四話 道しるべ
「……暇だ」
クエリが大破しているシエリーゼのチェックを始めてから数時間。早くも俺は暇を持て余していた。
俺の心は早く新しい冒険を要求している。俺のこの思いはだれにも止められないのだ。
しかし。
「……暇だ。全然眠くなったりとかしないんだけど。これって体が疲れて寝るとか、脳が疲れて寝るとかってできないの?」
≪情報体の為、現在生理的欲求は必要になっておりません≫
「はぁ、何か新しい出来事でもないと、俺どうにかなっちゃいそう……。せ~かく、これからワクワクするような冒険が俺を待っていると思ったのさ~」
≪チェック後、指示を仰ぐ箇所があります、引き続き待機をお願いいたします≫
「へいへい」
クエリにはレクリエーションなどの機能などもあるらしいのだが、今は違う作業にかかりっきりの為、俺の相手はしていられないとの事だ。
まだ色々聞きたいことがあるんだけどな、頭の中で整理してみようか。
今分かっている事をまとめるぞ。
・次元寄生体は生きてるものの精神を食べようとする。超危険。
・俺とシエリーゼは次元寄生生物と戦うために生まれた。
・クエリは俺のサポートAIでラピスの中にいる。
・シエリーゼやクエリはすんごい事が出来る。
・今俺は美少女たちの住む星へ向かい旅をしている!
こんなところか? 最後のはすごい重要な所だ!
今度は分からない事か、まずはシエリーゼの事だよな、あとは前のパイロットのオフスの事、あとは~、次元寄生体と人類との闘いとか聞かないといけないよな。
そんなことを考えていると、クエリの声が聞こえた。
≪現在、リアレス恒星系霊子サーバ”レムリア”からの通信を受信中、霊子サーバ”ヘスペリテス”からの応答はありません≫
「お、マジで! それでそれで? なんて言ってるの?」
≪通信解析まで十五分ほど、お待ちください≫
「待ちましょ、あと十五分なら待ちましょ。全然待つよ。うぉぉぉ! どんな感じかな。着いたらどんなかわいい子が待っているんだろう」
質問の事は忘れ、俺はまだ見ぬ美少女たちに心を躍らせていた。
◇ ◇ ◇
≪解析完了いたしました……≫
「早く早く! 良い知らせ? え、なに? もしかして悪い知らせ?」
≪はい、どちらの報告もあります。どちらから希望でしょうか≫
「え、マジ? どっちを先に聞いても同じ気がするけど。う~ん、いやだけど悪い知らせから聞こうか」
≪悪い報告は二つあります、一つは現在、リアレス惑星系宙域において次元寄生体の集結が確認されています。≫
目の前が真っ暗になるような感覚を覚える。
「しゅ、集結とかって、一体、二体じゃないってことだよな、移動する前の増援だって三百体だったんだろう? それって先回りされたって事か?」
精神を喰らうとか言ってたよな。知性もあるということなのか?
≪はい、我々の方向進路から推定したと考えられます。過去の報告では九千体程の集結が報告されています≫
「きゅ、九千……。何とかなるんだろうな?」
集団で行動できる知性があって、数が九千匹だと?!
今さっきなんて一匹倒して逃げ出すのが精いっぱいだったのに……。
≪はい、ハジメの霊子エネルギーは前パイロットのそれを遥かに上回っています。それは……≫
答えがイエスなら俺は女の子の方が心配だ! 行く意味がなくなってしまう! 俺をこんな宇宙に一人にしないでくれ! マジで!
「なんとか希望が持ててきたぜ! でも、勝利の方程式はあえて後で聞こう! 俺が心配なのは女の子だ! これから行く女の子だらけの星も次元寄生体って出てくるんだよな? そっちが心配だぞ!?」
≪旧時代に軌道上に惑星防御システムが構築され稼働しています。惑星全体を次元寄生体の侵入を阻む特殊な膜で覆っている状態となります。これは良い知らせです≫
「おー! でもそれって俺たちが着くまで大丈夫なの? いや着いてからも大丈夫じゃないと困るけどさ」
≪半永久的に起動する防御システムとなります。例えるなら、次元寄生体は惑星が見えていない状態となっています≫
よーし、女の子は無事だな! これで俺の心は安泰だぜ。あとはクエリやシエリーゼに何とかしてもらおう!
