っている。

月綺に憧れている。かっこよさと、可愛さから、

人気者で、友達が多い。

好きな食べ物「スイーツ、チーズ」

部活「剣道部」


同級生 男子 佐東 蒼翔「さとう あおと」

月綺、椿姫の同級生で、同じクラス。

一六歳。優しい性格で、どんな人だろうと、差別なく、関わる。

英語が得意な、クラスのイケメン。

好きな食べ物、「モンブラン」


同級生 男子 影山 秋菊「かげやま しき」

月綺と同じクラスで一六歳。

ハイテンションでノリが良い。

けど、少し天然。

好きな食べ物「グラタン」


同級生 女子 道崎 華実 「みちさき はなみ」

勉強が苦手で、明るくて、可愛い

蒼飛のことが好き!?

秘密はしっかり守る優しい子。

好きな食べ物「パスタ」


月綺の、中学校時代の友達

白井 満優「しらい みゆ」

中学校時代の友達。

一五歳。フレンドリーで、綺麗。

女子誰もが憧れるモデル体系

好きな食べ物「和菓子」


男子 傘身 荘太「かさみ そうた」

一七歳。月綺の一つ先輩。

先輩の中では人気。

女子に特にモテて、可愛い女の子好き。

恋愛というものを今までしっかりやってこなかった。

女の子の気持ちに合わせ、遊んでいた。

だが、月綺との出会いから本当の「好き」という

感情を覚え始める。

好きな食べ物「トマト」


※ 第一章では、蒼翔「あおと」秋菊「しき」月綺「つき」

が主な登場人物である。


信頼していた、友達に裏切られ、人へ恐怖感を抱いてしまい、

一人で過ごしてきた月綺。

気楽で自分なりに過ごしていたつもりだが、

ある日辛くなっている事に気づく。

友達もいないし、人を信頼できないし、どうしようと悩む中

心優しい蒼翔、元気な秋菊と出会う。

月綺を可愛がる二人に段々心を開いていく。

二人と関わるうちに、気づいた、気持ちとは?

登場人物の紹介、回想シーンでは、書かれていなかった秘密が、

高校のシーンで明らかに。

蒼翔、秋菊、月綺の関係にも変化が!?

秘密を抱えた、少年の成長を描いた青春長編物語。

 


目次 

はしがき 涙目の孤独人

   

