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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
第四章 バグザード(ナウム動乱:後編)
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十一話 旅立ちの首飾り②

 俺は途中までオチュワさんに案内された後、一人ニハロスの街並みを歩く。ここは首都のはずなのだろうが、やけに活気が無い。

 歩く人もナウムの半分くらいだろうか。

 使われていない空き家も多くみられる。どれも入り口が小さく可愛らしい建物だ。

 二十年前の戦いで多くの年経たロウフォドリーは天の橋を渡っていたという。きっと人がいないのはそのせいなのだろう。

 ヒューマンの寿命が五十年、ロウフォドリーの寿命が五百年。

 同じ人数が亡くなったとしても、単純計算でロウフォドリーの人口は十分の一の回復力しかない。

 違うか……。男性は旅立ってしまうから二十分の一なのか……。



 俺は通りを歩き、オチュワさんに教えられた赤い目印の看板の店の前で立ち止まる。

 看板には単に”酒場”と書いてあった。しかし赤い目印のこの酒場は男だけが集まるのだという。

 そして首飾りを貰った男は、ここに一人で来て、一人で帰るのだという。



 酒場から赤い顔をした角の無いロウフォドリーが出てくる。

 小柄なのでちょっと酒臭さにびっくりするが、種族が違うだけで立派な成人なんだよな。

 ここはロウフォドリーの国だ、俺からみて背が小さいのは当たり前なんだと、改めて思う。

 そんな風に彼を横目で見ながら俺が店に入ろうとすると、さっきの赤顔のロウフォドリーが俺を引き留めた。



「ここはロウフォドリーの酒場なのじゃよ? ニーヴァが入ってよい場所ではないのじゃ」



 おお!? これが本物の「のじゃ」か?!

 まぁ、リノちゃんが偽物って訳でもないけど。

 俺は苦笑いすると、首から首飾りを見えるように引っ張る。



「これで入れてもらえないですか?」



 すると赤顔のロウフォドリーは目を丸くして驚いた。



「ニーヴァのお前がそんな物なんで持ってるんじゃ?!」

「貰ったんですよ、返事の方法が分からなくて。告白の返事のやり方を本人に聞くわけにもいかないでしょ?」



 そう言ってっ笑うと赤顔のロウフォドリーは”リヴィエレ”と名乗った。俺も名乗るとリヴィエレさんに案内され、店の中に入っていく。

 狭い入り口を抜けると店中はそこそこ広い、頭が天井に着くことは無いが、俺の背から比べると大分低い位置にある。

 中にはテーブルとイス、カウンターと小さなサイズではあるが、想像できる範囲での普通の酒場の風景だった。

 今は昼時の為なのか、それなりの人数のロウフォドリーが食事を取っていた。

 