「いいじゃんいいじゃん、その防衛システムってシエリーゼには付いてないの?」
≪防御システムは巨大な重力と大規模な構造が必要となります、シエリーゼが携行できるものではありません≫
「まぁ、そうだよな、あったら使ってるだろうし。あ、ごめん他の事も教えて」
ま、仕方ないよな。
あと、悪い知らせがあと一つか。
≪二つ目です。目標としているリアレス恒星系惑星ティアレスにおける文明レベルが、低レベルに留まっています≫
「低レベル? 文明が低いのか? 石器時代とか?」
≪応答のあった霊子サーバ”レムリア”によれば、文明レベルは未だに都市革命、哲学革命の域を超えていないとの事です≫
「まじか?! 産業革命以前の文明ってこと? えっと中世より前、紀元前とか?」
うわー、文明的でないとか、マジであり得ないんですけど。
≪はい、その通りです。文明レベルは西暦換算で元年前後であると推測されます≫
「そんなの介入して文明レベル上げちゃえばいいんじゃん? 霊子サーバとかでさ」
≪現在ティアレスにおいて、人類は霊子サーバ内から肉体を得て外界での活動を始めました。再度発展を始めた文明活動を保護する為・霊子サーバ側からの介入は原則禁止とされています≫
あ~、人類って戦争の歴史だからな~。
人為的とかで文明レベル上げるのも良くないのかもな。
でも、やっぱり文明レベル低すぎ!
ガイノイドのメイドさんも。便利なラピスも、エロエロなバーチャル空間も無いとか生活できる気がしないわ~。
「俺都会っ子だからさ~、そんな場所で生活なんてできないって! 俺そんな惑星行きたくないぞ?」
≪ハジメ、次は良い知らせです≫
「なんだよ」
≪霊子サーバ”レムリア”側にて、ミクニハジメの希望に沿う異性を用意するそうです。希望内容を申請してください≫
「ごめん、さっきの無し! 惑星ティアレス最高! 大好き! 俺行くから! 絶対に!」
よ~し、早速女の子をイメージするぜ!
なんだか女の子に釣られた気もするが問題なし!
ムフフ~、どんな女の子がいいかな~。
『キィーン』
うぉ、耳鳴りだ。これは、運命エネルギー分岐点だっけ? 俺の運命の分かれ道ってヤツだな。
どうする? どうすればいい? でもここは本能のまま行動するしかない! 突っ走れ俺!
俺はさっそく欲望のままに希望を申請することにした。
あふれ出るイマジネーションは言葉などでは伝えきれない!
クエリは俺がイメージした思念を”レムリア”へと送る。文明が最盛期の頃はコピーされた思念情報の転送はポピュラーなものなのだそうだ。
コピーされた思念情報は”ゴースト”と言うらしい。
これの通信により、俺のゴーストが相手側に保管され理想的な女の子を用意するのだそうだ。
この女の子の情報は”レムリア”が定期的に送ってくれるとの事だ、長い旅路の楽しみになるな!