   一、裏、表


   上巻 過去

   第ニ話 幸運

   第三話 秘密

   第四話 裏切り

第五話 温もり

   第六話 不必要な命

   第七話 救いの手


   中巻  恋色の再出発

   第八話 一匹狼

   第九話 心機一転

第十話 明かしと再会

第十一話 年上

  第十二話 噂

   第十三話 恋人




はしがき

涙目の孤独人

否定された、僕の存在、届かない僕の声、

受け入れてくれない僕の周りの人

この世界は、不平等で、醜い

いや、人間の方が怖くて、醜い。

一層、幽霊や肉食動物に襲われるより、

他人を簡単に言葉や武器で、

心を傷つけ、自殺に追い込む人間の方がこの世界で一番恐ろしい。

それでも僕は、必要のない、重たい命を背負い生きている。

生き続けている。

偏見もなく、差別もなく、恐怖もなく、拒絶も無い、

認めてくれる人、愛してくれる人、愛せる人を、世界を

今日も僕は一人寂しく探している。

何処にもなくても、見つからなくても

何年経っても、探している。

何度踏まれても、寒くても、

じっと耐え抜く蕗の薹のように

何を言われても、幾度も否定されても

諦めず、立ち上がり、進んでいる。

探している。

僕の名前は、月綺。孤独の月綺。

寂しくて、苦しい月綺。

心を閉ざした月綺。

世界に嫌われた月綺。

涙目の孤独人。


第一話 過去


 今、僕は孤独だ。

孤独は楽で、苦ではない。

何故なら、他人と関わらなければ、問題に巻き込まれたり、

気を遣ったり、

傷つけられたりしなくて済むからだ。

もしも、傷つけられられることがあっても、

無視して、その人と接しなければ、

孤独でいれば、いつかその人の視界から、消えていると思うからだ。

いや、もう一層そう思いたい。

でないと、孤独でいることが、とてつもなく

怖くなりそうでたまらない。

 だが、その現状が

辛くないといえば嘘になる。

時に、無性に他人を欲してしまい、

寂しさに襲われ、涙をぽろぽろぽろぽろ

流す時だってある。

 そう考えると

孤独というものは、

気楽であり、

時に、とても苦しくなるものだ。

 そもそもそうなったのは、何時からだろう。

記憶を辿ると、中学校三年生の頃からだろうか。

その頃は、受験も控えて、勉強、勉強の

時期だった。表面上明るくても、

内面は、不安定だったのかもしれない。




第二話 幸運

 当時の僕には、仲の良い「満優」という向日葵のような、女の子の

友達がいた。その子は、綺麗な茶髪で、二重のくりくりした目で、

鼻は少し高く、手足は細く、長い。

身長は、一六十五か、六と言ったところだろうか。

女子誰もが憧れる、モデル体系と言っても過言ではなかった。

こんな僕でも「綺麗だな」と思ってしまうほどだった。

もし、僕が女の子で、その子と知り合っていたら、

憧れていたに違いない。

それに、とてもフレンドリー。みんなの中心の的だった。

そんな子と仲良くなれるなんて幸運だなと思った。

いつも僕を助けてくれた。

その子からどれだけ借りをもらったことだろう。

返しても返し尽くせない程だった。

(いつか借りは返す!恩返しをする!)と助けてくれる度に

そう心から何度も決めた。

今日も、先生の授業で使った道具を片付けに、

歩きながら、話した。

「今日の授業、数学だったけど、難しかったね。」

満優は、溜息をつくような、脱力したような

口調で僕に話しかけた。

「そうだね。二次関数だったけど、

座標の何処に点を打てばいいのかわからなかった。

Xの、右が (+)で、左が、(ー)なのは、わかるんだけど•••」

ある程度の数学の言葉という服を、

頭のタンスから引っ張り出し、僕は答えた。

「ほんとだよね〜。それしか解らない。

混乱する。私、先生の解説聞くまで

解けなかった。受験も始まるっていうのにね。

数学は、結構しぶといね。」

「でも、満優ちゃん、平方根を復習でやった時、

丸の数多かった。」

今日は、受験も近いということで、

復習問題を解くことが多かった。

出来た人から、お互いの回答用紙を丸つけする

授業で、僕は、満優の解答を丸つけした。

「まあね。その分野は得意分野なのかも。

取れる所は取っとかないと。平方根の問題わかるだけで

すごいのかも。そのページだけでも、点数稼がなきゃ。

ありがとう。なんか元気出た。」

「うん。よかった。正解した答えの話題振ってみた。

落ち込んでいる様に見えたから。元気出るといいなと思って。」

「ありがとう。」

「どういたしまして。少しずつでも、数学に

向き合っていくしかないのかもね。

「ふふ。かもね。」

窓から射す、暖かい、いくつものカーテンの間を、

影と一緒に二人で倉庫へ歩いって行った。

「二人で頑張ろう。」

「うん。頑張ろう。」

気合を入れ、二人は、笑った。

今思ったことなのだが、

僕は、幸運だ。モデルのように、可愛い友達がいて、

学校にも楽しく通えて、僕はラッキーだ。

学校という世界で満優と話したり、

勉強できたり、他のクラスメイトと仲良くできたり

することに出逢えたのは、幸せ者だ。

それに、満優に出逢ってから気づいたことがある。

