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事件その一 透き通る狙撃

 なろう系のラジオ番組で『パーソナリティーさんに探偵になって事件を解決して貰う』というコーナーがありまして、そこから思い付いて書いてしまいました。

 元々頭脳明晰とは赤の他人なので大した犯人は生まれませんでした。そして、書いた後で似たトリックが世に有る事に気が付きました。

 まぁ、お遊びかつ簡単である事が前提のトリックなのでお手柔らかにお願いします。


 事件が起きたのは今日のお昼。

 現場は街の東側にポツンと1つ聳え立つ建物。20mの丘の端、要は崖にへばり付くように建っている『硝子の館』で起きた。

 硝子の館は通称で、実態はこの街に新しく出来た公民館だ。数年前に古くなった公民館を取り壊し、どうせならと地元議員が世界的な建築家、ヘンリー=マックバン氏に依頼して作らせたらしい。

 硝子の館は名前の通り全面ガラス張りで、高い崖の上に建っているせいで遮蔽物は無く、上は太陽と月、下は崖下の公民館入り口の門まで見える様な前衛的建築物。

 会館当日、建築家を筆頭に地元著名人や議員が集うということで、テレビ局のヘリやラジオの中継車が何台も来ている中、それは起きた。


 御披露目の式典でスピーチをしていた議員、バルザック=リーベル氏が狙撃されたのだ。


 中継を偶々見ていたあなたは、事件に呼ばれて颯爽と現場に向かった。



 公民館入口に到着すると直ぐに、顔見知りの警部に案内された。すんなり通されたところを見る限り、どうやら捜査は行き詰まっているらしい。

 現場に向かう道中、五分程で概要を纏めて貰った。

 

 現場は公民館の屋外テラス。眼下にはパトカーが見えていて、テラスは崖っぷちどころかつっかえ棒で崖の上に浮いている様な有り様だった。

 そんなテラスの中央には演説用の卓が用意され、血溜まりが赤黒く辺りを汚していた。

 硝子の床も凝固した血があちこちに飛び散り、演説卓の後ろの床には大きな穴が空いていた。


 被害者はバルザック=リーベル氏。演説の最中に撃たれて現在病院で治療中。

 大口径の銃で撃たれたものの、ギリギリのところで急所は外れており、弾も貫通していたために命には別状が無かった。


 ここまでは不思議なことは何もない。

 撃たれた角度から計算すると、狙撃地点は議員よりもやや上から。こんな崖では狙撃出来るポイントは少ない。

 弾は貫通して、そのまま硝子の床を撃ち抜いて落ちてしまったようで見つかっていない。が、議員の怪我の大きさから判断すると大口径の弾丸で貫通力が高く、発射した銃はそのままでは懐に隠せないような大きいものであろうと予想出来ていた。

 犯人の特定には然程掛かるまいと、思えるだけの十分な要素が揃っていたのだ。

 しかし、元々議員の私設警備団が公民館の周囲を包囲する様に警備していた上に、狙撃後直ぐに公民館下の入り口は議員の私設警備団が固めて出入りを封鎖。

 警官が来た後で警備団含めて館内に居た人間は全員荷物検査もした。事件当時に公民館敷地内に居たものは例外無く大ホールに待機して貰い、公民館内外を一斉捜索をした。にも拘らず、それらしい凶器は見つかっていない。

 狙撃地点の候補の屋外テラス2階や公民館の中、トイレやゴミ箱、公民館敷地内をくまなく探しても薬莢1つ有りはしない。

 ヘリコプターから狙った可能性も考えてヘリは最寄りのヘリポートに着陸後直ぐに調べさせたそうだ。

 しかし、そちらも空振り。怪しいものは見つからなかった。




 このままでは情報が足りないと考えたあなたは事件の重要な目撃者を探すべく、そして視点を変えるべく、主要な関係者に話を聞くことにした。


・バルザック=リーベル議員の第一秘書、ロッサ=テイラー

 「私は、先生が狙撃された時には勿論演説台側に控えていました。ええ、テレビにも映ってる筈です。

 当時の状況ですか?えぇ、ガラスが割れる音がしたので何事かと思ったら、先生が血を流して倒れていたので……その、面目無いのですが、先刻まで気を失って医務室に居りました。

 え?先生を狙う人?怨みは買いすぎるほど買っていました。

 今回も設計されたヘンリー=マックバンさんと揉めてましたよ。本人は『大したことじゃない』と言って、詳細は言いませんでしたけどね。」



・バルザック=リーベル議員の第二秘書でロッサ=テイラーの弟でもあるロッサ=ノーム

 「僕は丁度先生の真ん前少ーし上、2階テラスで先生を撮ってましたよ。

 いやね、『写真と動画撮って宣伝材料にする』って言って機材一式押っつけられて……やーショッキングなスプラッタが撮れましたよ。

 ま、先生の事だから、これ使って『銃弾にも屈しない不死身の議員』とかなんとか、やりそうではあるんですけどね、まったく、図太いというか豪胆というか厚かましさだけは一流というか……。

 え?状況?動画と写真とわんさか撮ってたらいきなりあの画ですよ。

 怪しい奴?機材抱えた僕以上に怪しいの、居ます?お陰様でここに入る時にも警備の人に捕まって、徹底して調べられましたよ。

 あぁ、機材は調べられましたけど、怪しいものは出ませんでしたよ。

 え?兄ですか?いゃあ、先生の傍に居たならカメラの映像に残ってるんじゃないですか?