「そういえば、九千程の次元寄生体だっけ? あれを何とかする方法って聞き忘れてたよな。」
≪はい、惑星防衛装置が存在していてもそのまま惑星にシエリーゼが飛び込んだ場合、次元寄生体に追跡され惑星が汚染されます。確実な手段としては、ハジメは惑星手前で実体化し、戦闘にてこれを殲滅することが必要です。しかしその確率は……≫
「とっても低いんだろ? でもな、女の子の為なら何でもできちゃう気がするんだぜ? 色々教えてくれよ?」
俺はこの時浮かれていたけど、でもこの時の俺はいろいろ知らないことが多すぎた。
◇ ◇ ◇
≪行動指針を説明します≫
「頼むぜ相棒!」
≪まずはシエリーゼの現状ですが、自立活動を喪失しており、左手、左足、頭部を損傷した状態です。また同様に携行兵器等も喪失しています≫
今の現状だよな、こんな姿で九千匹の群れとかに飛び込んだら一瞬で宇宙の塵になるのは俺でも簡単に想像がつく。
今までクエリの言うことで大体なんとかなった。
一番いい方法を教えてくれるはずだ。
≪幸いに、腰部に設置されているエーテル形成機は破損を免れており、これを用い修繕を実施します≫
「エーテル形成機って?」
≪はい、霊子エーテル作用を応用した、立体を造形する装置となります≫
「立体を造形? 3Dプリンタとみたいなものか? でも最前線で戦う機体にそんなのが付いてるのか?」
≪はい、有事における消耗品の保管、運用などが削減されるため、兵端面、作戦行動などで大きく余力が生まれます≫
軍事は兵端がすごい重要だって、なんか映画とかで見たことがあるな。
最前線で補給が簡単に使えればそりゃいいことづくめだよな。
「ん~、弾とか必要以上に持ち歩かなくていいってことなのかな。でも立体形成する為の材料は今無いと思うんだけど、どうするんだ?」
≪はい、航行中に接触したデブリ等を霊子エーテル作用にて情報化し、素材として取り込む予定です。また航路にガス星雲がありますので、ここで大きく素材が得られると推測されます≫
「それってつまり、霊化の要領で取り込んだ物質を使って今のシエリーゼの情報体を修復し、修復が完成した情報体を実態に戻すわけ? ようするにエーテル形成機って”物質を組み替えて違う形にする”機械って事かな」
≪はい、その通りとなります≫
「3Dプリンターとは大分違うな、まぁ、最後に形ができて実体化するのは同じなのか?」
ん? 待てよその実体化のエネルギーってどうするんだ?
「もしかして、その情報化と実態化って俺の力でやるの?」
≪はい、その通りになります≫
「う、やりますよ。でも五年じゃ予定通りエネルギー足りなくて実体化出来なくなちゃうんじゃないか?」
俺は五年後にはハーレムに囲まれていなくてはならない。そうでなくてはならない!
≪その問題は先ほど解決しています、先ほど”レムリア”に向けた通信直後からハジメの霊子エネルギーは増加しています≫
「フッ、女の子に会いたいという俺の心が、俺自身を強くしてるんだぜ?」
≪訂正します。霊子エネルギーは人と人との運命に干渉し、発生や消滅を繰り返します≫
「まー細かいことは良いんじゃないの? そういえばシエリーゼは機械生命体って言ってたよな。これもサポートAIが動かしてるのか?」
≪いいえ、シエリーゼは機械生命体です。操作はメインパイロットが担当します≫
「一応さ、聞くけどメインパイロットって、今どうしてる?」
≪メインパイロットはすでに死亡しています≫
「そうだよ……な」
当たり前だよな、シエリーゼはこんなにも破損している。
シエリーゼのデータによると、頭部はメインパイロットのコクピットがある位置らしい。
「いや、その時の戦闘の事とか、その辺りの事を教えてくれないかな?」
その戦闘を知ることは多分避けて通れない道だと俺は思う。
視界が切り替わり、宇宙での戦闘の風景が映し出された。
過去の映像記録か、これが昔のシエリーゼ? 完全武装のシエリーゼ、戦いに赴く姿は威風堂々としている。
巨大なライフル、両肩に突き出た砲門、背部のブースター、追加の装甲が鈍く光る。
宇宙空間には虹色に輝く無数の次元寄生体が見える、相対するのは隊列を組む三百機程の鋼巨人の軍隊。
「これは、八千年前の戦いか?」
≪はい、その通りです≫
そして戦いが始まった。
次元寄生体は虹色の輝きを振りまきながら鳥の大群の様に形を様々に変え、鋼の軍に迫っていく。
シエリーゼの軍は長距離での狙撃を行いそれを打ち抜いて行く。近くに転移出現しようとする予兆、”空間湾曲”が発生するとその空間の一斉爆破を行う。
戦いは熾烈を極めていた。