僕は、視界が狭い。でも狭いからこそ、

ふっとした時に、広げてみると

小さくとも、大切な幸せが日常にある、

世界にあることだ。その幸せから目を背けずに

過ごしてみると、自分がどれだけ恵まれているのかがわかる。

どれだけ幸せなのかがわかる。そして幸せになるために、

どれだけの人が僕にそれを与えてくれているかに気づく。

この世界は、日常は、幸せを与えてくれる人への感謝と、

愛してくれている、愛せる幸せで、できている。

それだけは、絶対に間違っていないと僕は思う。

いつまでもあるんだと思う。

苦しくても、辛くても、例えそれが偽りでも、

幸せは必ず僕のすぐそばに。

有り難さを忘れずに生きていれば、きっと今まで以上に

幸せな事が、僕に会いにきてくれる。

だから、しんどくても、命、幸せを

失わず、諦めない僕になりたい。


第三話 秘密

 その日から、一週間経ち、今日も満優と話していた。

海のような空の下、布団に包まれている様な暖かさの

太陽の力を浴びながら、満優と昼食を屋上で共にする。

「美味しそう!それコロッケ?」

満優は、僕の弁当を覗き込むなり、瞳に星を映している。

「うん。ただのコロッケじゃないんだ。

これ、中にチーズが入ってるんだ。

僕の大好きなチーズ。」

「いいなー。食べたことないんだよね〜。

普通のコロッケしか。

いつか親に買って欲しいって頼んでみようかな。」

「おすすめだよ。よければ、半分いる?」

「え!いいの? わあ、嬉しい! でも悪いよ。」

「大丈夫。あと、二個あるし。

本当に美味しいから。どうぞ!」

「ありがとう。本当だ。おいしーい!」

口の中で伸びの良い、とろけたチーズが

コロッケの芋と、揚がった皮と一緒に

良い具合に踊る。

最高のマッチングだ。チーズは

様々な料理、食べ物に合う。

そう考えると、

魔法の食べ物だ。そう一緒に食べながら、

満優と月綺は感じ、頬が緩むのだった。

 「あ! そういえば、満優に言わなくちゃいけないことがある。」

コロッケの幸せに浸っている中、

毛布を一枚かけたような暖かさの屋上に、

サッと吹いた風が僕の耳に囁き何かを教えたように

僕は事を思い出した。

「ずっと言ってこなかったんだ誰にも。

でも、満優ちゃんになら良いかな。」

「言ってこなかった?」

僕は満優の方を向き、微笑み、そして改まって、

太陽が僕達の影を描く中、家で練習した秘密を打ち明けた。

「そうだったんだ。話してくれてありがとう。

絶対に二人だけの秘密だよ。

誰にも言わない。」

「本当?」

「うん。本当。約束だよ。」

「うん!約束。」

良かった。聴いてくれた。もう怖くない。

ずっと二人の秘密だと思っていた。

でも、人という生き物は、裏は見えない。

本当に何をするかわからない。


第四話 裏切り

 学校に到着すると、何故か暑苦しくて

体内の血液がどろどろと皮膚から流れ落ちる程だった。

家から学校まではあまり暑さは感じていなかったのだが、

到着すると急にそうなってしまった。

その理由は分からなかったのだが、

自分はそう感じてしまった。

教室に到着すると、普段賑やかだった教室が

雪のように凍りついていた。

「あれ? なんで? なに? これ」

僕は全然理解が出来ずにそのまま立ち尽くしていた。

黒板に目を向けると何か大きく書いてある。

月綺。

ばか。

うざい。

消えろ。

月綺 男好き。

死ね。

自殺しろ。

今までの風景とは裏腹の辛辣な言葉が並べられていた。

文字の大きさが大小違っていて、それは綺麗ではなく、

繋ぎ字の震え、荒れた字だった。

平行に縦書きではなく、横、斜め、

四方八方に書かれていた。

みんなの僕への憎しみが溢れたような

そんな風景だった。しかも

まだ続く。どれだけ書いたのだろう。

きもい。

近づくな

出てけ

喋るな

大嫌い

裏切り者

そして

机には、使えないように文字が深く彫られている。

しかも凄い汚れている。チョークをグジャグジャに

擦り付けたのだろうか。その上に教科書を置くと、

汚れてしまい、勉強ができない程だった。

「なにこれ? やめろよ!」

涙より先に、怒りが込み上げる。

警戒心の強い野良猫が、牙を剥き、爪を突き立て

攻撃する様に殴りたい衝動に駆られる。

すると、一人の女子高生が僕の前に歩いてくる。

僕の視界に入ったその子の容姿は

綺麗な茶髪に、二重のくりくりした目、

細長い手足。そう満優だ。

「満優なの? こんな酷い事したの。」

「うん。そうだよ。」

「なんで?昨日約束したのに。秘密にするって

信じてたのになんでこんな事するの?

なんで? ねえなんで?」

「…」

「ねえ聞いてんの! 答えてよ!」

「ぷ、あははははは。」

片方の眉毛を上げ、目がひん剥き、

幽霊のように突然笑い出した。

「なに笑ってんの?こっちは怒ってるんだけど。

調子に乗るのも大概にしろよ。」

「あははははは。はははははは。」

その笑い声が、嫌でも僕の心を傷つける。

抑えようとしても、腹に住む寄生虫が

泳ぐように暴れるものだから

僕は机を思いっきり蹴飛ばした。

「黙れ!いい加減にしろよ!

