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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
第四章 バグザード(ナウム動乱:後編)
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十一話 旅立ちの首飾り①

 ナウムから飛び立って一刻ほど経つと、ウェブレイは大きく旋回を始める。まだ太陽はそれほど高くない。

 眼下には周囲を豊かな畑に囲まれた巨大な都市が見えていた。



 上空から見えるその都市は、半壊した巨大なドーム状の構造物をしている。内部には家が並び、生活の煙があちこちから見えていた。

 そして中央からは非常に巨大な高い塔が顔をのぞかせていた。

 それはいつか宇宙そらでクエリに見せてもらった地上都市の画像に似ていた。

 霊子サーバから新たに誕生した人類が築きあげた、新たな都市の姿だ。

 そうするとこの都市は八千年以上前の構造物がまだ現存していると言う事なのか……。



 この都市はマナフォドリーの首都ニハロス。

 地上部分は、光に耐性のある年経たロウフォドリーが生活し、地下部分は光を嫌う若いロウフォドリーの生活の場になっているという。

 中央に見える巨大な尖塔は王城なのだそうだ、ウェブレイ曰く『女王は最上階に”幽閉”されている』のだという。



 マナフォドリーの女王レグディア様。

 大聖母とも呼ばれ、二千と八年を生きた伝説の存在。

 リノちゃんが五百と十歳。その四倍の年月を生きるというのは、どのような感覚なのだろうか……。

 上空からでも俺のラピスには彼女の存在が感じられていた。

 俺は、今感じている彼女の思いも救わなければいけない。

 それはリーヴィル、マイシャ、リノちゃん、彼女たちからも感じた確かな思いだ。



 ウェブレイは大きく翼をはためかせると、ニハロス内に設けられた発着場と思われる開けた場所にゆっくりと着陸する。

 今日の予定は、リノちゃんの配下のオチュワさんと会ってまずは打ち合わせ。

 その後、観光を兼ねて街で食事。夕刻には女王と面会という流れだ。



 着陸すると周囲にはロウフォドリーの衛兵なのだろう、小さな体を特有の衣装を身に着ける人が多数見える。衣装は胸元からふんわり広がるスカートで、ひらひらする飾りでいくつも飾られていた。

 角の無い人も何人か見える、初めて見るけどきっとロウフォドリーの男性なんだろう。

 しかし顔立ちは中性的で背丈と相まって非常に可愛らしい。それにロウフォドリーの服装は男女で変わらないようだ。

 ふむ、全員スカートをはいているんだな。

 俺が見分けられる男女差は胸が膨らんでるか、角が生えてるかくらいしかない。

 角が生えているけど、胸の無い人もいる……。やはり個人差というやつなんだろうか……。

 まずい、あまり変な目で他人を見ちゃいけないよな。

 