「いらっしゃい。ん? ここにはニーヴァの食べ物などないのじゃ」

「いや親父。こいつは”旅人”なのじゃ」

「本当か? ニーヴァの旅人じゃと?」



 俺は挨拶をするとカウンターの奥にいる酒場のマスターに首飾りを見せる。



「ここに来れば返事のやり方を教えてくれるって聞いて……」



 すると、酒場にいたロウフォドリーは皆驚いたような顔で俺を見ていた。

 皆角が無いところを見ると、男なのだろうか。

 すると店の中央のテーブルに座る客が席をあけ、そこに座る様に俺を促す。



「さぁ、座るのじゃニーヴァの旅人の方」

「こんにちは、ええと、オフスと言います。ここでいいんですか?」

「うむ、旅人は中央に座るのが習わしなのじゃよ」



 俺は言われるままに小さな椅子に座ると、周りに盃を持ったロウフォドリーが集まり始める。



「すみません、俺よく風習が分からないので、首飾りに石を嵌めたいと思ってるんですけど……」

「うむ、”誓い”が済めば、ここにいる誰かが相応しい石を教えよう」



 周りのロウフォドリーは口々に声をあげる。



「だめじゃ、先ずは首飾りを皆に見せてくれんかのぅ」

「そうじゃな、首飾りの意味を知らん者が”誓い”をしても始まらん」

「どんな首飾りなのか興味があるのじゃ」

「とにかく見せるのじゃ!」



 俺は首飾りを外し、テーブルに置く。



「はい、これですけれど」

「ふむ、これは……」



 一人の男がそれを拾い上げる。

 その隣から違う男が覗き見て声をあげた。



「わしにも見せるのじゃ。おお、これは……」



 何人かの手に渡り、首飾りは節の長さから装飾の細かな文様まで調べられていく。

 すると店のマスターが俺の側までくると、グラスを俺のテーブルの前に置いた。



「オフスさんよ、店からのおごりじゃ。甘めの果実酒じゃからニーヴァでも飲めるじゃろう」

「ありがとうございます。首飾りなんですけれど、俺。普通の物だって聞いてますが違うんでしょうか」

「誰に聞いたのじゃ?」

「ジケロスの商人ですけれど」

「それでは分からんの、ロウフォドリーの装飾は言葉と同じじゃ。解釈の違いで幾通りにもなるのじゃ」



 マスターはそう言うと、首飾りを調べていた男が俺に振り向く。



「まぁ、一見普通の首飾りに見えるのぅ。しかしなこれは捻って読み解くのじゃよ、例えばここの装飾が普通の首飾りとちょっと違うのじゃ。分かりにくい、実に巧妙に隠されておる」

「いや二節目の右端も普通と異なっておるのじゃ」

「普通、平穏、普遍、平等、などなど前後のつながりから同じ装飾で幾通りにも解釈ができるのじゃ」



 アイノスさんにも分からない色々な意味があると言う事か……。



「何か分かるんですか?」

「うむ、これは普通であるという事を隠れ蓑にした首飾りなのじゃ。……おそらく逆に読むのじゃな、これは。お主が首飾りの意味を知らないとして……、『普段通りに接していても隠し通せない私の心の内に、いつか気付いてください』といったところかのぅ」

「違うじゃろ旅人はニーヴァじゃ、『世を忍ぶ私たちの恋に、いつか何事もない平穏が訪れますように』じゃろ」

「そうも読めるが……、いや二節目の意味はこの場合種族ではなく恐らく身分じゃ、『私を庶民と同じように特別視しない貴方を、陰ながら慕っております』じゃな」



 周りを廻っていた首飾りは、最終的に俺の手元に手渡された。

 マスターは呆気に取られている俺を見て笑う。



「まぁだいたい。どれも当たってると思うのじゃ。お主の中で一番正しいと思うものが正しいのじゃよ」



 どれもあっていると思う、リノちゃんとはずっと対等に接してきた等に思うし、身分や種族の違いなんて気にしたことは無い。

 もしかしたらリノちゃんからの愛情表現を見落としていたのかもしれない。けれど、彼女の好感を肌で感じる時は何度もあった。

 周りの男たちも口々に感想を述べ始める。



「なんとまぁ、強烈な愛の首飾りじゃのう。乙女心に満ちておるのじゃ」

「うむ、まるで何百年の恋が実ったような、そんな気さえするのじゃ」

「そうじゃのぅ、ニーヴァのお主に送られた、特別な首飾りじゃな」

「意味を知ったニーヴァの旅人よ、この首飾りを受け入れられるのか?」



 投げかけられた言葉に俺は力強く頷く。



「うむ、ならば”誓い”じゃな」

「誓いって何ですか」

「酒を飲んで、自分の家族の思い出を語るのじゃよ」

「それだけですか?」

「そうじゃよ、それをわしらが聞くのじゃ。それが旅立ちの誓いじゃよ」

「なんでもいいんですか?」



 周りのロウフォドリーはにこやかに、そろって頷く。

 俺の両親はこの世界の基準から見れば大きく違うだろう。この世界の人にも分かりやすく説明しないといけないな。

 俺は手元にある甘い香りのする果実酒を一口舐める。

 甘く、酸っぱく、さわやかで良い香りだ。

 そんな香りに家族の思い出を探してみる……、やっぱり話すなら強烈な個性を持ってる父さんの事かな。

 俺は目を閉じると、胸いっぱいに甘い香りを吸い込み。忘れかけていた思い出を引っ張り出した。 



「俺は、古い風習(旧人類)の家に生まれて。周りの人(人工人類)とは違っていて、よく子供のころから虐めらてれたんですよ。『古い風習(旧人類)の残る家族は劣等種だー』と言われていました」