いつまでも笑って終わらせようとしてんじゃねーよ!

聞いてんだよ!待ってんだよこっちは!

なに?友達だから? 弱そうだから?

油断してんの?痛い目見ないと分かんねえんだな。

これがどれだけ人を傷つけるか、どれだけ危険で

どれだけ怖いものなのか。

思い知れ。」

僕は、今までの自分を此処で既に失っていた。

怒りに身を任せた、学生ではなく、もう男そのものだった。

僕は、満優の胸ぐらを掴み、さっき蹴飛ばした机の衝動で

割れた窓の所へ追いやり、満優を外へ傾け

手を大きく開き満優の横に手をついた。

「怖いよなあ!でもそれぐらいやられる方は怖いんだよ。

それぐらい酷い事をしてんだよお前は!

裏切ったんだよ!俺を!

もっと怖い目に見てもらわないと分かんない?」

この学校は四階建てで、三年生は、最上階の四階

なので、ある程度は高い。

高ければ高いほど、恐怖感は増す。

「やめて!死にたくない。やめて!」

「やられたくなかったら、話せ!

全部話せ!今すぐに!」

「わかった。今話すから。」

涙目で、満優は叫んだ。

「やっと話す気になったんだな。

なんでこんな事をしてんの?

理解できるように話してよ。」

満優を床に下ろし、まっすぐ見据えた。

「私が虐めた理由は簡単だよ。

あんたの昨日の発言。

あれ、本当に秘密にすると思った?

ガチで信じたんだね。面白い

昨日話さなければ、ずっと友達でいられたのにね

ざーんねーん。真摯に受け止めると思った?

あり得ないんだけど。人間としてどうなの?

狂ってるよ。世の中の常識に反してるよね。

気持ち悪い。考えただけで吐き気がする。

だから、そういう人はこの世にいらないの。

ネタになりそうだと思って、遊んだら

意外と楽しいねこれ。」

満優は、僕を「この世界に不向きの人間だ。

この世から出て行け。」

とでも言いたげな、表情と

口調で、僕を嘲笑った。

何故か急に涙が溢れた。

理解できたのだろう。

自業自得だ。昨日のせいだ。

昨日言わなければ良かった。

信じてたのに。僕のせいで、僕のせいで、

僕のせいで、僕の…せいで

敵になりたくない人も巻き込まれて

「やめようよ。」

なんて口に出せてない。

苦しませてる。辛くなってる。

我慢させてる。ごめんなさい

みんなごめんなさい。

裏切って、怖がらせて、辛くさせて

ごめんなさい。ごめん。ごめん。

やめて。やめて。

つらい。怖い。

声出さずに泣けない。

泣いたら、また他の人を傷つけてしまう。

泣くな。泣くな。耐えろ。耐えろ。

無理だ。耐えられない。 

我慢ができないってこういう事を

言うのではないだろうか。

足が遠くへ向かう。。

上半身を置いて、下半身だけに

命が宿っている様に

足が勝手に向かう。

走る。進む。

屋上へ進む。

「あああああああ。

俺のせいだろ。

分かってんだよ。

普通じゃないんだろ!

俺は一人の方が本当は良かったんだろ。

関わる人を間違えたんだろ。

分かってんだよ!

それをわざわざ言わなくても

いいだろ。

傷つくんだよ!苦しいんだよ。

お前らよりもっと苦しんでんだよ。

怖いんだよ。お前らの方が

裏切り者だろ。

喋んな。出てけ。

お前らが出てけ!

