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死黒豹

俺がこっちの世界に来てから2か月と少したった。


シムルグ印の畑から2回。普通の畑から1回それぞれ収穫ができた。


普通の畑でも充分に成長が早い。


味はシムルグ畑が特級品とすると、普通の畑はギリギリ1級品に入るかというくらい。


悪くはないけど、せっかくあれからシムルグも数羽狩ることが出来たことだしシムルグ印の畑を拡張中。


畑チームと森チームのおかげで野菜や果実の種類もだいぶ増えてきた。


見たことのない食材もあるけど【料理の達人】と【万能包丁】のおかげで問題なく調理することが出来ている。


ハイエルフ達は適時メンバーの入れ替えをして、各自の好みにあったチームに入ってもらった。


よくよく考えてみたら、最初のチーム分けはみんなのことを全然知らないうちにやっていたから、あんまりやりたくない仕事のチームに入ってしまった人もいたかもしれない。申し訳ない。


今では全員水を得た魚のようにイキイキと働いてくれている。


順風満帆。


えてして事件はそんな時にいきなり起こる。


「畑が荒らされた?」


これから朝食を作ろうかと調理場へ向かうと、畑チームとメイドチームのハイエルフ達がいきなり一斉に頭を下げたのだ。


まだ寝起きでボンヤリとしていた俺の頭を一瞬で覚醒させるくらいに鬼気迫った表情で。


「複数の獣の足跡がありました。恐らく夜のうちに侵入し、収穫間近の野菜を食べて行ったと思われます」


「畑の管理を任されていながらこの不始末。申し訳ございません!」


「私達メイドチームも謝罪させてください。屋敷に不審な輩が近付いたら身を持って使徒様を御守りするのが我らの役目。なのにここまで接近されていたのに気が付きすらしなかったなど許されることではありません」


「「どうか厳罰を」」


そう言われても、困るんだけどな。


みんなは俺の所で働いてくれている従業員⋯⋯いや、家族みたいなものだろ。


そのみんなの安全を守るのは雇い主でありここの主人でもある俺の責任だ。


「すまなかった」


みんなに頭を下げる。


屋敷の周りは野原と草原ばかりで、無防備状態なのはずっと前から分かっていた。


それなのに日々の生活に追われて策を弄さなかった俺こそ謝らないといけない。


「対応策をみんなで考えよう」


みんなでああでもないこうでもないといろいろ考える。


しかし、どうしても人手が足りなくて、作物や肉の確保と同時進行となるとどうしても無理が出てくる。


ハイエルフのひとりがウンウン唸りながら知恵熱を出し始めた頃、


「使徒様! デスパンサー(死黒豹)です!」


見張りを頼んでいたハイエルフからSOSが入った。


【万能包丁】を握り外に飛び出す。


そこにいたのは動物園で見た黒豹より2回りほど大きい黒豹が2頭とその子供らしい小さいのが1頭。


ハイエルフと睨み合って唸り声をあげていたが、俺に気付くとピタリと動きが止まった。


恐らく、家族だろう。


よく見ると両親らしき2頭は怪我をしている。


「あの傷、おまえがやったのか?」


見張りのハイエルフに確認するが首を振る。


彼女は体がブルブル震え、明らかにへっぴり腰。完全にデスパンサーとやらに怯えている。


が、そのデスパンサーもどうも様子がおかしい。


俺を見て絶望した表情をしている。


ああ、【万能包丁】を持っているからか?


「アシェラ、このデスパンサーが畑を荒らした犯人だと思うか?」


「いえ、残っていた足跡はもっと大きな物でした。恐らく、違うかと」


そうか、違うか。


【料理の鉄人】のおかげか、死黒豹の倒し方は理解できる。が、同時に食べ物にはならないということも理解できた。


なら、出来れば無駄に殺したくはない。


もちろん、みんなに被害が出るようなら話は別だけどな。


「お前達、俺達や畑を襲ったりする気か?」


デスパンサーに話しかけると、話しかけられたことに驚いたような表情で俺を見た後に首を横に振る。


「敵じゃないんだな? 言葉は分かるか? 分かるならその場で伏せてくれ。攻撃しないから」


そう言うと両親らしき2頭が即座に伏せをした。


子供は首をかしげていたが、親に促される形でしぶしぶと伏せる。


事件は、えてして畳み掛けるように起こる。


森の木をなぎ倒しながらでっかい真っ赤な熊が現れた。


臨戦態勢になったデスパンサーとハイエルフを見較べた熊は、ニヤリとした表情を浮かべてハイエルフに襲いかかる。


敵確定。


【万能包丁】をトマホーク状に変化させて投げつけ、振りかぶった熊の右腕を切り落とす。


一瞬何が起こったのか理解できていないのかポカンとした表情を見せた熊だが、腕を失ったことに気がつくと雄叫びをあげながらターゲットを俺に変えて襲いかかってくる。


残った腕でなぎ払おうとしてきたが、その腕を、【万能包丁】を持たない左手で掴む。


いや、できる気がしたんだよな。まな板の上で逃げ出した鰻を片手で掴むくらいの難易度。


難しい? これでも、ベテラン料理人ですから。


そのまま押さえつけて【万能包丁】で捌く。


「今日は熊肉で焼肉だぞ」


ハイエルフ達に振り返ってそう伝えると歓声があがった。


そしてデスパンサーよ。


なぜ腹を出してひっくり返っている?


服従のポーズなら犬じゃないんだし違うんじゃないのか?



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