戦いは巨人の軍隊が優勢に見えていた。しかし自軍陣地の一ケ所に次元寄生体の転送を許してしまと、次元寄生体は堰をきったように次々に現れ、鋼の巨人を一機一機と葬っていく。
予備軍の投入が行われ、必死に転送の阻止と撃破が行われるが、背面を取られた前線は次第に崩壊していった。
「くそっ、過去の映像だって分かってるのに」
俺はこぶしを握り締め、座席の手すりに叩きつけた。
そんな中、前方に一機の機体が見える。あれは! 分かるぞオフスの乗ってる機体だ。
すでに左足を破損している。周りは次元寄生生物に取り囲まれていた。
ライフルを捨てるシエリーゼ。それと同時に次元寄生体の群れが襲い掛かる。
機体の各部に仕込まれた近距離兵器が掃射されるが数が多すぎて対処しきれていない。
左手に次元寄生体が取りつき自爆すると、シエリーゼの左手はあっさりと吹き飛んだ。
シエリーゼは胸から大口径虚子砲を放つと敵の囲いを破り、ブースターを吹かしながら次元寄生体の群れを突破する。
しきりに群れを振り切ろうとするが振り切れず、シエリーゼに次元寄生体が数匹が取りついていく。
シエリーゼは後頭部に張り付いた次元寄生体を右手に仕込んだ格闘用ナイフで刺し、止めを刺した。
胸部に取りついた次元寄生体を排除しようと左手を動かすが、先ほど吹き飛んで無くなっている為、どうすることもできなかった。
その時だ。次元寄生体は口と思われる箇所から虹色の光を吐き出した。その光はシエリーゼの胸部へと吸い込まれる。
あそこは、動力コックピットのある場所だ。オフスのいる場所だ。
しばらくしてシエリーゼのバーニアが止まり機体が大きく機動力を落とし始める。
≪オフスは戦闘の末、霊子エネルギーを反転させる敵の攻撃を受け、精神に致命傷を負い、死亡しました≫
オフスは死んだんだ。
初めて見る次元寄生体とシエリーゼの戦いを見て、俺は震えあがっていた。
映像の中のシエリーゼは向きを変えて、後方から追ってくる次元寄生体と向き合った。
そして、右手で頭部カバーを破壊すると頭の中に手を突っ込み、白い球体を引きずり出す。次の瞬間それを次元寄生体の群れに放り込んだ。
≪次元寄生生物は精神を捕食します。メインパイロットはオフスの死体を霊化処置した後、メインパイロットの中枢ブロックを切り離す事で囮としました。結果、オフスの肉体は霊化処置のまま長い時間を過ごす事となりました≫
白い球体に次元寄生体が群がる。群がり切れず余った大勢の次元寄生体はそのままの勢いで、シエリーゼに衝突していく。
糸の切れた凧のように、弾かれ、へこみ、砕け散るシエリーゼ。
そして無残な姿のシエリーゼが残されるだけになる。
俺はその映像を見ながら、放心していた。
それでもやっと唇から声を絞り出す。
「こ、この後はどうなったんだ?」
≪私がクエリとして再起動したのは、ハジメと出会う数時間前です。私はシエリーゼの予備動力を動員し霊子誘因装置を起動させました。後は知っての通りです≫
「な、なるほどね」
俺は視界をシエリーゼの現在の状況に切り替える。
慌てるな俺、メインパイロットには悪いけど、俺にはシエリーゼがまだあるじゃないか。
俺は残ったシエリーゼの右足を見ながら、暗さを吹き飛ばすように俺はわざと明るく言った。
「それにしてもシエリーゼはかっこいいよな、今は屑鉄みたいになっちゃってるけど、ロマンあふれる人型ロボット兵器だぜ……。それに足のラインが特に俺好みだ。」
≪いいえ≫
その言葉に俺は寒気を覚えた。
≪いいえ、シエリーゼは人間です。現在の状況は”死体”と表現したほうが適切となります≫
「それって……」
≪繰り返しとなりますが、シエリーゼは機械生命体です。操作はメインパイロットが担当します≫
ということは……。
「シエリーゼ自身がメインパイロットなのか!?」
クエリは答えた。
≪はい、その通りです≫
◇ ◇ ◇
≪ハジメ、霊子エネルギーの供給量が不足しています≫
あれからしばらく経過した。その後エネルギー問題以外は順調に航行を続けている。
気が重くのしかかる、映像とはいえリアルの戦闘風景を見てしまった。
そう、俺はあれから全然やる気が出なかった。シートに身を沈めて無気力に流れる星を見つめ続ける。
シエリーゼは宇宙で戦うために生まれた人類の新しい姿だったのだ。
特に助けられた自分を自覚する事と、シエリーゼ自身が死体だと感じてしまう事に気がめいってくる。
俺は生きるか死ぬか、そんな状況のただ中にいる。これから九千の次元寄生体の群れに飛び込まなくちゃいけない。
マジかよ、あんなフル装備のシエリーゼが簡単にやられちゃったんだぜ?