こっちはな生きるか死ぬかなんだよ。

必死で生きてんだよ。

生きることしか、

それだけが

救いなんだよ。

俺はな

命がけで此処にいるんだよ!」

「はあ、はあ、はあ。

う…う、わああああああ。わああああああ。」

やっと声を出して泣けた。

僕は久しぶりに声を出して泣いた。


第五話 温もり

その後日、帰り際何者かに止められた。

人数は3~4人で

ブレザーの右の胸元には、赤の紋章が付いていた。

三年だ。俺と同じ学年。この中学では、紋章の形は同じだが、

学年により色が違う。

三年は赤、二年は青、一年は緑だ。

一人ならともかく人数が多いと流石に逃げるのが困難だ。

どうしよう。早く帰りたい。別クラスの人達かな。

クラスの名前はあまり把握してないし、関わることはあまりないけれど

クラスの中ではあまり見慣れない顔の人ばかりだった。

しかも俺より背が高い。見た感じ体格も良さそうで

喧嘩に強そうだ。喧嘩を買うと絶対怪我する。

さっきの出来事が頭をリピートし始め

背筋が凍るような体が震えるような感覚を覚えた。

とにかくあまり怒らせる様な事を言わない様にしよう。

何を言おうか考えていると、真ん中にいた金髪で襟元が長い

眉毛がキリッとした男子が歩いてくる。怖くて後退りしていると

壁に追い詰められた。そして肩が跳ねる音と共に横に手を置かれる。

「な、何? 」

「なあ、お前あの噂本当か?アンタのクラスの綺麗な女から聞いたんだよ。」

(聞いた? 満優から?別クラスにも話したのか? まじかよ。)

「噂って…いや違うよ。」

「違かねぇだろ? 確かに聞いたんだよォ。他のやつらだって騒いでたぜ。」

嘘をついたのも束の間、周りにいた一人も言い加える。

「言い逃れは出来ねぇ。どうなんだ?天使ちゃんよォ?」

そして最初に聞いてきた男がまた聞いてきた。

もう変に隠しても、また面倒くさく追求してくるに違いない。

人数も人数だ。怒りを買うのも時間の問題。

俺はもう話すしかなかった。

悔しい。今すぐ帰りたい。

「そうだよ。噂通りだ。気持ち悪くて悪かったなァ。」

「まじで?ホントだったんだ。」

そしてその男は、楽しそうにニヤニヤしている。

何をするつもりなんだろう? 俺は何をされるんだ?

隠してきた俺も俺だった。話すタイミングと時期も時期だった。

もっと頑張ってでも話さないでおくべきだった。

こんな俺じゃなかったら、普通の人間だったら、どんなに良かったんだろう。

そしたらこんないじめや現在起こっている絡みもなかったかもしれない。

周りの人達も苦しめなくて済んだかもしれない。

ほんと何をやってんだろうな俺。

「なあ、その噂本当なら試してみようじゃねぇか。お前前髪長いけど

結構可愛い顔してるしなァ。ちいと俺らと遊んでみねぇ?」

いやこれは喧嘩とか怪我とかそれ以前に危ないかもしれない別の意味で。

「い、嫌だよ。俺宿題やらないといけねぇし。」

「ちょっとだけだから。なあ? 」

「悪ぃが帰らねぇといけねぇんだ。通s…っておい!」

「うわ、お前細せぇな。女みてぇな体型。」

「うるせぇ!離せ!」

俺の話なんて目もくれず、俺の脇を両手で掴み体を抱き上げられてしまう。

そして女見たいと言われ、ますます怒りが込み上げる。

それと同時に恐怖が襲いかかる。抵抗してもちっとも聞いてくれない。

「おい!聞いてんのか!お前らそういうことは女にやれよ!」

「そういうこと?ははは。お前ガキか?可愛けれやどっちでもいいんだよ?」

「はあ?意味わかんねぇし、気持ちわりぃ。下ろせ!おい!」

抵抗しても抵抗しても全く動じず、離そうとしてこない。

疲れてきた。さっきだって泣いて大声出したのに。

俺はそのまま人通りの少ない校舎裏に連れてかれた。

そして大きい手で、体を触ってきた。

怖くて身震いがする。

「やめろ!触るな!ゴキブリが!」

「うわあ。可愛い顔して生意気!」

そう鼻で笑った後、他の奴らに抑えられてしまう。

「やめろ!本当にやめろ!お願い。」

涙が出てくる。声が震える。気づけば何度も助けを呼んでいた。

「誰か助けて!誰か〜!!ふグゥ!」

「おい!大きい声出すなよ!気づかれるだろ!」

ネクタイで口を塞がれ、シャツの牡丹を外される!

「んんんんー!」

そうやっても誰にも届かない。セーターも脱がされそうになったその時!

「グハァ!ドッシャーン!」

「何すんだてめぇ!」

痛々しい音と罵声が校舎裏鳴り響く。

「何すん!」

鼻で笑った後、こいつらよりも低い乱暴な罵声が俺の耳を木霊する。

「っ!? 」

「おい本人嫌がってんじゃねえかよ! やられる身にもなってみろよ!