 周りの皆は沈黙を守り俺の話を聞いてくる。

 一言も聞き漏らさないようにしっかり俺を見据えてくる。



「ある日、子供の俺はそんな不満を母さんにぶつけたんです。『なんで結婚したんだよ』って」



 優秀な遺伝子を掛け合わせて生まれてくる人工人類。そんな人類が大半を占める俺が生まれた世界では、恋愛結婚はほとんどタブーになりつつあった。

 子供って言うのは無邪気なだけに色々残酷だ。俺の周りにいたやつらも、子供頃の俺もそうだった。



「そしたら、母さん泣いちゃって。父さんにそりゃもう怒られましたよ『俺の女を泣かすんじゃない』ってね。子供心に死ぬかと思いました」



 そう言って俺は軽く笑う。

 手加減はされていたと思うが、あの筋肉の塊に締め上げられたのだ。ものすごい恐怖だった。

 俺の中ではもう受け入れられ、すべて解決した過去の笑い話になっている。

 ただ周りのロウフォドリーの男たちは目を伏せ黙り込んでしまっていた。

 俺の軽い口調とは逆に沈黙が周囲を包む。



「良くなかったですか……」



 マスターがそんな俺の肩に手を乗せてくる。



「いや、いい話じゃ。とてもな」



 そして深く息を吐くと、少し減った俺の盃に果実酒を注いでくれた。



「ここで語るのは皆、母の思い出なのじゃよ。我らロウフォドリーにはな、……父はいないのじゃ」



 周りの男たちも神妙に口を開く。



「わしの父も母を愛しておったのかのう」

「うむ……、そうに違いないのじゃ……」

「良い”誓い”じゃ、わしらでは出来ぬ”誓い”じゃな」

「……ならば、石を決めねばなるまい」



 しばらく皆は沈黙を続けている。

 大分考え込んでいるようだった、俺の誓いの言葉を繰り返し反芻しているのだろうか。

 リヴィエレさんが俺を見てポツリとつぶやく。



「……金剛石ダイヤモンドじゃろうな」

「やはり、それしかないかのぅ」

「しかしこの大きさの金剛石ダイヤモンドじゃと値が張るのぅ」

「首飾りの意味も考えると、他の石では不足じゃなぁ。しかし用意できぬ石ならば暗に悲恋を表しているのかもしれん」



 最後の男の言葉に「馬鹿を言うでない」と周囲が叱責を浴びせる。



 金剛石ダイヤモンドとか買うと高いんだろうなぁ。

 俺が見つめる首飾りの空洞部分は、親指くらいの大きさがある。



「やっぱり高いのがいいんですか?」

「いや金剛石ダイヤモンドだから良いのじゃ、非常に固く、そして傷に沿って割れやすいからじゃ」

「割れるのは簡単じゃが、割るのは難しいのじゃ」

「割れたらもう元には戻らん」

「相手の身分に合ったものを贈るという意味もあるのじゃ」



 俺はリノちゃんに返事がしたい。

 後で天然物は何とか買うとして、エーテル形成機で金剛石ダイヤモンドくらいならサクッと作ってしまうか。

 単に炭素の格子結晶だろ? シエリーゼの装甲組成の方がはるかに難しいぜ。



「宝石のカットはどういうのがいいんですか?」



 アイノスさんはカットに意味があると言っていた。

 俺の質問に一人のロウフォドリーが答える。



「透明な石なら内部の光が屈折し虹色に反射するモノが良いのじゃ。しかしこの大きさの金剛石ダイヤモンドじゃと。カットは何でもいいじゃろう」



 ならなんとかなりそうだな。

 俺は安心して息を吐く。



「ありがとう、何とかしてみますよ。希望が持てました……」



 そう言って立ち上がろうとするが、リヴィエレさんはそれを手で制した。



「まぁ、待つのじゃ”旅人”よ。旅人からはもう誓いを貰ったのじゃ。ちと堅苦しいが、最後にわしらが送り出す番じゃよ」



 そう言うと、周りのロウフォドリーは盃を掲げる。



「二人の思いをなくさないように」

「相手の気持ちをわすれないように」

「触れあった温かさをうしなわないように」

「例え君が旅人となり天の橋を渡っていったとしても」



 一人一人言葉を紡ぐと杯を煽る。

 掲げられた盃が皆空になると、俺のテーブルには空の杯が並ぶ。

 そうだ、……俺は二度と失くさない、今の彼女への気持ちを、温かさを。

 そしてちゃんと伝えたい。



「ありがとう。俺、頑張ります」

「うむ、オフスの旅立ちに、魂の安らぎを願うのじゃ」



 彼らは、椅子から立ち上がる俺を笑顔で迎えてくれたのだった。


2022/6/13 誤字報告をいただき、修正させていただきました。ありがとうございます。

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