ゲームや物語の主人公とは違う。
この肉体の、前の持ち主のオフスも死んだ。
そして、今の自分を助けてくれたシエリーゼも”死んだ”。
『キィーン』
「なぁクエリ、運命分岐点の感度、もっと下げられないか」
耳鳴りが気になる、ずっと鳴りっぱなしだった。
分岐点の感度を下げる事で耳鳴りは鳴り止む。しかし、しばらくするとまた聞こえ始めてきた。
≪現在、感度の最下限に設定されています≫
「なぁ、これが聞こえなくなる時ってどういう時なんだ?」
≪はい、分岐限度を超えるとハジメ本人の意思で行動を選択する意味が失われ、共鳴現象は停止します≫
「……要するに手遅れって事か」
『キィーン』
まだ、俺、聞こえているな。
≪ハジメ、先ほど入信した”レムリア”からの通信翻訳が完了しました≫
そういや、さっきそんなこと言ってたっけな。
≪二件の連絡事項です。一つは集結中の次元寄生体の群れが総数一万を超えました≫
おいおい、九千じゃないのかよ、しかもこんな短期間に増えるなんて。
ああ、これはいよいよダメか……。俺もお終いだな……。
≪次に、霊子サーバ”レムリア”の元にて希望の女子が誕生したそうです≫
え、今誕生って、霊子サーバから生み出されたって事だよな。今零歳?
さすがに俺、生まれたばかりの子と付き合うとか出来ないって。ははっ……何考えてるんだ?
「誕生……。そういや、今ティアレスではどのくらいの日数が経過してるんだ?」
≪はい、約二百十日です≫
俺の知ってる世界での人工人類も誕生まで同じ位の日数だったはず。
俺はまだ一か月ちょっとくらいしか経ってない感覚なんだが、ティアレスはもう七か月か、やっぱり全然時間の流れが違うんだな。
「そういえば到着までティアレスでの時間で何年だっけ?」
≪はい、約二十年となります≫
そうか、それじゃ到着の際彼女は十九歳? 俺は十六歳のままか? 俺は五年で到着するするなら、精神的には二十三歳か。
成長した彼女はどんな姿だろう。
そんな事を考えたその時、ふと、俺の体から霊子の光があふれ出してくる。
おいおい、心があきらめても俺の魂はまだ諦めてないのかよ?
『キィーン』
まだ、”音”は聞こえている。
「そうか……、一応できるだけあがいてみるか、この音が俺の運命の道しるべだな」
そう声に出すと、自分の気持ちとは裏腹に、霊子の光があふれ出てくる。
俺の進む道……か……、決して楽じゃないんだろうな。
そうだなミクニハジメ。待たせてる女の子に、挨拶に行くのも悪くないよな?
十九歳になった彼女をふと思い描くと、またいつかのように複数の女の子の姿が脳裏に浮かび始めた。
そのうちの一人、間違いなく感じられる。俺の進む未来に、確かにいる存在。
赤い目、後ろで束ねた白い髪、一瞬で心を奪われる程の美少女。
それと同時に俺の体から霊子エネルギーがあふれ出す。
≪これより、第二恒星間航行速度に移行します≫
静かにクエリの声が響く。
俺の覚悟なんかまだ固まっちゃいない、それでも。
今の俺は前に進みたいと本気で思っていた。
2022/6/13 誤字報告をいただき、修正させていただきました。ありがとうございます。