名付けは難しい
デスパンサーたちに名前を付けよう。
そう思い立って早3日、いまだにいい名前が思いつかない。
いや、いくつかは考えてみたんだぞ?
死黒豹という種族名らしいから、黒丸、黒美、黒男なんていいと思ったんだけど、提案した途端に後ろ足で砂をかけられた。
それに死をイメージした名前を付けるのはどうかと思うし、名付けって考えていたよりずっと難しいものだな。
いっそ当て字でキラキラネームにするか? いや、流石になあ。
頭を悩ませる俺の前で、デスパンサーたちは森チームのハイエルフを背に乗せて屋敷の周りを走り回っている。
まるでアスレチックコースみたいに、ぬかるみや坂、パイロン替わりの切り株なんかが設置されていている。
あ、流鏑馬の的みたいなのもあるな。ちょうど今、弓を射るところで――うん、お見事。
豹独特のしなやかな動きで駆け抜けて行く姿はまさにファンタジー。ハイエルフの美形な容姿も相まって、見ていてとても画になるな。
「使徒様もやられますか?」
俺が見ていることに気が付いたハイエルフのひとりが声をかけてきたので父デスパンサーに乗ってみる。
「お⋯⋯おおふ!?」
牧場でポニーに乗った経験くらいしか無かった俺だけど、デスパンサーの乗り心地は鞍なんかも無いのにとてもいいじゃないか。特にこの手触りが堪らん。
俺を乗せた父デスパンサーが立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。
視線の高さがいつもと違うからか、普通に歩いているだけでも、なんというか高揚感みたいなものを感じるな。
うん、慣れてきたからもう少し速く走ってもいいぞ。そうそうこのくら⋯⋯いや、ちょっと待て速すぎる!
ハイエルフはこのくらい大丈夫? 俺は無理だぞ。制限速度を守って安全運転で頼む。
次は母デスパンサーだな。子デスパンサー、お前はまだ小さいけど乗って大丈夫か?
うん、やっぱり呼びにくい。
鞭みたいにしなやかな体躯と走りだから、それにちなんだ名前はどうだろう。
父パンサーがウィップ。母パンサーがパイチェ。そして息子パンサーがフルスタ。
それぞれ英語、ドイツ語、イタリア語で鞭だ。そのまますぎる気もするけど、響きがよくないか?
気に入ってくれたか、そうか。黒丸と比べればマシだから? なんでもいいさ。 お前たちもこれからは俺たちの家族だ。