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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
第四章 バグザード(ナウム動乱:後編)
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十二話 戦場に赴く者③

「ケヒッィィィ!!!」



 喉を震わせ”友達”を呼ぶ。

 私はナウムから離れ自然の声が聞こえる北の丘まで来ると、力の限り”大きなお友達”を呼んだ。

 今呼ぶのは四本足で駆ける友達ではない。翼で空を駆け、広きを見る友達を呼ぶ。

 彼ならきっとすぐに来てくれるだろう。

 オフスは呼んじゃだめだって言うだろう。でも多分、今呼ばなきゃダメだ。



 私は靴と靴下を脱ぐと大地の上に裸足で立つ。

 すると懐かしい温かな力が頭のてっぺんから入り込み、つま先から地面に流れていくの感じられる。

 あぁ、私達ジケロスは遥か昔からこうして生きてきたんだ。

 足の裏から頭のてっぺんまで痺れるような感覚が逆に走り、本能的にそう感じた。

 私の周りを風が踊り、揺れる草木が葉をこすり合わせ、微かに歌を歌う。

 この世界にるもの全ては大地の上に立ち、等しく同じ存在であるのだと言う事を思い知らされる。

 ジケロスに問いかけは必要はない、全ての物事を注意深く聞いていれば、生きていく知恵は自然が何でも教えてくれるのだ。



 リノちゃんは大地が乱れている、……とか言っていたような気がする。

 とりあえず大地の事は大地が教えてくれるのだ。

 私は跪き、大地にうつぶせに横になると、頬を大地に当て目を閉じる。

 大地から息を吸うように、胸いっぱいに空気を吸い込む。

 大地の力を私自身に取り込めば、答えが分かるかもしれない。

 だけど、違う、これは……。

 体中に言い知れぬ異物感を感じると、胃にむかつきを感じてくる。



「ウゲェッ。ガヘッ。ウゲェェェッ」



 食べたごはんが出て行ってしまった。

 私は体を丸め、涙目になりながら吐き続け、その悪心に耐えた。



「ゲホッ、ゲッ、ゲホッ」



 胸を押さえながらうずくまり、しばらく経つと胃は空になってしまったようだ。

 口元を拭き、さっきの感じを思い起こす。

 ”アレ”は、きっと良くないものだ。リノちゃんはこの事を言っていたのだ。そうに違いない。

 なら、リノちゃんは”アレ”が流れてくる場所が知りたいのだろう。

 周りを見渡すが、それはここじゃないことが分かる。

 多分とても遠くにある、きっとここからじゃ見えない。

 ”大きなお友達”を待ったほうがいいかな?

 だめだ。そう思う。リノちゃんも言っていた。急がないといけないだろう。

 とても遠くが見たい。そう思うと、ふと……、オフスの言葉が思い出されてくる。



(きっと元の目より凄く見えるようになるはずさ)

(シエリーゼの見ている風景だよ。普段は使っちゃダメだけど、リーヴィルが本当に困ったら使っていいぜ)



 あぁそうだ。私は、神様の目を持っているんだ。

 私は天を見上げ、両手を広げるとゆっくりと両の瞼を閉じる。



「シエリーゼ。私に、遠くを見せて……」


 

 そう呟くと、閉じた私の左目には、私の知りたい光景が浮かんでくるのだった……。




 ◇ ◇ ◇




 ほぼ同時刻、マナフォドリー内、ニハロスの王宮。

 夕日が見える塔の最上階で、ベットに横たわるレグディア女王とラピスを介し通信を行っていた。

 俺は、女王の返事に力強く答える。



『ありがとうレグちゃん。リノちゃんの事は俺に任せてくれ。でも俺は、種族の掟とか、国同士のしがらみとか、そんなのじゃなくて。皆と幸せになる為に、もっと大きな事をこれからやろうと思う。……この星の未来を守りたいんだ』



 女王は、不思議そうに俺を見つめる。

 年齢と共に白く濁ったその瞳は、きっと俺の知らない長い時をその目に映してきたのだろう。



『星の未来? 瘴気の事なんぬ? そうか、ウェブレイに聞いたのか……』

『そうだ。次元寄生体は俺の敵だ。ずっと戦ってきた相手だ、任せてくれ……。だからレグちゃんの事もきっと俺が守れる。俺に、宇宙そらでの恩返しをさせてくれないかな……』



 女王は少しだけ嬉しそうに微笑む。



『レグを救うと言うのかぬ? 生意気な……』



 女王が何か言いかけるが、クエリが緊急コールを俺に知らせてきた。



≪ご主人様。シエリーゼが起動しました≫

『なんだって?!』



 そんなはずはない、アクセス権は俺にしかないはずだ。



 ……違う、もう一人いる。

 リーヴィルだな、俺がいない間に何かあったか?!