「ありがとう、ウェブレイ。また帰りも頼むよ」

『ゆっくりしていくといい、帰りも楽しみにしているよ』



 俺は、頭を下げるウェブレイにお礼を言うとその巨体から降りていく。

 ウェブレイの頭から地面に降りると乗り込んだ時と同じく周囲からどよめきが走った。

 しまった。頭からの乗り降りは女王だけだって言われていたのに……。

 まぁ、やってしまったものはしょうがない。

 ウェブレイは俺を降ろすと、すぐに突風と土埃を盛大に巻き上げながら空中に舞い上がり、上空を旋回し始めた。

 すると俺に一人の角の無いロウフォドリーが駆け寄ってくる。



「お疲れ様です。オフス=カーパ様。私がオチュワです。本日はよろしくお願いいたします」

「オチュワさんですか! リノちゃんから聞いてます。こちらこそお願いします」



 握手をかわすと、彼は可愛らしく礼をする。

 ロウフォドリーって男も女も仕草がいちいち可愛いな。



「ひとまず、お休みできるところを用意してあります。こちらへどうぞ」

「ありがとうオチュワさん」



 オチュワさんも角が無いので男の人なのだろう、この人もさっき見た男性と同じ服装だった。

 中性的な顔立ちに高い声色、知らない人が見えればトカゲのしっぽのある女の子にしか見えないだろうな。

 俺はそんな事を思いながら、オチュワさんの後をついていく。

 しばらく歩くと、立派な建物に案内された。

 ロウフォドリーの体格に合った小柄な家が立ち並ぶ中、目の前の建物は俺たちのサイズに合わせて作られている。

 来客者用の建物なのだろう。



 建物に入るとすぐに貴賓室に案内された。

 部屋の中の調度品を見回すが、リノちゃんの部屋に案内されたような気分だ。

 う~ん。ロウフォドリーの国って言うのは、こう、何というか、可愛い物であふれているよな。

 飾られている猫の彫刻も、迫力のある自然な骨格や肉体美を表しているわけでは全く無く、メルヘンというかファンシーというか、まるでぬいぐるみのようだ。かわいい。

 その中でもひときわ目を引くのが、飾られている絵画だった。

 素人目に見ても、感銘を受ける色彩だ。

 様々な色を使っているにもかかわらず、くどさを感じず一つにまとまった世界が広がっていた。

 ただ題材は子猫とか毛蛸とか可愛らしいものが多い。



 俺はそんな貴賓室テーブルに腰掛け、女王に面会するためのオチュワさんの事前説明を聞きはじめる。

 内容はロウフォドリーの一般常識とか、触れてはいけない話題とかそんなものだ。

 一般常識は俺の知っている内容とあまり変わらない。

 新しい内容としてはロウフォドリー語は大陸で使われている共通語の元になっているそうだ。

 なるほど、「のじゃ」とか「なんぬ」は方言みたいなものか……。

 ちなみに今のオチュワさんは俺に合わせて言葉を使っているのだという。

 対外交渉する人ならそう言うことも出来ないとダメなんだろうなぁ。



 ロウフォドリーが禁忌する話題は、男性と女性を見た目で区別する事らしい。

 どうやら、彼らにとって性別と言うのは必要以上に意識しないものなのだという。

 角の有無も、俺たちにとっての目の色の違いくらいにしかならないのだそうだ。

 ロウフォドリーは”表面上皆等しく中性”、という事なのだろう。

 う~ん。きっと前にリノちゃんが言っていた”ロウフォドリー湯”は本当に特別な場所なのだろう。

 俺がリノちゃんの胸ばかり見て怒っていたのはそのためか?

 ……いや、よく考えれば誰でも怒るよな。

 でも、ロウフォドリーの社会は少し複雑だな。ちょっと聞いてみるか。



「なぜロウフォドリーは性別を意識しないんですか?」

「我々にとっては当たり前の事なので特に疑問には思わないのですが、やはり他の種族の方には不思議に思われるのでしょうね」

「なんとなく、男女でおしゃれとか同じ楽しみを共有しているようには思いますけど……」



 見た目にも華やかで可愛らしい姿は、共感を覚えるし心が安らぐ。

 そんな思いを皆で分かち合いたいんじゃないか、と俺は思っていた。



「そうですね。それもあります。いくつか起源があると言われていますが、一番良く言われるのが男女の寿命に差があるからですね……」

「すみません。失礼なことを聞いてしまたようで……」



 そう言って謝罪すると。オチュワさんは笑って返してくれる。

 見かけ上の平等は、現実とのギャップを埋める為なのか……。

 しかもそれが男の寿命なら、見た目で性差を感じることをタブーとした社会なのだろう。

 


 ロウフォドリーの文化を聞いて行くうちに、心に焦りが浮かんでくる。

 正式な手順を踏まずに体の変化が始まっているリノちゃんは、間違いなく非常にまずいのだろう。

 彼女の変化に気づいている人が、やはり周囲にいるのかもしれない。

 そうした場合、彼女の立場は一気に危なくなるに違いないぞ。

 俺は彼女を守る為にここに来ている。そして彼女の思いを受け止める為にも行動が必要だ。



 俺に説明してくれているオチュワさんはリノちゃんの腹心だという。

 アイノスさんは首飾りの事はロウフォドリーの男性に聞くのが良いと言っていたはずだ。

 今の俺が相談できるのは彼しかいない。

 話が一旦途切れると、俺はオチュワさんに話を切り出した。



「すみません、オチュワさん」

「なんでしょうか」



 俺はそう言って、首から首飾りを取り出す。

 旅立ちの首飾り、今ならなんとなくその名前の意味が分かる気がする。

 きっとこの首飾りを送られた男性は、みな天の橋を渡る旅路につくのだ。

 首飾りを見るとオチュワさんは表情を曇らせる。

 やはりこの首飾りは、ロウフォドリーにとって非常に重要な役割を果たすのだろう。



「……旅立ちの首飾りですね。リノミノア様の首飾りですか」

「オチュワさん。俺は、リノちゃんと出会って嬉しかったんですよ」



 俺は宇宙そらで戦っていた時の事を思い出していた。

 オチュワさんは俺の話を黙って聞いていてくれる。

 宇宙そらにいた時、俺は一人で足掻いていた。



「頑張るって事は、一人でしかできないと思ってたんです。でも、リノちゃんはそうじゃないって事を俺に教えてくれたんですよ……」



 (自分一人で沢山祈り続けるより、時として他人の祈りも力になるものじゃ)

 彼女は俺に、そう祈ってくれていた。



「一緒に、未来を祈ってくれていたんです」



 俺は首飾りをテーブルに広げ、その空虚な中心を指さした。



「俺、リノちゃんのために、この首飾りに石を嵌めたいと思っています。……ロウフォドリーの事、良く知らなくて、すみません」



 オチュワさんは俺の顔を悲しそうな目で見つめる。



「ロウフォドリーの恋愛感情は他の種族と違います。それでも尚、ここに石を嵌めたいと思われますか?」

「はい、その為にマナフォドリーへ来ているくらいですから……」



 俺は少し笑みを浮かべる。

 言われるまでもなく、それは俺にとって覚悟が終わっている内容だ。

 人を好きになる気持ちを持つことが出来るのなら、風習が違うとかは後から何とか出来るんじゃないか? それこそ、月の無い夜道を並んで歩くのと同じだ。

 俺の表情を見るとオチュワさんは観念した様子で、そっと呟くように話し始めた。



「夕刻には女王とのご面会がございます。その前にニハロス観光の案内がございますが……、ご案内をお望みの内容へと変更いたしましょう。……さっそく手配させていただきます」

「ありがとう。オチュワさん」



 俺はそう言うと、テーブルに広げた旅立ちの首飾りを手に取り、身につけたのだった。


2020/7/27 誤字修正しました。

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