 恨みは…生まれてから今までにした呼吸の数を数えるようなモノですかね?

 今回も色々恨みを買ったとかなんとか言ってましたよ。」


・公民館の設計、建築をしたヘンリー=マックバン

 「あのタコスケ!ワシの建物()をコケにしおって!デザインしたのはワシだが、本来は建物の内外に鏡とレンズをオブジェクトとして魅せつつ設置して、発電と温度管理の補助まで出来る造形美と機能美とを両立させた真の美しさを手に入れる筈じゃった!

 それをあのタコスケっ!『安くて構わん、この街程度ならこれでも贅沢すぎるくらいだ。』指定した材料より安物で作っておきながらそうぬかしよった!

 本来はその辺の弾程度ならこの建物は傷1つ付かん筈なのにあんな傷付いて、挙げ句に血で汚しよって……。

 重体?重症?死にかけてる?ざまぁないわい!

 何処に居たか?帰るとこじゃったよ。公民館外、下の門の近く。こんな不憫な娘の姿、長く見とうないからの。帰るとこじゃったのよ。

 丁度帰ろうとしたところであのタコが撃たれたとなって動けんようになった。

 まったく、どうせなら2度とウチから見えんように壊してしまえば良いものを…。」


・私設警備団隊長のマイケル=クロップス

 「おぅ!なんでも訊いてくれ。ただし、この警戒厳重警備を掻い潜る方法だけは訊いてくれるなよ。

 何せ俺にも解らんからな。ヌァッハッハッハッハ!

 狙撃の時?ラーメン屋で飯食ってたよ。

 いや、な?演説するから警護しろって数日前に言われて、今日も朝から何も食えずに大忙しだったのよ。

 だったもんで、隊員からオン出されて、飯食ってこいってどやされたんでよ。公民館の外、下のラーメン屋で遠慮無く大盛のラーメンを喰ってたわけだ。ヌァッハッハッハッハ!

 いゃしかし…反省せにゃなるまい。公民館外は隊員が互いに両隣を視認出来るくらいの間隔で配置して、その上秘書達にも内緒で入り口には金属探知機をこっそり仕掛けてあったんだ。

 だってのに、どうやって(やっこ)さんは銃を持ち込めたんだ?

 飯喰って帰ったら隊員は騒ぐし、公民館建てた棟梁はキレてるし、大将が撃たれてるし、訳が解らんかったぜ?

 恨み?ヌァッハッハッハッハ!今回も派手にやったらしいな。何週間か前に事務所に殴り込みに来た棟梁から聞いたぜ、どうも手抜きしたらしいじゃねぇかよ。そのせいで自分がやられてたら世話ねぇ!」


・公民館の館長、アーノルド=ヘンドリックス

 「議員が撃たれた時、私は公民館事務室の電話口に居りました。

 相手は区役所のクラーク=キャメルさん。用件は併設予定の図書室の本についてでした。

 議員のスピーチ前はテラスに居りましたが、急ぎの電話だと呼び出されてそちらに向かい、キャメルさんと話している最中に騒ぎが起きたようです。

 怪しい人物ですか?特に見てはおりませんよ。

 彼の人柄?関係有りません。私はただここをより良い場所にして市民の方々に提供するだけです。」


・ヘリに乗っていたテレビクルー

 「ヒドイじゃないですかぁ!真下で決定的な現場が広がってるっていうのに強制着陸からの持ち物改め。

 挙句に容疑者扱い!あんまりだぁ!

 え?撃たれた時の状況?上空から撮ってたらいきなり議員の胸から血が出て、会場は騒然としてましたよ。

 え?狙撃の経験?銃だって持ったことが無いんだから出来る訳無いじゃないですかぁ!

 ぁぁー…どうしよう、ヘリポートへの帰り道に清流があるから撮ってこいって言われてたのに…撮り損ねたぁぁぁ、」




 どの証言者も嘘は吐いていないことが明らかになっている。アリバイは完璧だった。

 『外部犯の仕業じゃないか?』

 そんな風に言われ始めた時、あなたの頭脳はとっくに犯人のトリックとその姿が浮かんでいた。

 そう、犯人は話を訊いた人の中に居る。

 どうやって議員を撃ったかは明らかだ。


 さぁ、私の推理を皆に披露して、真実を明らかにしよう。

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