表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニセモノギフト  作者: 天野 澪
1/6

贈り物のウラオモテ

けたたましく燃える炎の中で、僕は一人だった。

各所に設置された火災報知器が唸りを上げ、この非常な現実を突き付けてくる。

兎に角逃げよう。僕は一心不乱に出口を探した。

壁や天井から、あらゆるものが焼け落ちてくる。

息ができない。あたりに立ち込める黒い煙が、僕の体力を蝕んでいく。

死を覚悟した。短い人生だった。

心の底から悔しさがにじみ、その悔しさの逃げ道もみつけられず、目から熱いものがこぼれだした。地面に這いつくばり、視線を地面に埋めながら、僕は泣き喚いた。

ドォォォォォォンッ!!と。真後ろで爆発が起こった。頭だけを後ろに向け、状況だけ確認した。死神の足音が聞こえてくるようだった。

やっぱり、最後まで抵抗してやろう。そう思い立ち、懸命に足に力を入れようとした。

ーーーーーーその時だった。


僕は目を疑った。

目の前で、神々しく煌びやかな光が、炎に負けじと輝いたのだ。

あまりの眩しさに、目を覆ってしまう。

少しして、光が収まるのを感じた。涙に濡れた目をしっかりと擦り、ゆっくりと開いた。

光から出てきたのは、女性だった。

女の子、と言うには少し大きすぎる、しっかりした女性。

僕は彼女に聞いた。

「だれ……ですか?」

すると彼女は、僕の目線に合うように膝を折り、こう言った。

「ヒーローだよ。」

彼女は、自慢も含むだろう微笑みを浮かべた。

「ぼく、を…?」

「うん。私はね、君を助けに来たんだ。」

すると、彼女は鼻息荒く、興奮交じりに立ち上がった。

「まさに正義のヒーロー! そう思わないかい!? 少年よ!」

その様子がおかしくて、少し笑えてしまった。

「どうしたの?」

「いえ…。自分がヒーローだって、可笑しいなって。」

「えぇぇぇ! そ、そうなのかな…。」

「ふふっ、そうですよ。」

僕はこの状況で、笑っていた。

刻一刻と迫っていた死神の音は、いつの間にか消えていた。

「落ち着いたかな?」

「はい。ヒーローと一緒にいると、すごく安心します。」

「…いざ呼ばれてみると、なんか照れるなぁ…。」

恥ずかしそうに、彼女は後頭部を搔いた。

「意外と照れ屋なんですね。」

「そ、そうかな…。」

自覚はないのか、少し考えこみ…。

「じゃあ君は、すごく天然なんだね。」

お返しとばかりに、そう言った。

「天然ですか? はじめて言われましたね。ちなみに、どこら辺がです?」

尋ねてみると、彼女は吹き出して笑った。

「な、なんですか!?」

「だ、だってぇ…」

腹を抱えて、彼女は僕の足元を指さす。

「今自分が浮いてることに、気が付いてないんだもん…ふふふっ」

失神しかけた。


彼女は、空を飛ぶことが出来た。僕のように、彼女の近くにいる人にも、その能力は共有されるらしい。難なく建物から脱出した。

彼女の粋な計らいで、そのまま、夜の街を飛行した。

先ほどは、意識が遠のくほどの衝撃を受けたが、慣れるのは時間の問題だったらしい。

楽し尽くした僕は、ちょうど真下にあった高台の公園に着陸した。

「満足?」

にやにやした彼女は、僕の顔をじっと見つつ、そう聞いた。

「もちろん!」

僕は興奮まじりに答えた。

「良かった。あ、あそこのベンチに座ろうよ。」

彼女に促され、近くにあったベンチに腰を掛けた。

「うわぁ…! すごいなぁ…。」

ふと空を見ると、星があった。

無数の星だ。数えきれない。

「下ばっかり見てたから…。きっと気が付かなかったんだよ。」

彼女も隣に腰を掛け、空を見上げる。

そこで、僕は聞いてみた。

「結局、あなたは誰なんですか?」

「正義のヒーローだぁ!…って、そういうことじゃないよね。」

彼女は少し黙った。星空を見ながら、次の言葉を待つ。

「少しだけ、信じられない話をするよ?」

「いやいや。突然前が光ったと思ったらあなたが出てきて、俺はいつの間にか浮いてて、一緒に空飛んで夜景楽しんで…。信じられない話をするなんて、今さらですよ。」

「あははっ! 確かにそうだ!」

二カっと、彼女は笑った。

「いいですよ。何言われても信じますから。」

うーん、と彼女は悩む。