いいか?てめぇらみたいな人の気持ちも考えられない変態は、どう口説いたって

女1人も出来ねぇよ。満足も笑顔にも出来ねぇよ。浮気して殴られて終わりだ。」

「はあ?んだとてめぇ!喧嘩吹っかけやがってぶっ飛ばすぞ!」

「うるせえな!喧嘩吹っかけてんのそっちだろうが!」

そういうと、その男は次々と男共をなぎ倒していく。容赦しない攻撃。

俊敏なかわしと、動きそして投げ技!目が離せない。

凄い!凄い!攻撃一切受けてない。

しばらくして、男共は反撃が出来なくなっていた。

仰向けに倒れている。

そして俺の方を向いて、さっきの声とは違うトーンを落とした優しい声で問いかけた。

「大丈夫か?怖かったな。ごめんな早く気づいてやれなくて。」

「ううん!怖ったけど、ありがとう。本当にもう駄目かと思っていたから、

まさか助けてくれるとは思わなかった。本当に命の恩人だよ。ありがとう。」

涙が次から次へと止まらなくなる。俺の声しっかり届いていた。

最悪の事態になる前に助けてくれた。本当に感謝しかない。

「そう言われるととても照れるんだけど、俺も嬉しい。

とにかく無事でよかった。」

そう言い俺の頭を大きな手で撫でてゆっくりと肌に触れない様牡丹を締めてくれた。

そして自分の上着を脱ぐと、俺に手渡した。

「これ着てろ。寒いだろ使用済みだけど。

お前の上着悪口とか穴とかボロボロだから。」

(あ、ほんとだ。)

トイレとか行っている間に、やられていたんだ。

穴が無惨に開けられ、悪口が大きく書かれている。

嬉しいけどでも

「いいの?お前も寒くない?」

「大丈夫。もう一着着てるし。」

「ふふ。ほんとだ。ありがとう。」

「うん。じゃあ俺帰るからじゃあな。」

「うん。」

その男は、俺を背に歩いていった。

その後ろ姿は、陽の光で輝いていた。

とても清々しくて、今にも飛んでいきそうな背中だった。

ヒーローとは、ああいうことを言うんだなと思った。

俺には到底届かないでも、人を救って笑顔にするヒーロー。

きっと忘れない。何年経ってもきっと俺の頭の中に心の中に残り続ける。

「わあ、暖かい。いい匂いもするミントかな?」

(いつかお礼言えたらいいな。またしっかりと。)

でもその後日も学校にも何日経ってもその人と会うことは無かった。

頑張って、受験もあるので学校に行っていたが、暴行やイタズラに耐えられなくなってきた。

段々休みがちになってしまい、恩人の名前も聞くことが出来なかった。

(あの時聞いておけばよかった。)

聞きそびれたことの後悔が雫の様に頭の中に降り注ぐ。

きっとかっこいい名前なんだろうな。

学校に日にを開けて行っていたが、ストレスからか体調を崩すようになった。

頭痛と腹痛で保健室で横になることが多くなった。

勉強にも付いていけず、体調も一向に優れず家に籠るようになった。

満優と屋上でお昼を食べていたあの時は、こんなことになるなんて思ってもいなかったのに。


第六話 不必要な命

  それから僕は不登校になり、この事をすんなりと

親に相談できる訳もなく、一人で抱え込み、

ついに食欲不振になってしまった。

吐き気、胃の苦しさ、頭痛が起こり

何もしたくなくなってしまっていた。

朝が来ても、僕の視界は真っ暗で、

他の人は朝が来たら、太陽の日差しがさして

明るくなるのに、僕の方は目を開けても真っ暗で

まるで目を失明した人になった様だった。

このままなのかな?ずっと。生きててなんの意味があるんだろう。

満優も言ってたけど、本当にこの世にいらない存在なのかもしれない。

もしそうだとしたら、この命必要なのかな?

この荷物重いな。早く下ろしたい。

みんな僕を必要としない、認めてくれない、

好きになってくれない、挙句の果てには拒絶する。

  本当に命という荷物は重い。

でもそれは一つしかなくて失ったら、もう二度と

その荷物を背負うことはできない。

これからの人生の種にはならない。

 でも今の僕にはそう考えることが出来なかった。

不必要に感じてしまっていた。

(二度と背負うことはできない)より、

(二度と背負う必要がなくなる)の方が

今、この現状に似合う気がしていた。

捨てたら楽かな? 消えたらみんな気楽かな?

もし僕が死んだら、みんなどんな気持ちになるんだろう?