 


『急いでシエリーゼの映像を回してくれ』



 シエリーゼがオービタルリングから見ている映像が共有されてくる。

 そこには軍隊だろうか、ナウムを囲む大部隊と複数の偶像騎士シエイゼ重偶像騎士シーエイゼの姿が見える。ただ事ではない。



 東門の外ではヒェクナーと重偶像騎士シーエイゼが決闘を行っているようだ。

 東区を中央区へ走る偶像騎士シエイゼ重偶像騎士シーエイゼも複数見える。

 街に火の手が上がり、多くの家屋が倒壊していき、逃げ遅れた人々が犠牲になっていくのが分かる……。

 その部隊が向かう星見の塔の広場には、バグザードとオーヴェズが待機していた。

 星見の塔を何かの理由で守っているのかもしれない。



 次にリーヴィルが見ているのは、ナウムの北西八十キロ程の場所、あそこはフォーナスタ領だな。

 何やら大部隊が魔法陣を引いているように見える。

 そこまでの画像が送られてくると、リーヴィルはシエリーゼからログアウトした。

 考えている時間はない。



『クエリ。ウェブレイに緊急コールだ』

≪はい、その通りにします≫



 俺は女王の手を取り、軽くキスをする。



『レグちゃん。そろそろ帰る時間になったよ』

『明け方まで、ゆっくりとはしてくれないのかぬ?』



 彼女は俺に悲しそうな顔を向けた。

 少し強めに彼女の手を握ると、俺の意思を伝える。



『続きがしたかったら俺と一緒に来ないか? それは……、星の未来を守る続きだ』



 すると、女王は唇を動かし、何か伝えようと逡巡する。



『……今は行けぬ。行けばオフスを招き入れた者が全て罰を受けよう』



 彼女は小さな胸に空気を一杯に吸い込むと、それを吐き出す。

 遠くからウェブレイの力強く羽ばたく音が聞こえ始めてきた。

 ……そろそろお別れの時間だ。



『最後にオフスよ。お前は決めねばならない』

『なにをだい?』

『自身がオフス=カーパであるのか、ミクニハジメであるのか、を』



 女王の瞳は俺の瞳をとらえて離さない。



『レグは宇宙そらでの声を聞いていたぬ。ミクニハジメがお前の本質だ』



 あぁ、……そうだ。俺は三国一ミクニハジメだ、それは変わっていない。

 でも同時に俺はこの星で”オフス=カーパ”でもある。



 ……俺の脳裏に、夕日が沈む海を見つめる”彼女”の横顔が、思い浮かぶ。



『……わかった、覚えておくよ』



 女王にそう答えるとウェブレイの羽音が、テラスに響き渡り、強い風が窓から吹き込んでくる。

 悲し気な表情を浮かべる女王の長い髪が風に激しく揺れた。

 俺は彼女に触れていた手を放す。



け。責任を受け入れ、責任を負ったまま己を決められない者よ。いずれその責任がお前を形作るんぬ。……ほどなくレグも共にこう」



 そう言うと彼女は目を伏せる。

 俺は黙って頷くと、彼女に背を向け、ウェブレイの待つテラスへと向かった。



「ウェブレイ!」



 ウェブレイは、テラスに降りたつと首を巡らせ俺を見据える。



『何用か』

「俺にはまだティアレスでの地上任務があるんだ、ナウムまで送っていってくれないか」

『貴君の任務は完了しているのではないか?』

「いや、俺にはやらなくちゃいけない事があるのさ」



 俺はウェブレイをまっすぐ見つめ笑うと、力強く答える。

 今いる沢山の”彼女”たち、そしてこれから出会う”彼女”たち、そしてグゥちゃんや俺に連なる沢山の人たち。

 自分の大切な人も守れないで、その先があるはずなんてない。

 クエリも言っていたじゃないか……。



「俺の任務はこの星の、人類の繁栄だよッ。俺の可愛い子供も含めてな!」




 ◇ ◇ ◇




 ウェブレイが飛び立つと、女王の寝室には彼女の小さな声が漏れる。



「これでいいのかぬ? しかし、人の寝屋ねやに潜むなど趣味が悪すぎるぞ……」



 その声は、寝所の柱の陰に向けられていた。

 音を操る”静寂”の騎士剣を持つこの男の前では、声に出した密談など意味がない。

 もしかしたら柱に潜んでいた賢しいこの男は、私たちの顔色から先ほどの会話の内容を割り出してしまうのかもしれない。

 そう思うと二千年の齢を重ねた女王でも、この男の存在は怖かった。



「熱演でございました。大聖母様」



 男の透き通った声が聞こえてくる。



「三頭執政会の承認は得られております。あとは女王のお言葉さえいただければ……」

「今の国勢では、いずれかの支援を受けねば国はまわらぬ。……貴公らの支援を、我らは受け入れよう」



 女王はそう言うと溜息をもらし、ベッドに深く沈む。



「いえいえ、マナフォドリーの価値は計り知れません。自らの弱みを知る者も、自らの強みに気が付かないものです」



 男は柱の陰から出てくる。しかし、その顔は暗がりにあり良く見えない。

 プラチナブロンドの短髪。長身の男性だ。



「あの男の想いをレグは確かめた、そして決めた。レグはすぐにナウムへと発つんぬ。会いに行かねばならない」

「ミクニハジメにですか? オフス=カーパにですか?」



 その男は部屋の陰から夕陽の差し込む女王の側まで歩みを進めてくる。



「まだ分からないんぬ。しかし、新しき古き竜(ハイフォドリー)の道が始まる。それはジケロスに伝わる勇者の道。それは一人で進むにはあまりに過酷な道だ。ならば、……この国は三頭執政会と貴公でやれば良い」

「はい、……ではお帰りをお待ちいたしております」



 男は女王の前に跪くと、深くこうべを垂れた。

 その顔は女性と見間違えるような端正な顔だちをしており、動きやすい貴族風の服装をしている。

 そして左手には精緻な装飾の施された銀の籠手をつけていた。

 女王は自分の前でこうべを垂れる男に詫びるように呟く。



「貴公は悲しき男なんぬ。……ニジャよ」



 男は顔を伏したまま、その顔色をうかがい知る事はできなかった。



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