「…実は、私はあなたの母親なんだ。」

なぜ悩むのかと一瞬思ったが、そういう事か。

「僕の母親は空飛んだりしません。しかも母親は、僕がまだ幼い頃に、父親と共に交通事故……? で死にました。」

「…あ、少し重たい話になってしまった…。」

「いいから。早く本当のことを教えて下さい。」

彼女はゆっくりと息を吸い、そしてゆっくりと吐く。少し開いて、徐に口を開いた。

「私は、ごく稀に生まれる本物の『ギフテッド』だよ。」

「へぇー。よく分からないけど、そんなものがあるんですね。と言うか、最初からそう言ってくださいよ。」

「へへ…何言われても信じるって言うから、試してみましたー…なんて。」

気まずさを誤魔化すかのように、彼女は引きつった笑いをした。

「いいんですよ、もう。何年…も前の話です。」

「そう…。そうなんだ…。じゃあ、今はどこで生活しているの?」

「さっき燃えた場所ですよ。」

またも同じ空気が流れるのを感じた。源泉はもちろん彼女だ。

お調子者なのかお茶目なのか、はたまた真面目なのか。

「あなたは、俺の命を救った。それに代えられるものなんて、ありませんよ。」

でも、悪い人じゃない。優しい性格なのだろう。

「そっか…。それじゃあ、他に行く当てはあるの?」

「ありませんよ。どこかぶらついて、ゴミでも拾って腹満たせればいいんですよ。」

自虐的に、そう言ってみた。

興味に似た感情が、そう呟かせた。

すると彼女は、ムッとした目で僕を見た。

「ダメに決まってるじゃん。おなか壊すよ。」

「はい。壊しますね。」

しかしながら、頼りになる当ては一切ないし、誰かに拾わることなんて…二度とないだろう。そう確信めいたものが、そこにあった。

期待なんてしてない。

「それじゃあ、提案があるんだけど。」

期待なんてしてない。

「はい、なんですか?」

期待なんてしてない。


「家族になろうよ。」


二つ同時に、流れ星が流れた。

そう言われるのを、ずっと待っている自分がいた気がする。

信じられなくて、この上なく、嬉しかった。

視線はまだ、空に固定されたまま。泣き虫だと悟られないように。

「あなたには、何から何まで、救われますね。」

「はっはっは! このツケは出世払いで頼むよ?」

「金取るんですか…全く、もう……っっ。」

涙が止まらなかった。

やっと、本当の意味で、救われた気がした。

「よしよし。…こわかったね。もう大丈夫だよ。」

彼女は、僕を優しく包み込んでくれた。

言葉でしか知らなかった温もりが、今は肌で感じている。

僕はしばらく、彼女の胸の中で、カラカラになるまで泣きじゃくった。


空が白み始めた時間、僕と彼女は歩いていた。

「私はミコト。よろしくね。」

「ありがとうございます、ミコトさん。えっと…」

「それじゃ世間知らずの君に、今の世間ってやつを説明してあげるよ。」

「…僕って世間知らずなんですか?」

「そうだね。無知も良いところだね。」

「そ、そこまでだったのか…。」

いつ僕を世間知らずだと判断したのかは分からないけれど、確かにその手に関しては疎い自覚はあった。

「まず、『ギフテッド』の話から。」

「ああ。さっき言ってたあれですね。」

「そう、あれのこと。」

「ギフテッド…ってことは、『天才』ってことですか?」

「簡単に言うとそうだね。正確に言うと、生まれつき脳が異常発達した影響で、特別な能力が発現した人たちを指すんだ。」

やはりギフテッドは、彼女の他にもいるようだ。

「生まれつき脳が、ですか…。その能力というのは、どんなものがあるんですか?」

「能力は十人十色で、少し先の未来が見えちゃったり、常人の何倍も速く頭を回転させちゃったり…とかだね。」

「それじゃミコトさんは、空が飛べちゃうとか、光に紛れてワーッと…」

「っと…! ごめんちょっと急ごう。」

僕の後方で何かが目に入ったのか、彼女は突然話を遮り、歩調を速めた。

「み、ミコトさん?」

様子がおかしかったので、後ろを確認してみた。目に入ったのは、ランニング中であろう若い男性。

「ごめんね。いろいろ事情があって。後で話すから、もう少し急ごう。」

小走り、といったペースで、僕たちは目的地へ急いだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