どんな顔をするんだろう。

(しんどくても命、幸せを失わず、

諦めない僕になりたい。)と

さっき言ったけど、嘘になるかもしれない。

口だけの決意になるかもしれない。

いやもうそれでもいい。そうなっても後悔できない。

だって今の僕には、そういう結論しか出せないのだから。

もう立ち直れない、前が見えない、もう嫌だ。

普通の人間ならこんなに苦しまずに済んだのに。

僕は生まれ方を間違えたのかもしれない。


  第七話 救いの手

  苦しんでいる間、僕の視界に入ったのは

一冊の分厚い、それでも他の本と比べると薄い本だった

手に取ってみると表紙の真ん中に

「人間失格」と書いてある。

これは、太宰治が最後の力を振り絞り書いた

小説だ。生きる能力を喪失した主人公の人生の物語。

  昔、祖父がくれた本だ。

大切に大切に何回も読んでいた時期があった。

大好きな祖父がくれた本。肩身離さず持ち、読んでいた。

  祖父は本が好きで、特に文豪達が書いた本が好きだった。

そして自身でも物語を書いて、小説家を目指していた。

でもその物語は認めてくれなくて、なかなか夢には届かなかった。

でも諦めずにずっと書いていた。

しかし、祖父は癌になり、夢が叶う訳もなくこの世を去った。

祖父の葬式の日、(僕は祖父がなれなかった小説家になってあげよう。

喜ばせてあげよう)と心に誓った。

僕の夢は、小説家。小説家になって、

ぼくの声を届ける。

その事を、本を捲る度ふわふわと思い出した。

そうだ。僕は誓ったんだ。

小説家になるって。だから今まで国語の勉強、

歴史の勉強を手を抜く事なく頑張ってきたじゃないか。

此処で諦めて、祖父を傷つけてどうする?

決意して、必死で涙を拭った自分は何処に行った?

あの日を忘れてどうする?

負けるな!立ち上がれ!

転んでもいいから、少しずつ。

もう誰も傷つけないと心に誓っただろ。

僕の出来事を元に書いてもいい。

夢を捨てるな。目を開け!目を覚せ!

すぐ倒れる弱い自分じゃなかったはずだ。

  亡くなった祖父が苦しんでいる僕を見て、

背中を押してくれた、立ち上がる勇気をくれたと

本を眺め、僕はそう感じた。

 それからというもの、だんだん立ち直れる様になって、

毎日の事を忘れずに、小説に残そうと

日記をかくようになった。

相変わらず学校には行けてないが、

受験も近いので、家で勉強した。

志望校の過去問、必要な分野、ポイント、

苦手な分野を徹底的に勉強した。

二次関数、平方根、図形、証明、

文法、古典。

覚えるべき知識がありすぎて、

頭がボロボロになった雑巾みたいになりそうだった。

それでもどうにか、あの人達を見返したくて、

夢を叶えたくて、必死の思いで勉強した。

 そして冬がやってきて、入試が始まった。

みんな受験者は頭が良さそうで、シャーペンの音に

挫けそうになったが、負けじと解いた。

そして面接も行い、思ったよりも自信がついた。

結果は、なんと合格。

過去の僕に勝った。虐めた人達に勝った。

王の座にのし上がった雄ライオンが雄叫びを上げる様に

心の中で、名一杯叫んだ。

 そして入試も終わり、新入生として

高校に入学。不安が誰よりも襲う。

恐怖が誰よりも襲う。

だから僕は、あの様な目には会いたくないと、

裏切られるのが怖くて、

人との関わりを絶ち、一人で過ごすことにした。

でも何故か、そこの空気は柔らかく

心を開ける場所だった。

、また読んで

その繰り返しが僕にとって心の支えだった。

二週間ぐらいその本を相棒に一人で過ごしてきた。

苦ではなかった。むしろ楽しかった。

そのはずなのに、家で急に負の感情に襲われ

涙を流すことがある。

何故かわからなかったが、しばらくしてそれが寂しく

辛いものだと、自分を自分で追い込んでいることに気づいた。

こんなに辛いものだったけ?こんなにも苦しくなるものだったけ?

孤独、一人というものは、気楽になるもの、だが時にとても

苦しくなるものだということだと僕は実感したのだった。

  だが二週間後、とある二人との出会いをきっかけに

階段を駆け上がる様に俺の人生が変わっていった。




























 






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